お隣さん
ぎりぎりセーフ!
あたしも千夏も「はあはあ…」と息を切らしてる。これは千夏の天然ボケのせいにしておこう。
「おはよー」
「おはよーっす」
「相変わらずぎりぎりねー?あんたたちはー」
クラスメイトの小川加奈が声かけてきた。加奈も昔からの友達。でも同じクラスになるのは初めてかな?
「加奈はいつも余裕よねー?あたしに時間分けてよ。ジュース奢ったげるからさー」
「ジュースは惹かれるけど無理だからっ!」
そんないつもの会話。神様になった事には気づいてないみたい。まあそのうちバレるしいいか。
あ!そだこの町の説明してなかったね。この町の名前は美里町っていうんだ。町にしては人口は少ない感じがする。コンビニだって学校の近くに一軒あるだけだし。自然は豊かだなーそこだけはお気に入り。南には海その背には山あとは田んぼとか畑とか…。
あーなんか言ってると切なくなってきた。だからねー高校までだいたいみんな一緒だったりするん。近くにここしかないからねー。ある意味エスカレーター式?あはは…
「いあー今日はね相方のボケに付き合ってたらぎりぎりになったの!」
「えー…?私ボケてないしー。綾ちゃんそもそも来るの遅いんだよ~」
「てかさーそれを言うなら千夏も同じじゃんー」
あたしはツッコミというより当然のことを言ったよ。だって千夏だってぎりぎりだしね。
「同じじゃないよー!私いつもちゃんと朝ご飯食べてから綾ちゃんよりもずーっと早く家出てくるんだよ?」
この子は自分の歩く速度を計算に入れていないらしい。さすが…千夏様。てかそれ以前に千夏の家のがあたしの家より学校から近いんですがー!
「はいはい。夫婦喧嘩は犬も食わないよ?」
加奈が呆れたように言う。
や…夫婦じゃ無いし!同性だし!
なんてことしてたら先生が入ってきた。
「ほら!さっさと席に着きなさい!」
いつもの一日が始まる。
マリーさんのおかげであの後は普通に過ごせたよ。マリーさんに感謝感謝っと。あと神様になって変わった事はねー。普段見えなかった者たちが見えるようになった事。ふわふわ漂ってる変なものとかー。外の窓からおっきな顔がのぞいてる事とかー。ほかにもいろいろ。たぶん声とかかけたらお話とかできるんじゃないかなーとか思ったり、試してないけどね。でも不思議と怖くもないし受け入れちゃってる自分がいる。神様になったからかな?
午後の授業も無事に終わったしさて帰るかなー。千夏は図書委員の仕事があるみたいで今日は別々に帰る。
普通に過ごせてたからいまいち自覚無いんだけどあたしってなんの神様なんだろう?あたしの家の隣の神社に神様いるかな?もちろんあたし以外のね。もし居たら話とか聞けるかも。とりあえず行ってみよう。
あたしの家の隣にはさほど大きくもないどちらかと言えば小さい稲荷神社がある。あたしは子供のころからそこを家から遠い公園の代わりにいつも遊び場にしてたんだ。今でもお散歩のつもりで日向ぼっこしに行ったりたまにするん。なんか落ち着くんだよねーそこ。生活空間の一部みたいな感じ?
あたしは自分の家の前を通り過ぎて隣の稲荷神社に入った。神社の鳥居を潜って境内に続く石畳を進む。
本当は真ん中歩いちゃいけないんだっけ?神様の通る所だからとか聞いたことあるようなー。まあー今のあたしは神様だしオッケーオッケーっと!ちょっと優越感に浸りながら進んでいくと、神社の御社の所に綺麗なおねーさんが座っていた。着ているものは巫女さんの服に似ているけどもっと豪華な感じ。あたしはあの人神様かもって思いながら見ていると、その人がこっちに気付いて優しく微笑んでくれた。あたしは思わずペコっと頭を軽く下げた。どうもーって感じでー。
そしたらさ!そのおねーさんちょこっと目を見開いて驚いた感じであたしに向かっていきなりジェスチャーしてきたん!
え?なになに?
キミニハ
ワタシノコトガ
ミエルノカ?
もちろんあたしもジェスチャーで返したよ。
ハイ
バッチリ
ミエテマスヨ
最後にグーって親指まで立ててやった。
おねーさんは少し驚いてそして嬉しそうにあたしの方に向かってきた。
「綾乃!儂のことが見えるようになったのかえ?」
なんでこのおねーさんあたしの事知ってるんだろー?まあいいかー。とりあえず疑問に思ってる事聞いてみたよー。
「はい。見えてますよ。お姉さんはここの神様ですか?なんであたしの事知っているんです?」
「うむ。儂はいかにもこの神社に祀られておるウカノミタマノカミと申す神じゃ。儂の本体は伏見に居るがのう」
ご丁寧に自己紹介ありがとうございます。一応あたしも自己紹介しておこう…。なんかこんなのばかりだな。今日は…
「はじめまして。夏森綾乃っていいます。神様になったばかりで、自分が何の神様なのかもわからない未熟者ですが、よろしくお願いします」
「よいよい。それに綾乃の事は昔から知っておるぞ。幼き頃からよくここで遊んでおったろう?まことに愛い子供じゃった。今も愛い女子じゃがのー」
ウカ様はうんうんと頷くと昔の事を思い出しているのか、悪戯っぽくニヤニヤしたりしている。
え?え?なんですかー!何を思い出されていらっしゃられるのですかー!こわっ!ウカ様こわっ!あたしの過去を知っている人(?)がこんなところに居たとはっ!
「それより、今朝のあの気配は綾乃だったのか?ずいぶん大げさな神が近くを通り過ぎたと思っておったが」
「はい。神力の抑え方がわからなかったもので…」
やっぱりバレバレですよねー。普通の人にさえわかるくらいだもん。神様がわからないわけないよねー?あーはずかしいーまた顔が熱くなってきたよー。
あーそうだそうだ今日は聞きに来たんだった…。あぶないあぶないいつもの如く脱線するところでしたー。
「あたしって何の神様なんでしょうか?」
あたしは唐突にウカ様に聞いてみた。
「うーむ…何の神と申してもな…儂たちは祀られていくうちに変わってしまったりするからのー」
ウカ様にもわからないらしい・・・。お手上げですか?チーン…
あたしたちは2人(2神?)で、うーん…と悩んだ…。
しばらくして、ウカ様がそうだ!と顔を上げてあたしに向かってにっこりほほ笑んだ。ウカ様って会うのは初めてだけどなんかお姉ちゃんって感じで安心するなー。
「うむ!綾乃よ。お主は草木を育てるのが好きであろう?」
さすがお隣さんっ!すべてお見通しですね?あたしの趣味からすべて…。ウカ様には逆らわないようにしよう。。
「はい。趣味ですね」
あたしは正直に答えた。嘘言ってもしょうがないし。お隣さんだしー。
そしたらさー。ウカ様さー。超爆弾発言しましたよー。
「お主にこの社をやろう」
「・・・・・・」
「は?」
おい!あなた何言ってるんですかーーー!御社ってーウカ様の家じゃんー。なになに?ウカ様野良になるの?ホームレスだよ!?どう考えてもおかしいってー!
「まあまて。話を聞かぬか。儂はウカノミタマノカミまたの名を稲荷。五穀豊穣の神じゃ。つまり綾乃お主の趣味とやらに準ずるものがあるとは思わぬか?それに神は祀られてこその神じゃ社一つも持っておらんでどうする?ちょうどこの社は儂の力も届くしのう。綾乃に何かあった時のサポートもばっちりじゃ!」
ウカ様はどうじゃ?ほめてよいぞ?と言わんばかりに胸を張っている…。いや確かに…ナイスアイデアに思えなくもないけど…。
「でもウカ様は御社無くなったらどこに行くのですか?ここってウカ様の家ですよね?」
そしたらあたしの疑問に簡単に即答で答えてくれた
「ここは別荘みたいなものじゃ」
「そうなんですか?」
「うむ。儂の本当の社は伏見にあるのじゃ。それにほれ、あの鳥居を潜れば一瞬で伏見の大社まで一瞬でいけるのじゃ!どうじゃ?問題なかろう?」
「・・・・・・・」
「…………はい」
こうしてあたしはこの神社で祀られることになりました。
ちなみにここにいるウカ様は分身みたいなもので本体は伏見にいるんだって。だから今まで通り分身のウカ様はこの社にいるんだって、ちょっと安心。