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凡人と王佐の才

「何でアンタがここにいんのよ」


 うん、尋ねる相手を間違えたかもしれない。山と積まれた書類の中にネコミミフードの少女がいた。そう既知の存在。荀彧というこの時代でも屈指の文官にして軍師。

 あの曹操をして、王佐の才と言わしめた俊才である。だが貧乳だ。

 まあ、通りかかって挨拶なしも不味いだろうと曹操を訪ねてみたんだけど生憎こううんなことに不在。となると面識があるのは彼女だけということになるのである。そして対面したこのネコミミは、不機嫌さを隠しもせずに俺を睨みつけてくる。


「いやちょっと近くを通りかかったもんだから挨拶をだな」

「どうして近くを通りかかるのよ」

「んー、洛陽までちょっとおつかいに。

 あ、これ、内緒にしといてくれな」


 初めて書類を処理する手を止めてこちらを見やる。おお、こわいこわい。目つきが悪いぞ?折角の美少女が台無しである。


「……袁家がいよいよ宮中に手を伸ばすということかしら」


 こう、頭のいい人は会話の断片ポロリからいろいろと推察してくるのだなあと痛感する。蔡邑もそうだったけど荀彧はもっと直截的だな。


「んー、まだわかんね。その下ごしらえに行くってとこかな」

「……袁家ほどの名家が肉屋の倅に膝を着くのをよしとするなんてね。

 まあ、下品なあんたにはお似合いのお仕事ね。

 精々血の匂いに当てられないことね」


 ……見事なカマかけである。もしくは看破かな?流石だ。その態度と胸部装甲には問題があるがその見識たるや恐ろしい。こわや、こわや……。

 おし。そろそろ帰るとするか。流石にさ。一言ごとにどんだけ情報抜かれるか分かったものではない。このネコミミは張良クラスの化け物だと分かっただけでも来てよかった。

 もっと言うと、こいつを使いこなす曹操についてもお察しですねえ。つるかめつるかめ。こいつらと戦って勝てると思ってはいけないな、と心に刻む。

 やはり曹操と対立するのは袁家の滅亡フラグ。二郎おぼえた。


「待ちなさいよ」

「へ?」


 立ち去ろうとする俺に声がかけられる。意外だ。視野にも入れたくないという態度だったのに。


「聞きたくもないアンタの汚らわしい声で集中が乱れたわ。

 仕事が滞って仕方ないわ。

 責任とってきなさいよ」

「いやそのりくつはおかしいだろう」


 常識的に考えて……。


「いいから、アンタくらいの空っぽの頭でもできそうなのは…これくらいかしらね」


 そう言って一束の書類を俺に押し付けてくる。どないせいと。


 とりあえずぺらり、とめくってみる。

 んー。


「これ、見てもいいのか?」

「アンタの粗末な脳みそで理解できる範囲の書類しか渡してないわよ」


 こっちをちらとも見ないでやんの。渡された書類は陳留のおおまかな予算案やら、治安状況の報告書だったりした。これで全てが分かる詳細な資料ではないが、ある程度の類推はできる。

ふむ。

 俺……というか袁家が何進と結ぶ(これについては看破されていると確信している)という情報はこのネコミミにとってもそれなりの重みがある情報だったってことか。

 そして、渡された書類を目にして確信する。これ陳留は完全に曹操が牛耳ってるわ。これは太守の任命待ちなだけですわ。いや、これは凄い。書式のフォーマットとか組織図とかも袁家のそれを更にブラッシュアップしたものになってるし。

 だから俺は黙ってネコミミから渡される書類を整理するのだった。それくらいなら俺にもできるしね。

 しかし、このネコミミ働きすぎだろう……。俺20人分は軽く働いてるぞ……。曹操がいないから代理でこなしてるんだろうけどさあ。

 流石ブラックベンチャー勢力の中枢は無理という言葉を知らないほどにブラックブラック&ブラックでございました。これはいけません……。

 なお、人材の薄さについてもお察しである。曹操についてはネコミミよりも働いているらしい。軍務までやってるとか、おかしいですよ!

 これ、K●EIで実態をゲーム化したら過労死システム導入不可避だぞ、絶対。

 ……日暮れまで書類整理を手伝い、俺は退散することにした。いや、曹操とかネコミミの胸部装甲が貧弱なのって食事も摂らずに政務につきっきりだからじゃないのかな、などと思ったり。

 そして、仮に失業して転職するとしても、ここに就職はない。マジない。やりがいとかカリスマ溢れる上司とかどうでもいいから。どうでもいいから。


◆◆◆


 スタコラサッサな俺は夕食を流琉んとこで摂る。

 いやあ、流琉のお酌で呑む酒の旨い事、美味い事。

ささくれだった心を癒すために強引に一室借りて流琉も借り上げて俺は消耗したメンタルを回復させるのだった。

 改めて思う。袁家サイコー!ホワイト勢力さいこー!俺は袁家に忠誠を誓いまくりだっつーの!

 やはりホワイト勤め先である袁家の繁栄。それを守らなければいけないとガチで心に誓ったのである。

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