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飛将軍との対峙

 蒼天に翻る真紅の呂旗。

 右翼よりその姿を現し、眼前の敵に相対する曹家と孫家を尻目に袁家本陣に向かう。

 その先頭には万夫不当。


 なに、相手にとって不足はない。


「白馬義従、出るぞ!」


 手にするのは兵卒が手にするのと変わらない普通の剣。

 だが、それでいい。白馬義従の強さとは、平準されたところに真髄がある。一人の武勇に引きずられる類のものではないのだ。

 そして白い奔流が頸木くびきを解かれ、疾走する。


 馬家軍のように真正面からぶつかるのではなく、流れをいなし、進路を変え併走する。

 ニヤリ、と口を歪ませて公孫賛は先手を取る。


「挨拶代わりだ!撃てぇ!」


 騎射。

 白馬義従が匈奴と互角以上に渡り合える所以である。

 袁家本陣に直進するため本腰を入れての対応ができないのをいいことに、と陳宮は歯噛みする。

 牽制に迫れば退き、こちらが引けば迫る。なんともいやらしいことこの上ない。

 そしてまた牽制に一部隊を寄せる。どうせ届かぬだろうが、矢の雨の中進むよりは遥かにマシというものだ。

 だが。


「甘い!」


 牽制でしかないと見るや公孫賛はその部隊に寄せ、叩き潰す。


「各個撃破、とはこういうふうにやるのさ!」


 あくまで袁家本陣への吶喊を最優先するのを見越しているのだろう。容赦なく消耗を強いてくる。その手際は見事と言っていい。

 そしてその損害が無視できぬほどになり、陳宮は舌打ちを重ねる。

 いや、白馬義従を牽制しつつも損害を最小限に保つ陳宮の用兵は褒められるべきものであろう。例え白馬義従が呂布の武威を警戒して不必要に迫ってきていなかったとしても。

 だが、その圧力により着実に進路は歪められており、このままでは袁家本陣への吶喊が果たせるかは微妙。いや、正直厳しくなりつつある。


「……公孫賛アレ、片付ける?」


 静かに呂布は陳宮に問う。アレが邪魔ならばアレを除けばいいのではないか、と。

 一瞬その言葉にうなずきそうになりながらも陳宮は首を横に振る。


「いえ、いけませんぞ。それこそ彼奴らの思うつぼなのです。

 ……恋殿。行ってください。そして、袁紹の首級を」


 その見切りこそ陳宮の真骨頂であった。あるいは限界であった。

 自分たちが呂布の足手まといであると、ある意味軍師としては屈辱的なそれを認めて手元の戦力をもっとも効率的に運用する術を選ぶ。


「なに、公孫なぞ有象無象もいいとこなのですぞ。まともにやりあえば敵ではないのです!」


 ちっちゃい体躯を精一杯踏ん反り返して陳宮は呂布を解き放つ。

 軍団の長という枷を解く。解き放つ。中華最強を。


「……わかった。行ってくる」


 そして呂布は単騎で進路を修正する。勿論立ちふさがる敵なぞいないも同然。


 目標たる袁家本陣に狙いを定めて呂布は単騎で突撃を敢行するのだ。


「ちい、呂布には構うな!陣形を崩すな!」


 流石の公孫賛もこれには狼狽うろたえる。呂布と、切り離された配下の軍。どちらに対応するか。常ならばそこに乗じて戦局をひっくり返されることもあったろう。

 だが。


「大事ない。呂布単騎の突出は想定内。今は目前の敵軍に専念すべき」


 韓浩の淡々とした進言が響く。全く、それほど大きい声でないというのに、痛いほどに耳に響く。不思議なこともあるものだ。


「そ、そうだな。こっからが本番だった。すまんな、狼狽うろたえた」


「いい。呂布はやはり埒外。アレと戦場で互角以上に渡り合う。そのことにこそ尊敬の念を覚える」


「はは、嬉しいことを言ってくれるじゃないか。じゃあ、呂布がいないんだ。彼奴きゃつの武勇に備えこれまでは控えていたが……」


 にま、と公孫賛は笑う。手控えていた接近戦を、騎兵突撃を、そして騎射を組み合わせた白馬義従の本領を見せてやろうとばかりに。


「行くぞ!白馬義従は伊達じゃない!」


◆◆◆


 単騎で恐ろしい勢いで騎馬が迫ってくる。言うまでもなく恋だ。

 まさにそれは飛ぶが如く。飛将軍というのは言い得て妙だな。明らかに先ほどまで軍を率いていた時と速度が違う。人馬一体とはこのことか。

 まあ、これからそんな化け物と遣り合わんといかんのだけどもね。

 だが、此方こちらも恋対策はしている。流石にね。


「見せてもらおうか、飛将軍の実力とやらを!」


 いや、知ってるけどね。武力100だし。でもまあ、これくらいは言わんと恰好がつかん。


「陳蘭!」


 最前列にて構えるは陳蘭率いる長弓隊。既に五千の兵が展開し。ざく、ざくと矢を地に突き立てて臨戦態勢。

 通常ならばまだまだ射程距離外だが、虎の子の長弓部隊にとってはそうではない。


「なんと、まあ……」


 背後の秋蘭も感嘆する。この距離で届くのか、と。

 へへ、すごいだろう。いや、彼女なら可能だろうが、それを一般兵がやることに意味があるのだ。集団でね。

 そして五千の弓兵はただ一人恋を目がけて矢を射る。ひたすらに。

 もはやそれは矢の雨、いやさ嵐である。点でなく面で制圧するのが長弓兵の戦い。大体の位置に只管ひたすら矢を射る。


「……」


 それらの矢が、恋には届かない。ただひたすらに飛ぶように馬を走らせる。手にした方天画戟。残像すら見えないそれが降り注ぐ矢の雨を全て弾き返しているのだ。

 マジかよ。うそでしょ。

 いや、想定はしていたけど実際目にすると笑うしかない。

 だから。


「秋蘭、頼んだ」


「任されようとも」


 秋蘭は不敵に笑い、静かに弓を構える。


「唸れ、餓狼爪!」


 一射で三矢。それを一息にに三射。斉射三連とはこのことか。

 山なりに襲いかかる長弓部隊の弾道と違い、限りなく水平に襲い掛かるそれには流石の恋も……ってマジか。

 眉間に迫る矢を掴み、その矢でもって続く二の矢、三の矢を弾く。

 降り注ぐ矢を方天画戟で弾き返しながら、だ。


 だが、そこまでである。フ、と笑う秋蘭。


「依頼は果たした。では私はこれで華琳様のところに戻らせてもらおう」


 いや、しかし呂布とは恐るべきものだな。或いは討ち取れるかとも思っていたのだがな――。

 苦笑交じりに秋蘭はきびすを返す。

 そしてその目的は果たされている。

 確かに恋の身体には一矢たりとも届いていなかったが、見事にその乗馬の前足を打ち抜いていたのだ。

 倒れ込む馬体から軽やかに身を躍らせて……。


「弓兵、下がれ!」


 守備力なぞあってないような虎の子を下げる。ここで消耗させるわけにもいかん。そして。

 ここからが本番だ。やっと恋をその身一つにすることが出来た。そして。マジか。

 いや、詠ちゃんに話を聞いたことはあったが半信半疑だったんだよなあ。


 ――まさか、本当に。

 二本の足で走る方が速いとかどういうことだよ。

 

 ぎゅん、と速度を上げ、土煙を背に恋が迫ってくる。なるほど。人中の呂布とはこういうことか。などと軽く現実逃避をしながらも前に出る。

 猪々子と斗詩が付き従ってくれる。


 どんどんと近づいてくる恋。その表情は相変わらず何を考えているか読めない。

 まあ、それでも言葉が通じるだけありがたいとしよう。

 だからまあ、まずは声をかける。


「恋!」


 ん、と顔を向けた恋は義理堅く速度を落とし、停止する。

 さて、とばかりに俺は恋に声をかけるのであった。


◆◆◆


 さて、とばかりに俺は恋に向き合う。

 先に言葉を発したのは意外や意外、恋であった。


「……ほしいのは袁紹の首級だけ。二郎を殺す必要は別にない。だからそこをどいて」


 いやいやいやいやいや。


「――悪いがここは通行止めだ。大人しく帰ってくれよ」


 ふるふると、どこか悲しそうに恋は首を振る。


「月のため。どうしても袁紹の首級がいる。だから、どいて」


「そいつはできねえ相談だな。そもそもだ。それが叶ったとして月が帰ってくるとも限らんだろうに」


 流石に仮定の話とは言え麗羽様の首級云々なんて口に出せねえし。それに、月のことは、まあね。そうだよね。しゃあないね。


「それでも、いるの。だから、そこをどいて。袁紹一人で済ませるから」


 一生懸命に語る恋に泣きたくなる。なんでだ。なんでこんなにも俺たちはぶつかり合わないといけないんだ。

 やってらんないね。本当に。


「聞けないな。麗羽様をやらせるわけにはいかん。こっちは三人。まっさか、卑怯とは言わんよな」


 斗詩と猪々子が臨戦態勢に入る。


「……どうでもいい。三人が三万人でも大差、ない」


「は、言ってくれる!恋よ、袁家を、舐めるなぁ――!」


そして三尖刀によるブーストを発動させる。吠えて、やる!


「ハイパー化!」


 四肢に力が漲り時の経過が遅くなる。

 漲る力に思いを込めて、叫ぶ。

 先手、必勝!


「ちぇすとおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 鍛えられた軽騎兵による騎射は下手な騎兵突撃より恐ろしい。春秋戦国時代に趙が武零王の時代、胡服騎射で快進撃を繰り返したように。或いはモンゴル騎兵が幾多の民族を蹂躙したように。 ……まあ重装騎兵…
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