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はおー来襲者

「久しいわね、二郎」

「うん、俺が陳留行った時ぶりかな」


 くすり、と薄く笑むのは治世の能臣、乱世の奸雄こと曹操。またの名を人材コレクター。三国志の主役の一人である。

 今日は、なんでも麗羽様と旧交を温めに来たらしい。後ろで不機嫌そうな顔して立ってる荀彧ネコミミを随伴として連れて南皮にいらっしゃりやがりました。

 んで、麗羽様がお出ましになるまで俺が饗応役を仰せつかったと。うん、逃げたい。……流石に逃げないけどね。


「ふふ、二郎は相変わらずのようね」


 なにがや。


「まあいいわ。時を無駄にするのも惜しいわね。

 二郎、貴方が来るまで話し相手をしてくれていた子。程立と言ったわね。

 いいからあの子を私に寄越しなさい」


 なんでやねん。

 優雅な笑みが途端に猛禽の色を帯びる。この女、肉食系ってレベルじゃねーぞ!

 知ってたけど、知ってた以上であった。

 しかしなんだ。面倒くさい……。


「そうね、私を相手にしてあの余裕、識見。回りくどいようで洒落た言い回しでね。この私を煙に巻いてくれたのよ。

 欲しいわ。是非、欲しい」


 流石は人材コレクターである。目の付け所には賛辞を惜しまないが、手元の珠玉にギラギラされたら、ねえ。


「あーげーまーせーんー」


 後ろのネコミミも更に不機嫌に、……っていつも不機嫌そうだから大差ないね。


「あら。これは意外な返答ね。あの子は私に仕えるために生まれてきたような子よ?

 喜んで差し出してくれると思っていたのに」


 心から驚いた表情でそんなことを言いやがる。

 これ、本気で言ってるだろうから困る。割とマジで。


「どっからその自信湧いてくるのか。

 これが分からない」

「そうね、貰うのが駄目なら預けてみない?私が直々に鍛えてあげるわよ」


 華琳お前絶対それ返す気ないだろ。俺でも分かるわ、そのくらい。

 移籍金ゼロで超有望な若手をレンタル移籍でなし崩しに強奪とは……きたないさすが華琳きたない。

 だから俺の返事は決まり切っているのだ。


「お断りします」


 当然の帰結である。


「何よそれ。冷たいわね。私と二郎の仲じゃないの」


 どんな仲だ。いやほんと。

 ……ほんと、ほんとどんな仲だよ。俺が知りたいくらいだよネコミミが誤解するじゃないかやめてよね。


「冗談はさておき、実際人手が足りないのよね。猫の手も借りたいくらいなのよ」


 ネコミミの手があるからいいじゃん、とも言えず。


「桂花や秋蘭、春蘭もよくやってはくれてるけど、ね。まだまだ足りないのよね」

「陳留の太守になったんだからさ。そこそこ人材も揃ってきてないの?」


 華琳のこったろうから人材を収集していること。それには確信すらしている俺なのだが、あにはからんや。アブラカタブラとはいかんのか。

 はあ、と憂いに満ちた顔でため息を漏らす華琳。

 関係ないけど、美人は絵になるなあなどと暢気なことを思ってしまった。憂いうれいういうい。


「そりゃね。頭数は揃ってきたわよ。どうなることかと思っていた一時からしたら随分違うわ」


 でもね、と華琳は澄んだ目で俺を直視してくる。今日一番のキメ顔ですね。いやあ、美人さんである。


「私が求めているのは、私を補佐し、私を支え。我が分身となれるような人材よ」


 うわー。ハードル高っ!まあ、逆に考えよう。風はそこまでの人材だっちゅうことだ。うん、ラッキー!やったぜ。成し遂げたぜ。これはメイン軍師決定ですよ。


 実際実りの大きい旅であったのだよな。などと回想モードに入ろうとした俺に華琳が苦笑する。

 そして、満面の笑みを浮かべて。


「あら、何を他人事みたいな顔してるのかしら。

 そうね。二郎。貴方が私のものとなれば一気に解決するのでなくて?」

「へ?」


 なんですと?


「そうでしょ?貴方が私のものになれば、自然と配下も付いてくるでしょう?」

「や、俺そこまで影響力ないと思うぞ」


 過大評価ここに極まれりだ。ぷんぷん。

 そういうの、困るのよ実際ね。


「そうかしら?少なくとも義兄弟は動くのではなくって?

 それに陪臣たる程立、趙雲もね……」

「そこまでだ華琳」


 手を上げて華琳の言葉を遮る。流石にこれ以上はいかんよ。

 壁に耳あり障子に目ありだ。

 ……華琳のこったろうから分かっててやってるんだろうけどね。そういう普通な感じで袁家を切り崩そうとするの、よくないと思います!

 ちょっと、うざいと思います!


「俺個人と袁家への忠誠を秤にかけるような言は流石に困る。

 それに俺だって袁家を支える紀家の当主だ。

 俺の肩には紀家軍の皆、そしてその家族の重みがある。

 俺との友誼を多少なりとも感じてくれてるなら、それ以上はいけない」


 くすり、とおかしそうに笑う華琳。

 いや結構笑いごとじゃないんだけど。それが分からない華琳じゃないと思うんだけど。


「あら、興醒めね。きっと程立なら上手く切り返したと思うのだけども?」

「茶化すなよ」


 いや、茶化さんとそりゃ洒落にもならんのだけども。

 うん?……何か、部下より劣ってどうするってことか?自分なら風や星や、沮授や張紘、商会のメンバーをもっと上手く使えるってか?

 ……いや確かにそうなんだろうけどね。でもね。でもさ。

 譲れないものもある。


「うん。確かに俺は俺の義兄弟や風みたいに頭よくないし、星や、紀家軍の皆を率いるだけの将器も武才もないのかもしれないさ。

 でも。いや、だからこそ。こんな俺に親しくしてくれて、主と言ってくれる人たちを裏切りたくない。裏切るわけにはいかない。

 だからな、そうさ。そうだ。

 俺を見限るなら出て行っていいよ、なんて口が裂けても言えない。

 そうだな。俺を、こんな俺についてきてくれる皆が、さ。できるだけ気持ちよく仕事できるようにすんのが俺の仕事さ。場を整えるのが俺の仕事だ。

 不満があれば謝るし、改めよう。できる限り。

 ほんで、出ていくとか言われたら泣くし叫んでも慰留する。

 皆が笑ってくれるなら道化にだって喜んでなる。

 それが俺の役割だと思うからな。それが俺のやり方だから。

 ああ、そうだな。分かったわ。

 俺はきっと……皆が大好きなんだな。そうさ、俺の周りの皆が大好きなのさ。

 だから……」

「もういいわ」


 す、と今度は華琳が手を上げて俺の言葉を遮る。


「ふふ、ごめんなさいね。悪戯が過ぎたわ。

 でも、収穫はあったわ。

 二郎。

 やはり私は貴方が欲しいわ。そうね。貴方が、欲しい。

 配下なんて誰も連れてこなくて結構よ。いつでも身一つで来なさいな。

 歓迎するわよ?」


 そうかい。でも華琳とこ行ったら過労死間違いないからやだ。とも言えず。

 どうしたものか、と思っていたら。


「曹操殿。袁紹様のお支度が整いました。こちらへ」


 殺伐とした室に鋼の救世主が!稟ちゃん愛してる!


「あら、もうそんな時間?案内よろしくね?」

「はい。

 ……二郎殿。ご苦労様でした」


 一瞬。いや、刹那の煌き。稟ちゃんが俺に柔らかい笑みを向けてくれた、気がする。稟ちゃんマジ天使!

 それが儚い幻影であったかと思うほどに華琳を先導する彼女からは、いささかの揺らぎも見えなかったんだけどね。


 ……逆に、あれ華琳にロックオンされたな。そら見逃さないだろう。

 優雅な笑みの奥に肉食獣の。餓狼すら背負うほどのオーラが幻視できるよ。


 軽やかに。

 俺など眼中にないていであれこれ稟ちゃんに声をかける。

 淡々と事務的な返答する稟ちゃんにますますそのオーラは濃密になって顕現しそうな勢いである。どうなるの……。


 やがてようやく視界から二人が消えて。


つ、疲れたー!疲れたよー!


曹操は人材コレクター。これは共通認識でいいよね……?

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