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プロローグ 幸福のかたち

アスファルトの緩やかなスロープを抜けた先のその両端には様々な様式の戸建住宅のモデルハウスが建ち並んでいる。ここを訪れる人々は、自らの幸福をかたちにする事を実現する為にやってくる。

わたし、高坂真司と妻の友紀子、そして一人娘の沙耶香の3人も、世界中のどの家族よりも幸福をかたちにする事を求めていた。


わたしと友紀子が自宅を新築する考えになったきっかけは、昨年のクリスマスに家族3人で出かけたピアノコンサート鑑賞以来、今年で4歳になる沙耶香がピアノの演奏に興味を持った事だった。

わたしと友紀子が結婚して以来の住まいはわたしの父、高坂武司の所有する、港区の広大な敷地に建つ、閑静な平屋建てのマンションだったが、建物が古いためにピアノの演奏をするために適切な防音構造は備えてはいなかった。

 

当初はリフォームでの防音工事も検討したが、丁度、父武司所有の賃貸に出していた港区の一戸建ての借主が転勤による転居で立ち退く事が決まり、そちらの土地を利用して自宅を新築する事にした。


父武司は、祖父から引き継いだ貿易商を手堅く営んでいたが、急激な円高と経済の構造変化に先行きを不安視し、バブル崩壊後に暴落した不動産に目を付け、当時の資産で可能な限りの東京都内の一等地の不動産物件を購入した。

父は不動産を業とする事はなく、大手の不動産会社に全てを委託した。後の東京一極集中型のミニバブルの影響で父の所有する都内一等地物件の家賃が高騰すると程なく父は家業を廃業した。


わたしは、高坂家の一人息子で、わたしが生まれた時には父はすでに40を過ぎていた。また妻の友紀子も一人娘だった。高校を卒業と同時にわたしはアメリカへ留学しボストンの大学を卒業した。

留学の目的は主に語学の習得であったが、先行するアメリカのインターネット技術、ビジネスに興味を持ったわたしは、大学卒業後もアメリカに留まり次代を担う新たな技術、ビジネス論を身に着けた。

当初反対していた父を説得して支援を得たわたしは、帰国するとすぐにアメリカで知り合った学友と共にインターネットビジネスコンサルティング会社を設立した。


わたしの事業は時代の波にも乗って、父や母美佐子の心配を他所に順調に推移し、今では二人とも安心して見守ってくれている。わたしが二人を一番心配させたのは帰国後すぐに会社を開業した事よりも、結婚相手に友紀子を選んだ事だったかも知れない。


わたしが初めて友紀子を父武司と母美佐子に紹介した時の二人の驚いた表情はいまでも目に焼き付いて忘れる事が出来ない。友紀子と二人は、もちろん初対面だったが、二人にとって友紀子は全く知らない存在ではなかった。友紀子は、2008年のあるあの日の出来事で、無名の一般人でありながら週刊誌に取沙汰され、その時友紀子のプライバシーはあることないこと含めて世間に曝されることとなった。そんな友紀子の記事をわたしの両親も周知していて、母の美佐子は友紀子の写真記事を見ながら

「この人、キレイな女性ね」

と、わたしが友紀子とごく近しい知り合いであることなどつゆ知らずに呟いていた。


友紀子を初めて紹介した時、二人は驚き困惑したが、直に接した友紀子の心根の美しさに触れ友紀子を気に入り、わたしの友紀子への愛情の深さも理解してくれた。その時、友紀子の両親はすでに他界していて兄弟姉妹もいなかった。


その時以来、友紀子はまるで実の娘の様にわたしの両親に接して敬い、そして時に甘えることもあった。父も母もそんな所謂天涯孤独な境遇の友紀子を愛おしく思ってくれて実の両親の様に接してくれ、わたしと友紀子は程なく式を挙げて入籍をした。式に出席したのは、わたしの両親とわたしの会社で専務を務めている三瀬夫婦だけという簡素なものだったが、わたしも友紀子も指輪の交換では感極まって涙が止まらなくなり、いつまで経っても友紀子がわたしの指に指輪をはめれなかった事が、今では笑い話になっている。


結婚後1年で生まれた娘の沙耶香は、高坂家を更に明るく輝かせてくれ、父も母も初孫の沙耶香を溺愛した。そんな沙耶香のための自宅の新築に、父も母も喜んでわたしたち三人のために港区の200坪の敷地を提供してくれ、高坂家の更なる幸福のかたちの実現を望んだ。


どんな家が良いか?わたしと友紀子の間では合意ができていた。二人が望んだのは新婚旅行で行ったカナダの山の街”バンフ”で見た山小屋風の木造の暖かい家が理想だった。バンフはわたしがアメリカに留学していた時に小旅行で出かけた街だった。わたしはアルバイトで資金を貯めては、カナダのバンクバー、そしてバンフによく出かけて色んな刺激を受けたことを友紀子に話し、友紀子は新婚旅行の行先にカナダへ行くことを希望した。

わたしと友紀子が意見が一致している、あとは我が家の一人娘の合意が必要だった。

「沙耶ちゃんは、どんなお家がいいの?」

ある日友紀子が沙耶香に尋ねた。

「わたし、...さやかはねぇ~え。...可愛いお家が良いわ、ママ」

友紀子は嬉しそうに表情を崩して新婚旅行で撮ったバンフの山小屋風の家の写真を沙耶香に見せると

「ねぇ~え、沙耶ちゃん、こんなのはどう~?」

「可愛い~、ママ、ここはどこなの?」

「ここはね、パパとママが旅行で行ったところなの、カナダっていうところよ」

「ふ~ん...さやかも行きたいな...」

最近富に好奇心旺盛な沙耶香は、自分だけがカナダというところに行っていないことに少々不満の様だった。

わたしは沙耶香を抱き上げてなだめながら、

「沙耶ちゃんがもっと大きくなったら一緒に行こうね!友紀子、沙耶ちゃんも賛成みたいだから明後日の午後に時間を空けるから三人で展示場に見学に行こうか?」


「ママーっ、あれが良いわ、あれー、ねっ?」

三月初旬の平日人気のない住宅展示場に沙耶香の声が響き渡った。沙耶香の瞳の先には、友紀子が沙耶香に見せた写真と瓜二つのモデルハウスが建っていた。

「そうだよ、これだよ、これ。」

わたしたち3人はまるでサンタクロースが主であるかの様なそのモデルハウスの方向に歩を進めた。

「沙耶ちゃん危ないわよ。」

友紀子は駆け出そうとした沙耶香の腕を取り、わたしは友紀子の肩を抱いた。


「これって勝手に入っても良いのよね?」

玄関まで辿り着くと友紀子が心配そうにわたしに聞いてきた。

「いいさ、どうせ監視カメラかなんかで見張ってるから。さぁ入ろう!」

わたしが勢いよく玄関の扉を開けると、外の寒気とは違う暖かい空気と無垢のパインの香りがわたしたちの頬で揺れた。

「良い香りねぇ~?沙耶ちゃん」

エントランスで立ち止まり頭上の吹き抜けを眺めていると部屋の奥からスリッパが床を鳴らす音が聞こえてきた。


「こんにちはようこそお越しいただきました、どうぞお上がりくださいませ。」

二十代前半と思しきスレンダーないかにも受付嬢らしき女性がわたしたちの前に現れた。

「沙耶ちゃん、上がらせてもらおうか?」

友紀子が言うと沙耶香の手を取り、二人はリヴィングの方へ入って行った。

友紀子は娘である以上に幼き頃の自分にそっくりな沙耶香が愛おしくて堪らない。

「沙耶香には幸せになってほしいの」

それがわたしとの夫婦の会話での友紀子の口癖だった。


「あの~お客様、今日は初めての見学でいらっしゃいますか?」

受付嬢が少し神経質に慌てた感じでわたしに尋ねた。

「ええ、今日が初めてですよ、少しゆっくりさせて頂きますね。」

わたしが答えると、受付嬢は微笑み安心した様子だった。

アポなしの急な来店で、営業担当間でお客が重複しないように配慮しているに違いなかった。


わたしと友紀子は、ある銀座の高級クラブで偶然出会った。わたしはお客、友紀子はその店のナンバーワンホステスだった。友紀子は独身だと自己紹介をしたわたしに対してほとんど興味を示さなかった。対してわたしは友紀子、当時は理紗と名乗っていた初めて会ったホステスに一目ぼれをしてしまった。

後々、あの日の出来事の後、わたしは使命感をもって友紀子をサポートすることを心に誓い、わたしの思いも友紀子に通じるようになり、二人は何時しか交際を始めることになった。

本格的な交際を数か月した後、わたしは友紀子にプロポーズをしたのだが友紀子がそう簡単には首を縦に振ることはしなかった。わたしは友紀子に言った。


「友紀子さんっ、僕もこう見えて結構やらかしちゃってた時もあったんですよ。結果として起きた出来事については自分の意志だけではどうにもならない事も沢山あるじゃないですか?・・・・マスコミや周りの事は放っておけば良いです。興味本位で見てる人たちなんて面白けりゃそれで良いんですから。少なくとも僕の両親はあなたを理解し、あなたを歓迎してくれています。人生は自分を見つめて、自分なりの生を懸命に生きるしかない、と僕は考えています。僕はこれからもずっと友紀子さんの事も見つめていたい。それから...僕にも過ぎ去ったけれど大切な思い出は沢山あります。僕は現在、そして未来の友紀子さんと同様にあなたの思い出...大切な思い出を大事にするつもりです。そのことは僕にとってもとても重要なことなんです。....僕と結婚して下さい」


「ほんとこのお家暖かいわねぇ~?」

モデルハウス中の探検を終え沙耶香を連れリヴィングに戻ってきた友紀子が思わず呟いた。

「そうだねぇ~、これって暖房点いてるのかな?」

その時、二人が戻ってくるのを待っていたように受付嬢がリヴィングに入ってきた。

「ご担当をさせていただく者がもうしばらくで参りますので、その間お茶をお持ちさせて頂きます。皆さん何がよろしいですか?」

「じゃあ、わたしは日本茶で、妻と娘にはミルクティーをお願い出来ますか?」

わたしたちは程なく運ばれたお茶を愉しみながら今後の予定、主に沙耶香のこれからの進学などについて議論した。

「わたしは一貫教育の女子校だったから...沙耶ちゃんはどうするのが良いかしら?」

友紀子は昔を思い出すように遠くを見つめながら言った。

「ひとつ発想としては、将来を考えてインターナショナルスクールっていうのはどう?」

とわたしが答えると友紀子は目を輝せながら大きく口を開けて頷いた。

「そうね~、それはいいかも知れない?ねぇ~、沙耶ちゃん?あれっ眠くなっちゃったの?」

友紀子が眠そうな沙耶香の顔を覗いた時に、営業担当と思われる男が一人リヴィングにやって来た。


「いやぁ~申し訳ありませんっ、大変お待たせしました!」

よく通る大きな声のその男は、わたしたちの前へ回り込みシングルソファーに背筋を伸ばして着座をし、改めて遅れたことを頭を下げ謝罪した。

「ほんとうに申し訳ありませんっ、ご契約者さんとの電話が長引いたものですから...」

わたしと友紀子は頭を下げるその男をただ黙って凝視した。

わたしに友紀子の緊張感が瞬間的に伝わり、友紀子の心臓の鼓動が聞こえるようだった。

「そんな馬鹿な...」

わたしが心の中で呟くと、友紀子が微かに聞こえるくらいの声で囁いた。

「恭平さん.....」

友紀子の小さな囁きに気がついた男は、上目使いでゆっくりと恐る恐る顔を上げて言った。

「あの~?どうかしましたか?」

「いや、なんでもないんだ...」わたしが答えると男は打って変わった態度で

「そうですか、じゃ大丈夫ですね?お待たせしましたっ!わたくし皆さんのご担当をさせて頂きますっ、

山本 隆と申します。どうぞよろしくお願い致しますっ!」

「山本さんかぁ~...」

わたしのおかしな反応を疑問に思っ山本は

「えっ、どうかしました?何かあったら言って下さいね」

と言っては呆然と山本のことを見つめる友紀子の方を向いては尋ねた。

「奥さんっ、どうかしましたか?わたしの顔に何か?...」と言いながら山本は自らの顔を左手で弄った。

「いや何でもないんだ...ないんだけど...」

代わりに答えるわたしに向かって山本は

「え~、ないんだけど...どうされたんですか?気になるなぁ~」

と駄々っ子のように少し拗ねた表情を見せた。

「あのね...」

わたしは予想もしなかったこの事態をどう収めるか一瞬考えた後、山本の眼をしっかりと見据えながら真顔で答えた。

「実は、わたしの妻は...君みたいな男がタイプなんだ」

すると呆然としていた友紀子が瞬時に顔を真っ赤にしてわたしの左肩を思いっきり叩いた。

「ちょっと止めてください...もう、真司さん...」

わたしは図に乗ったフリをして友紀子に反抗した。

「だって、友紀子ほんとのことじゃん?...」

「もう真司さん、...山本さんに失礼でしょ...」

友紀子は顔を益々赤くしてわたしの左肩を揺すった。

「そうなんですか?いやぁ~残念ですね~...わたし先月結婚したばっかりなんですよ」

わたしたちの様子を見ていた山本が気を効かして合いの手を挟んでくれた。

「そうかぁ~、新婚さんじゃ~無理だね?友紀子」

「もう~知りませんから...」

拗ねた友紀子をわたしと山本はしばらくからかい、三人は揃って顔を見合わせ笑い、思わぬことで意気投合した。


八頭身の引き締まった痩身の体躯に切れ長の奥二重の目に笑うと目尻に集まる皺まで。友紀子にとって決して忘れることの出来ない、そしてわたしにとっても大切な思い出の人。羽田恭平に山本 隆は何から何までそっくりだった。


「ではこちらの方にご記入お願いします」

山本は高坂家がいかに自宅を新築するかに至ったかを興味深く聞いてきた。

「ではさっそくこのモデルハウスを回りながら細部についてご説明しますので」

わたしが立ち上がろうとすると友紀子がわたしの袖口を摘まんだ。

「真司さん、沙耶ちゃんがおねむさんだから、お願いします」

「奥さん、ちょっと待ってくださいね」


山本は奥に下がって先ほどの受付嬢を連れてきて、友紀子と沙耶香を二階の寝室にある子供用の仮眠室に案内するように頼んだ。

「じゃあ、僕が説明聞いてくるから沙耶香とゆっくり休んでね。山本さんお願いします」

山本が丁寧に一つ一つ説明をしてくれて、わたしがその都度考えているプランについて山本に質問するといった形式で、私たちは一階からゆっくりと一つずつの部屋をまわることにした。


沙耶香のお昼寝に付き合うつもりだった友紀子だったが、実際に深い眠りに入ったのは友紀子の方だった。愛する娘とはいえ初めての育児の疲れを一般的なお母さんたちと同じように友紀子も感じていた様だった。

子供用のベッドで眠る友紀子と沙耶香には受付の女性が気を利かせて軽いフリースの毛布を掛けてくれていた。先に目を覚ました沙耶香は子供用の小さな出口から隣の主寝室に出て木枠の大きな天窓をぼんやりと見上げた。その天窓のガラス窓には小さな綿の様なものが落ちては天窓の緩い傾斜に滑っては下の方に溜まっていた。


沙耶香は急いで子供部屋の友紀子のところへ戻り友紀子を起こそうとしたが、4歳の沙耶香から見ても美しいと感じる母友紀子の寝顔に一瞬戸惑いながらも、沙耶香は頬を友紀子の頬に摺り寄せて起こす事にした。


頬に伝わる柔らかい感覚に目覚めた友紀子の目の前には沙耶香の透明なさくら色に輝いた笑顔があった。


「な~に沙耶ちゃん?」

一瞬顔を離した沙耶香はその小さな指で友紀子の頬をゆっくりとなぞった。

「ママ、きれいだね」

「そう、ありがと」

友紀子は答えては沙耶香を抱きしめた。沙耶香は友紀子の耳元で

「ママ、窓に何か落ちてるの、白いお砂糖みたいなね。」

「あ~、沙耶ちゃんそれは雪だね。そうか、沙耶ちゃん雪見た事なかったのね」

と言うと友紀子は体を起こし沙耶香に告げた。

「よしっ、見に行こうか!」


二人が主寝室へ出た時には天窓は全て雪で覆い尽くされて窓の外は景色が霞むほどだった。

「すんごいね~ママ、さやかはじめてだよ、こんなの~」

友紀子は沙耶香を抱き上げ耳元で囁いた。

「沙耶ちゃんね~、3月に降る雪っていうのは、忘れ雪っていうのよ」

「忘れ雪?・・・どうして?」

「忘れた頃に降る雪だから忘れ雪かな?・・・・・それとも・・・真冬に降るのを忘れた雪が思い出した様に降るから忘れ雪・・なのかしら」

「ふ~ん、ママにもどっちだかわからないのね?」

「そうね、ママにもたくさんわからない事はあるわよ、たくさんね」



「ママ、なんかドキドキしてるよ?・・・大丈夫?・・」

沙耶香を抱きしめる友紀子の脳裏にはあの時の記憶の残像が浮かんでいた。それは徐々に窓の外の景色を遮る雪のスクリーンに浮かび上がり、鮮明な映像として友紀子の瞳に映し出され、溶ける雪のように溢れ流れた。


2008年2月のあの日も東京では雪が降っていた。

その場にいたわたしは、何もすることが出来ず、友紀子と恭平の姿をただじっと見つめていた。


「じゃあ高坂さん、次は寝室ですっ」

山本に案内をされて寝室に入ると、そこには友紀子の震える背中とその肩越しに沙耶香の泣き顔が見え、その窓の向こうには雪景色が広がっていた。

「奥さん...大丈夫ですか?」

わたしは驚く山本を柔かく眼で制してから窓の外の雪を見つめながら友紀子と沙耶香にゆっくりと近付いた。

わたしは、沙耶香を左手でそっと抱き上げてから空いている右手で友紀子を包みこんだ。

しばらくそのままにしていた後、わたしは口元を友紀子の耳に寄せてそっと聞いた。

「恭平さん?....」

友紀子は無言で深く頷くと、可能な限りはっきりとした口調で答えた。

「でも....大丈夫。心配しないで....」

わたしが友紀子の髪の毛を撫でると友紀子は再び思いつめたような表情になって、そして呟いた。

「もう少し....、このままでいいかしら?」

「ああ~、いいさ、友紀子」

わたしは答えて再びしっかりと友紀子を抱きしめた。


友紀子が羽田恭平のことを思い出して激しく感情が高ぶったことは今回が初めてのことではなかったが、そのことでわたしが動揺、あるいは恭平に対して嫉妬心を燃やすことなど一度もなかった。友紀子とわたしにとって大切な思い出の人。友紀子にとって恭平は決して忘れることの出来ない初恋の人で、そして友紀子がこの世でもっとも愛した男だった。そしてわたしにとっては友紀子とわたしを強く結びつけてくれた人。その人こそが恭平だった。












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