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親友の彼女には気を遣うというお話

「お、二郎じゃねえか。

 おかえり。久しぶりの洛陽はどうだった?」

「ほいさ、ただいまっと。そして洛陽は相変わらずの伏魔殿さ……。

 金輪際立ち寄りたくないね。できたらね。できねえだろうけどね。

 張紘も元気そうでなにより。これお土産な。赤楽さんと呑んでくれや」


 やはりお土産は飲食物に限る!ほら、ペナントとか木彫りの熊とか貰っても困るやん?

 なので洛陽で買った銘酒と銘茶である。


 うーん、商会の事務所も久しぶりだなー。

 というわけで俺です。二郎です。

 午後の訓練を真桜謹製のジムでの筋トレに変更し、汗を流した後だ。いやあ、晴れた日に筋トレって何か贅沢な感じ!

 とはいえ、器具の説明で時間結構使ったけどなあ。


「おや、そっちの子は?」


 張紘が俺の後ろに隠れている流琉に目をやる。


「ほら、流琉。自己紹介だー」


 ずずい、と押しやる。


「は、はい!典韋といいます!二郎さまに拾っていただきました!

 き、紀家軍で、へ、兵站を任せ……任されました!

 よろしくお願いします!」


 まあ、兵站というよりはコックさんなのだが。尚コックさんが軍にて最強というのはよくある話である。

 ぺこり、と頭を下げる流琉に張紘は優しく声をかける。


「おう、こっちこそよろしくな。おいらは張紘っていうもんだ。

 一応、母流龍九商会を預かってる。

 ま、おいらも二郎に拾われたクチだぞ。そういう意味ではご同類って奴だな」


 いや、拾ったっていうよりは拝み込んで招聘したんだけど。三顧の礼とかの余裕もなく、すがりつくぐらいの勢いでの……ぶっちゃけ泣き落としに近かったと思う。

 しかもお願いしたのが商会の会頭とか……。商業が賤業とされているのに愚痴一つなく誠実にその職責を果たしてくれている。それも俺の予想以上に。

 うむ。

 張紘には頭が上がらないな。拝んでおこう。南無南無。


 しかし、マジで張紘がいなかったらとか思うと……寒気がするわ。

 ま、それはともかく本題に入ろうそうしよう。


「んでな、実はこの子に得物を見繕ってやってほしいんだわ」


 何せあの悪来典韋である。やっぱり何か専用武器を装備させたいじゃない?


「はぁ?正気か?」


 まあ、張紘の疑念も分かる。だってぱっと見幼女だもん。


「本気だとも。

 ってね。俺より普通に強いからこの幼女」

「そそそ、そんなことないですよー」


 わたわたと手を振って否定する流琉。が、嘘はいけないな、嘘は。

 ぽかん、とした顔の張紘がため息を一つ。


「まあ、二郎が拾ってくるんだからそういうこともあるだろうよ。

 いいさ、ちょっと待っててくれ」


 持っていた書類を置いて張紘が室を辞する。いや、フットワークいいのは相変わらずだけどやりかけの仕事はいいんだろうか。

 とか思ってたら赤楽さんが引き取って決済を始めたでござる。


「毎度のことながら、貴君が来たら……忙しくなるな」


 何か言おうとした俺の機先を制して赤楽さんは苦笑する。いつもならもっと鋭く俺を苛むのだが、今日は機嫌がいいのだろうか。


「ええとね。いつもお世話になっております……」

「その言が社交辞令ではなく本音であると思っていいのかな?」

「そりゃもう」


 結構――いつも――常時無理難題的な案件を相談の名のもとに押し付けてるからなあ。そ、沮授だってその元凶なんだぞ!とも言えず。


「ならば結構。

 無論貴君の誠意を疑ったことなぞないがね?

 まあ、燕雀のさえずりだとご寛恕願いたいな」


 いやいやいやいやいや。


「ええと、張紘に無理言ってるのは分かってるので」

「ならばよし。

 と言わせたいのだろう?

 なに、不満なんてないとも。

 今のところは、だけれどもね」


 現状維持を心掛けろということですね分かります。

 いや、俺だって張紘に負担を強いるというのは不本意なのだよ。

 探るような、薄く笑うような赤楽さんの視線に軽く頭を下げる。


「そう身構えないでほしいな。貴君に含むところはないし、待遇に不満もない。

 そう、問題なんてない。

 そう思わないか?」

「その通り。心の底から同意するものでありますともー」


 うむ。敵に回したらあかん人であることを再認識する。

 

「おや、張紘も戻ってきたようだな。

 それでは、今後ともよろしく」


 こちらこそ今後ともよろしくー!


◆◆◆


「こんなもんかなあ」


 そう言って張紘は卓の上にじゃらじゃらどすん、と武器を並べる。

 何か、禍々しいのから聖なる感じなのとかすげえカオスだぞ。

 リクエストとしては流琉の膂力を考えて鈍器を集めてもらっている。

※マトック最強論は除外しました。


「使いやすそうなのを選ぶんだぞ」


 俺の声に流琉はあれこれと物色している。

 しかし相変わらずここには謎なほど色々あるね。借金の担保とかあれこれなんだろうけど。


「二郎さま、うん。これがいいです」


 そう言って流琉が持ってきたのは漆黒の鈍器である。刻まれた装飾が梵字っぽいけど俺にはそれを解読するスキルは当然ない。まあ、形状は金属バットみたいで振り回しやすいよね。

 というかなんなのこれ……。


「ああ、それは降魔杵だな。悪鬼羅刹の類を滅するらしいぞ?

 使い手によっては形状を変化させることも可能とかなんとか。

 まあ、伝承によれば、だけどな」


 マジか。マジカルなのか。


「えと、二郎様?」


 そんなに高価なもの、と気後れするので……。頭をぽむぽむとはたいて後押しする。

 尻込みすることないんやで。

 金ならあるからな!いくらあるかは知らんけど!


「ま、流琉が気に入ったんだからそれでいいって」

「い、いいんでしょうか……」

「俺を悪鬼羅刹から守ってくれればそれでいいさ。

 だから……俺の悪来になってよ!」

「はい!わかりました!」


 なんてな。にひひ、と笑いながら流琉の頭をくしゃくしゃとかき回す。


 降魔杵。


 確か封神演義によれば韋護が使ってた武器だな。

 それのオリジナルではないにしろ、大した武器だろう。流琉が直感で選んだんだ。間違いはない。と思う。


 きっと、鬼に金棒、流琉に降魔杵になるはずだ。

 そんなことを思っていると紀家の使いが俺を呼び立てる。いかんいかん。

 麗羽様にお呼ばれされているのだったよ。いや、気にしなくてもいい。とも言えないもんね。


 張紘に礼を言って俺は軽く駆け出す。何やら張紘が叫んでいるが、それは後で聞くことにしようそうしよう。


 こういう時には加速装置とか欲しくなるね。そんなことを思いながら脚を早める。

 慌てたように俺を追う流琉の足音が心地いい。

 一生懸命についてくる、その足音。疑うことのない信頼。それに俺は応えていけるのだろうか。いや、応えなければならない。


 そして足を速めるのだ。

 たっきゅうどうー!

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