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飛躍

「くぅうううううううううううううううううる!」


 ギョロ目の男が異国の言葉を口にする。

 意味は分からずともそこに込められた賞賛と情熱は疑いようもない。むせるほどの、密度と熱。


「波才さん、私たちの舞台、どうだったー?」


 張角の問いに波才はその異相に涙すら浮かべている。


「ええ。……ええ、最高でございましたとも……。

 この波才、今日この瞬間に命尽きても悔いなどありません……。

 実に、実にすばらしい舞台でございましたとも……」


 ば、とその両手を広げ、祈るように真摯に語る。ゆったりとした衣服に包まれているその腕は筋肉質で、少女達は意外に思う。


「この波才、改めて確信いたしました!その歌舞楽曲は天上の響きに勝り、最早神仙ですら酔うでしょう……。

 嗚呼、感謝を!圧倒的な感謝を!

 惑っておりました!惑いがありましたとも!この矮小な波才めが貴女様たちのような方々と言葉を交わしていいものか……と」


 身振り手振りを交えて力説する姿は鬼気迫るものがあり、長女たる張角以外は言葉を発することもできない。


「んー、ありがとー!

 でもね、波才さんのお蔭でとっても助かってるよ?

 それに、一番に私たちの歌を認めてくれたのも波才さんだしさ!」

「おお……この矮小なる存在に過分なるお言葉……。

 この波才に雑事はお申し付けください……。

 まさに貴女達こそは救世ぐぜの乙女。この淀んだ世の闇を、霧を払う聖なるもの。

 ああ、聖なるかな!聖なるかな!

 まことに!まことに!」


 波才の熱狂を苦笑一つで受け止める張角も或いは英傑と言うべきであろう。

 ……もっとも、彼女らを支持する、熱狂する男たちで慣れてしまっていたのかもしれないが。


「ほ、ほあーーーー!」


 響くその声は彼女らを呼ぶ声。


「うん、ありがたいね!そう思わない?」

「確かに。ここではお客の集まりも違う」

「でもなんでここまで、なのかな?」


 思えば苦難の道程であった。その苦労は三姉妹の全員が心底味わっているものである。

 だからこそ不思議でならない。

 それぞれに首をかしげる三姉妹。

 波才は笑いかける。満面の笑みで。優しく。


「なに、簡単なことですよ……。

 ここは豊かですからね。食うに困らなく、そこそこお金を持っている方が多いのです。

 ですから、ええ、ですから。

 大いに我々は恩恵を受けるべきなのですよ。

 いえ、違いますね。時代が求めているのです。

 おお……。刻すら支配する貴女達には日輪すらひれ伏すでしょう……」


 ぐらり、と崩れ落ちる波才の姿に何かおぞましいものを感じながらも、気遣いの言葉が自然に出るほどに彼女らは波才に依存していたのかもしれない。


「は、波才さん、疲れてるのかな?」

「そ、そうだよね!ちぃもこんな時あるし!うん!うん!」


 その声にぐるり!と顔を向けて波才はゆらり、と立ち上がる。

 そして開いた口から吐かれるのは呪いにも似て。


「雌伏の時は終わり!伝説が始まる!

 ええ!抑圧されたこれまでは幻想!これからは、未来は貴女達のもの! 

 漢朝の、中華すら貴女達には狭いでしょう。

 ですが、まずは中華に歌声を響き渡らせましょう……!」


 高らかに笑う波才。

 そして、彼女らはその思うままに伝説へと駆け上ることになるのであった。


波才P、有能

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