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細腕繫盛記完結編

「おかえりなさいませ」

「はいよ」


 出迎えてくれた陳蘭に荷物を預け、ずんずんと歩く。久しぶりの我が家である。

 帰路はずっと馬車の中だったから身体が固まっている気がする。こんな時は身体を動かしてやるべきだろう。身体のメンテ、大事。


 自室で椅子に腰かけ、軽く息を吐く。なんか疲れたなあ。ほんでもって、こっから通常業務の再開だ。となれば、武家の本分から取り掛かるべきだろう。

 あれこれ考える――傍から見たらぼーっとしてるだけな――俺に陳蘭は声をかけることはない。静かに、俺の指示があれば動けるようにしている。

 それを見習ったのか流琉も無言である。きょろきょろと落ち着かない様子ではあるが。

 おし、やはり体を動かそう。軍権の一部を預かる身としては現有戦力を確認するべきであるということで、ひとつ。


「うし、紀家軍集合させとけ」

「はい!」


手短な俺の言葉を受け足早にその場を去る陳蘭を見送り、軽く息を吐き出す。

使うにしろ、使わないにしろ手元にある軍は精兵であるべきだ。

無論、使わないにこしたことはないのだが、この先どうなるか分からんしなあ。


「流琉、三尖刀を持て」

「はい!」


 無言で控えていた流琉が三尖刀を手渡してくる。

 ……俺としては、小料理屋の一軒でも任せようと思ってたんだよ。

 でも流琉にそう言ったらあっさり断られてしまったのですだよ。


「私は二郎さまに救われました。これ以上甘えることはできません。

 ですから二郎様のお仕事をお手伝いしたいと思うんです」


 まあ、膂力で言えば俺より遥かに上だしな。とは言え、兵卒として使いつぶすつもりもないが、将とするわけにもなあ。


「やりたいことがあるなら、きっちり言っとけよ?」

「は、はい……」


 おずおず、といった風に流琉がこちらに視線を向ける。

 遠慮がちに、つっかえながらも一生懸命に主張するその言葉に俺は首を横に振ることはできなかった。


◆◆◆


「若……いくらなんでも無茶ですぜ」

「雷薄でもそう思う?でもまあ、そう言わんと、な」


 見てろって。


「いやいや、怪我ァ、さしちまいますやね」

「いいじゃん、本人はやる気だし」

「本気ですかい?」


 正気か?と視線で俺に問いかける雷薄。いやさ、諫めているのだろう。正直顔がおっかない。ただでさえいかついのだ。迫力三割増しである。

 そして優しく、正しい。とーちゃんが重用したわけである。


「まあ、言いたいことは分かる。でも本人たっての希望でな。

 俺も押し切られたってことさ」

「ちょっくら痛い思いさせますぜ?」

「……認識を改めるきっかけにはなるだろうさ」


 知りませんぜ、と吐き捨てる雷薄に心の奥で謝る。ごめんこ。

 認識を改めるのは雷薄たちなんだよなぁ……。


 そして向かい合う幼女と野獣。うん、背丈にして倍以上はあるんじゃないかな。

 勝負の方式はおなじみ……というか紀家軍独自のあれだ。相撲だ。

 俺が百人抜きしたアレである。忘れてる人も多いと思うけど俺だって実力で紀家軍を掌握してるのよ。 技の百貨店(自称)は、伊達じゃない!

 

 と。


「はじめ!」


 俺の掛け声とともに向かい合う二人がぶつかり合い。雷薄の巨体が空を飛ぶ。

 うん、予想通り。

 ぽかーんとした野郎どもの表情が滑稽である。とはいえ他人事ではないんだけどね。

 とか色々と考えているうちに百人抜き余裕でした☆

 うわ、ようじょつよい!ガチで強い!


「若……。ありゃ、どういうこってすかい?」

「どうもこうもない。強いものは強い。ちなみにまともにやったら俺も負ける。普通にな」


 俺の言葉に雷薄は黙り込む。まあ、目の前の光景を見れば思う所はあるだろうさ。


「二郎さまー!」


 無邪気な表情で流琉が駆け寄ってくる。

 うん、想像以上にすごかったよ。すごいよ。百人抜きして息乱れてないとか本当にすごいなあって思うよ。

 推定武力95以上ってのはこういうことなんだろうなあ。世界が違うや。あ、K●EI的な意味でね。


「雷薄も文句はないな?」

「むむむ……。あそこまで見せつけられちゃあ仕方ないですやね」


 なにがむむむだ。


「ま、よろしく頼むわ」

「へい、確かに」


 紀家軍の副将としての威儀を崩さずに頭をかかえるという器用な真似をする雷薄。

 そんな雷薄に構わず流琉が俺に飛びついてくる。ええい、幼女はどうして俺に飛びつくのだ!


「えへへー、頑張りましたー」


 うん、死屍累々だよ、100人が瞬殺だからねすごいよね。毎朝の訓練とかもう流琉だけでいいんじゃないかな。

 そんなことを思う俺に流琉がにこやかに宣言する。


「これで私が戦場でもお役に立てるとが示せましたー」


 えへへ、と期待を込めた瞳をこちらに向けてくる。

 はいな。約束だったもんな。分かってるって。


「と、言うわけで紀家軍に典韋を迎え入れる。異議ある奴は俺んとこに来い。俺もあるから心配すんな」


 げらげら、と野卑た笑い声が響く。どうやら流琉は新たな仲間として受け入れられたようだ。


「二郎さま、我儘を聞いていただいてありがとうございます!」


 まあ、そんなわけで流琉は紀家軍の、あれだ。

 最前線で働く料理人として紀家軍兵站部に居場所を作ったのだった。戦うコックさんとか……そんなの、沈黙するしかないじゃない。


◆◆◆


 流琉無双もひと段落である。もはや幼女とあなどる奴はいない。というか、最強クラスの武将の凄味を改めて実感する。いやー、この幼女がねえ。

 そんな俺たち紀家軍はフル装備+10kg程度の荷物を背負って20kmくらいのマラソン中だ。

 何と言っても兵隊さんは体力が命である。特に歩兵は走るのが仕事だしな!戦闘力とかは二の次以下である。つまり機動戦士なのだ!


 先頭を走る俺の横で流琉が嬉しそうにあれこれとおしゃべりしている。

 重い荷物とか屁でもなさそうだ。ちなみに俺はそこそこしんどい。


「わー、兎さんだー。最近お肉食べてないなあ。

 二郎様!捕ってきてもいいですかー?」


 貴重な蛋白源ですとばかりに視線を向ける幼女。捕食者のそれ。うわようじょこわい。


「その装備で野生の獣を取る自信にあふれる流琉が頼もしいよ。行ってきな」

「はーい」


 だだだー!と力強く駆け出す流琉。これが武力90台後半の実力か…。

 万有引力とか慣性の法則に喧嘩を売るような鋭角的な動きと加速を繰り返し……マジか。


「えへへー」


 嬉しそうに兎を俺に見せつける。はいはいえらいえらいぅゎょぅι゛ょっょぃ。

 先頭集団に――俺と流琉の二人旅でござる――辛うじてついてきていた雷薄は言葉を失う。


「若……」

「まあ、アレだよ。世の中にはあんなのもいるってこった」

「さいですか……」


 所詮この世は弱肉強食。とはいえ生まれ持った肉体的な素地でここまで差がつくと……思う所はある。

 でも呂布とか関羽とかそこらへんを基準にしても汎用性がないことこの上ないしなあ。

 兵卒にどこまでのレベルを求めるとか、割と難題であったりする。


 行軍を終えて、ほへーっと脱力する。

 流琉は自分の身長よりも大きな中華鍋をがっこんがっこん振るっている。

 疲れとかないみたいです。おかしいやろ。


 やっぱり料理が好きなんだなあと思う。まあ、流琉が幸せそうならそれでいいか。

 実際美味しいし。

 ちょうど、調理担当が引退したからナイスタイミングではあったのだよね。


 常時は料理担当、非常時は俺の護衛という感じで周知しとこうと思いました。


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