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彼方からの使者

「やほー!たんぽぽだよー」

「見れば分かるって」


 俺ご指名の来客。厄介な人物の連発かなと思っていたのだ。

 来客その弐は涼州に咲く一輪の花……って感じでもないか。と言うと失礼にあたるのだろうか。

 漢の名将馬援――詳細はググってください――の係累たる馬岱こと蒲公英たんぽぽである。


「ほんとなら叔父様とかお姉さまが来るべきなんだろうけどね。

 ちょっと手が離せないみたいで、たんぽぽが来ることになったのー」


 まあ、基本涼州は火薬庫だからなあ。バルカン半島も真っ青だぜ!

 だって涼州から中央への道、嘘みたいに平地ばっかりなんだぜ?あそこが陥落したら長安くらいまではまっしぐらなんだよね。

 まあ、馬騰さんがそれを実証しちゃったしな。平地を行く騎兵を止められるものかよ。

 だから内外ともに狙う要地なのですよ、ガチで。騎兵というのは第一次世界大戦まで戦争の決戦兵力たることを担っていた兵科。そらモンゴル帝国も強いわ。

 そして、だ。そこに義兄弟たる馬騰さんを――一度反したというのに――配置する何進の戦略的センスと度胸には脱帽である。

 そして我が袁家と協調路線というのもね。普通は目の上のたんこぶとして排除にかかるだろうに。

 国家の最重要は国防。それが分かってる政治的センスの塊である何進と結ぶのは当然である。何進も大概チート人材であるのだ。

 だって史実でも魔窟たる洛陽の中枢で政治的、軍事的に負けなかったんだぜ?黄巾討伐した時の最高権力者は誰あろう何進だったのよね。いやはや、化け物というのはいるものである。

 こわや、こわや……。


「そうか。まあ遠路はるばるご苦労さん。

 大変だったんじゃねーの?」

「いいのいいの。単騎駆けなんて気楽なもんだし。実際楽しませてもらってるしー。

 ご飯もすっごく美味しいし。うん、これは役得ってやつかな?」


 にひひと、ほくそ笑む姿に苦笑する。おいこらそこの名家の令嬢、笑い方が小悪魔っぽいぞ。

 如才なくあちこちの勢力と接触をしている姿の報告を受けてはいる。馬騰さんが動くと影響力的に色々洒落にならんからなあ。色んな意味で頑張ってるよね。がんばれ、がんばれ。

 まあ、涼州が大変そうなのは確定的に明らか。董卓とか韓遂とか匈奴とかほんと、俺ならストレスで胃がマッハだ。


「んー、必要なもんあったら言ってくれよ?

 涼州が乱れるとまずいのよね。実際」


 まあ、不味いというか、詰む。らしい。ガチで。

 沮授が言ってたんだから間違いないんだぜ。張紘も同意してたしな!


「今のとこ大丈夫みたいだよ?

 でも……そだなあ。せっかくだからなんか欲しいかもー」

「おう、どんとこい」


 ふはは、金で解決できることならまかせろー。


「んー、でもたんぽぽ頭悪いからよくわかんなーい」

「おい」


 おい。


「だから、一度涼州に来てよ。

 で、必要そうなものを二郎様が決めて?」


 にしし、と笑って言葉を続ける。

 なるほど、と思う。そして、こいつ俺と似たような思考回路してやがるなと。

 打算もある。好意もある。そして求めるのは最高の効率。コストパフォーマンス。

 分かるやつに任せてしまえという割り切り、そして結果を受け止める覚悟。

 この笑みの奥に隠した覚悟。


「叔父様もきっと喜ぶと思うんだー。

 あ、お姉さまもね?」


 手札なぞないに等しい現状で最適解を模索する。その姿勢には敬意を表すべきだろう。

 なるほど。俺と歓談するだけでも、察しのいい奴は馬家に便宜を図ろうとするだろうしな。そういや、涼州は天災に襲われていたのだったか。いなごという。

 何進も援助をしているだろうけど、ここは男気を見せるべきそうすべき。食料がかなりだぶついてたって沮授が言ってたし。あまりに急激に値下がると、豊作貧乏まっしぐらである。

 袁家が買い取り義倉に蓄えるとしても限界があるしな。沮授に一度相談しよう。


「さよか。まあ、機会があれば伺うとするさ」

「うん、楽しみにしてるね!」

「はいな」


 それからしばらく純粋に馬鹿トークを繰り広げ、去る蒲公英を見送る。

 そして思う。涼州にお邪魔するときには更なる手土産を、と。

※特に思いつきませんでした


◆◆◆


「二郎様、面会を求める方が」

 

 凪が俺に声をかけてくる。華琳に蒲公英。これでお腹いっぱいなんだけどね。割と。


「ん、誰?」

「それが……名乗られずに、『飛燕』とだけ」


 は?マジか。

 まさかの符号に血が沸く。いや、冷たく冴える。


「通せ」


 追い返してくれ、と言いそうになるのをぐっとこらえる。

 俺も丸くなったもんである。

 なお、流琉を背後に緊急配備しました。当然だよなあ?


「久しいねえ」


 華麗な衣装に身を包む美女……黒山賊の頭目である張燕その人である。まさかのご本人登場である。これには俺も驚いた。

 だって普通使者とか出すだろうよ。だが、それだけに用件に警戒心がバリバリ高まる。

 なに、いざとなっても流琉がいるから俺の命はなんとかなるだろうよ。頼んだ、流琉!

 熱い眼差しを受けて流琉は……。


「はい、お茶ですね!」


 ち、違わないけど違う!そうじゃなくて!いや、流琉の茶なら美味しいから場は和むだろうけどさあ……。

 気を取り直して気分は圧迫面接。それくらいの勢いで押し切る。いくぞ!


「で?」

「おや、つれないねえ。せっかく愛しの君に会いに来たっていうのにさあ」


 ほう。

 いっそ見事に煽ってくるその言。却って落ち着く。


「一応、不倶戴天の仇敵ということになってる。と思うんだが」

「おおっぴらにはお目にかかれないからねぇ。こういう時でもないと」

「まあ、一理あるな」


 麗羽様たちにスポットが当たってるからな。裏方な俺とか流石に誰も注目せん。

 そこに目を付けるあたり、張燕のセンスは大したものである。そしてご本人登場とか。

 思ってもそれを普通はできない。大胆不敵とはこのことである。


「で?」


 再度問いかける。

 こちらからの問いなぞしない。その意味を分からぬ張燕ではない。

 はずなのだが、その応えは俺の想定外なものであった。


「いや、本当に挨拶に来ただけさね。

 これからもよろしく、ってね」


 にまり、と。平然と、嫣然たる笑みを浮かべる張燕。


 こいつに思う所はあるんだが、敵に回すと厄介極まる。それを再認識する。

 くそう、横に沮授か張紘がいればなあ、と思う。

 くそう!人手不足ここに極まれり!だよ畜生。傍らに誰か知力90以上の軍師が急募であると痛感する。


「こちらこそ、だな。

 なんかいるもんとかある?」


 仕方がないので懐柔方向である。だって黒山賊って史実全盛期の正史袁紹だって手を焼いたんだぜ?いわんや俺をや。である。


「おや……?太っ腹だねえ。

 ……そうさねえ、今のところないさね」


 ふむ。てっきり、たかられるかと思ったんだけどな。実際なんか要求くれたほうが安心できるんですけどねえ。いや、そんなこと先刻ご承知なんだろうなあという笑みがね。もうね。

 俺にどうしろというのだ……。


「まあ……、ね。気が向いたら常山に来ておくれよ」

「そっちに行くとしたら袁家軍総出だろうからな。受け入れ態勢は任せるが」


 せめてもの恫喝。いや、威嚇にすらならないって俺が知ってるから何も言わないでくださいお願いします。

 とは言え、だ。黒山賊の本拠地か。一度見てもいいかもしらんな。というか、見られて困らんのかいな。


「はは、袁家と正面切って争うつもりはないさね。

 それを言葉だけで信じてくれと言っても無理さねえ……?」


 きっぱりと断る俺に艶然とした笑みを俺に向けてくる。視線が、ぶつかる。

 曖昧な笑み。そして目を伏せ、頭を下げ、脇に置かれるのは……って。

 短刀に針とかの暗器に怪しい粉薬に……。

 豪奢な衣装の影から出るわ出るわ。四次元ポケットでも持ってるのかいな。

 そして、悪びれる様子もなく、笑みは深まる。

 

「いつでも殺せる、なんて言いやしないよ。これはあくまでアタシが逃げるための小道具さね。

 なに、死にたくないからねえ」


 これくらいで怨将軍様を殺せるとは思ってないよ、と言われて俺も苦笑する。

 そしてその小心さには共感を覚える。


「ふむ、機会があれば一度お邪魔するとしようか」


 俺の言葉に、ほぅ、と息を吐く。助かった、とばかりに。或いは成し遂げた、とばかりに。


「じゃ、そろそろ失礼するとしようかね」


 前言撤回。その身の保身なぞあるものか。

 身を翻すその装束。裏地の深紅。真紅。見せつけるかのよな紅赤朱。


 鮮やかな去り際には脱帽の俺である。千両役者とはこのことよ。


 勝った負けたはやはり無意味さ。

 だって、凡人だもの。


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