表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
295/350

はおー来襲者 その参

「忙しそうだねー」


 ぎろり。むしろ殺意すら込められた視線が返答だった。

 おお、こわやこわや……。


「なんだー、華琳はいないのかー。先触れは出してたのに、困ったものだなー」


 仮にも俺は三公の筆頭だぞー。ぷんぷん。もっとあがめろー、うやまえー。

 だが接待は勘弁な。華琳になにされるか分かったもんじゃない。

 華琳がなにしてくるか分かったもんじゃない。

 つまりここはある意味敵地、或いは魔境。だって華琳のとこですよ。そして体当たりレポが今始まるところですよ。各地ドサ流浪えいぎょうして培ったレポ芸の見せどころじゃーい。


 まあね、間違っても女子は派遣できんしね。

 男子も魅了されて抱き込まれる未来が見えますのでね、俺が特攻するしかないってことですね。

 なーに、書類仕事は風ちゃんにお願いしてきたしね、何もこわくないね。

 などと思っていた俺にネコミミの言がやってくる!

 相変わらずとげとげしい!

 でも、ギザギザ心根ハートよりは、うっせーうっせー、と言われた方が実際安心ではないだろうか。

 名馬を盗まれた訳でもないしね。校舎には硝子なんてないしね。


 閑話休題。


「あんたね……。

 あんたのせいでしょうが!」


 えー。なにそれー。


「これはしたり。と言わざるをえないな。司徒たる俺が司空たる華琳に面会を申し出る。

 うむ。なにもおかしなことはないな」


 むしろこれに異論とかあったら責任問題ですよ。


「その華琳様の時間を著しく拘束するだけのことをしてるって自覚があると、今分かったわ」


「さて、なんのことやら。それともなにか?

 華琳は司空の職責に耐えないと。貴様ネコミミはそう言うのかい?」


 にひひと笑う俺である。実際楽しい。

 そしてネコミミさんは今にも飛びかからんばかりに殺意を込めてにじり寄ってくる。

 フシャー!という擬音がふさわしい激昂ぶり。いやあ、時に落ち着けよ。


「あんた、ねえ……。

 いい加減にしなさいよ。本当に……」


 まあ、ネコミミの言うことも一理あるのである。彼女の言う通り、華琳の多忙さは俺の仕業、というか仕込んだのも一因だからして。むしろ主因かもしれないまである。

 ぶっちゃけ、麗羽様に歯向いそうな官僚たちを処分したのだよ。あくまで合法的にだけどね。

 麗羽様が大将軍となり、俺を筆頭として三公が組閣された。それについて面白くない勢力は当然存在するわけで。

 まあ、それでも職責を果たすならばそれでよかろうと思っていたが、意図的なサボタージュやら妨害工作やらなんやらが出てきたわけで。

 いや、当然予想してましたけどね?風ちゃんとか稟ちゃんさんがね。

 そしてまあ、要職にって、害なす存在を一気に処分したわけですよ。リストラってやつですね。

 いやね?別に全員司徒たる俺の職権で罷免してやってもよかったんだけどね。驚くべきことに皆さますねに傷持つ身だったようで。いや、びっくりですよ。

 はい、七乃が一晩でやってくれました。ガチです。いや、下準備は仕込んでたんだろうなあと思いますけどね。フフ、怖い。

 怖い。マジで。


「いえいえ、これくらい美羽様のためならお安い御用ですよー」


 ルンルンと鼻歌混じりに、ですよ。笑顔とは本来なんちゃらかんちゃら。

 反袁家的な官僚やら士大夫どもの罪状のリストを手渡す七乃は控え目に言って上機嫌でありましたのですよ。いやあ、美人の笑顔はいいね!七乃は大体いつも笑顔だけどね!


 そんなこんなで、である。七乃のおかげで合法的に麗羽様の顕在的、潜在的な政敵は一掃されたのでありました。

 いやあ、大仕事でした。俺以外のね。

 特に清流派と名乗る士大夫たちがな!あいつら、何が清流派だか。それが恒常化されていたとはいえ、汚職やらなんやら十分濁ってるだろう……。

 いや、何割かは冤罪でも驚かんけどね。それにしたって物証なりをきちんと捏造してるんだろうなあ、七乃って。

 うん、ご機嫌取りにもうちょっとがんばらんといかんな。


 閑話休題。


 そんなわけで、だ。古今東西の政治犯が華琳とこに送られてるわけである。

 更には執金吾として治安活動に――何だか知らんけど鬱憤を晴らすように――いそしむ星もどんどこ犯罪者、それも官憲と繋がってそうな奴を検挙しまくってるのだ。

 いやあ、部下が頑張ってるって見てて嬉しいし楽しいですね。

 やったぜ。名人事だぜ。


 うん、華琳たちが忙しいのは俺の、俺たちのせいだな。

 ただでさえ、組織を掌握せんといかんのに送り込む案件。うむ。華琳とかネコミミをもってしてもオーバーワークになるのも致し方なし。けけけ。


 さらに、だ。


「倉庫、足りないなら紹介するよ?」


 俺のその言葉にネコミミが硬直する。


「あんた……」


 影響力を持つ士大夫をどんどこしょっぴいたら、だ。何が起こるかというと、陳情工作である。まあ、袖の下とか賄賂とか時候の挨拶とか好きに言えばいいと思うけどね。

 そこいらへんをさばくのも大変なんだろうなあと思う俺である。誰の賄賂を受け取って量刑を勘案してとか俺ならやってられないね。

 まあ、三公。大人気の役職にはそれくらいの役得があるということである。それで私財を積み重ねまくったら司徒たる俺が普通に罷免するだけなんだけどね。いや、それが分からぬ華琳じゃあないと思うけんども。いや、華琳なら分からぬように隠蔽するか……?取り込むべき人材とそうでないカス。それの選別くらいはやってのけるだろう。

 三公の一角とはいえ、俺と白蓮が麗羽様の派閥であるのは明らか。そして華琳は麗羽様の風下に立つことをよしとはせんだろう。そうなれば、だ。


「あの華琳が、だ。俺との約束をうっちゃって仕事に専念する。いや、職務に熱心なのはいいことさ。

 しかし、内職をされては困るんだよね」


 まあ、反袁家勢力を糾合してくれたらめっけもんなんだがね。


「それくらいにしてほしいものね、二郎」


 軽やかな、鈴の音を思わせる声。

 轟く雷鳴を思わせる声。つまり。


「やあ、華琳。

 遅かったじゃないか……」


さて、ここからが本番だ……。


◆◆◆


「あら。二郎指定の時刻ぴったりのはずなのだけれども。まあ、二郎はそんなこと気にしないから問題ないわね」


 いけしゃあしゃあとのたまう。ここいらへんの面の皮の厚さは、はは。

 流石である。


「さて、大層忙しそうじゃあないか」


 さてと、華琳がオーバーワークとか滅多にない。と言うか、意図的に華琳の業務を破綻させようとしてたんだが。

 ちなみにこれは七乃と風の入れ知恵である。

 こわやこわや……。


「ええ、忙しいわね。そして二郎を待たせてしまったのも確かなようね。ごめんなさいね。いつも約束の時間に遅れてきてたじゃない?春蘭や桂花がいつもおかんむりだったのよ?」


 ええと、そんなこともあったかもしれない。割と時間にルーズだったかもしれない、なあ。


「曹家の文武の要を宥めるの、大変だったのよ?

 でも、それは過ぎたこと。結果として二郎を待たせてしまったのは事実よ。だからね」


 ちゅ。


「これで、いいわね」


 え。え?


「華琳様!そのような下賤な!汚らしい男にその唇を許されるなぞ!」


 ネコミミの奏でる騒音。いや、役得と言っていいのかなあ、これ。背筋が寒くなるんですけど。


「さて、二郎。遅れて悪かったわね」


 欠片かけらも悪かったと思っていない口調で華琳がそう言う。


「お、おう」


「ああ、安心なさいな。二郎が心配することは何もないのよ?そりゃあね。

 各方面からの陳情やらなんやらでちょっと手間はとられたのだけれども。

 それくらい捌けなくて何が司空か、よね」


「あ、はい」


 なんだろう。一言ごとに追い詰められていく感じ。


「まあ、二郎が危惧するように。

 あるいは期待するようにね。彼らを手駒にするというのも考えたのよ?」


「華琳様!?」


 ネコミミの悲鳴じみた叫びを華琳は手を上げて制する。


「今、この時点で麗羽と敵対しようとは思わないわ。それどころでもないしね。

 私と麗羽が争えば中華は焦土となるでしょう?」


「いや、俺としてはどこから突っ込めばいいか困るくらいなんだが」


 つくづく自己評価の高いことだ。忌々しいのはその自己評価よりも俺は華琳を評価しているってことか。


「端的に言うわよ。私は、二郎が用意してくれた来客。その相手を春蘭に任せたわ」


なん……だと……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] まあ清流派ってあくまで儒教的価値観における濁流(宦官)への対抗的名前だしね。下っ端ーズはともかく、それなりの大物ならむしろある程度利権つまんで汚いことにも手を染めてないとむしろ組織運営者とし…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ