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真・恋姫無双【凡将伝】  作者: 一ノ瀬
黄巾編 決起の章
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邂逅

 俺の言葉。任せた、というそれにも眠そうな表情を動かさずに、ふわふわとしたはちみつ色をした髪を悠然とかきあげて。

 風はのんびりと口を開く。


「では二郎さんに全権委譲されたこの私めが裁定を下しますね~。

 義勇兵のみなさんには官庫より兵糧を支給します」


 マジで?

 まあ、二千程度、どうということないし。ないし。

 風がそう判断するならば俺は追認するだけである。

 精々重々しく頷こう。ふむ、そうだなとか言って!


 くふ、と笑い声が聞こえた気がした。


「ただし官軍の指揮下にある時に限ります~。

 まあ、口ではなんと言っても、です。いつ黄色い布を身に纏うか分かったものではないですし。

 信頼と実績というのは一朝一夕にはできないものというのは世の真実。積み重ねてくださいな。

 あ、それと募兵の類は袁家領内では一切認めませんので~」


 いっそ子守唄でも歌っているかのような穏やかな風の声に劉備たちは絶句する。


「募兵できないって、そうしたら……」

「認めませんので~」


 ふわりとした笑みで諸葛亮の反駁を封じる。

 流石俺のメイン軍師は格が違った。よくわからんけど。


「決まりだな。お疲れちゃん。お帰りはあちらからだぜ」


 便乗する俺のドヤ顔でも拝みやがれ。ってなもんだ三度笠。当たり前だの焼き菓子だぜい。


「あの、俺にちょっとだけ時間もらえるかな」


 口を開くのは北郷君。

 まあ、彼には同情するべきとこも大きいよね。いきなり三国志(謎、もしくは仮)な世界に巻き込まれて。

 風体を見るに、これ制服でしょ。多分登校だか下校だかの最中にここに来ちゃったんだろうねえ。俺にも多少の里心もあるし、ある程度は便宜だって図ってやらんこともない。


「趙雲さん、俺たちと一緒に来ないか?」


 は?

 はあ?

 はぁぁぁあああ!?


 北郷一刀は絶句する俺に構うことなく言葉を続ける。


「みんなが笑って暮らせる、そんな世にしたい。桃香の理想に趙雲さんも共感してくれたよね。

 きっと。俺たちと一緒に来るべきなんだと思う。

 いや、来てほしいな。君の力が必要なんだ」


 おい。

 おいコラ。

 てめえ……今なんつったコラ。


 ……よし殺そう。


 うん、皆殺し確定。こんな下らんことで悩む必要もなくなるし。

 ゆら、と全身に力を込めて立ち上がろうとする直前に笑い声が響く。


「はーっはっは!

 いや、こんなにも情熱的に口説かれるとは思ってもいなかったな。

 これも全てそれがしが美し過ぎるのが罪なのだろうな……」


 艶然と微笑み、言の葉を紡ぐ。

 動き出す寸前であった俺にその身を寄せ、首に手を回してきて……。


 ちゅ。


「まあ、こういうことだ。察してくれるとありがたい」


 合わさった唇は刹那。



 むか。


 ぐい、と星の柳腰を引き寄せる。

 え?とこちらを見やる星の唇に俺のそれを合わせる。

 そしてここからは大人の時間だ。


「む?……んっ。

 ん!」


 星の口内を俺の舌が蹂躙する。

 唇を甘噛みし、ちろちろと舐めあげる。

 歯茎を舐めあげ、唾液を啜り、流し込む。

 舌を吸い上げ、噛み、ねぶりあげる。


「ん……ん!」


 くぐもった声を上げる生意気な咥内を更に蹂躙する。

 びく、と震える身体を抱きしめる。


 つ、と離れた口唇に唾液の橋がかかる。


 ぽわ、とした星を胸に抱えて言うのだ。


「俺の女に手を出すな。次はないぞ」


 はわ、と上気する幼女。うわーと赤面するおっぱい。

 そして絶句し赤面する北郷一刀。

 なんだ童貞か?


「お引き取り願いたいんだがね。それとも馬に蹴られるかね?」


 室内に漂うなんとも言えない空気を無視して俺は言い放つ。


「お呼びじゃあ、ねえのさ」


◆◆◆


 いまだに、だ。ぽや、とした星を抱きしめつつ一気に人口密度の減った室内を睥睨する。

 俺、まだ結構怒ってるのよ。


「さて、お見事でしたね~」

「んなこたねえよ」


 事実、失点ばかりが目につくっての。


「卑下されることはありませんよ。

 諸葛亮、劉備。いや、世が世なら史書に名が載るやもしれないと思います~」


 ああ、そうだよ。だからめんどくさいんだよ。


「それはいい。後世の史家とかどうでもいい。

 北郷一刀とかはもっとどうでもいい。

 あれが何か。風は分かるか」

「いえ、とんと見当もつきませんねえ」


 ほんとか?

 まあいい。


「あの無礼。あれはこの中華の者じゃあない。東夷だ。

 よく二人ともこらえてくれた。あれは中華の儀礼を知らぬ蛮人。故に礼を知らぬ」

「と、おっしゃいますと?」


 ぺろ、と唇に湿り気を与える。

 こっからが正念場だ。


「姓も名も二文字。字も真名もないんだとさ。だからあれは異郷の人物。

 不思議に感じるも当然。あれの本質は東夷。

 倭の民だろうさ」


 ふむ、と風は頷く。


「地理志、ですね~」


 後漢書地理志にある漢委奴国王。

 中学生でも知っていることである。


「そうだ。違って当然。あいつは属国たる委から流れてきたのだろうさ。

 帰る術のない哀れな旅人なのだろうさ」


 それでいい。それがいい。

 あながち間違ってもいないはずだ。


「では風はこれにて失礼するのですよ。

 訓練そのほかはお任せという驚きの有能さをご照覧してくださいねー」

 

 くふ、と笑む風がどれだけありがたいか。

 ありがたや、ありがたや。


 くた、と。

 ぽてり、と肩に心地いい重みを感じる。


 まあ、星の重みなんだが。

 思わせぶりにこちらを見る。


 そんな星に言葉をかける。


「星、お前、あいつらを助けたろ」


はい。中々に気の合う連中ではあったのだ。

 あそこで命脈を断つには惜しいだろう、と」


 星の横槍がなければ俺は多分あいつらの殲滅を命じてた。

 例えそれがどれだけ血塗られていようとも。


「そうかい」

「そうだ。だがな、主よ」


 ぴと、と寄り添い潤んだ瞳で俺を見てくる。


「それがしは、主の女、なのだろう?

 まさかに、そのまま放置、という訳ではあるまいな?」


 にや、と笑む星はいたずらっぽく、清楚で、どこか不安に揺れていて。


「北郷一刀」


 びく、と体を強張らせる星。


「あいつとどんな話をしたかは聞かない。

 あいつに何を吹き込まれたかも聞かない」


 ぎゅ、と星を抱きしめる。

 ん、と艶めかしく吐息を漏らす星がいとおしい。


「あんな男、忘れさせてやるよ」


 そう言って俺は星を蹂躙するのだ。

 こくり、と小さく頷く星が愛しいのだ。


 ああ、どこぞの馬の骨なんて忘れさせてやる。

 塗り替えてやる。

 染めてやる、俺色に。


 いつになく獰猛な俺の獣欲を星は全て受け止めて。


 幸せそうに笑みを向けてくれるのだ。


◆◆◆


 もぞ。

 隣で寝息を立てる星を起こさないように寝床を抜け出す。


「む。もう朝か、主よ」


 うん。無理でした。


「まだ早いし。寝といた方がいいぜ」


 まあ、その、なんだ。初めてだったのに、かなーり手荒く扱っちゃったからなぁ……。


「なに、この身。どうということもないとも。

 その、だ。気遣いはありがたいのだが」


 身を起こすとご立派なおっぱいが……ああ、隠すなんてもったいない。


「その、主よ。そんなに凝視されると流石に、だな……」


 いつも結構谷間強調したようなきわどい恰好してるのになあ。解せぬ。

 だが、恥ずかしがる星とか、アリだな。これがギャップ萌えと言う奴か。

 これを狙ってやってるんだったら怖いな。


「まあ、減るもんじゃないし、いいじゃん。つか、もっとすごいことしたじゃん」

「そ、それはそうなのだが……」


 やばい可愛いぞ星よ。

 ぎゅ、と抱きしめると大人しく身体を預けてくる。女の子特有の、甘い香りが鼻腔をくすぐる。すてき。

 と、現実逃避うっとりする俺に星がニヤリ、と。


「主よ」

「ん?」

「嬉しかったぞ?妬いてくれて」

「おい」


 さっきまでの可愛い星を返せ!いや、帰ってきて!


「ふふ、だが少し揺れたのは本当だ。何か不思議な人物だったな、北郷という男は」


 むう。


「主よ、そうむくれるでない。私が主を置いてどこかへ行くわけがなかろう」

「と、言われてもな。星なら『気が合う』からというだけで決断してもおかしくないし。

 富貴とか地位とかあんまし興味ないだろ?」


 正直、出ていくと言われて繋ぎとめとく術が思いつかん。

 ……本来劉備陣営だしな。


「ふむ。言われてみればそうかもしらんな。

 だが、一度捧げた槍を易々と引っ込めたりせんし、何より主よ」

「ん?」


 不敵で無敵。それが星だ。

 そんな星が思いもよらぬことを言ってくる。


「今だから言うのだがな、ずっとお慕い申し上げておったのだ」


 え?なんで?なんかそんなイベントあったっけ?


「ずっと、ずっと昔からだ。そう、ずっと昔から、憧れて。

 焦がれていたのだ」


 くすり、と。

 呆気にとられた俺を可笑しげに笑う。


「どゆこと?」


 あれか、阿蘇阿蘇のアレか?いや星に限ってあんな与太話プロパガンダを真に受けて憧れるとかない……はず……。


「随分昔のようにも思えるし、実際昔のことなのだがな。実は主と会ったことがあるのだ」

「え?」


 マジで?


「ふむ。まあ、会ったと言うと語弊があるな。一方的に主を見ていただけ、か」


 閲兵式とかなんかか?あれなら、とは思うのだがそうでもなさそう。

 マジで分からん。


「それがしの二つ名は知っているだろう?」


 そりゃね。


「常山の昇り竜、だろ?」

「左様。そして常山には主も……因縁があろう」


 ……っ!黒山賊か!

 想起されるのは血の海、敗北、そして虚勢。

 だが星の声は優しく響く。


「そう。助けられたのだ、それがしは。それがしの村は。

 ずっとお伝えしたかった。ありがとう、と。

 ずっと憧れていたのだ、袁家の誇る怨将軍に」


 苦いものが肺腑からこみ上げる。


「いや、役目を果たしただけさ。それに後手に回ったあげく。

 あのざま、なのさ。

 ……正直誇れたもんじゃない」


 実際PTSD案件である。

 それを英雄譚に仕立て上げた自分に反吐が出るくらいさ。

 やらんといかんかったとしても、ね。


「それでも、それでもだ、主よ。

 少なくとも救われたのだ。

 救われたと思っているのだ。それは変わらんのだよ。主がどう思おうと、な」


 ……そうか。

 そうか。俺は救ったのか。救えていたのか。そう、思っても、いいのか。


「ありがとう……」

「それはこちらの台詞だぞ?」

「それでも、ありがとう……」


 込み上げる熱いものを必死にこらえる。


「主、改めてよろしくな。この赤心、一点の曇りもない。

 主の敵はこの身が討とう。存分にお使い下され」


 ああ。

 頼りにしてる。頼りにするよ。


「こちらこそ、よろしく。

 頼らせてくれ、星。

 そして、きっと中華一の武将に。

 必ず引き上げてやる」


 ああ、本当に俺には勿体ない人たちばかりだ。

 なんて、俺は幸せ者なんだろうな。


 改めてそう、思った。



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