凡人が隠居したので昼間から酒をかっくらっているお話と、義兄弟の反応
――朋在り、遠方より来たる。また嬉しからずや。
「いや、そこまで遠方でもないと思うんだけどな」
冷静なツッコミは俺ら梨園の誓いで結ばれた義兄弟一の常識人である張紘によるものである(早口)。
「そうですね。でも時間的拘束という次元で考えれば僕達が揃って昼間から集まるというのは中々に名案ですよ。
ま、主に僕と張紘君に関してですけどね」
くすり、と笑う沮授につられて張紘も苦笑する。
「ん。確かにそうだな。しかしまあ、本当に隠居しちまうとはなあ……。
よくもまあ、袁紹殿が許したものだな?」
「そこはそれ、あれだよ。あれ。ほら、あれだってば!」
「はいはい、あれですねわかります。
と言うか、本気だったんですねえ、隠居する連呼。辞める辞める詐欺だとばかり思っていたのですが」
「あー。うちのは本気だと思ってたみたいだぞ?二郎はその本性は怠惰だってさ。ほんで、本気で楽するために馬車馬のごとく頑張ってるってさ。
ほんと、その通りだったな」
「うっせー。陳蘭、こいつらに茶漬け作ったってくれ。あ、俺にもな」
ぐびり、と火酒を喉に流し込みながら言う。うむ。喉を焦がす感覚。これが愉悦か……。
「晴耕雨読どころか、隠居してから昼間から酒精に耽溺しているという噂は本当だったようで……。
いいご身分ですね……」
「ふははははぁ!羨ましいか!羨ましかろう!つか、いいじゃん!ずっとそのために頑張って来たんだし!
働きたくないでござる!絶対にこれ以上働きたくないでござる!」
「まあ、二郎君がそう言うのならそうなのでしょうね。二郎君の中では」
ん?どういうことだってばよ。俺は徹頭徹尾ニート生活を満喫しているっていうのに。
「あのな、二郎よ。袁紹殿と劉璋殿、曹操殿の政争にあれこれ書を書いて仲裁してるってのはそれだけで十分仕事してるって思うぞ?
いや、無給であることを考えたらば、だ」
なん……だと……。
「馬鹿な!俺は、怠惰に日常を過ごしているはずだ!」
「などと意味不明な供述をしているようですよ、張紘君。いや、自覚がないというのはいっそ哀れですねえ」
「言ってやるな。せめて、自分が怠惰に日常を過ごしていると思わせてやろう。
日中から酒に溺れるのもその激務ゆえ、ってやつだろうよ」
まて。ちょっとまて。
「二郎様。お茶を淹れてきました」
うんうん。この、けして不味くもないけど美味しくもないのが陳蘭の味だよな。ほっこりするな……。
――ん?
「それと、韓遂様と孫権様と、あ、張勲様から書状が来てますが……」
よし。
「旅に出る。探すなって感じで代筆よろしく」
「ふぇ?ふぇえええええ?」
そういや、頻繁にあちこちから書状が届いてたんだよなあ……。それもくそ面倒くさい感じの案件について。
うむ。旅に出ます。探さないでください。