表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/350

凡人の旅路 with 美女

 というわけで旅の空な俺である。蒼天には雲一つなく、爽やかな風も相まって気分は上々。そりゃ鼻歌の一つも出ようものだ。


「あら、聞かない旋律ね。どこの地方の歌なのかしら」

「んー、何かどっかで耳にしただけだからわかんね」


 ちなみに、俺に護衛を付けるとか色々調整があったのだが。隠密行動ということで却下。むしろ俺はとある人物の護衛として洛陽に向かっている。そう、横にいる美女のことだ。


「そう、耳にしたことのない旋律だったから、思い出したら教えてちょうだいね」

「へいへい」

 

 そら二千年くらい後の、海の向こうの流行曲なんて耳にしてたらびびるわ。一瞬、自作とか言おうかとも思ったけど、そんなこと言ったら余計ややこしくなるなあ、と。

 ちなみにこの人物は蔡邑。洛陽から来た何進の使者だ。これも表向きには袁家の書庫に学びに来たということになっている。この時代トップクラスの文化人ということで、軽く講演会やらもしてもらったりしていた。

 俺?そういうの向いてないからねえ。詩歌とかさらりと詠める人はすごいと尊敬なのです。俺はあれよ、パトロンで十分。

 閑話休題それはさておき。蔡邑が妙齢の女性ということにはもう、驚きなどなかった。もうこれ、そういうもんなんだろう。

 本来庶人出の何進に従うような義理はないんだが、強く乞われたのと、十常侍の専横を見逃すこともできぬ。そういうところらしい。政治にも長じる学者さんってのは中々貴重な存在なのである。こういう人材を抱えているというところに何進の手腕が垣間見れる。


◆◆◆


 ……道程はそろそろ袁家領内を出るあたり。護衛と言っても賊が出るでもなく、あれこれ駄弁っているだけである。

 いや、しかし流石に頭いいわこの人。ぽろっと口走る言葉を拾う、拾う。うかつなこと言えんのよ。まあ、勉強になるからいいけどな!それに、洛陽の内実とか色々教えてもらってる。


「しっかし、売官ねえ……。そこまでやっちゃうかー」

「困ったことでしょ?」

「んー、実権ある地位まで売っちゃうのはなあ」


 売官。文字通り官位を売ることである。財政が困窮した時に名誉職なんかを売りに出して国庫の充足とするわけだ。

 実は俺はこれ自体はアリだと思っている。人間、富を得たら次は名誉と決まってるからな。富の再分配という意味でも有効だ。勲章ほしさに国庫にお金が入るならまさにwin-winなのだ。

 ただし、これが実権のある地位となると話は別だ。三公とかまでいかなくても、普通に地方の徴税官でもえらいことになる。名誉のためじゃあなく、実利のために地位を得るのだから、そりゃ国土も荒れるわ。そら、費やした経費を回収するために搾取しますわ。


「そうね。まずはそこかしら……」


 何進自体の能力は知らんが、蔡邑をはじめ中々優秀なブレーンが付いてるみたいである。やっぱり宦官はクソだな。お掃除しなきゃ。使命感じみたものを感じる俺である。


「組織が腐る時は上からだかんなー。精々、何進大将軍様には頑張ってもらわんとなー」

「袁家の後援も期待していいのかしら」

「まー、そだね。大筋では持ちつ持たれつでいきたいものだね」

「ふふ、ここで先走っても仕方ないものね。でも、正直肩の荷が下りた思いよ」


 まあ、重そうなものを身に付けてらっしゃいますからなあ。肩が凝るらしいですねえ。チラ見でもその豊満さは中々のもの。重力に抗い、揺れるそれはまさに漢王朝の今を示唆しているようだ。


「いやいや、実際袁家でもあんたの評判はよかったみたいだぜ?」

「ありがとう。でも余り交渉ごととかは向いてないのだけれど」

「大丈夫、多分俺もっと向いてないから」


 棍棒外交とか圧迫面接とかしか最近やってないしな!


 それはそうと、何進については予備知識があんまないんだよね。流石洛陽は既に商流がきっちりしてて、母流龍九商会が食い込むことはできなかった。つまり情報網も無きに等しいのが実際のところだ。


◆◆◆


 閑話休題それはさておき、袁家領内を出て思う。これはまずいと。


 思ったより荒れている。賊の噂もそこかしこ。それでも飢餓の影が見えないのは農徳新書の拡散の成果だと信じたい。

「いざ、というときは守ってくれるのでしょう?」

「おうよ、こう見えても袁家でも三本の指に……いや、五本……、うん、十本の指には入るぞ!」


 自分で言っててなんだろう、微妙?

 だって、猪々子だろ、斗詩だろ。まずここがぱっと浮かぶよな。なんだかんだで田豊師匠や麹義のねーちゃんにもかなう気がしない。そして張紘の護衛兼秘書兼恋人な赤楽さんにも勝てないね。うん、素ではこんなもんか。凪にはまだ勝てる。はず。多分、きっとメイビー。

 武家の跡取りとはなんだったのか。いいもん、三尖刀発動したら多分三本の指には入るもん!

 ……そら蔡邑も苦笑するわ。

 話を変えよう。売官とか。考えれば考えるほどこれがアカン。この制度が続く限り漢朝は緩やかに壊死していくだろう。公的機関のトップや重鎮が、私腹を肥やすために経歴とか関係なく就任したらどうなるか。

 うわあ。職務遂行の能力や経験がないだけでなく、悪意を持って権限を行使したら……。こわや、こわや……。


 だがしかし。正直、宦官の腐敗に対する策がないのよな。宦官を敵視する士大夫層なんだがね。時系列で言えばまずこいつらが腐ったのだ。

 そのため、宦官が官僚のような役割をして後漢王朝の運営をしてたのよな。が、その宦官も腐ってきた。これに対する自浄作用がないのが今の後漢王朝の問題だな。


「上善は水の如しと言うが、水ですら一つのところにあると腐る。

 いわんや人間をや、だな」

「あら、若いのに達観してるのね」


 うるへー。中の人の実年齢考えたら妥当なんだってば。


「茶化すなよ。そんなら、宮中は俺の諧謔をせせら笑うほど清冽と思っていいんだろうな」

「ごめんなさい。そういうつもりじゃなかったのよ。多分、貴方が思うよりひどいわ」


 マジか。マジなんだろうなあ。なんてこったい。


「……やれやれ、だぜ」


 袁家領内は食料増産も順調で景気もいい。だが、外部の不確定要素がどんどこ膨らんでくる。食料が潤沢と言っても流石に袁家領内の生産で中華全体の人口を養うことはできないしなあ。

 やっぱり何進と組むしかない……のかなあ。まあ、考えてもしゃあない。ばっくりと出たとこ勝負。とりあえずの戦略目標は宦官誅滅。世の為人の為になって俺も嬉しい大目標。

 やってみせましょそれなりに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ