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涼州にて:死闘編

ドゴォ!


 全身に衝撃が走る。ええと、辛うじて急所は守りきった。

 だが、四肢に連撃を受けて俺は大地に這いつくばってる。


「げほっ!」


 受け身すら取れず、むせる。


「は、なんだなんだ、大したことないじゃんか!」


 そりゃねえ、貴女と比べたら俺の武力なんて雑魚でしょうよ。

 いや、流石は錦馬超と言うべきか。

 とか思いながらもロクに言葉が出ない、出せない。思えばあれで春蘭、手加減してくれてたんだなあ。

 遠く陳留の地にいる黒髪の美女に思いを馳せて肉体の痛みから逃避しようとする。


 うん、無理。きっついわー。普通にめがっさ痛いわー。


「二郎さま大丈夫?

 もう、お姉さまってば限度を知らないんだからー」


 蒲公英が俺の上半身を抱きかかえて背中をさすってくれる。

 いつもすまないねえ。

 流れるように膝枕である。うむ。


「なんだよ、情けないなあ。

 東方の武の要、袁家の柱石がどれほどのものかと思ったら、意外と大したことないんだな」


 ええと。なんで俺そんなに煽られてんのかなあ。


「匈奴の侵略を防いだと言っても、たかが知れてるんじゃないのか?

 あたし達の方がよっぽど猛威から漢土を守ってきてるんじゃないかな」


 まあ、ここがオフィシャルな場ではないからな。何を言おうとも俺の胸に収めることはできるのだが。馬超さんの根底、本心からの言葉としたら色々と考えないといけないなあ。


 さて、と思う俺の思考を割ったのは蒲公英。


「駄目だよお姉さま。二郎さまには助けられてるんだからさ」

「は?こんな軟弱な奴に助けてもらったことなんてないぞ?」

「そうじゃないんだなー。

 叔父様とわたしが帰ってくるまで財政が破綻しなかったのは食糧が安かったからでしょ?」

「そうだけど、それとこいつは関係ないじゃないか」


 ほう。

 内心の驚愕。いやそこに気付くとかわりとすごい。内心で蒲公英の評価を二段階ほど上げる。

 別に、膝枕されてよしよしされるのにバブみを感じたというわけではない。けしてね。


「関係あるよー?

 だってそれ二郎さまのおかげだもん」

「はあ?何言ってんだ?」

「……お姉さま、ちょっとそれはたんぽぽも引いちゃうなー。

 帳簿見たら、最近の物資の仕入れ先は母流龍九商会じゃない。

 それって二郎さまが黒幕だよ?」


 おい。黒幕って。

 なんかもうちょっとさあ。


「黒幕とかなんか悪い人ぽいからやめてね?

 せめて総帥とか、統括とかこう、色々言い方あるじゃん!」


 スポンサーとかパトロンとか!


「えー、たんぽぽ頭わるいからわかんなーい」


 よしよしとされながら抗議の声を上げる図は多分、結構愉快なことになってるのであろうなあと、当事者としては思うのでありますのことよ。 


「まあ、俺のことが気に入らんならそれはそれでいいよ。

 実際、真名だって馬騰さんが勝手にこう……」


 未だに翠と呼べない俺ちゃんなのである。


「父上のことはいいんだ!だから私の真名だって呼んだらいい!

 でもな、お前に不満があるってだけだ!

 だから、立て!その性根叩きなおしてやる!

 父上の言をいいことに寝てるんじゃない!ほら!立て!」


 えー。

 俺死ぬわー、これ以上やったらマジ死ぬわー。

 などと青い空を見上げていた俺である。蒲公英に膝枕されたまま。


「はは!

 翠よ、やっておるな!」


 殺伐としたこの場に鋼の救世主が!

 つーか、馬騰さん登場である。


「あ、父上!」

「叔父様、どうしたのー?」


 俺が無言なのは、体中の痛みがレボリューションだからだけではない。

 この涼州をまとめているのは間違いなく馬騰さんという英傑なのだなあと、しみじみ思い、それぞれの関係性を見極めようとしているからだ。

 まあ、今の恰好がちょっと気まずいというのも少しはあるけどね。少しはね。多少はね。


「翠よ、随分元気なようだな!

 よろしい、久しぶりに鍛えてやろう!」

「え?父上、いいのですか?

 よ、よろしくご教授ください!」


 なんとも俺と相対した時と態度が違うったら。その瞳がキラキラしまくりやで。翠の瞳が宝石箱やー。


 そんなことを思いながら二人のやり取りを見てたら、これはもうすごい。

 翠の連撃をあっさり防いだ馬騰さんが踏み込み、渾身の一撃をたたき込む。と思ったらそれがフェイントってマジか。

 いやー、隔絶した技量というのはあるのだなあと見稽古に専念する俺である。

 だからね、ひらひらした布地の中身とか、そら見えるよ。ねえ。だってミニスカだもの。

 俺の視点は下から目線。いわゆるローアングラーってやつかな。


 ……白か。純白か。尊いなあ。


「ぶへ!」


 俺の顔を踏み台にしただとう!

 砂被り過ぎた代償か……。


 などと言う余裕とかないくらい。はは、高レベル過ぎてなにも言えないよ。


 結局、一分にも満たない攻防の末、翠は地に這いつくばっている。

 馬騰さんパねえ


「まだまだ精進が足りん!

 そのようなことではまだ兵を預けられんぞ!」

「そ!んなことない!

 まだまだ!」


 言った瞬間翠の後頭部に、うわあ。容赦なさすぎだろ。


「未熟!十年早い!」


 え、追撃すんすか?そこの連撃とか……田豊師匠でもやらんと思うのですけどねえ。

 だって翠は……多分意識刈られてると思うんですけど、うわぁ。


「ないわー」


 思わず呟いてしまう。

 と、同時に納得する。この人の幕下で生き残れるならば既に一騎当千だ。

 おお、こわやこわや……。


「二郎君よ!一手、どうかな」


 ないって。マジでないって。


「いえ、その」


 気付けば三尖刀を手にし、馬騰さんと対峙している俺がいた。貴重な機会には違いないのだ。

 だから、挑む。


「よろしい!」


 溌溂とした声に震えるものがある。そして、立ち上がったのは正しかったと確信する。

 これほどの達人と槍を合わせるなぞ、そう機会はない。


※ぼこぼこにされました

※※収穫はあったはずです

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