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VS覇王

「あ、すっげえ美味しいわこれ」


 ずび、と音を立てて茶を啜る。これは流琉や凪と互角以上の勝負ができるかもわからんね。いや、ワンチャン上の可能性まであるぞ。いや、素材が高級ならば上をいく感があるな。

 茶器の上品さと供される茶の野卑さと紙一重の力強さ。それらをこの菓子が包括して高いレベルに落とし込んでいる。そしてそれが全て供される茶の格を高めている。

 流石だな華琳よ。


「当たり前でしょ!華琳様が手ずから淹れてくださったのよ!香りと味、そしてそれらを引き出す絶妙な温度。ああもう、もっと味わって飲みなさい!」


 流石万能の天才華琳である。半端ない。戦慄すらするわ。


「ふふ、お口に合ったようで何よりだわ」


 そしてこの顔である。いや、そりゃ美味かったよ?文句なしだけどさあ……。


「どうせなら秘蔵の酒の方に興味があったかもしれんな」


「あら、駄目よ。まだ熟成が足りないし、あれこれと試している最中だもの。まだまだ二郎に飲ませられないわ。そのうち助言は貰うかもしれないけどね」


 と、言われてもなあ。俺の適当な知識が丸裸にされて美味しいとこだけもってかれそうではある。


「で、何しに来たの?と敢えて聞いておこうかしら」


 にこやかなままに華琳は俺に問うてくる。こわいこわい。


「司徒が司空に会いに来る。なにもおかしなことはないな」


 やめて。華琳の目力、すごいのよ。ヒュン、となりそうだわ。なりそうだわ。


「国難だものね。そして曹家の動きが読めない。そういうことでいいかしら?」


 これには流石、と頷くしかない。

 実際、華琳が蜀――と自称するテロ組織――に与するとは思えない。理性的に考えれば、だ。しかしながら、翠の出奔。これが痛かった。

 後一手。一手あればこっちが詰みかねないというところまで押してくるのは流石に伏竜鳳雛コンビだぜこんちくしょう。

 あ、ちなみに割と洒落にならない戦力を飼っている黒山賊からは呂伯奢――張燕の偽名である――から張紘宛に「これからもこれまで通りのお取引をよろしく」ってことで本人自ら挨拶に赴いてきたらしい。

 いやまあ、こっちが不利になったら途端に裏切るんだろうけどね。韓遂と同じく油断できないことに変わりはないのである。

 ――閑話休題。


「二郎?」


 現実逃避していた俺であるが、華琳の無慈悲な呼びかけがそれを許さない。くそ!なんて時代だ!

 戦うしかない!現実と!


「まあ、そうだな。正直不安さね。蜀と称する賊軍どもに華琳が加担する理由なんてない。利なんてないと思うけど、さ。

 華琳がその気になれば、と思うと怖くて夜も寝られんよ」


 だから昼寝してるのさ、と自虐的に笑うと、華琳は茶化すでもなく問うてくる。


「二郎、一つ聞いておきたいのだけれどもね。速攻で幽州を落とすという当初の計画は頓挫しているわよね。あの馬超のおかげで。

 そして太尉たる公孫賛、更には三公の首座たる司徒。それらを空位にして国体の維持、どうするつもりなのかしら?」


 そーだよなあ。普通そう思うよなあ。なに、腹案はある。


「権官を、設置しようと思う」


 権官。正規の役職に対する代理職、或いは補佐職的なものである。有名なのは某学問の神――或いは雷神――だが遥か未来のことである。ほら、知ってるでしょ?


「へえ……、意外とちゃんと考えているのね。程立の案かしら。それとも郭嘉?」


「俺が考えたとは思わないのかよ」


「あら、違って?」


「違うね、俺の発案さ。それを加味してくれよ」


 俺の言に華琳は目を白黒させる。嘘でしょ、とか言うが嘘じゃないのよ。

 まあ、蔡邑さんの知恵もお借りしてるがな!流石何進政権の知恵袋は格が違った!

 とは言え……だ。


「ぶっちゃけ駒が足りん。前線も、後方もな。俺が思う総力戦には曹家の力が必要なのさ」


 ここからが本題なのだよ。本題なのよ。


「あら、今を時めく袁家の陣容はそんなに手薄なのかしら」


 ニヤニヤと笑う華琳。なに、君他人ごとと思ってやしない?それは違うぞ?


「華琳にしては安い挑発だな。俺は俺なりに最善手を打つ。それだけのことさ」


「へえ……。

 いいでしょう。で、誰が欲しいのかしら」


 その余裕に苦笑する。

 そしてメイン軍師との語らいを思い出す。


◆◆◆


「で、二郎さんの腹案をお伺いしたいのですが」


 くすり、と笑う風に俺は答える。


「そうだな、ネコミミと秋蘭かな。華琳を中央に残すのは怖いけど、腹黒ネコミミがいなけりゃ軽挙妄動もないだろうしな。

 それに春蘭がいれば、そうそうおかしなことにはならんだろうて」


 なにせ怖いのは華琳の動向だ。華琳の横にネコミミがいたら不安が心配で心労がMAXでどうしようもなくなることは確定的に明らかである。


 そんなことは、風は百も承知だと思うのだが。


「くふ、慎重な二郎さんはなんとも魅力的ですね。

 でもそれは、いささか以上に弱気すぎると思うのです~」


 くすくすと笑みを浮かべる風の言に俺は考え込むことになる。


「だって、常から二郎さんはおっしゃってましたよね。

 ええ、当代一番の才能、英傑はどなたですか?」


 そんなの。


「そりゃ華琳だろうよ」


 魏の武帝、覇王曹操こそがこの時代きっての英傑である。これは揺るぎない真実である。

 今はまだ人材不足にて雑務で忙殺できているが、いつ飛躍するか分かったものじゃない。


 いやまあ、目の前の愛しいメイン軍師を含めて華琳には一番割を食わせているという認識はあるんだけどね。


「じゃあ、最高の人材を使わない理由は、あっても弱いですよね~」


 くふふ、と笑う風がマジで妖艶。くそ、そうだよな。その通りだよ。


「だが、だが。華琳を扱える自信なんてないぞ俺には」


 その言葉に風は笑みを深めたのであった。


◆◆◆


 応える俺の言葉に華琳は意外そうに応える。


「あら、私と秋蘭、ね……。てっきり春蘭と霞だと思っていたのだけれども」


「純軍事的にはそうかもしらんがね。ぶっちゃけるとその二人の手綱を取れる自信がないよ、俺は」


 特に春蘭な!


「あら、そうかしら。まあ、それはいいわ。にしてもその物言い、よ。

 私の手綱、どうとでもなると思っているのかしら?」


 ニヤ、と華琳は笑う。それが了承の合図だと気付いたのはネコミミの激昂を見てからだ。


「か、華琳様!このような汚らわしい男の要望をお受けになるのですか!」


 ネコミミマジ涙目、である。そうだよなあ。華琳が俺の指揮下に入るとか、心理的にも時最適にもどんだけ罰ゲームかって話だ。


「さて……、桂花。私は二郎と話をしているのよ?

 口を挟む資格がないと知りなさいな」


 その言葉、酷薄なようで、ネコミミを守るものであることに誰が気付くであろうか。まあ、俺は見ない振りするけどね。


「はい、華琳様。如何なる刻、如何なる場合においてもこの身、この心は華琳様のものです!」


 はいはい。ちょっと主旨が歪んで伝わってますねえ。こわい……こわい。


「あら、どうしたのかしら二郎?顔色が悪いのではない?

 ああ、麗羽は脈絡もなく無茶を言うものね。嫌気がさしたらいつでもおっしゃいな」


 いや、そりゃそうだけどってそうじゃなくってだな。

 なにしれっと地雷仕込もうとしてるんですかー!やだー!

 だから華琳と距離感縮めたくないんだよ。それを分かるんだよ!風!

 まあ、俺のメイン軍師にそんな甘えは通じないのは知っているんだけんどもね。


「まあ、そうだな。華琳の動き如何でえらいことになるからな。知ってると思うけど」


 華琳が本気で叛を選んだら詰むんだよなー。まあ、この場ではこれ以上どうしようもないさね。


「二郎?やけにあっさりと引き下がるわね。もっと此方に食らいついてくるかと思ったのだけれども」


「この場で俺が何を言ってもわりとどうしようもないだろう。だからさ、華琳に頼むのはさ。

 俺より遥かに影響力のある人に任せようかなって、な」


 俺の言葉に華琳は不審げに眉を顰め、それから可笑しげに笑う。


「ああ、この場にいなくて私に意見できそうな人物。――春蘭のことね」


「――そうだ」


「あの子が私に意見するかしら?」


 くすり、と華琳は試すように艶然と微笑む。


「そこはほら、俺が土下座してでもだな。俺の額が火を噴くぜって感じで」


「ばっかじゃないの?」


 ネコミミにばーかばーかと罵られるのもどうでもよく。


「まあ、俺が持ってる曹家の伝手ってば春蘭しかないからな。ちょっと泣きついてくるわ」


「ええ、あの子を口説けるものなら口説いてみなさいな」


 はいよ、とばかりに手を振り、場を辞する。

 いや、春蘭相手ってこう、出たとこ勝負なんだけどね?


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― 新着の感想 ―
[良い点] 結構洒落にならない危ない所に切り込んできましたけど、後回しにしたり避けて通る事も出来ない覇王様だからこそ直球で切り込んでいくのが正解なのかもしれませんね。 北郷一刀達と覇王様は相容れない…
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