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凡人の宣戦布告

男子会です

 張紘と沮授。言わずと知れた俺の最も信頼する腹心の二人である。袁家の外と内に目を光らせて、それぞれの立場をしっかりと認識した上で様々な助言をしてくれる貴重な存在というか――。いや、様々な厄介ごとを二人に投げまくっているというのは自覚している。いやほんと。だから、俺の丸投げ被害担当の右翼である張紘からの一報には耳を傾ける価値がありまくりである。


「なるほど。敵は洛陽に在り、か・・・」

「ああ、彼奴きゃつは元々洛陽を本拠にしてる商会だから目星はつけてたんだ。そんで、ようやく裏が取れた」


 袁家領内を荒らそうとしていた商人。彼奴の後ろ盾を探れば自然とその黒幕は見えてくるというものである。麹義のねーちゃんには甘いと散々説教(物理)を受けたのだが、それでも泳がせた甲斐があったというものである。いや、これで成果が出なかったらどうなっていたことか。


「流石は張紘。諜報においてもその手腕は卓越していて頼もしい限りだぜ」

「よせやい。対応も後手だったしな。これくらいはしねえと立つ瀬がねえって」


 俺の減らず口に乗らずにやれやれ、とばかりに張紘は嘆息する。察するに裏を取るにも相当の苦労があったようだ。これは、結構大物がかかったか――?


「で、どこのどいつだ。俺達に喧嘩ふっかけてきた奴は」


 口が重い張紘をせかす。が。更に口は重く。度重なる催促にぼそり、と。まだ確証とまではいかないのだがと強調する。


「十常侍」


 張紘がその名を出すのを躊躇うわけである。いやさ、よくぞ言ってくれたというべきか。或いはそこまで辿り着いた張紘の手腕を褒めるべきか。いや、とびっきりの大物である。


 ――十常侍。漢朝の政を仕切る宦官の元締めみたいな奴らだ。漢朝の腐敗の戦犯と言えばいいだろうか。権勢とか蓄財とか内向きのことにしか興味がないと思ってたんだがな。

 俺の抱いた疑念に沮授が応える。


「――袁家が力を付けすぎたのかもしれませんね」


 沮授曰く、袁家は既に中央から危険視されるほどに力を蓄えているとのことだ。


「ただでさえ袁家の領内は肥沃な華北の大地です。そこに二郎君が発掘した農徳新書ですよ。袁家領内では既に十年単位で匈奴との戦いに備えるだけの物資があります」

「更に母流龍九商会だな。おいらが言うのもなんだが、すげえことになってるんだぞ」


 なんでも、効率化された農業。そこからあぶれた労働力が都市に流入。さらに漢朝各地、とくに江南から流民が流入。それらを労働力として工場制手工業が成立。様々な物資が安価に量産されることになる。強化していた街道等のインフラ整備がマッチして袁家領内は空前の好景気に沸いているのだそうな。いや、知ってた知ってた。何かすごい景気がいいのは知ってた。でも、そこまでえらいことになってるのは知らんかった。もう、完全に俺の手を離れてるね。


「明確に袁家の力を削ぎに来てるか。それならば厄介だ、な」


 北方の異民族への備えとしての袁家。それはいい。だがその権勢が過度に大きくなればどうなるか、ということである。中央への色気を疑われる。いやさ警戒されるのはごくごく自然なことだ。歴史に学べば有力な家臣がどうなるかなんて明らかだしな。特に中華の歴史では。それは粛清と決まっているのだ。もっとも、むざむざやられてやるつもりはないが、ね。


「まあ、まだ正面切ってどうこうってことはない、か。

 だが、対応については考えんといかんだろうなあ」


 袁家領内と江南でも手一杯なのに十常侍まで出てきたらどうなることやら。それに、まだ十常侍が黒幕と決まったわけでもない。現状俺にできることは盛大にため息を漏らすことだけだった。と思っていたのだ。思っていたのだが。更なる懸案事項が沮授によってもたらされる。なんてこったい。


「黒山賊?」

「ええ、最近活発なんですよ」

「ええい。このクソ忙しい時にまた・・・」


 ただでさえ十常侍に対する方針が決まってない上に、黒山賊の蠢動とはな!

 説明しよう!黒山賊とは、常山を根拠とする賊の名前である。以上!だが・・・厄介なことに常山は袁家の領内の外れにある。そこは梁山もかくやという天然の要害であり、流れた犯罪者、山賊が集う一大拠点だ。流民やら無頼やらが流れ込み、いっぱしの軍事勢力となりつつある。


「・・・蠢動しやがるか。よりによってこの面倒な時期に」

「ええ、困ったものです」


 袁家領内では食糧事情が非常によい。故に、食べるに困って犯罪者になるというのはまずない。つまり、袁家の領内の犯罪者というのは、ただ真面目に働くこともできず、奪うことでしか生きられない者共である。ある程度適応性のあるごろつきは「侠」というシステムに拾われるのだが、それにすら所属できない奴らなんぞ、社会にとって害悪でしかない。


「大掃除、するしかないかな?」

「それもいいかもしれませんね」


 内政重視できていた袁家であるが、本来その存在意義は北の護り手。故に袁家の武威が舐められているなぞ看過できるはずもない。

 ――ならば、実力行使あるのみ。


「黒山賊と十常侍か。ぶつかる予定はなかったが、喧嘩を売られたならば話は別だ。やられたら、やり返す。倍返しくらいがちょうどいいだろうさ」


 そう、この世界、舐められたらアカンのである。手を出して来たら痛い目を見るときっちり理解してもらわなければならない。一歩引いたら二歩踏み込まれる。そういうものだ。妥協やら譲歩やらは殴り合った後のことである。無論引く気はない。


「軽く言うけどなあ。十常侍だぞ?――でもまあ、二郎が決めたのならやるしかないかぁ」

「やれやれ。張紘君は弱気ですね?折角二郎君がやる気になってるんです。降りかかる火の粉。振り払うついでに火元を消し飛ばしてやるとしましょう」


 苦い顔の張紘と、楽しげですらある沮授。それぞれの言葉に俺はニヤリ、と笑う。そうさ、俺一人で彼奴らと干戈を交えるわけじゃない。こんなにも頼もしい奴らが支えてくれるんだ。


「二人とも、頼りにしてるぜ」


 ばんばん、と二人の背中を叩く。返ってくるのは溜息と、笑顔。それが何よりも頼もしい。こいつらがいたら怖いものなんてない。袁家に喧嘩を売ったことを存分に後悔させてやるぜ。

男子会でした

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