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凡人、はじめてのおつかい

 あー、酒呑んでもテンション上がんねー。

 はい。絶賛やさぐれてる二郎でござる。

 口の悪いネコミミと高飛車な、はおーに絡まれて気分は最低ってわけだ。癒しの美羽様も七乃に没収されたしなあ。

 酒席にて、既にあいさつ回りもして一人手酌酒なのだ。俺のかもし出す、どよーんとした空気を察してか、近づく者とていないのが救いである。

 などと思っていたのだが。白蓮がいるじゃないか。地味ながらも文武両道で安定感のある得難い人材である。白蓮だからこそ安心して国境防衛を外注できるというものなのだ。

 ふむふむ。見るに、もう一通りの営業は終えて高級料理堪能コースか。とかいつものごとくからかってやろうと思っていたんだが。


「聞かせろよその話」

「なんで?」

「ん?なんとなく」


 どうしてこうなった。からかいに行ったらなぜかやさぐれてる理由を追求されてた。見事な攻守逆転である。まあ、これで気遣ってくれてるんだろう、多分。


「んー、ちょっと面倒なことを仰せつかってよ」

「うん?」


 そう、別に曹家主従と遣り合ったことで落ち込んでいたわけではないのだ。流石にそんなことで鬱るほどメンタル豆腐ではない。


「今度洛陽に行くことになった」


 そう。花の都、魔都洛陽に出張です。やだー。


「へ?そりゃまたなんでだ」

「んー洛陽から使者が来てだな。

 もっと言うと何進大将軍からの使者なんだぜ」

「ちょっと。ちょっと待てよ二郎。それって私に話していいことなのか」


 少し慌て気味の白蓮。別に意趣返しと言う訳じゃないのに。黙って聞いてりゃいいのに義理堅いことである。

 ここまでの話で出た情報の価値に気づいたからであろう狼狽。流石は白蓮である。情報と言う見えないものの価値をよく分かっている。


「なに。白蓮と俺との仲だしね、多少はね。」

「……まあ、二郎がいいならいいけどさ」


 外注対象の勢力でも公孫は別格。優遇しまくってその勢力を拡大してもらわないといけないのである。


「おうよ、いざっちゅうときは頼むぜ。

 ほんでだ。結論から言うと、何進大将軍と組むことになりそうだ」

「へ?肉屋の倅と袁家が結ぶなんてありえるのか?」


 まあ、そうなるよなあ……。常識的に考えると。


「まあ、交渉次第だけどな。

 あっちは名家の後ろ盾が欲しい。袁家は宮廷への繋がりが欲しい。

 意外と利害が一致しているんだ。

 共通の敵もいるしな」

「十常侍、か」


 大正解でござる。敵の敵は味方、となるかは交渉次第である。俺の肩と胃が耐えられるかどうか。


「そうだ。実際色々仕掛けてきてるしな」


 くだんの義勇軍。あれも武器や当座の資金の流れはどうも洛陽からのようだ。実際その情報の裏取りできた時には割と大騒動だった。ニヤリと笑うねーちゃんとか、卓を叩き割った(素手)田豊師匠とかが怖くて俺はその場から逃げ出したし。


「うーん、妹を差し出して出世しているとか、何進には余りいい噂は聞かないけどなあ」

「だからこそ袁家の声望が欲しいんだろうさ。

 袁家も袁逢様が宮中での出仕ができなかったからな。

 そろそろ工作を仕掛けないといかん」


 何気に中央と疎遠なのよね。そら相互不信になりますわ。


「ん。もしかして麗羽が宮中に出仕するのか?」

「そこまではなんとも言えん。

 が、選択肢の一つではあるな」


 腹案もあるのだが、流石に俺の一存では決められるものではないしね。


「それで二郎が洛陽に赴く、と」

「おう、真っ平ごめんなんだけど、ご指名とあらばしゃあない。

 つーか田豊様とねーちゃんに言われたからなあ」


 一度は洛陽を見てこいとか。その一度で背負う任務が重いんですけどぉ!何進を見極めてこいとか無理ぃ!


「うわぁ……」

「まあ、行くのはいいんだけどよ。

 沮授か張紘辺りを同行させようと思ってたら駄目だってさ」


 せっかく交渉とか丸投げしようと思ったのに。勘違いしないでほしい。俺個人の能力は本当に凡人なんだからね。そんなお偉いさんとのネゴシエートとか無理でしょ普通。


「はは、きっちり働けってことか。期待されてるなあ」

「頑張って誰かに振ろうとしたんだけどなあ。猪々子は根回しとか無理だろ。

 斗詩も顔家の当主になったばっかで無理。七乃なんて裏で何するか分からんしな。

 そこそこの重鎮で、身軽に動けるのが俺くらいというわけだ。

 仕事を部下に投げまくるんじゃあなかったかなあ。俺いなくても紀家は回っちゃうのばれてるし」


 くそ!軍務に雷薄、軍政には韓浩とか使える人材がいたのが仇になったか!サボりすぎたか!


「あのなあ、部下に丸投げで組織が回るとか。私からしたら夢物語なんだけど」


 ふはははは、それが袁家の底力というものよー。


「怒るぞ?むしろ怒ってるぞ?」


 あら、声に出てたか、サーセン。


◆◆◆


 はあ、洛陽なんて伏魔殿、いきたくねえなあ。十常侍とか全員豆腐の角に頭ぶつけて死ねばいいのに。

 さて、洛陽……というか何進への使者として俺が選ばれたわけだが。


「ううっ、一人は寂しいよー」


 なんと腹心とか相談役とか含めて随員、ゼロ!やったー鉄砲玉だよー。

 というわけではない。

 あくまで袁家と何進が手を組むに当たっての事前交渉。そんな動きはできるだけ悟られない方がいいに決まっている。なので、極秘に洛陽に入るわけだ。


 自然、壮行会とかもひっそりと個別に行われることとなったわけで。つーか個別に挨拶に回ってると言う方が正しいな。


「あらあら、二郎さんらしくありませんわね、そんな弱気なのは」


 今日は麗羽様と抱っこされた美羽様。それと七乃に会いに来たのだ。


「とは言っても、洛陽なんて魑魅魍魎が住んでそうですしねえ。

 はあ、俺が下手に動いても鴨が葱背負ってるようなもんですよ」

「二郎さんなら大丈夫ですわ。それにまだ前交渉なのでしょう?

 そんなに気負うことはないと思うのですけど」

「いや、そうなんですけど、大体の方向性とか妥協点とかの目安を田豊様に相談しに行ったんですよ。

 そしたら、『好きにしろ』ですよ。丸投げですよ」

「あらあら、お株を奪われましたわね。丸投げされる気持ちが分かったのではなくって?」


 ころころと笑う麗羽様。

 いや、全権委任とか光栄なんだけどプレッシャーが半端ない。がっくりとした俺に美羽様があ、あ、と言いながら手を伸ばしてくる。

 随分と大きくなって、母親譲りで、麗羽様とお揃いである金色の髪も結構長くなってきた。


「あら、美羽は二郎さんが随分お気に入りのようですわね」


 そう言って美羽様を差し出す麗羽様。抱っこすると俺の顔をぺちぺちと叩いてくる。

 うーん、七乃に比べたらそこまで相手できてないんだが、割と懐かれている。何だ、ただの天使か。可愛いのは当然であるな。


 きらきらとした目つきで――真横で――うっとりしている七乃は意識から締め出そう。


 あ、あ、と声を上げる美羽様。言葉を喋るのも近いかもなー。


「じ、ろ」


 はい?


「じ、ろー」


 これはもしかして……。


「ああー。最初に名前を呼んでいただけるのはてっきり私だと思ってたんですけどねー。

 よ、この泥棒猫!妬ましいぞー」

「二郎さん、美羽が応援してくれてるみたいですわよ。

 気合入れないといけませんわね」


 それぞれの言い方で祝ってくれる。なんだろうね、この胸に湧き上がる暖かいものは。いかん、リアクションでけんわ。

 固まる俺の頬を相変わらずぺちぺち叩く美羽様。抱く手の力を僅かに強める。


 あー。


 なんだなー。これは頑張らんといかんなー。やべ、泣いちゃいそう。


 フリーズした俺と対照的に美羽様はご機嫌で、ちょっとしたお祝いというかお祭りになったのだった。



 そして洛陽に向かって旅立つのだよ俺は。何か隣に美女がいるけど。いるのだけれども。


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