凡人と袁家二の姫
第二部始まります
本日は晴天なり。日輪がもたらす暖気は暑くもなく寒くもなく。実に快適な旅路を提供してくれている。遥か彼方の地平線さえもが見渡せるほどに澄み切った空気。時折寄せる砂塵も大人しいものである。黄塵、舞うも儚げなり、と。
さて、現実逃避もほどほどにしようか。
「七乃ーあれはなんなのじゃー?」
「あれは、枇杷という果物ですよー
葉もお薬になったりするんですよー
だから、お医者さんの庭にはよく植えてありますねー
実も甘くて美味しいですから後で食べましょうねー」
「分かったのじゃー。七乃は物知りじゃのう。
でもどうして道沿いに色々な木が生えておるのじゃ?」
「道行く人が自由に食べられるようにですねー
誰でも取っていいから、地元の人が集めて売ったりして
お小遣いにしたりもしてますよー」
「なんと、早いもの勝ちということじゃな!
早く取ってしまわんと食べられなくなってしまうのじゃ!
七乃、急ぐのじゃ!取ってきてたもー」
「はいはーい、後で手配しますから安心してくださいねー」
やいのやいのと賑やかなことだ。この二人は馬車の中でずーっとこの調子で騒いでいる。あー、俺、馬にしとくべきだったかなあ・・・・・・。ため息が漏れるのを誰が責められようか。いや、ない(おざなりな反語)。
「二郎さーん、なに辛気臭い顔してるんですかー?
欲求不満ですかー?
美羽様がおねむになったらちゃーんとお相手しますからー
ね?」
責めてくる人がいました。見た目は美少女、中身は混沌!這い寄る張家の跡取りこと張勲、真名を七乃という腹黒系女子である。
「ね?じゃねえよって。どんだけ俺は飢えてんだよ。誘うにしても、もちっと考えろってばよ」
「いやあ、そろそろ溜まってるころかなー、と思いまして。
ほら、男の人って二日で欲求不満になるらしいじゃないですか」
どこで仕入れたその知識!割と正しいのが怖いわ。
「七乃ー。溜まるって何が溜まるのじゃー?」
不思議そうに美羽様が七乃に問う。いかんいかん。この場には純真無垢な幼子がいるのであった。
「美羽様にはちょーっと早いかなー?」
「だったらあえて口にするなよ!」
にんまりと微笑むその表情は慈母のように見えるが、個人的には極めて胡散臭いなあと思うのである。と思っていたら目が合った。
「まだ口にしてませんよー?せっかちですねえ。
そんなにおねだりされたら、仕方ないなあ。
美羽様はちょーっとあっち向いててくださいねー」
「わかったのじゃー」
「ええかげんにしなさい!」
がおーっと叫ぶときゃーっと笑う主従。
つ、疲れる・・・・・・!
しかしなーんか、七乃とも馴染んじまったなあ。と、俺の部屋を訪ねてきた当時のことを思い出すのであった。思えばどうしてこうなっちゃったんだろうなあ、と。