綾乃の使い
短いですが、きりが良いので。
しばらくウカお姉ちゃんに抱きしめられてやっと解放された。鈴音は疲れた顔してた。ごめんねえ。
今はあたしの神社の拝殿の中。もちろん鈴音も一緒、あたしの隣に座っている。そしてあたしのジャージの裾を掴んでる。なにこれ?もう動作一つ一つが可愛くて仕方ないんですが!もう一度抱きしめてもいいですか?あたしは抱きしめたい衝動にかられながらウカお姉ちゃんに聞いた。
「あの、ウカさ…じゃなかった。ウカお姉ちゃん。鈴音はあたしの使いなんですよね?」
「うむ。綾乃の使いじゃ」
「ということは、このままお持ち帰りしても良いって事ですか?」
「もちろんじゃ。そうでなければ使いの意味がなかろう?」
まじですか!?うわー。こんな妹欲しかったんだよね。弟はいるけど生意気だしさあ。もうお姉ちゃんがこれでもかってくらい可愛がっちゃうよ?ほんとに。まずはあたしのお下がりのあの服を着せて…。
あたしが妄想にふけっている中、ウカお姉ちゃんが少し考えるようなそぶりをしていた。
「綾乃よ。鈴音は神力も強いし頭もよい。じゃが伏見から出たことが無い。なのでな?外の事は全くと言ってよいほど何も知らぬ。つまり力はあるのじゃが使いとしては不十分なのじゃ」
「世間知らずって事ですか?」
「うむ。じゃからもう二~三匹綾乃に使いを付けようと思う」
一瞬思考が止まった。
は?もう二~三匹って?いやいやいや…無理でしょ!だってあたし新神だよ!しかも今日なったばかりの!力の使い方も知らない若造ですよ?それに…。
「あの…。ウカお姉ちゃん。あたしまだ神さまなり立てですし…。あたしには鈴音だけでいいです。鈴音を大事にしたいです。使いとしてではなく家族として」
あたしは鈴音の頭を優しくなでた。そんな鈴音は何のことか良くわからないのかきょとんとしている。あーもーかわいいなあ。うちの弟とは大違いだよ。ほんとに。
「うーむ…」
ウカお姉ちゃんは少し悩んだあと、あたしを見て優しく微笑んだ。
「ならばこうしよう。儂の使いの狐を貸す。鈴音が一人前になるまでな」
え?貸すって?もう決定事項ですか?狐さん可愛いしもふもふだし嬉しいけどさ…。あたしに24時間もふもふしろとおっしゃるのですか?なんですかその天国。いや…もふ死してしまいますよ?っていうか神さまって死ぬの?
あたしが明後日の方向に暴走?していると、ウカお姉ちゃんが使いの狐を呼んだ。
「コンとギン。出てまいれ」
「ウカ様。ご用デシか?」
「なんでしゅか?」
ウカお姉ちゃんに呼ばれて二匹の狐が出てきましたよ。一匹は薄い黄色い狐でもう一匹は薄い銀狐。やばい、可愛い…。もふもふしたいいいいいい!
え?なに?さっきからソレばっかりだって?しょうがないじゃん。目の前に可愛いくてもふもふしてるモノがいるんだよ?実際に目にしたらわかるよ。これはしょうがないってね。
「コン、ギン。お前たちは暫く綾乃の使いじゃ。綾乃は神になったばかりじゃからお前達が手助けしろ」
「はいデシ。綾乃様。私はコンと申します。よろしくお願いしますデシ」
「よろしくおねがいしましゅ。僕の名前はギンでしゅ」
コンと名乗ったのが黄色い狐さん。ギンと名乗ったのが銀狐さん。二匹とも色も違うし独特な話し方だから間違えないね。
それにしても可愛い…。今日はこんなのばかりだよ?いいの?こんなに幸せで?あたし明日死ぬかも。
あたしは二匹を抱き上げて頬ずりした。んー気持ちいいもふもふもふもふ。
「コンちゃんとギンちゃんね。こちらこそよろしくね」
二匹はあたしの腕の中で頷くと、隣にいる鈴音に気が付いたみたい。何か二匹とも驚いてるよ。何でだろうね?あたしが不思議に思っていると二匹が聞いてきた。
「なんで鈴音様がここに居られるデシか?」
「…鈴音様が外に出られるなんてめずらしいでしゅ」
え?え?今なんて仰いました?え?鈴音様?って言ったよね?もしかして鈴音って偉いの??
「鈴音は綾乃の使いにするために伏見から連れて来たのじゃ。鈴音にとってもそれが良いと思うてな」
「ウカお姉ちゃん?鈴音って…。普通のお使いさんじゃないんですか?」
「うむ。鈴音は使いの中でも稀有な存在という事は言うたがのう。鈴音はな、実は神候補だったのじゃ。産まれた時から類稀なる神力の持っておってな。今まで伏見から出したことが無いのじゃ。幼くして神と呼べるほどの神力の持ち主じゃからな。それを利用しようとする邪な輩もおるじゃろうからのう…」
「そうだったんだ…。鈴音。大変だったんだね……」
あたしは鈴音に目を向けた。鈴音本人は気にしてない様子だ。少し飽きてきたのかな?鈴音は足をぶらぶらさせている。もう少し待っててね。
「ウカお姉ちゃん。でも、そんなに鈴音の力が強くて外があぶないのに、あたしみたいな新神の所に置いて大丈夫なんですか?」
「上の者達はともかく儂は鈴音を無理に神になぞしたくなかったからのう…。鈴音もそれを望んではおらぬ。まだ幼いのに遊ぶこともままならぬ鈴音にとって、綾乃はちょうど良い居場所になるかと思うてな。それに綾乃。お前は自覚が無いが鈴音よりも神力が高い。先ほども申したが普通の人間が一目で神だと認識できるほどじゃ。綾乃に害なす邪な者は容易には近づくことすらかなわぬ」
「でもウカお姉ちゃん。今日だけで2人の妖怪さんに会いましたよ?学校妖怪のマリーさんとオクリイヌのポメちゃん。ポメちゃんははじめあたしを食べようとしてたみたいですし…」
「それは綾乃に対して敵意がなかったからじゃな。敵意とは邪な心じゃそれが強ければ強いほどに綾乃の神力と反発する。綾乃の神力に勝る敵意が無い限り綾乃に害なす事はできぬ。オクリイヌは転ばぬ限り敵意は無いからな。転ばぬ限り無害じゃ。もし綾乃がそこで転んでしまったら襲ってきたじゃろうが、その時は綾乃の神力で消されてしもうたじゃろう」
「なるほど…」
「じゃから神力の強い綾乃のそばに居れば鈴音の安全はある程度約束されておる。鈴音自身もそこら辺の妖怪では適わぬほどの神力を持っておるしのう」
そうかそうか、なるほどねえ。つまりあたしの傍にいれば鈴音は安全という事ね。あと一つ間違えてたらあたしはポメちゃん消しちゃってたのね…。あぶなかった。あたしと鈴音は妖怪さんたちにとっては歩く核弾頭ってわけだ。かなり迷惑だよねええ。でも外に出ないわけにもいかないしね。あ、そうだ。
「鈴音って他の人たちに見えるんですか?」
「顕現か?無論人間に姿を見せる事もできるぞよ。コンとギンは霊感の強い者以外見えぬがな」
よかった。ならあたしの家族に紹介もできるね。みんなに見えなかったら、あたし一人でしゃべってる頭のおかしい人になる所だったよ。
っと、そろそろ帰らなくちゃだね。時計を見たら21時30分を回ったところだ。
「ウカお姉ちゃん。そろそろあたし達帰りますね。コンとギンも連れて行っていいんですか?」
「無論じゃ。そのために綾乃につけたのじゃからな」
「やった!コン、ギン改めてよろしくね!」
「はいデシ!」
「よろしくおねがいしましゅ」
そんなあたし達を見て、ウカお姉ちゃんは優しく微笑んだ。ウカお姉ちゃん優しい、本当のお姉ちゃんみたいで安心する。ポメちゃんは怖いって言ってたけどなあ。どこが怖いのかよくわかんない。まあいいか。
「それじゃあ、おやすみなさい。ウカお姉ちゃん」
「おやすみじゃ。綾乃、鈴音」
「鈴音、コン、ギン、いこう」
「うん…」
ウカお姉ちゃんに挨拶したあと、あたしは鈴音の手を引いて拝殿を出た。足元にはコンとギン。来た時は一人だったのにずいぶん賑やかにになったなあ。夜空に浮かぶ月を見ながら、あたしは明日からの生活に期待して思いを馳せる。うふふっと笑みもこぼれる。考えるだけでたのしそうだよね。あっと、その前に新しい家族を紹介しなくちゃね。びっくりするだろうなあ。
神社の鳥居を出て徒歩30秒。あたしの家だ。鍵を開けてドアを開ける。
「ただいまー!」
コンとギンは漢字で書くと金と銀だったりします。