表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
124/350

馬家移動中

 時は少しばかり遡る。


 涼州からの急報。馬騰と馬岱は馬を急がせていた。

 替え馬を乗り換え、昼夜兼行している。


 あ、これやばいな。


 馬岱は意識が霞むのを自覚する。

 これが従姉ばちょうとの道中であれば減らず口をたたき、休息を勝ち取っていただろう。

 だが、随行するのが尊敬する叔父である馬騰となれば話は別だ。無駄口ひとつ叩かずに馬の扱いだけに集中する。消耗を最小限に抑えてひたすらに前を向く。

 馬岱は馬騰に比べ、体躯は小さく体重も圧倒的に軽い。だというのに、だ。駆る馬の疲労にほとんど差がない。

 こんな時に馬岱は叔父の偉大さを痛感するのだ。


(いけない、集中しないと)


 軽く瞑目し、一つ深呼吸。再び意識を集中させる。

 と、逞しい声がかけられる。


蒲公英たんぽぽ、そろそろ休憩するぞ」

「……へ?にゃ?ね?

 あ、叔父様!たんぽぽもこの子たちもまだいけるよ?」

「はは、まだ先は長いからな。このあたりで一旦休もう」


 おそらく馬岱の、そして馬たちの体力、それと涼州への道程から休憩を挟む時期を測ったのだろう。

 徐々に馬の足を緩め、野営地を見繕う。


「ひゃー、疲れたー。実はけっこうしんどかったんだよねー」

「ははは、鈍ってはいないみたいだな。もっとすぐにへばるかと思っていたぞ」

「えー、叔父様ひどーい。たんぽぽこれでも鍛錬欠かしてないんだからー」

「それはすまなかったな。いや、頼もしいことだ」


 にこやかに軽口をたたき合いながら野宿の準備をする。火を起こし、馬達の面倒を見、煮炊きを始める。

 干し肉を湯で戻しただけの簡素な食事を摂り、先に馬騰が仮眠を取る。無論、何かあった際は即時に跳ね起きることができる、そんな浅い眠りだ。

 夜半には交代し、そのまま駆けることになるだろう。


「ふう……」


 白湯をすすりながら馬岱は溜息をもらす。

 正直、武勇という意味では大好きな従姉にかなうべくもない。

 そりゃあ、馬岱とて日々精進しているが、<錦>と誉高い従姉に追いつける気はしない。

 だが、と思うのだ。

 あの、まっすぐな従姉だけでは涼州は治まらないであろう。そう確信している。匈奴を相手にしておけばいいという時代でもないのだ。


「だから叔父様はたんぽぽも洛陽に連れてきたんだろうなあ」


 月を見上げながら呟く馬岱に愛馬がぶる、と鼻息を漏らし顔を摺り寄せてくる。


「あ、ごめんね、別に落ち込んでるわけじゃないんだよ?」


 ごし、と強めに背中を撫でてやる。

 そう、落ち込んでなどいない。

 馬岱は自分を恵まれていると思っている。何となれば、身近に理想とする将がいるのだ。

 今日の行軍にしてもそうだ。

 単騎で涼州を目指し、現地集合することだってできたはずなのだ。

 きっとあの愛すべき従姉ならばそうしただろう。良くも悪くも直情径行なのだ。

 くすり、と笑みがこぼれる。

 まだまだ頑張れる。頑張ろう。思いを新たにする。


◆◆◆


「蒲公英、交代だ」

「へ、叔父様?まだ交代の時間じゃないよ?」


 言いながら、意識が薄れていたのを自覚する。


「なに、年寄りは目覚めが早いだけだ。こうして目覚めてしまったし、な」


 言い合うだけ時の無駄だろう。ここは足手まといにならないように休まないといけないところだ。


「んー、それじゃお言葉に甘えますねー」


 そう言ってあっさりと意識を手放す。寝入りの良さは特技の一つだ。急速に遠のく意識の中で思う。


(んー、なんとか叔父様を安心させてあげないとね

 やっぱたんぽぽの子供を抱かせてあげるのが一番かなあ)


 どこか飛躍した発想であるが、構わずに思索を進める。


(はやく二郎様に子種もらわないとなあ)


 更に飛躍した結論に満足し、馬岱は本格的に意識を手放すのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ