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真・恋姫無双【凡将伝】  作者: 一ノ瀬
黄巾編 決着の章
209/350

ただ才のみ是れ挙げよ

「久しいわね、二郎」

「ん、華琳も元気そうで何よりだ」


 如南に美羽様を残し、再び俺たちは黄巾討伐に向かう。

 袁胤殿の謀反を鎮圧し、事後処理をしている間にもどんどん事態は進展していった。

 まあ、各地で巻き起こった乱がどんどんと鎮圧されていっているのであるが。

 目下のところ功ありと世に名高いのは禁軍を率いる朱儁が筆頭。続いて圧倒的な機動力の馬騰さん、白馬義従は伊達じゃない白蓮、万夫不当を率いる月ちゃん、そして目の前の華琳となる。

 華琳は地盤固めに主眼を置いてるみたいだからな。領内からの評判は鰻登りだ。……地味に義勇軍たる劉備の名が挙がるのが俺としては気に食わんがね。

 全く。


「まあまあ、といったところね。二郎からは素敵な贈り物も頂いたし、私は満足してるわよ?」

「……まだ一緒に行動してると思ってたんだけどな」


 劉備一行のことである。官軍に従わねば糧食を得られない彼らの身。どうせ三国志の覇者たる華琳のとこに身を寄せるであろうという俺の一手。

 平たい話、劉備一行の人材紹介の手紙を送ったのさね。

 人材コレクターたる華琳ならだれか一人くらいはその毒牙にかけててもおかしくないと思っていたんだけどな。むしろ期待していたまである。


「ふふ、急いてはことをし損じるわ。まだその時ではない。そう思ったまでよ」

「そうかい」


 くすり、と華琳が軽やかに笑う。


「あらあら、これでも感謝してるのよ。どうせ二郎が私のところに行くように示唆したのでしょう?

 ええ、素晴らしい人材を見たわ。そう、そうね。

 関羽。あのはいいわ。あれは私の下でこそ光り輝くわね。

 原石であの輝き。一体どう化けるのかと思うだけでたまらないわ」


 いっそ淫蕩と言っていい恍惚とした表情で華琳は呟く。だったらさっさと寝取ってほしいものではあるのだが。


「ま、長期戦だって嫌いじゃないわ。もう真名を交換したもの。いずれは私のものになるでしょうよ」

「相変わらず、すごい自信だなあ」


 流石華琳である。このメンタルは見習えないからリスペクトに留めとくことにする。


「なによ。当然でしょ。私を誰だと思っているのかしら?」


 フフン、と薄い胸を張ってふんぞり返る。いや、大したものだよ。ほんとに。


「いやいや、それでこそ華琳だよ。凡人たるこの身には眩しいったりゃありゃしないね」

「光輝に憧れるのは至極当然ね。

 二郎、貴方ならばいつでも私は歓迎するわよ」


 お決まりのヘッドハンティングのお言葉に苦笑で返す。


「まあ、関羽にご執心するであろうというのは分かっていたんだがな。意外と他の人材はお目に適わなかったのか?」


 俺の言葉に暫し考えてきっぱりと言う。


「ええ、そうね。あの集団で見るべき人材は関羽のみ、ね」


 今のところは、だけれどもと捕捉をしながら華琳は茶を喫する。

 白魚のような指先が軽やかに宙を舞う。


「そうね、私が言う前に二郎の人物評でも聞かせてもらおうかしら」


 たまにはいいわよね、と華琳が目線で促してくる。


「いいけど大したこと言えんぜ?」


 詩才の欠片もないこの身である。文才の塊たる華琳に向かって存念をとか、プレッシャー半端ないって。

 と、構えても別に気の利いたこと言えるわけでもないしね。思いついたとこを、だらだらと述べるとしようか。


「まず劉備。ありゃなんだろうかね。

 うーん、天性の人たらしだな。理屈じゃない。常人なら魂抜かれるんじゃないかねえ」


 俺も危なかったというのは内緒である。


「次に関羽……は省略して張飛。まあ、武の塊だな。俺なんて相対あいたいしたら数合持たずに殺されそうだ」


 俺の死亡フラグ最有力候補でもある。演義的な意味で、ね。


「諸葛亮はなんかもう笑えるくらいに天才。一を聞いたら八か九は知るんじゃねーの?鳳統も似たようなもんか」


 自分より遥かに頭のいい子らを語る言葉を持っていません。この時代でもトップの人材だし。


「最後にそれをまとめるご主人様、か。あれは夷狄いてきの類だな。礼も儀も知らんがそれだけに此方の発想の枠を超える可能性があるな」


 以上だよ、とばかりに手をひらひらとする。


「二郎らしい評ね。二郎なら誰がほしいのかしら」


 くすくすと笑いながら更にそんなことを聞いてくる。


「いや、いらんよ。俺ごときには手に余る。

 というか異常なほどの結びつきの強さ。それ華琳も見たろう?

 だから前提としても、ありえんだろうよ」


 たはは、あるいはとほほと苦笑する。


「そうね、関羽以外で見るべきは諸葛亮と鳳統でしょうね。天稟は確かに凄い。でも天下国家を語るには十年早いわね。

 今のまま蒙を啓かないのであれば大樹となるべきその芽は根腐れを起こすでしょうね」


 あらま。てっきり二人とも抱え込みたいとか言うと思ったんだけど。


「無論私の旗下にあれば大樹は天を衝くことになるでしょうね。実際末恐ろしいとは思うのだけれども」


 今は即戦力が欲しいのよね、と華琳はくすりと笑う。


「まあ、劉備にしたって理想を語ればいいというものではないわ。その理想にしたってね。

 いえ、これ以上はやめておきましょう」


 何とも手厳しい評である。ふう、とため息を一つ吐いてやれやれ、と。


「ああ、北郷一刀と言ったわね。アレ、天の御使いでしょう?」


 そんな爆弾を事もなげに俺に投げつけてきやがった。


「二郎が殊更に警戒するのも分かるわね。

 そりゃあ、そうよね。そんな胡散臭いもの、どう動くか読めないもの。

 神仙でなく夷と言ったのは誉めてあげるわ。言い得て妙ね。

 ああ、本当に誉めてるのよ?」


 くすくすと可笑しげに笑う。


「まあ、今のところ取り立ててどうということはないのではなくって?

 そりゃ、天の知識とか興味はあるけどね。それに、何か不思議な魅力はあったわね。 

 神通力というものかしらね」

「華琳……」

「ああ、勘違いしないでね。本当に今のところ劉備たちに関しては興味がないの。関羽以外では。

 それどころじゃないんだもの。

 役立たずの士大夫どもが右往左往している間にこちらは兵を自在に動かせるのだもの。

 こんな、飛躍の機会なんてないわよ。

 私はね、口舌の徒が大っ嫌いなの。口ばかり動かしてその身体を動かそうとしない者どもがね。

 だから、黄巾の乱。大いに結構よ。精々私の踏み台にしてあげるわ」


 覇気、というのはこういうことを言うのだろうか。何進とも麗羽様とも、劉備とも違うその気迫に俺はなんとなく安心する。

 天の御使いがどうであれ、黄巾がどうであれ、華琳は華琳なんだと。


「ま、とりあえずは共闘、よろしくな」

「ええ、お手並み拝見させてもらうわ」

「いやいや、楽させてくれよ。こっちゃ色々あって大変だったんだから」

「そうね。そのあたりの話も詳しく聞かせてもらおうかしら。今日は此方に泊まっていきなさいな。

 ご馳走するわよ?」

「どうせ食材は持ってこいとか言うのだろう?」

「そうね、察しのいいこと。そろそろ届くかしら?

 なにせ二郎が此方に逗留するからそれなりの食材を寄越せと言ってやったから」

「お前な……」


 マジかよ。マジだった。


 まあ、それに当たって、使者に立った親衛隊の幼女が流琉と生き別れた親友だったり、それで一悶着あったりしたのだがそれはまた別のお話である。

 流石華琳の手料理はおいしかったです。まる。


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