凡人とツンデレ その弐
「一筆書いてほしいんだけど」
「反省文かあ。……もしかして始末書かな?」
散々怒られてなおその痕跡を残すと申すか。流石詠ちゃん、容赦ない!
そこに痺れる憧れる!ビリビリやでぇ。
「どうしてそうなるのよ。真面目な話だって言ったでしょ……」
そうでした。
こってりとしぼられた後、そのままの流れで夕食を摂ろうという流れだったんだが、詠ちゃんに連れ出されたのよね。
あんなにお小言頂いてもすかさず冷やかす張遼のメンタルの強さよ。
「で、誰に?」
「馬騰殿よ」
「ふーむ?」
今回の件の詫び状か?ってそれ俺が書いても仕方ないしなあ。口添えかなんかかいな?でもあの人にそんなの通用するのかいね。
「韓遂だって一時はおとなしくするでしょう。でも、馬騰殿が洛陽に行かれたらどうなると思う?」
「そりゃあ……またぞろ蠢動するだろうさね」
「ええ、韓遂は十常侍と繋がっているものね。馬騰殿の足元に火種をばら撒くことで援護をしているのよ」
「ふむ……」
あの梟雄が嫌がらせに全力を挙げるとかもう俺なら逃げ出したくなるね。もしくは誰かに丸投げするね。
「そんな状況で、馬岱が補佐に回ったとして、馬超に涼州を回すことができると思う?」
そりゃ無理だろ。とも言えず。顔を顰めるにとどめる。
「今日下りた認可だけどね。陳情したのが半年以上も前の案件よ?」
「そりゃまた……」
「印一つで済む様なものまでそういった有様。まあ、ひどいなんてもんじゃないわよ。
こっちだって通常業務に加えて流民対策だってそろそろ本腰を入れておかないといけないってのに」
「ふーむ」
中々に厳しい状況だ。って涼州、割と詰んでね?
「まあ、ここ安定については心配してないわ。
ボク以外にも月、最近じゃねねだってお仕事頑張ってるんだから。
霞もまあ、軍務についてはよくやってくれてるわ」
「恋については触れない方がよさそうだな」
「思いっきり口に出てるわよ……」
しまったー。
「ま、いいけどね。恋の仕事は霞とねねで回してるわ」
「なるほど、いい感じに連携が取れてるんだな」
「まあね、ボクも人材には恵まれたと思うわよ」
人材の質で言えば華琳とこをすら凌駕するかもしらんしな。普通に。
まあ、あっこはあっこでトップ以下スペック化け物揃いしかいないけどね。
「で、書面一つでそんな状況をどうやって打開すんのさ」
「あら、分かんないの?」
どことなく嬉しそうですね。
詠ちゃんと知恵比べとかやって俺の勝ち目とか全くないじゃないですかー。
「皆目見当もつかんなあ」
憮然とした俺の声に。くすり、と柔らかく笑ってから表情を引き締める。
「ボクが馬超を補佐する」
え?なにが?
マジで?つか、どういうことでそうなったの?
「え、だって月たちはどうすんのさ。
詠ちゃんが実務を仕切ってるじゃんかよ」
思いもよらない言葉に絶賛混乱中の俺である。
「別に今すぐってわけじゃないし、ずっと馬超のとこにいるつもりもないわ」
「ほむ」
「でもね、今のままじゃいいように韓遂に翻弄されるだけよ?
だったらボクが直接乗り込むのが一番手っ取り早いじゃない」
なるほど、韓遂を抑えるというのはそこまで考えてたのか。自らあれを抑えようということであったのか。
いや、流石だわ。
「なるほどね。でも翠がすんなり詠ちゃんの言うことを聞くかね」
「だから。だからこそ二郎に一筆頼むんじゃない」
「へ?でも俺の影響力なんて翠には無きに等しいぞ?蒲公英ならともかく」
「だから最初に言ったじゃない。送り先は馬騰殿だって」
「あ、なるほどね」
翠も馬騰さんの言うことは素直に聞くしなあ。
「だから、ね?」
詠ちゃんがここまで自信あるならまあ、大丈夫だろう。
もとから謀略とかそっちらへんではかないっこないんだし。
「はいよ。詠ちゃんの言う通りにするさ」
「うん、頼んだわよ」
ふう、と大きく息を吐き出して詠ちゃんが脱力する。
「お疲れのようで」
「誰のせいだと思ってるのよ」
ぎろり、とした視線の鋭いことといったら。これは謝るべきそうすべき。
「あー、その、なんだ。すまん」
「何よ、そう謝られると拍子抜けするわね。
いいわよ、別に。ボクの撒いた種でもあったんだから」
そう物わかりのいい態度だと俺も戸惑うよ。割とね。
「だからね、きっちりと勝ってくるのよ?」
誰に、とは言わない。そこは流石の俺も察する。
「ああ、俺の戦場は洛陽になる。
待っててくれ。ちょっと時間はかかるかもしんないけ
「ええ、待ってるわ。
でも、あんまり待たされると心変わりするかもよ?」
「うへえ、そいつは勘弁だな」
天下の智謀が敵に回るとかマジ勘弁願いたい。
「ま、大筋で二郎達の勝ちは揺るがないと思うしね。
ボク達は勝ち馬に乗るってわけよ」
「おう、どんどん乗ってくれ。詠ちゃんたちなら大歓迎さ。
つーか、詠ちゃんに勝ちを保証してもらえると心強いや」
「ふふ、おだてても何も出ないわよ?」
「その笑顔が見れただけで十分さ」
スマイルは0円だけど、極上だった。
どちらからともなく笑い合い、確かにこの瞬間、俺と詠ちゃんの心は重なっていたと思う。




