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凡人の問答

 色々乱して散々お見苦しいところをお見せしてしまった二郎です。

 取りあえず、風には持病の癪っちゅうことで誤魔化しました。

 あの後、どうにか正気を取り戻しました。いや、襄平で洛陽の中枢を上回る化け物に出会うとは思わなかったわ。


 んで、今何をしているかと言うと。

 某一張羅を着こんでだな。


「こちらが紀家の当主、知ってる者も多いだろう。怨将軍こと紀霊殿だ。

 私とは古い知己でな、このたび私を訪ねてきてくれたんだ」


 白蓮が紹介してくれる襄平の有力者を迎えての宴席である。きっちり、俺という存在を自分の地歩を固めるために利用してくれるのは頼もしい。

 いや。立派になって……。


 急な来訪にも関わらず、結構な数の有力者が集まったのは手際のよさか、俺の虚名か。

 俺と面識を得ようと挨拶に来るのを適当にさばく。さばく。さばく。よしなに!


 ちら、と見ると、そつなく場をリードする白蓮。

 場に劉備がいないことに安心しているのは内緒だ。だって、ねえ。

 正直関わりたくねえよ。


 まあ、そのうち紹介とかされちゃうのだろうけどね!ちょっとでも時間的猶予が欲しいの!


「二郎、済まないな、久しぶりなのに」


 使うような真似をして。そんな風に言おうとする白蓮を片手で制する。


「いやいや、いいってことさ。

 白蓮を太守に推挙したのは袁家だしさ。

 少しでも白蓮の役に立てたならうれしいよ」

「そ、そうか。そう言ってくれると助かるよ」


 そりゃ腹芸の一つもこなせんと困る……とはいうものの。この人のよさは変わらんねえ。


「ま、俺はほっといてくれていいよ?

 せっかく集めた有力者たちだ。色々とやることあんだろ?」


 宴席なんてのは偉くなればなるほどにお仕事になる。

 声をかける順番、酒の減り具合、タイムスケジュールの管理。

 いや、呑気に酔っぱらうなんて無理無理無理カタツムリである。



「いいって。後で呑みなおそうや」

「そう言ってくれるとありがたい。また、後で、な」


 にこり、と笑って去る白蓮。

 楽しむのは二次会からってね。

 んで。


「で、実際どうなの?」


 無言で控えていた人物。韓浩に声をかける。

 魯粛もそうだが、より遠慮のない、忌憚のない意見が聞けるだろう。

 ……俺も結構ボロカスに言われてたしな!


「想定よりもよくやっていると評価していい」

「上出来、ってこと?」


 無言で肯定する。

 そして淡々とした口調で韓浩は白蓮の評価を下していく。

 まとめると。


「ややお人よしのきらいはあるが、概ね順調。このままいけば州牧も大過なく務められる。

 ってとこかな?」

「肯定する。袁家上層部が高く評価する理由が分かった。

 彼女の能力には穴がない。これは驚くべきこと」


 うむ。その通りだな。バランスという意味では俺の知己の中でも頭抜けているしな。そしてそれは地位が上がるほどに真価を発揮することになるだろう。

 華琳?彼女、性格がちょっと。ねえ。


「ふむ。順風満帆ってか?」

「そうでもない」


 韓浩は即座に応える。

 ふむ。

 無言で続きを促す。


「彼女の成長に見合う人材が育っていない。

 じっくりと育てれば使い物になる逸材もいるにはいる。

 だが」


 韓浩は言う。

 彼女がやがて就くであろう州牧と言う地位。

 それに見合う、補佐できる人材が見当たらない、と。

 故に。


「もう少し彼女を支えたいと思う。許可を」


 魯粛と韓浩。この二人を呼び戻すというのも今回俺が襄平を訪れた目的の一つだ。

 いや、やっぱこういうのって紙切れ一枚よりも直接話すのが筋だと思うの。やっぱね。

 しかし、はてさて。意外な展開である。まさかのレンタル期間延長のお願いとは。しかもあの韓浩から、である。


「ふむ。えらく入れ込んでるじゃあないか」


 白蓮のこったから引き抜きとかはせんと思うんだが。

 この無表情で無慈悲で無感動な軍官僚が肩入れするってのはどういうことだってばよ。


「……気がかりなことがある。公孫の安定は紀家、袁家にとって必須のはず。

 許可を」


 相も変わらず言葉足らずだこと。せめて懸案事項くらい言えってば。


「あえて聞こうか、その存念とやらを」

「劉備」


 即答である。そしてその言葉にびくり、と俺は反応してしまう。

 いや、するよ。するさ。しちゃうだろ。


「その様子だと見知ったと認識する。あれは危険。

 ……幾度か介入はしている。が、権限が足りない。

 公孫に残留するにあたり権限の集約と強化を併せて求める」


 平坦な声、変わらぬ表情。執着というものを見せたことのない韓浩の言に俺は大いに考え込む。

 さて、どうしたものか。

 って考えるまでもない。


「うし、白蓮のことは任せた。万事委任する。

 金銭、物資、他。いるものはどんどん要求して構わない。

 ただ、分かっているとは思うが」

「無論袁家、公孫の益を第一に考える」


 よし。

 まあ、レンタル移籍の期間延長ってことで。


「ならばよし。

 まあ、頼むわ」

「任された。期待には応える」


 ま、淡々と仕事してた韓浩がなんかモチベーションアップしてるし、よしとしましょう!

 きっと白蓮をそつなく補佐してくれるさね。


 や、あげないけどね?

 韓浩と雷薄は紀家の文武の要だからね。割と苦渋の選択だからね?

 これは後で呑む白蓮にあれこれ言わなければいけませんねぇ……。

 などと思っていた俺であるが、韓浩はさっさと去っていた。


 ちょっとドライすぎやしませんかねえ……。





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