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天地人

 さて、陳留を目指す俺である。

 真名とかもらっちゃったし、放浪中に華琳に会いに行かなかったら多分死亡フラグだと思うの。


「貴様!華琳様に真名を預けられて放置とはどういうことだ!」


 とかね。脳内再生余裕でした。うん、春蘭に殺されるよね普通に。

 あの子華琳大好きすぎるだろ。


 深くため息をつきながら、昼飯の汁物をすする。

 陳留まではあと数日の宿場町だ。気が重いような、いっそどうにでもなれという気持ち。うん、逃げたい、逃げたい。逃避っていいよね。届かないこの思い的な感じで。


 そしてふと、目を外にやると、芸人が歌って踊っている。


 うむ、サービス業が栄えるというのはいいことだ。それだけ社会に余裕があるということだからな。

 第三次産業の充実こそ社会の、文明の発展に必須よ……。だからガチャはいい文明。


 などと思いながらぼんやりと芸人が躍り、歌うのを見る。

 まあ、この時代ならこんなもんかなあ。

 そんなことを思いながら酒の追加を頼む。

 ククク、お天道様が空にあるうちに飲む酒こそ至高……禁断の旨味……。お酒美味しいです。


◆◆◆


「はーい、ありがとー!愛してるー!」


 気が付くとさっきまで歌って踊ってパリピな芸人さんたちに囲まれてました。どういうことなの……。


「お兄さんの焼け付くような視線、おねーちゃん、嬉しかったなあ!」

「そうそう、目で犯された感じよねー」

「姉さん、直截的な発言はどうかと思う」


 大体の事態には即応できるよ俺。だが言わせてもらおう。


「いや、お前ら誰やねん」


「私は天和てんほー!そして妹の地和ちーほー人和れんほーだよー。

 三人揃って数え役満三姉妹!よろしくねー!」


 そう言って身を寄せてくる天和の。あ、ふにゃりと。

 むむむ。これはなかなかのおっぱい!

 こいつ、できるぞ……。


「私たちの歌を聞いてくれてありがとうね!」


 うむ。


「あ、こっちにお料理追加お願いしまーす!」

「ってたかる気満々じゃねえか……」

「えー、いいでしょ?」


 俺の腕を抱え込んで上目づかいに三人が見上げて、何より天和のお胸様が押し付けられて。


 うむ。


「好きなだけ食えばいいと思うよ。そして呑め呑め。

 おごっちゃる」


 ふむ。芸人に奢るなら袁家領内のほうがよかったのだけどもね。ほら、文化芸術へのパトロンとかは権力者の義務だからして、さ。

 けして胸部装甲に負けたわけじゃないんだからね!


◆◆◆


 凄まじい勢いで料理を体内に納めていく三姉妹に苦笑する。まあ、芸で食べていくって大変だよね。どう考えても。


「ふう、ご馳走様でした」

「ほんと、遠慮なく全力で食べたよなお前ら」

「えへへー」


 まあ、こういう天性の愛嬌とかは貴重なんだろうなあ。

 それにしては客がついてなかったけど。


「で、私たち、どうだった?」


 問われたならば応えてやるのが世の情けであろうよ。棹に流されない程度にね。


「おう、素晴らしいおっぱいだった。大きさといい、柔らかさといい。

 そうさな、極上と言っていいと思う」


 ふむ、直に触らないと本当の価値は分からないけどな。だが、それでも中々のポテンシャルは認めるのにやぶさかでない。いや、むしろ既に完成されているのかもしれないほどの脅威がそこにはあった。


「え、そっかー。おねーちゃん照れちゃうなあ」

「姉さん、そうじゃないでしょ」

「そ!そうじゃなくて、私たちの歌がどうだったかっていうことを聞きたいのよ」


 うん、知ってた。

 でもね。でもねえ……。言わせてもらおうかな。


「ふん。駄目だな、ああ、駄目だ。全然駄目だぜ」

「ええ?」


 顔を引きつらせる天和。

 いやマジでダメなのよ。


「歌って踊れるというのは確かに大したもんだと思うけどな。

 まず、踊りのために肝心の呼吸が乱れている。歌が疎かだわな。

 次に、歌いながら踊ることで均一に歌声が届かん。誰に向かって歌ってんだお前ら。

 最後に、個性に乏しい。もっと各人の魅力を極端に味付けしてそれぞれに信者を作れ。以上」


 言い捨てて新たに運ばれてきた串焼きを口に運ぶ。ふむ、この値段ならばまずまずか。

 ぶっちゃけ、こいつらより美羽様と七乃のコンビの方が金を稼げると思う。

 こいつらみたいに自分が目立つことしか考えてるわけじゃなく、本当に楽しそうに奏するし、歌うし。

 七乃は胡弓を好む。美羽様の美声を活かすのには楽器は最小限でいいとのことだったな。そしてその美羽様の歌声たるや、凄いんだぜ。

 幼女特有の甲高いソプラノから、ねっとりとしたアルトまでの音域を苦も無く歌う。そしてその声量は春蘭クラスなのだぜ。マジで。

 これはもう、うっとりしましょうよ。つか、うっとりだったのだぜ。

 美羽様ならアイドル坂でもあっという間にプラチナランク間違いなしなのだぜ。いや、多少贔屓目もあるかもしらんけどね。多少はね。


「具体的にどうしたらいいと思う?もう少し詳しく聞きたい」


 おっと。

 眼鏡をかけた子が俺に言う。率直なその問い、yesだね!


「んー、三人いるんだから歌と踊りに分けたら?

 後は、そだね。皆可愛いんだから素直に見世物小屋ライブハウスに行ったらいいと思うの」

「でも、あそこって使用料高いんだよねー」

「それでも、暗い中、主役が照らし出されるだけで全然違うぜ?

 それに、ある程度音響の方向性も設定されてるしなあ。

 素直に南皮の組合に加盟するのが一番近道じゃあないかなあ」


 アイドル的なプロデュースは南皮の組合におまかせ!俺のノウハウを注ぎ込んだよ!ワンドリンク制なチケットとか出演者がチケット売らないといけないとかの世知辛いとこは自重してますよ。

 文化事業だからね、娯楽産業は大切に育成せんといかんのだよね。


「んー、でも加盟料とか、結構馬鹿にならないんだよね」

「その価値はあると思うけどね」


 まあ、舞台の演出の話をしても理解なぞできなかろう。どうせ、この時代で俺が理想とする舞台の再現なんぞ無理だし。

 

 断片的なヒントは与えた。後はこいつらが真剣にやりきるかどうかだね。


「なるほどねー、ほんっと、ありがとうね!」


 天和が俺の頬に軽く口づけし、三人が去っていく。軽い役得であるな。うむ。

 などと思っていたのだが。マジで結構、というか相当食いやがったなあ。

 食い終わったらすぐ席を立つとか分かりやすすぎだろ。その態度もいかんねと教育的指導を与えないといけませんね。できないけど。

 まあ、懐的には痛くもかゆくもないけどな!


 まあ、そんなことより華琳とか春蘭とかネコミミ対策でもするか。

 ああ、皆美人だし、いいやね。目の保養だよねと自分を納得させようとする俺なのであった。


◆◆◆


「うーん、お腹いっぱい!おねーちゃんちょっと眠たくなってきたなー」

「駄目よ、姉さん。少しでも資金を稼がないと」

「でもさー、あそこまで言われるとちょっとむかつかない?」


 三姉妹がきゃいきゃいとさえずる。

 女三人寄れば何とやら。歩きながらも賑やかなその様子に道行く人が振り返る。

 そして彼女らの容色に、あるいは雰囲気に目が釘付けになる。


「でも、言ってたことは参考になるわ。どこの誰かは知らないけども、……よっぽど目が肥えているのね」

「でも歌も踊りもできるのが私たちの強みなんだから、鵜呑みにするわけにもいかないと思うなあ」


 その声に張宝は考え込む。

 あの男の言っていた、歌声を観客に均等に届け、自分たちを暗闇で浮かび上がらせるほど光輝をまとう。

 それは張宝たちには不可能ではない。ないのだ。

 考え込む彼女に長女たる張角が声をかける。


「どうしたの?何か考え込んでいるみたいだけど」

「うん、その。ねえ、あの男の言ってたこと、出来るかもしれない……」


 その言に三女たる張梁が反対の声を上げる。


「駄目よ姉さん。私たちは芸だけで皆を魅了するってあんなに誓ったじゃない」

「術で魅了するんじゃない。術であの男の言ってたことを実行するだけよ」

「でも、姉さんの実力じゃ、術の制御で手いっぱいで一緒の舞台に立てないでしょ。

 それじゃ意味ないじゃない」


 張梁の声に、ニヤリ、とした笑みを浮かべる張宝。


「アレを使えば、それは解決できる……」

「な、あれは……。

 危険よ……」

「大丈夫よ。きっと制御してみせる。

 それに、この中華に私たちの歌声を響かせるのが私たちの夢でしょ?

 有力者に取り入って、身体を差し出すよりよっぽど、いい!」

「姉さん!」


 言い争う二人に長女たる張角が声をかける。


「二人とも、喧嘩はよくないよー」

「う……、そんなつもりじゃ」

「だって……」


 二人をその豊満な胸に抱え込む。

 にこにこと、あくまで微笑みながら。その抱擁、包容。


「このままじゃいけないな、っていうのは私たちが思ってたことだよね。

 やらなくて後悔するより、やって後悔した方がいいよ、きっとね」

「……姉さんがそう言うなら。

 それなら私も全力で補佐する。だから、私たちの歌をこの中華に響かせよう」

「うん。……うん!」

「北へ行こう。袁家の領内は景気もいいって言うし、上手くしたら阿蘇阿蘇から取材受けちゃうかもだよ?」

「ぷ」

「姉さんらしい。でも、そうね、それくらいの気持ちでないといけないかもね」


 一触即発であった雰囲気はどこへやら。

 彼女らは北へ向かう。向かう。

 決意を胸に抱いて。

 その決意がどうあれ、彼女たちはこの平穏に終止符を打つことになる嚆矢となるのだ。


 それは定められたことであるのだ。


 ただし、この外史には不純物バグが混入されているのだが、それを誰も知らず、誰も知ろうとしない。

 その乖離は外史からの剥落を招き、それに気付く観測者はそれを静観する。

 混迷深まる外史の一つの転換点ターニングポイントであった。

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