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真・恋姫無双【凡将伝】  作者: 一ノ瀬
黄巾編 決着の章
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如南に咲く紅き幼花

「紀家軍より四千を如南防衛に充てる。これは決定である」


 美羽様の身柄をピンポイントで奪取しようとした袁胤殿の着眼点は悪くなかった。いや、これ以上ないものでさえあったかもしれない。実際やばかったしね。紙一重もいいとこであった。

 薄氷の勝利、実際こりごりである。楽勝こそが我が望みよ。

 故に如南の防備を強化する。当然だよね。


「主将は雷薄。張郃は補佐せよ」


 紀家の予備戦力を動員して如南を守備させる。雷薄も張郃も如南に馴染みもあるし問題ない。

 もっとも、クーデター起こしそうな不穏分子はもういないけどね。

 ちなみに袁胤殿は首級を確認したものの、その参謀たる許攸は生死不明。まあ、乱戦の中で儚くなったというのが公式見解だ。まあ、その行方に興味がないではないが、リソースはいつだって限られている。


 ちなみに、援軍に来た孫家の総大将たるシャオはこのまま如南に滞在することになった。

 無論人質、という対外的な名目もある。以前もそうだったしね。だが、今回はシャオの強い要望によるところが大きかった。個人的には今回の功績でもう、孫家の首に鎖は不要と考えていたのだが。

 まあ、穏が言っていたように、美羽様とシャオがいる如南に攻め寄せる勢力があったならば、袁家と孫家が総力をもって殲滅すること請け合いである。


 ……ああ、ぺんぺん草すら生えないほどに蹂躙してやろうよ。係累までも根絶やしにしてやるさ。


「主よ、お呼びと言うことだが」


 そして星である。此度の乱において最も功績のあった、星である。


「うん、褒美、ほしいものある?」


 は?とばかりに小首を傾げる星。やだ、可愛い。


「主よ、意味が分からんのだが」


「いや、此度の如南防衛戦において星は功績を挙げたしね。信賞必罰これ武家の倣いでしょでしょ。

 ほんでもって星は美羽様を救ったんだ。報いないといけないっしょ」


「ふむ。ならば、主の寵愛を頂きたい、と言いたいところだが。

 それは過分なほどに頂いておるし、な。 

 主よ、そうだな。馬を頂きたい。烈風を、と言いたいところだがな。流石にそれは某としても主張しかねる。

 ほら、いたろう。悍馬が。汗血馬が」


ニヤリ、と笑む星である。


「流星か。でもあれ、相当な暴れ馬だぞ?

 流琉だって手を焼いたくらいだし」


 袁家の馬は大体白蓮のとこが供給元なんだが、流星については別ルートで入手した。いやまあ、母流龍九商会なんだけどね。波斯ペルシャからの、まさに汗血馬ってやつだ。

 褐色の馬体、額に白い星の紋様。故に流星と号される。これまで乗りこなせる者はいなかったから死蔵に近かったのだが。


「頼んだよ、星」


 俺の言葉に、星は珍しく頬を上気させて頷いた。

 その仕草は楚々としており、痺れた。

 可憐なその姿に、思う。改めて、思う。

 彼女が忠誠を、まごころをくれていることのありがたさを。

 ありがたい、というのは有り難い、ということ。その重さを。


◆◆◆


「二郎!二郎!」


 えへへと笑いながらシャオが俺に抱きついてくる。よしよしと撫でくり、わしゃわしゃと撫でくり回す。


「あのね、頑張ったよ!シャオ、頑張ったんだよ?」


 実際、シャオ……と言うか孫家の援軍がなければ悲惨な事態になっていたろう。感謝感激雨霰である。

 いやさ、孫家については此方と敵対する可能性すらあったのだからして。


「ああ、シャオ。ありがとな」


 ぎゅ、と抱きしめてやると、えへへ、と幸せそうに笑ってくれる。


「シャオね、頑張ったよ。頑張ったんだよ?美羽のためにも、二郎のためにも。シャオが頑張ったんだから!」


「そうだな、その通りだな。助かったよ」


「えへへ、じゃあね、二郎。ご褒美が欲しいな。いいでしょ?」


 まあ、否やはない。孫家の助勢がなくばこの如南は焦土と化していただろし、美羽様だってその身柄を奪われていたであろう。


「えへ。二郎。だからね。その、ね。抱いて?」


 何を、お可愛いことを言ってるのだこの幼女は。と思って。

 ぎゅう、と抱きしめてやる。


「ふぁ、二郎……。好き……。

 って違う!違うの!違うんだってば!」


 じたばたと腕の中で何か言ってるけど、聞く耳などないのさ。

 わしゃわしゃ、とかき混ぜてやるが、何か不満そうである。


「もう!二郎!二郎ってば!」


「はいよ」


 何故かぷんすかと怒ってるシャオを適当に宥める。なに、幼女の機嫌をとるなぞ、容易いことさ……。ってそれ、どうなんだ。

 それでも、むーと少しむくれるシャオが逆に可愛かったりするのである。


「もう、冗談じゃないの。冗談じゃないのよ。

 孫家三の姫のわたしは二郎に抱かれないといけないの!抱かれたいの!誤魔化さないで、もう!」


 いっそぷんすかと怒りながら、俺に迫ってくる。

 うむ。うむ?つまりそういう意味で、か。


「とは言っても、なあ」


 流石に幼すぎだろうて。

 確かにまあ、俺とシャオが結びつくと言うのは悪くない。悪くないんだが、流石に、なあ。

 そんな俺の表情を見て、シャオは笑う。

 無邪気な少女の笑みではない。艶然とした、年齢に相応しくない笑み。まるで、小悪魔。


「なによ。だって二郎。二郎ってば。流琉は抱けて、私を抱けないってことはないよね?」


「な、に!」


 何故知ってるんでぃすか!


「分かるよ。分かるよぉ。女だもん。

 女だもん、ね?」


 これまでになく。艶っぽく笑うシャオ。


「私のこと、大事に思ってくれてるっていうのは分かるよ。でも。でもね。

 蹂躙してほしいな、とも思うの」


 くす、と。

 妖艶な笑みに俺はくらり、と。ぐらり、と。

 いつの間にか俺の背後に廻り込んでいた穏が耳元で囁く


「くす、大丈夫ですよ?二郎さんが懸念されてること。その獣欲が溢れ出た時は私が引き受けますし。

 それに、ご要望あらば、如何様にもお引き受けできますよ?」


「だからね、二郎?女に恥をかかせるものではないわよ?」


 艶然としたシャオの笑みに戦慄を覚え、もはや孫家をないがしろにできないようになってしまったのだ。

 いや。もとからないがしろにしようとは思ってなかったけどね。

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