お出掛け
「おい見ろよ、井戸だ。へぇーこんな田舎だとやっぱ残ってんだなぁ...。」
「な、花火いれてみようぜ、さっきのあまってるし」
「不味くね?それ」
「どうせ中は水だろ。大丈夫だって」
「そうだな、よし、火付けるか」
「ここはロケットといこう」
「なんだ、なんも起きねえな」
「あたりまえだろ、花火爆発して終わりに決まってんだろ」
「帰ろーぜ、俺家に帰ってみたいのあるし」
「なにみんの??」
「男のたしなみさ」
「俺は悪いけどこのまま帰るから」
「おぅ、車で送っててやる」
「それがないと俺は帰れない。ここまで、お前ので来たんだから」
「ほんとそれな」
友達に誘われた。「そんな湿気の多いところいないで、外に出ていきなよ!!」と言われたけど、私だって時々外に出る。それこそ這ってでも。
でも、最近は外に出なくなった。今は昔と違ってビデオがほとんど衰退した。私はビデオが大好きだ。古くなると「いかにも」というようにテープがダメになるところとか扱いやすいところとか。DVDやBDは嫌いだ、ポイントに飛ばすことができるなんて。ちゃんと見るならせめて早送りでしろよ!!。おまけに光に当てると反射するし。眩しいわっ!。
とりあえず、そんなところだから外に出なくなった。ある意味ビデオが無くなると私の需要も減るのだ。
そうこうしているうちに、友達が迎えに来た。「おまたせ~♪。さ、出掛けるよ!!」。
そんな上から呼ばなくても気配で分かる。私は重い足取りで.....いや、それに手も使って這い上がり始めた。太陽が眩しい....日焼けしたらそれこそ私じゃなくなるというのに.....。
「さだっち、相変わらず白いね~。その肌と服といい」と友達は言う。「何年くらいあの中にいたの?」
「そ、そうね......7年くらいかな」と私。
「え?、短すぎない?、なんで?」
「7年前にそれがしが寝てるっていうのに、上から花火を落としてきたうつけ者がおってね、マジチョベリバだったから、その男が何やらいかがわしいビデオを見てっときに「あぁぐぅわ、、」とか適当に叫びながら、そのうつけ者の目の前に参上し」
「ちょ、タンマ」。友達が私をみる。
「え、え、なにようか?お岩殿」。
友達...お岩は私を見つめて言う、「あんたキャラぶれてる」。
「え、そうかな?」
「あんた、今なに時代だと思うの?」
「と、時は戦国」
「んなわけ( ´,_ゝ`)」
と、本当にこんな顔文字のような表情をお岩はした。
「あんた7年前に出たんでしょ?そのお漬け物だかうつけ者を脅かすために」
「そだよ~」
「んじゃ、せめてその時『平成』だということ分からなかったの?」
「めんご、そんなの感じてるヒマなかった。だって井戸の中に何百年いると思って」
「いやいやいやいや、だからこそそういう時間感覚には注意してよ!!。私たちみたいなのは時代に付いていかないと、単なる古くさいお化けになっちゃうし。てか、あんた戦国時代に人間だった頃から産まれてないでしょ!!」
「それなー☆」
「なんで「それなー」とか、変なところは付いていけるの?」
「昨日『あいのり』観てた」
「それ、もう終わってるよ?」
「えぇ、じゃぁなに私が観ていたのは?、無いものを観ていたの???!!、マジ怖ぇーー!!!」
「あんたが一番怖いわ!!」
お岩から簡単な(といっても、現代をいきる我々にとってはごく当たり前な)レクチャーを受けた私は、早速町に繰り出した。
「で、お岩。どこ行く何するのー?」
「あんた昔、「一度で良いから大学行きたい」って言ってたでしょ?」
「うん」
気づくと駅についた。切符を買って(「乗り方」だけは昨日ググったぜ☆)電車に乗り込む。
「今回はそれを叶えにいきまーす、イェーィ!」
「ね、ちょっと待って」
「何よ、さだっち?」
「大学というのは男子だけしかいけないんでしょ?私みたいな女子は行けないんじゃ?」
「あんた古いよー、70年前の日本からやり直した方が良いかも(笑)。ま、はっきり言って時代が変わったの。もう男女関係ないよ」
「マジ!、うわ楽しみ!!」
「でも、あんたその服装はダメだよ。全身真っ白なんて。お医者さんみたいだし。ちょっと途中で服を買ってから行こう。」
「どこで?」
「ひ・み・つ❤」
「それ、うざい」
電車は二人をのせてひたすら走る。途中で人が乗ってきても二人の姿を見て特に目を向けることはない。いや、というより「あえて見ないように」しているのだと思う。それは姿というより貞子の白い服のせいかもしれない。
「そういえば、この前(彼女らにとって5年程度なら「つい最近」だ)映画みた?貞子3D」
「私見てないんだ、井戸で寝てたし」
「ちょ、あんたそこは「自分」を描かれているのだから見ときなよ。すごい似てたよ、さだっちに。あの橋本愛は絶対あんたの末永だよ」
「私子供いないから。そういうお岩だって、整形して誰かにか似せたんでしょ?」
「そうだよ」
「あの時、本当にびっくりした。久しぶりに会ったと思ったら顔が違うんだもん」
「でもね、もう少し鼻を高くしたかったんだよね。堀北真希みたいに」
「大丈夫、十分似てるから、堀北真希に」
そろそろ降りる駅が近づいてきた。これから服を買って、今度は地下鉄に乗り換えて北に向かう。
扉が開くと大勢の乗客の中に2人の姿があった。2人はてを繋いで階段を登り、改札を通って外に出た。まだまだ夏は遠いのに暑い。さすが5月。
「で、どこに行くの?」
「そこのH&M♪」
「?。ま、お岩が言うところだから大丈夫だとは思うけどさ」
「私たちが妖怪になって良かったところは、永遠に残り続ける代わりに永遠の若き美しさを保てることだよ!。おもいっきり現代の男どもにみせつけよう!!」
2人は駅から繋がる「デッキ(大きな歩道橋みたいなものだ)」を歩いて店に入って行った。
~40分後~
「わ、私じゃないみたい」と私は思わず呟く。そうお岩は私を徹底的にコーディネートした。まるで私を人形とでも思ったかのように。
「髪はとりあえずそこら辺の床屋で切るから。ね!、さだっちも立派な「女」なんだよ!」とお岩が言う。
ただ、お岩は心のなかでは全く違うことを考えていた。
「さだっち、私とマジ結婚してほしい!!!!!」
一応言う。あくまで「ずぅーと、一緒にいたい」という意味だ。同性婚願望ではない
.....はずだ。
床屋での散髪(お岩いわく「本当は美容室だよね」)を済ませ、長すぎる髪を脇の下ぐらいまでの長さに整え、地下鉄に乗り込んだ。
今度は多くの人々が彼女たちに目を向けた。それだけ輝いていた彼女達は。何百年の時というのを感じされないほど、若く、美しく。
続く
「いいなー、地下鉄って。暗くて。まるで井戸の中にいるようで...車内も暗かったら最高なんだけど...」
「さだっち、次の駅は半地下だから進行方向に向かって左の窓から地上が見えるよ。公園だから景色がいいよ~♪」
「?、う、太陽光がぁー!!!私は太陽を浴びると体が溶けてしまぅっ!」
「さだっち、それ違う妖怪だから」