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真・恋姫無双【凡将伝】  作者: 一ノ瀬
黄巾編 決起の章
186/350

流星の落ちた地で

「かんぱーい!」


 重なる声、重ねられる杯に場はいよいよ盛り上がっていく。

 諸葛亮は全身に漂う疲労感をすら心地よく味わい、心身を焼いていく酒精に脳髄を委ねる。

 既に日は落ち、下弦の月が夜の支配権を高らかに主張している。

 それでも、南皮にほど近いこの街でも喧噪は絶えない。

 そも、日が落ちれば床に就き、日の出と共に起きるのが人として正しい在り方なのではある。

 だが、明かりは落ちずに街を照らす。その背徳が人を高揚させるのであろうか。

 謹厳実直なる関羽ですら酒杯を手に珍味を楽しんでいるのだ。

 なんとも、背徳とは人を惹きつけるのであろうか。


「でもでも、朱里ちゃんと雛里ちゃんが来てくれてよかったよー」

「ひゃい?」


 ……それはこちらが言うべきことである。

 人格高潔にして、勇将、猛将を配下にし、権勢におもねることのない英傑。

 実際伏竜、鳳雛が仕えるに相応しいのだ。

 ……いや、有り体に言えば自分たちは魅了されたのだ。一目で分かった。分かってしまった。

 自分たちはこの方に仕えるために生まれてきたのだ、と。

 なれば我らの智謀を供するは必然、瞭然。


「うむ、人手はあってもそこからどうにもならなかったからな。

 二人のお蔭で我らが離散せず済んだのだ。本当に感謝している」


 酔いもあるのであろう。深々と頭を下げる関羽に苦笑する。

 何せ、詐術――詐欺に近いのだ、彼女らが弄した策――と言うにも及ばないものは。


「いえ、そこまで愛紗さんに褒められたものではありません。本当に、褒められたものではないのです」


 劉備たちが集めた義兵は二千ほど。それを一ヶ月の間食わせるだけの食糧を公孫賛は与えてくれた。

 が、崇高たる劉備の理想がそれしきで達せられるはずもないのである。

 さらには、手にする武具すらなかったのが実際の話である。

 諸葛亮は、悟る。悟った。これは罠だと、枷だと。これを乗り越えずして我らに未来はない、と。

 ならば遠慮などしない。しないのだ。

 流民が主体の義勇軍の総数を水増し……数倍にし、多数の糧食を公孫より得る。

 その一部を対価として軍勢の最低限度の武具を整える。

 ……そこまでですら幾多の苦難があった。まさかに袁家のような利権に座する存在の監査がきちんとしているとは。

 木端役人にすら賄賂が通じないとは。


 たかが兵站の柔軟な運用に我らが忙殺されるなどとは思っておらず、主には待たせてしまったものだ。

 だが、これである程度の行動の自由を勝ち取った。そしてその日の宴席であった。

 日が落ちてからの酒食など本来贅ぜいの極みである。が、それが当然たるこの地では労をねぎらうにはそうするしかない。

 ……予想以上に武官たる関羽と張飛は喜んでくれたのだが。いや、けして開催時刻ではなく用意された料理によるものでもなく、道が拓けた事によるものだと思う。


「ちょっと、酔っちゃったかなあ。うん、酔っちゃった!

 ね、歩こう!歩こ?私たちは、元気だもの!」


 見上げた夜空は満天の星。

 星辰を占ってしまうのはまあ、致し方ないであろう。

 まあ、星辰が世を先導することなど絶えて久しい。

 よほどのことがないと定められた世は動かない。

 そう、あのように大きな星が流れないと……え?


「あ、すごーい!すごい!すごい!

 落ちるよ?落ちる!あっちだ!行こう!愛紗ちゃん、鈴々ちゃん!朱里ちゃん!雛里ちゃん!」


 駆けだす主の行動は実に正しい。


 尾を引いた流星が落ちるは地の果て。しかしその果てに辿りつく。

 窪んだ大地に伏せるは白き衣に身を纏った……天の御使い。


「なんだろう、わたし!胸がどきどき、わくわくする!」


◆◆◆


 そして少女は、少年は、運命と出会うのである。


 そして外史の幕は上がる。

 括目せよ。喝采せよ。祝え、寿ことほげ。

 ようやく、狂った外史は矯正の機会を得るのだ。

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