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真・恋姫無双【凡将伝】  作者: 一ノ瀬
黄巾編 決着の章
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幼女同盟:午睡とおねだり

「の、のう。シャオよ。ほんとうに噛んだりせんかや……?」


「あははー。

 そんなことしないよー。ほら、こうだもん!」


 ぼふ、と毛皮の塊に身を投げ出して孫尚香は笑う。

 毛皮は白く、高貴。

 孫家の守護獣たる白虎である。

 孫尚香の突撃に何の反応もせずに丸く惰眠を貪っているその図は、まるで猫のよう。

 ……大きさ以外は、であるが。


「むむむ、流琉よ、どう思うかや?」


「ええと、とってもお利口さんっぽいですけどね。

 私は毛皮よりあの肉球をぐに、としてみたいです。ええ、ぐに、と。

 あ、でも。何かあれば美羽様には傷一つ付けさせません!

 まあ、シャオ様があそこまでくつろいでいるから大丈夫かなとは思いますけど」


 くすりと笑いながらも典韋はその小さな体躯に闘気を巡らせる。何があっても親友たる二人を護れるように。

 実際、彼女の戦働きは突出していたのである。

 単身黄巾の将に突撃し、討ち取るという手柄をすら挙げている。

 如南を攻めた総大将の袁胤を討ち取った趙雲。或いは如南の危機をこれ以上ないタイミングで救った孫尚香ほど噂にはならずとも。

 戦場を同じくしたつわものたちはその勇姿を忘れることはないであろう。


「ふむ……」


 恐る恐る、という風に近づき手を伸ばす袁術。


 その瞬間、ぐわ、と白虎は口を大きく開ける。


「ぴい!」


「こら、驚かせたら駄目でしょ!」


 ふが、ともひとつ大あくびをかまし、われ関せずとばかりに再び丸くなる。


「ごめんね、美羽。悪気は多分なかったと思うの」


 がくがくと全身を震わせる袁術に笑いかける。

 その姿に膝をプルプルとしながらも袁術は鷹揚に謝罪を受け入れる。


「わあ、もふもふだ……」


 それを尻目に典韋は白虎の腹に顔を押し付け毛皮の感触を満喫する。


「おお、流琉よ、そこは妾も狙っておったのじゃ。とー」


 ぽふ、と袁術は先ほどまでの恐れを毛ほども感じさせずに飛び込む。

 そして毛皮の感触を満喫し、唸る。


「むむむ、これはいかん。いかんぞ。シャオよ。これはいかん。離れられんではないか」


「でしょでしょー?もう、最高だよね!」


 屈託のない笑顔で孫尚香は笑う。


「だからさ、今日はここでお昼寝しよう!最高だよ!」


 ……一刻後、幼女たちを探しに来た女官が目にしたものは、白虎の毛皮に顔を埋めて眠る三人であった。


◆◆◆


「じゃあ他に上奏なければ散会とするが」


 如南でここまで足止め食らうとは思っていませんでした。

 というか、危うく美羽様の身柄を奪われかけた二郎です。

 取りあえずは如南防衛線に参加してくれた勇志への功労金を手配し、援軍たる孫家にもそれなりの褒賞を。


「すんまへん、よろしいか?」


 挙手するのは真桜。袁家技術部のトップに登り詰めてしまった俊才である。

 鷹揚に発言を許すと。


「これからも袁術様は如南にいはるやろ?

 そこで此度みたいな突発的遭遇戦にも完全対応した防衛計画、そしてそれを支える絡繰り防衛都市計画をお持ちしましたで!

 これが成れば千年は如南は安泰。難攻不落の城塞都市になりますわ!

 うちの、今の全てを振り絞った傑作やで!」


 ふむ。


「却下」


「なんでやー!」


 いや、事前に提出されてた君の計画書がすごすぎるからでしょが。


「あのなあ、三重の空堀に城壁の二重化、更に投石器と弩の設置に矢倉の強化と備蓄とかやりすぎというか、金掛り過ぎだろ」


「えー、お金なら余ってるんやろ?ええやん、ここはどーんと。

 ほら、二郎はんのちょっといいとこ、見てみたい!」


 そーれイッキイッキ!……ってアホか!


「見せるか!つか、駄目に決まってるだろ!」


 そもそも如南に袁家、いやさ美羽様が赴任したのは実務のため。

 独立採算できちんと如南の収支をやらんといかんのよ。軍備ってな、設置で終わらないのよ。ランニングコストというものが発生するのよ。

 がみがみと真桜にお説教を重ねる俺に美羽様が遠慮がちに声をかけてくる。


「のお、二郎や。黄巾だけではなくいつ叛徒が来るか分からんじゃろ?

 妾はこの如南にいつまでも、そうじゃ。いつまでもおれるわけではないというのはわかっとるのじゃ。

 じゃから、そんなに城壁やらを強化できんというのも分かるのじゃ。妾がいるうちに強化は終わらんじゃろし。

 じゃがの、それは悪いことかや?ここ如南の民と、妾が次に赴任する荊州の民に違いはあるかや?

 のう、二郎よ。思うのじゃ。妾がおるこの時こそこの如南の民を護るための城壁を築くべきではないのか、と。

 そも、あの時に妾を差し出せば如南の防壁とて荒れんかったのじゃ。

 何より、ここ如南の民に妾は真名を授けたぞ?

 じゃから、の?如南に安寧をと思うのじゃ」


 たどたどしくも一生懸命に訴えかける美羽様の言に不覚にも目頭が熱くなる。ちなみに控えていた七乃に至っては滂沱である。わかりみ。


「ええと、そうですね。分かりました。分かりましたよ。悪いようにはしません」


 まあ、なんだかんだ言って結局、俺も美羽様には甘いのだな、と。


「ほんとかや!じろう!ありがとうなのじゃ!」


 まあ、この笑顔を見れただけでも、よしとしよう。ただし。


「真桜よ。来週には援軍が来る。それまでにお前と工兵隊がいなくても実現可能な防衛設備の計画書を出せよ。

 初期投資に関してはどんだけ費用が嵩んでもいい。が、維持費は如南単体で回るように計算しろよ」


 その言葉に真桜が目を白黒させる。

 うむ、こいつここまで他人事で見守っていたな?


「ええ!うち、そないな計算とか苦手や!」


「沙和がいるから頼れ。それで駄目ならまあ、仕方ないと諦めろ」


「あ、あほー!二郎はんのいけず!おたんこなす!見とれや!キャン言わしたるくらいの完璧な計画作ったるさかいにな!

 二郎はんの!女たらし!甲斐性なし!」


 ちょっと待て!何かどさくさに紛れて違うこと言ってないか!

 むきー!と真桜を追おうとした俺の袖がちょん、と引かれる。


「のう、二郎よ」


「はあ、なんでしょか」


「妾の我儘を聞き入れてくれて、かたじけないのじゃ。ありがとうなのじゃ。

 じゃから、の?いいこにするから、の?の?」


 ちょっと不安げに見上げてくる美羽様を抱きかかえてわしゃわしゃと撫でまくる。


「いや、俺こそ忠勤しまくりますし。お見捨てなきよう」


 満面の笑みこそやはり美羽様には似つかわしいと俺は思うのだ。

 とは言え、やることやらんとなあ。


 なあ、七乃?

 ちら、と見たら満面の笑みで手まで振ってきた。

 こいつぅ!


※この後、ふつうにあれこれ有耶無耶にされつつめちゃくちゃ乱れました

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