表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真・恋姫無双【凡将伝】  作者: 一ノ瀬
黄巾編 決着の章
225/350

そして時代は風雲へと向かう

「頭いてえ……」


 みなさんこんばんわ。春蘭が持ってきた手土産に頭を抱えて自棄酒ではっちゃけた二郎です。

 昨夜は春蘭となんやかんやあって、殴り倒されたような記憶があります。


「二郎様、お水です!」

「うん」


 流琉が差し出してくれた水をぐびりと飲み干す。五臓六腑に染み渡るというのはこのことだな。


「あ、おかわりどうぞ」

「おう」


 重い身体に活力が少しずつ満たされていく。

 鼻腔を旨そうな香りが刺激する。


「あの、お粥、あります。よければ、どうかなって」


 遠慮がちに言う流琉。多分俺の為に作ってくれたんだろうなあ。


「頼むわ。腹減ったけど粥くらいしか食えねえ」

「は、はい!分かりました!」


 結論から言うと流琉の作ってくれた粥はものっそい美味かった。

 多分色々と気遣いしてくれたんだろうなあと思う。

 がつがつとおかわりを三度重ねて尚落ち着かない。

 懸案に思考はシフトしている。


「風よ」

「はい~。ここにおりますよ~」


 のほほんとした、穏やかな声が俺を落ち着かせる。滾らせる。


「あれらを、どうしたもんかね」


 実際危険物だ。全く華琳ってば容赦ない。武勲だけは得といて後始末はこっちまかせとか。

 いや、そこに何ら非難する余地はないんだけんども。むしろあれらを秘匿された時の方が怖いわ。


「そですね。まあ、太平要術の書。そしてその遣い手が掌中に来たのです。生殺与奪は二郎さんのお心一つですね~。

 実際あの姉妹が黄巾賊の首魁だと把握しているのは風たちの他には曹家の幹部くらいでしょう。

 実際、暴徒を率いていたのは波才。妖術も彼の手妻ということにすれば、彼女らを助命することは不可能ではないかと~。

 黄巾賊は未だ万単位で各地に散らばっておりますし、彼女らをその鎮圧に使うのもまあ、ありでしょう」


 くふ、と思わせぶりに風は笑いかけてくる。


「それに太平要術の書です。まあ、怪しげな妖術書ですが、所詮力は力。それに取り込まれなければいいのです。

 一介の芸人ですらそれを扱えたのです。二郎さんが仮にその手にすれば、一助どころではないかと思いますが。

 上手く扱えば、かの万夫不当すら打ち倒せるかもしれませんね~」


にこやかに、軽やかにそんなことを言ってくる。


「……俺に使いこなせるものかね」


「さあ?ただ、試してみる価値はあるかと~。幸い、その道の権威の華佗さんがいらっしゃいます。

 なにかあったならば彼がなんとかしてくれますよ、きっと」


 マジか。


「なんと。凡人たる俺が恋に打ち勝っちゃったりするのか。そんなことができるのか……」


「ええ、二郎さんが望むのであればそれはもたらされますよ」


 にんまりと笑みを深くして風が囁く。

 ってね。


「ないから。そんな面倒くせえことしねえって」


 何で俺がわざわざ乱の首魁たる三姉妹をかくまったり、妖術書を手に入れてあれやこれやしたりせんといかんのだ。


「あらら~。目の前の力をみすみす手放されると?」


「おうよ。別にそんなもん必要でもないしな。三姉妹は法に則って処断するし、胡散臭い書物は華佗に任せる。

 もともとそれが目的だったろ。それを捻じ曲げていいことなんてねえさ」


 黄巾賊百万人を扇動したアイドルグループとか、あの恋を圧倒するかもしれないくらいの手妻とか、俺の手に余るね。余しちゃうね。


「そんなもんに頼らんでいいように俺たちは頑張ってきたのさ。

そりゃあ、思惑からは外れたこともあるけどそりゃしょうがねえよ」


 短く持ってコツコツ当てていくのが、俺の生き様というやつさ。面白味なんていらねえよ。

 安全第一、なのである。


◆◆◆


 ぼりぼり、と頭を掻いてから紀霊は大きく欠伸をする。

 恐らくこれから二度寝をするのであろう。戦後処理をする気はさらさらないようだ。

 もっとも、彼の責務はたったいま果たされた。それはこれ以上ないほどに正道を往く。


「まあ、そうなるとは思っていましたが」


 程立は誰となく呟く。

 これ見よがしに煽ってみたのは面白半分である。無論それに乗せられたならば全力でそれを補佐したのではあるが。

 軍師とは選択肢を主に提示し、選ばれた道の障害を除くのが役目である。

 その道の正邪善悪なぞ関係ない。道を説くのなぞは腐れ儒者に任せておけばいい。

 主の勝利こそがその使命。勝てば官軍とはよく言ったものである。


 ……いささか程立はそれが徹底され過ぎている節はあるが。


「中華の安寧。それが命題なれば風は其れに全力で挑むまでなのですよ」


 なに、袁家は隆盛、配下には勇将能吏。

 抱える財貨は果てしなく、育む兵は中華有数。


 それでも程立は慢心しない。勝ち易きを創ることこそが、楽勝こそが主に与えられた命題なれば。


「稟ちゃんとも相談しないといけないですね~」


 黄巾の乱は治まった。だがほどなく中華に激震は走るだろう。

 それはちょっと目端の利く者であれば予想している。予感している。


 黄巾の乱。


 その首魁たる張三姉妹が捕縛されて間もなく中華は大きく揺らぐことになる。


 今上帝、劉宏、崩御。


 諡号を霊帝とされる。



決着の章これにて。

続きはしばしお待ちくだしあ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ