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覇王、来襲者

 ずびび、と茶をすする。あ、いい茶葉だなこれ。そらそうか。

 ここで安い茶葉使ったら逆に担当者が案件である。


 うん、つまり暇だ。暇なのである。やったぜ、なしとげたぜ。

 俺がふんぞり返っていることを知ったのか、あれ以来、だ。いちゃもんをつける奴が出ることもない。

 突発的なテロとかもない。正直、十常侍がなんか仕掛けてくるかなあと思ったりもしたのだけれどもな。流石にそれをやったら戦争だわな。

 予定通り、平穏無事にプログラムが流れている以上俺の仕事などない。慌ただしく駆け回る官僚たちを見守ることしかできない。そう。見守ることしかできないのだ。


 頑張れ、頑張れ。


 ここで暇だからってなんか仕事もらいに行ったら却って迷惑だからなあ。

 と言って、居眠りするわけにも、他の仕事するわけにもいかないし。

 結局自分で淹れた美味くもない茶――茶葉は一級品――をすするしかないのよね。ちなみに陳蘭の淹れた茶より不味いぜ。濃ゆいだけで不味いという、資源の無駄遣いスペシャルである。蒸らすとか、理論は知ってるけどね。知ってるだけ。実践できるとは言ってない。

 まあ、平穏無事というのはいいことである。のんびりするのは俺の本懐。

 キリっとしながらだらけるというのはなんというか、得意ですよ。特技ですよ。きっとね。

 後はあれだ、せめて阿蘇阿蘇アソアソみたいな暇つぶしが欲しい。

 そんなことを考えていたら来客を告げられた。


 いやいや、何で俺宛てやねんと。

 麗羽様とか美羽様に行けよ。つーかまだ式典の途中だろうが。これだから空気読めない奴は困るなあとか思っていたのだが。


「二郎さま、曹操殿がいらっしゃいました」


 凪が俺に来客の名を告げる。わお。流石にこれは予想外。

 凪がどことなくいつもより緊張しているように見えるのは本来……正史における主と邂逅したからだろうか。

 彼女が曹操陣営に望んで行くとは思わんが……もしそう告げられたら俺はどうするのだろう。

 快く送り出すか、みっともなく泣きつくか。


 多分後者じゃないかなあ。マジでいい子だから抜けられると困るのよね。

 まあ、そん時は千金を積んでも慰留に努めよう。捨てないで、ってね。誠意とは金額なのだ、きっと。


 そんなことを思っている間に曹操が姿を現した。何だろうね、このオーラは。随伴は春蘭である。おう、おひさー。


 目であいさつするとにんまりと応えてくれる。ぶっちゃけ嫌いじゃないのよね、この脳筋美女。

 からっとしててなんというか、いいのだ。そう、いいのよ。これが人徳とか相性とかいうものかなあなどと思っていると曹操が口を開いた。


 いかんいかん。

 気を引き締めてその言葉に集中する。なにせ相手は三国一の英雄なのだからして。


◆◆◆


 曹操さんからは通り一辺倒の祝いの台詞をいただきました。どもです。

 返礼しながら凪にお茶を淹れてもらうことにする。

 本当は俺が淹れた方がいいのかもしれんけど、えらいことになってしまう。ここは素直に凄腕に任せるとする。いや、何度か飯作ってもらったことあるけど凪って超メシウマなのよね。凪を嫁さんにする奴は幸せものやで。


「へぇ……」


 凪の淹れた茶を喫した曹操が感嘆の声を漏らす。

 ふふん。

 ドヤ顔の俺である。


 って、ちょっと待って早速勧誘するとかいかんでしょ。いかんでしょ。


「あのですね、目の前で勧誘されると流石にね。ちょっと待ってよ、と言いたいんすけど」


 喧嘩売ってるのかと、むかつくよりも呆れてしまう。流石は人材コレクター。面目躍如といったところか。でも許しませんからね。


「あら、裏でこそこそと勧誘するのは性に合わないもの」

「裏でも表でもうちの大事な子を持ってこうとしないでくださいな」


 俺の言葉を叱責と感じたのか凪が緊張した面持ちで退席する。

 あんな素直でいい子を手放すとかありえんからな!

 というメッセージを込めた視線を送るが果たして凪に伝わったかどうか。


「んで、わざわざどしたんすかねえ。俺をご指名ということですが」


 幾分不機嫌さを出して……強引に話題を転換する。というか、本題だからいいだろう。いいよね。

 曹操とかいうのは来賓だからな。本来ここにいるべきじゃあないんだ。さっさと麗羽様とかのとこに行くべきそうすべき。


 俺の問いに僅かに思案する顔をして曹操が口を開く。


「そうね、そうよね。

 その、ね……。」


 何か口ごもってる。何であれ、だ。ずばずば言うのが貴女の持ち味だろうに。便秘か?いかんな、野菜食え、野菜。後はヨーグルトか?あれは腸内フローラルの調整だっけ?まあ、いいよね乳酸菌。


 ……って流石の俺もそんなこと口にしないよ?

 多分口にしたら春蘭にずんばらりんと南斗水鳥拳だよ?


 などとアホなことを考えている俺に構わずに言葉を続ける。


「一度きちんと礼を言わないと、と思ってね。

 貴方が私を陳留の太守に推挙してくれたんでしょ?」


 やだ……なんか癪に障った?お礼参り?つまり死亡フラグ?


「や、袁家の総意として推挙しましたから。俺の意向とか関係ないですから。関係ないですから」


 大事なことなので二回言いました。強調しました。俺とかいう凡人の意思とか関係ないから!関係ないから!


「あら、麗羽に聞いたわよ?

 私を陳留の太守に推挙することを強く薦めたのは貴方だって」


 麗羽さまー!何言ってくれてんすかー!

 あばばばばばばばば!


 目を白黒させている俺を見てくすり、と曹操が笑う。


「正直、意外だったのよ。

 てっきり私は貴方に嫌われていると思っていたから」


 はあ?


 何言ってんのこの子。


「ん?何をもってそう判断したかは知らないんすけどね。

 好きか嫌いかって言うと好きですよ、間違いなく」


 三国志とか大体まずは曹操でプレイするしな!

 色々アイテムも持ってるし人材も充実してるし!孟徳新書とか性能いいよね!農徳新書はそのもじりだからな!やったもん勝ちだからどう思ってるか知らんし肝心の書が出たかどうかも知らんけどな!


「な、何を言うのよ……」

「いや、実際誤解は解いとかないとですよ。

 だって嫌いな相手を推挙しようとは思わないでしょ?」


 曹操も個人の好悪が激しいからな。そして根に持つからな。ここは露骨にご機嫌とらないといかんだろう。嫌いじゃないアピールは実際大事。

 うん。そうすると、だ。さっきの物言いは……ちょっと偉そうだったかな。

 俺のアレな態度に怒ったのか少し頬を上気させながら曹操は言葉を返す。


「……じゃ、じゃあ前に桂花に言ったことは、その、本気、だったの?」

「ん?

 えーと、なんか言いましたっけか」


 あれ、ネコミミになんか言ったっけ俺。

 思案気な俺を上目づかいにする曹操。

 何か可愛らしいなおい。

 てか、やべえよ、やべえよ……。笑みとか本来攻撃的で何たらかんたら。


「その、私が、その。丞相になれるとか……」


 お、おう?

 ああ、あれね。ああ、覚えてる覚えてる。

 多分そんなことも言ったかもしらんなあ。


「ああ、本気というか、当たり前というか。

 太陽が東から昇るのと同じくらいな勢いなんですけどね。

 普通にそれくらいいけるっしょ」


 ぶっちゃけその後漢王朝から禅譲される下地まで作っちゃうしな!

 いや、この時代最高クラス……というかガチトップのチート英傑なのよね実際。


 俺の言葉にしばらく顔を赤くしたり青くしたりした後、キリ、とした表情で俺に問いかけてくる。


「貴方が私を評価してくれているというのはよしとしましょう。

 では、それはそうとして、そこまで評価している私からの誘いを断るというのはどういうことかしら」


 え。だって過労死したくないもん。

 とも言えず。


「んー、ええと、ですね。主君と部下の関係になりたくないっていうのですかね?

 部下になったらこんなふうに馬鹿な話もできないじゃないですか」


 部下になったらギリギリ死なない程度のノルマに追いやられそうだしな!

 ベンチャーかつBLACK太守の部下とか死亡フラグである。

 サービス残業はいややー!つか、残業自慢とかやってられん。


「へ、へえ……。

 わ、私の下に膝をつくのが嫌というのは、その……。

 私の横にありたい、ってことなのかしら?」


 なーんからしくなくしおらしい感じで曹操が重ねて問いかけてくる。

 んー、隣とかは置いといて、下に着いたら過労死しそうだからなあ。


「大筋でそんな感じですかねえ」


 きっぱりと答えて。あれ、これって結構喧嘩売ってない?

 お前は俺をこき使いそうだから部下になるのはお断りだっての。って言ってない?

 やべ。やっべ。これはいけません――。


「重ねて言うけど、能力どうこうじゃあないんですよ。

 俺は、そうだな。曹操殿、貴女という希代の英傑と並び立つ。そうありたい、と思っています。

 いや、分不相応とは思いますとも。所詮凡才であることは自身が一番分かっております。

 ですが少なくとも、袁家の。そして紀家の俺であればそれに近づけるかな、と思っております」


 ぶっちゃけ、主家と生家のご威光がなきゃ、俺なんて木端武将だからなあ。地位あっての俺ですと必死のプレゼンである。


「わ、分かったわ。ひとまずそれで納得してあげるわ」


 怒っているのか、頬を朱く染めてそう言ってくれる。

 ここは言質をとるべきそうすべき。


「ご理解いただけたようで何よりですよ。だからまあ、俺は俺なりに頑張りますってことでひとつ」


 ご容赦くださいませとばかりに媚びへつらった感じで頭を下げる。

 格下相手の楽な業務とは何だったのか。配下の官僚たちには見せられない光景であることよ。


「そ、そうね、精々精進しなさいな」

「まあ、俺なりに頑張りますともよ」


 よし、なんとか乗り切った!がんばった俺!

 これで過労死フラグは折ったぞたぶん!

 どひゃー、と内心で深く息を吐く俺に声がかけられる。


「そ、それと!」

「ひゃい?」


 まだなんかあんの?ご勘弁を!


「わ、私の真名を許すわ。以降、華琳と呼びなさい。

 それと変にへりくだった口調はやめなさいね!」

「な?え。と。

 ……二郎、ですだ」


 どういうことなの……。


「ええ、二郎、私は別に諦めたわけじゃないんだからね。

 麗羽のところが嫌になったらいつでも来なさいな、歓迎するわよ」

「いやいやいやいやいや」


 どことなく上機嫌な華琳が室を辞していく。

 ぽかんとしている俺の前に春蘭が立つ。そういやいたよね君。


「華琳様に真名を許されるとはなあ、流石だな二郎よ」


 ごす、と胸に拳をぶちあててくる。胸ドンとか新しいなおい。


「いや、正直わけわかんねえよ」

「ふ、分からぬならばそれでいいだろうさ。

 だがな、華琳様に真名を許されたのだ。無様を晒したら許さんからな」


 えー。それってバッドステータスみたいなもんじゃん。


「知らんよ。俺は俺だからな。無様を晒すし失敗もする。

 それを許す許さんとかは知らん。見放すなら今この瞬間だろうよ」


 大人しく帰ってくれませんかねえ。それがご不満なら真名も引き揚げてくれていいのよ?損切りって、大事だと思うのです。


「そうだ、それでこそ二郎だ。だから貴様は面白い。

 だから貴様は華琳様の真名を預かるに足るのだよ」

「ちょっと待って文脈おかしい……おかしくない?」

「おかしくないとも。

 普段は賢しいくせに、肝心なところで愚鈍よな」


 くく、と笑みを押さえて春蘭は去る。去っていく。

 その様は颯爽という言葉を全身で表現して、薫風を纏う。


 と、足を止め見返る様には爽やかな艶すら浮かび、刹那、見惚れる。

 ぐ、と拳を示す春蘭は実に様になって一枚の絵のようなのだ。なのだが……。

 いや、意味わからんよ?武人とかが分かり合うとかそういう回路俺にはないからね?

 いや、満足そうに歩み去らないで!今のやりとりで別に通じ合ったものないよ!ないよ?


 思うのです。

 やはり曹家の連中は鬼門にて災難だと。

 敬して遠ざけないといかん。はっきりわかんだね。

わかるかなー、わっかんねーだろうなー

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