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そして賽は投げられた

 関羽、張飛という豪傑――いや、見た目はとびきりの美少女であるのだが――を伴い北郷一刀は歩を進める。

 これまでついに一度として賊と干戈を交えることなくきた劉家軍であるが、収穫は大きかった。

付き従う関羽、張飛。それに諸葛亮に鳳統と。才能はそれぞれ中華でも五指に入るであろう英傑ではある が、経験不足はいかんともしがたかった。

 それが、今回の輜重の護衛においては望外に経験を積むことが出来たのである。

 そこには一人の武人。その存在が大きい。

 益州の州牧たる劉焉の信頼も篤い武将、厳顔である。

 

 ――厳顔が輜重隊の護衛に当たったのは無論訳がある。


 劉璋が人質にとられており、それにより劉焉は反董卓連合に全く協力をしていない。

 見ようによっては厳顔が反董卓連合にいるというのもむしろ董卓側に情報を流すためと思われても仕方ない。

 だからと言って露骨に排除をするわけもいかない。

 なので郭嘉は、厄介な存在は一所にまとめてしまおうとばかりに劉家軍に同行させたのである。


 ――結果的に劉家軍が全く黒山賊に襲われなかったことで董家軍との繋がりを噂されることとなってはいるのではあるが、そんなものを気にする厳顔ではない。


 まあ、なんにせよ、だ。厳顔という経験豊富な実戦指揮官の薫陶は大きいものであった。これまで、経験不足というある意味どうしようもない弱点を抱えていた劉家軍はその弱点を克服しつつあったのだ。

 ロクに組織というものを運用したことのない劉家軍の面々にとっては、厳顔の一言一言がまさに金科玉条。渇いた大地が水を吸うように教えを血肉としていったのである。


「いや、白蓮。済まないなあ」


 にこやかに北郷一刀は謝辞を述べる。

 公孫賛の口添えなくしてはこれから臨む席に顔を出すこともできなかっただろうから。

持つべきものは頼れる友人であるなと。

 いや、横にいる韓浩からは冷たい視線を貰うがそれはもう慣れた。どうということはない。


 何にしても、董卓や賈駆を救わなくてはならないのだ。自然、気合いも入ろうというものである。


◆◆◆


 どもです。二郎です。いやあ、汜水関は強敵でしたね。あれやこれやで割と大変でしたよ。ほら、門扉を物理的に閉じてしまいましたしねえ。


 閑話休題それはともかく


 さて、いよいよ虎牢関攻略である。

 基本的には汜水関と変わらない攻略を考えていたのだが、稟ちゃんさんから待ったがあった。

 曰く、董家軍は決戦を挑んでくるであろうとのことだ。ほむほむ。


「董家軍は騎兵突破が持ち味。ですから時間を稼ぐにしても虎牢関に籠ることはないでしょう。

 虎牢関に籠るよりは乾坤一擲の博打に全力を尽くすかと」


 穏もネコミミも、稟ちゃんさんのこの意見には同意した。

 ……極秘である情報。月が囚われているであろうとかそこいらへんは口外無用として伝えている。

 前提としている情報に齟齬があったらいかんからね。中華最高級の頭脳といえども前提となる情報が違えばもたらされる結論は違うだろうし。


 だからまあ、全力で董家軍が挑んでくるであろうというのが俺たちの予想だ。


 無論、そうでなければまた土攻めをすればいいだけだ。なに、籠城した董家軍なんぞ物の数ではない。って穏が言ってたからそうなんだろう。多分。

 だからまあ、野戦での決戦を前提に戦術を立案していたのだ。軍師陣がな!これは勝ったなガハハ。


 んでまあ、決戦が予想されるから虎牢関攻略に関しては出し惜しみなく全力だ。

 汜水関はあっけなく袁家単独で陥落させたから、手柄が欲しい諸侯軍はこぞって出陣の打診をしてきたんだけどね。

 足手まといはいらんとばかりにばっさりと切り捨てた稟ちゃんさんカッコいい。気分を害した彼らのフォローはまかせろー。バリバリ働くぜ。多少は働いてるアピールしとかんとね。


 で、まあ。陣構えはこうだ。中央の本陣。ここに麗羽様が陣取る。顔家と文家はここに控える最終防衛線だ。なにせここがやられたら負けだからして。

 そして中央でそれを守るのは曹家軍だ。そして右翼に孫家を配し、左翼に紀家軍。

 虎の子の騎兵の馬家軍と公孫家軍は温存、である。


 これでいける、と軍師陣からはお墨付きをもらってるけどなー。できたらメイン軍師である風、とぶっちゃけトークで確認したかったなあ。


「まあ、なんにせよ袁紹殿の首級さえ無事ならばこちらの勝ちは揺るぎないでしょう」


 怜悧な稟ちゃんさんがそんなこと言うけど、逆に考えたら麗羽様が討ち取られたら負けってことですよね分かります。


「……ご自分のお立場をもっと考えてほしいですね。

 ああ、風ならばもっと上手いこと諫言したのでしょうが生憎私にそんなのは無理ですから直言ご容赦願いたいですね」


 更に言い募ろうとする稟ちゃんさんの言を遮ったのは。


「義勇軍を率いる北郷一刀様がおいでです」


 白蓮の口利きならば仕方ない。稟ちゃんさんともうちょっと語りたかったけどしゃあない。

 しかしまあ、なんとも厄介なことだ。

 つか、本来義勇軍とか相手する余裕ないくらいにクライマックスなのである。


◆◆◆


「却下」


 関羽と張飛を恋に対して使ってくれという北郷一刀の申し出に対して俺は即座に返答した。


「な、なんでだ!鈴々と愛紗の武をもってすれば恋を止められるんだ。

 無駄な人死にを減らせるんだぞ」


 言い募る少年の熱意やよし。でも駄目。


「総大将の守りをどうして他家に任せられるか、という話さ。

 袁家は武家よ。そこを察してくれたら嬉しいな」


 稟ちゃんさん、穏、ネコミミも董家軍が取る戦術の予想は一致している。

 即ち乾坤一擲。麗羽様を討ち取り刻を稼ぐというもの。流石に公言なんてできないけどね。

 そしてその要は恋であろうというのも一致している。

 どうしてそれを、内通の噂さえある義勇軍なぞという有象無象にゆだねられようか。

 いや、義勇軍の風評は八割くらい俺のせいだけどね!


「なるほど君が言う関羽と張飛の武勇を認めるにやぶさかではないがね。

 だがまあ、これでも俺は恋と矛を交えたこともあるのさ。

 そして、だ。そこのお嬢ちゃん。張飛か。

 彼女が産まれる前から俺たちは武を磨いてきたのさ。

 その子がおねしょをしているより前から俺たちが磨いてきた武というもの。馬鹿にできないと思うがね」


 まあ、恋を力づくで、本気で押し返そうと思ったら、信頼する人財しか当てにできやしない。

 だから。猪々子、斗詩。すまんが付き合ってくれ。

 ちら、と視線をやると二人ともにこり、と満面の笑みで頷いてくれる。

 これは俺もみなぎってくるね。

 などと気合い充実な俺に北郷君が食い下がってくる。いや、頑張るねえ。だが無意味だ。


「で、でも俺たちは、俺は恋や月と親しかったんだ。だから、こんなのは何かの間違いかもしれないって説得できるかもしれない。

 無駄な血は流すべきじゃないだろう?

 話して分かるならば、それにこしたことはないはずだ!」


 いやいや。話せばわかるとかそんな段階は終えているんだがね。

 まあ、いい。俺たちのスタンスを示そう。


「猪々子!」

「あいよ!」


 最も信頼するおにゃのこの一人に呼びかける。暇そうにしていたのが俺の呼びかけにたちまち全身に覇気を巡らせる。


「袁家、鉄の掟その壱!」


 にまり、と猪々子は俺の呼びかけに応える。そして高らかに謳う。


「とりあえず、ぶっ飛ばす!話はそれから聞いてやる!」


「その弐!」


「戦いは数だよアニキ!」


「結論!」


「勝てばよかろうなのだぁ!」


 いやっほうとばかりにハイタッチする俺と猪々子である。斗詩がぱちぱちと拍手しながら囃したててくれる。

 なお稟ちゃんさんはため息、北郷君たちはあっけにとられてるね。フフン。


「ま、そういうわけだ。お帰りはあちら、ってな」


 まともに議論する気はないのさ。一応面通しもしたから白蓮への筋も通したし、これでよかんべ。


◆◆◆


 そしていざ出陣の時である。

 眼前に揃った兵たちを煽る。

 シンプルにいこう。いつものやつでもある。盛り上げていこう。


「俺たちは、強い!」


 兵たちが唱和し、応える。


「俺たちは、強い!

 俺たちは、強い!

 俺たちは、強い!」


 怒号は熱狂になり、奔流とすらなるだろう。

 その熱は袁家軍より発し、たちまちに伝染すらしていく。


 この勢い、無駄にしてはなるまいと稟ちゃんさんをちらりと見ればコクリ、と頷くのを確認する。


「全軍、進め!」


 そして。


「猪々子、斗詩。済まんが俺に命を預けてくれ」


「アニキになら、よろこんで」

「今更ですよ」


 そして俺は、俺たちは万夫不当の飛将軍に挑むことになるのである。

 フフ、怖い。

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― 新着の感想 ―
[一言] 恋姫の二次創作って、なぜか劉備陣営が現実見れないお花畑集団になっちゃうんですよねぇw 北郷くんが加わると、お花畑度倍率ドン更に倍!みたいに(^_^;) はわわあわわ嫌いですし良いのですけど…
[一言] 他の有象無象の諸侯(義勇軍と違って正規の諸侯)がばっさりと参加拒否されてるのに、ろくな戦歴のない義勇軍を起用する理由なんて摺りつぶす以外ではないですからなあ。
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