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真・恋姫無双【凡将伝】  作者: 一ノ瀬
黄巾編 決着の章
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潜入

「しかし、あっけなかったなあ。ほんとにアレに禁軍や董家軍がやられたのかいな」


 ぼそりと呟いた俺の声に風はくふ、と笑う。


「ええ、そうだと思いますよ?いきなりあの軍勢の相手をするのは流石に困難なのではないかと~。

 今回は……事前に情報をもらってましたから。賈駆さんには感謝ですね。

 それに、僵尸キョンシーのみであったのも大きかったですね。神出鬼没の幻影兵に、並の損傷では 倒れない僵尸。

 初見で当たれば潰走は間違いなしかと~」


 そりゃあ、士気を保つのも難しいわな。言われてみればそらそうだ、と。

 ふむ。幻影兵が出なかったのはラッキーだったってことか。


「にしてもまあ、よくも桃の棍とか糯米もちごめとか準備してたな」


 あ、大地に敷き詰められたもち米は戦後に母流龍九商会スタッフが有効活用しました(意味深)。

 まあ、ほっといても鳥獣に食われるだけだしね!詳しくは知らんけど!


「そもそも黄巾が邪法を扱うかもしれないというのは華佗さんから聞いていましたし。そうなればそれに備えるのが軍師の勤めというものです。

 彼を知り己を知れば百戦危うからず。とは申しますが知るだけではいけないのですよね。

 それをどう活かし、動くかが重要なのです」


 孫子に無数の注釈書があるのはだからなのです、とふにゃりと笑う。


「そういう意味では曹操殿の注釈書は白眉ですね……と。

 話が逸れてしまいました~。

 李典さんの工兵隊に攻城兵器を備えているのもそのためでしょ?

 備えあれば嬉しいな、とは常日頃二郎さんのおっしゃることですし。

 まあ、その分維持費はかかりますが……」


 はん。


「金で勝利が買えるなら安いものさ。これ以上に活きた金の使い道はない」


 俺の言葉にくふ、と風は笑みをこぼす。


「お仕えする方が二郎さんでよかったですよ~」

「や、俺こそ風がいてくれてよかったさね」


 メイン軍師――いや、他に軍師いないけど――が風でよかったなと思う今日この頃いかがお過ごしでしょうか。

 俺は元気です。

 空はこんなにも青くて、風も爽快。ぽくり、ぽくりと馬の歩みにがらがらと馬車が揺れる。

 荷を満載した馬車を揺らしながらのんびりと。


「そろそろですかねえ」


 風はそう言って黄巾を身に付ける。うん、美少女は何をやっても美人さんだなあと思うのである。

 俺はまあ、あれだ。適当に身に纏う。


「うし。まあ頼むわ」

「承りましたのです~。それではよろしくお願いしますね~」


 風のその言葉に頷く間もなく、俺たちは黄巾賊に囲まれていたのである。

 うし、釣れたぜ。

 そして凄んでやろう。こういうのは最初が肝心だしね。


「あ?お前ら何?

 なーに武器とか構えてんの?」


 むくり、と身を起こして三尖刀を軽くしごく。

 は、と下品にうそぶく。


「やんのか、あァ?」


 死ねや、殺すぞとばかりに雑魚どもを睥睨する。今ここで殺してやるとばかりに威圧する。

 実際こいつら皆殺しにしてもいいと思うの。社会の害悪ですよゴミですよ。うむ。それは正義だ。

 そんなことを思う俺の視線を受けた先頭の黄巾賊の男がひ、と手にした棍を取り落す。

 俺と風が操る馬車を取り囲んだのは三十ほどの黄巾賊。なに、これくらい本気を出さずとも瞬殺である。瞬殺である。瞬殺してやりたい。

 今宵の虎徹は血に飢えておるわ。虎徹じゃないけど。昼だけど。


「おやおや、これはどしたのでしょうね~。別に喧嘩を売りに来たのではないのですよ。どなたか、お話できませんかね~」


 ふん、と鼻息一つ荒くして三尖刀を収める。ぎろ、と睨みつける俺の視線に気圧されつつも黄巾賊の男は近づいてくる。おかしなことしようとしたら上半身を砕いてやるぞとばかりに隙なく視線を。


「もう、二郎さん、激しいのは夜だけでいいのですよ。

 ほら、おじさん、怖がらなくていいのです。

 風たちは旅の行商。故あって黄巾に草鞋を預けることになりましたが~」


 ……俺と風が商人に偽装して潜入すると言うのには紆余曲折があった。けして帰らぬ間諜、細作。辛うじて情報を持ち帰ったのは商会の末端である。

 度重なる修羅場、死線を潜ったあいつがぎりぎりまで身を挺して、相棒たる馬を犠牲にしてまで持ち帰った情報には千金の値がある。

 そして持ち帰ったあいつの言葉を聞けば俺はいてもたってもいられなく。単身潜入を決意していたのである。

 それを紀家軍のほぼ全幹部から抗議を受け、風を伴うことになった。星とか流琉とかは納得してなかったみたいだけどね。

 ただ、ある意味これはきっと俺の落とし前になるはずなのだ。なるはずなのである。

 風には「二郎さんがうまいこと潜入できるとは思いませんし、これまでの間諜、細作が潰えた前例を加味すると風がお供するしかないかと。流琉ちゃん、星ちゃん、ここは風にお任せくださいなのですよ」などと押し切られてしまった。のである。


「くふふ、うちの人が、ごめんなさいなのですね」


 結局俺と風が二人で潜入することになったのだ。

 まあ、流しの商人夫婦という設定には思う所もあったのではあるが、俺一人だとどうにもいけないということであるらしい。

 珍しく風がお説教をくれた。要約すると「木乃伊ミイラ取りが木乃伊になる」とのこと。

 まあ、、自信と言うもののない俺であるからして、風の同行については大歓迎したわけである。星ちゃんについては……商人夫婦ならともかく武人夫婦が黄巾に近づくなんて無理がありすぎるということで。


「目録と積荷は確認してくれて構わないのですよ。ほら、二郎さん、どいてくださいな~」


 風の声にのそりと居場所を移す。

 にこやかに黄巾賊の対応をする風に舌を巻く。


「ええ、積荷は米と茶、酒に装飾品ですね~。いずれも一級品と言っていいですよ?

 ほら、この髪飾りなどお兄さんのいい人には喜ばれますよ~」


 安物、とは言えない。持ち込んだ装飾品はいずれも一級。ことによったら国宝レベルである。

 つまり、黄巾の最奥には女がいるのではないかという――。


「おう、こりゃいいや、てんほーちゃんも喜んでくれるか!」


「くふ、広がる天のような方にはこちらが、広がる大地のような方にはこちら、そこに集まる人を愛でる方にはこちらですかねー。

 ああ、おひとり様一点限りですよ?それ以上は、流石に商売に支障をきたしますしねー」


 次々と用意していた装飾品を黄巾の下衆どもに渡していく。うう、分かっていても、実にもったいねえ。


「はい、というわけで風達はそれなりの待遇を求めるのですよ。きっと風達を優遇するといいことありますよ?」


 まさに悪魔のささやき。利益供与そのもの。うむ、紀家の本懐であるな!


「ああ、風達を始末してこの積荷を総取りとか考えてる貴方、残念でした。風にはまるっとお見通しなのですよ。

 二郎さん、お願いしますね~」


 あらほらさっさー。


「悪、即、斬……!脳漿を!ぶちまけろ!」


 一撃でその頭部を喪失した身体を蹴っ飛ばしてみたらじゃらりと銅銭やら銀子が零れ落ちる。


「さて、次は、誰だ?悪い子はいねが?」


 ぎろりと周りの奴らを睥睨する。

 うん、大丈夫みたい。

 うん。臭い。小便アンモニア臭くなってしまった。


 そうして、俺たちは黄巾の本拠に潜り込んだのだ。


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