下駄箱で
あたしは千夏と一緒に教室に向かう。もちろん周りの人達(あたしに向かってお祈りしてる人達)完全無視で!でもさーいいかげんうざいよねー。どーしたものか…。
そんなことを靴を履き替えながら考えてると不意に後ろから鈴を鳴らしたような可愛らしい声がした。
「それは綾乃様の神力がだだ漏れだからですわ」
「え?」
振り返ると同時に時が止まった。周りのみんなは石のように固まってる。もちろん千夏も固まってる。まるで一時停止ボタンを押したように。動いているのはあたしと声の主だけ、そこには端正な顔立ちの西洋人形が立っていた。不思議と怖くない。
「だれ?」
「はじめまして綾乃様。わたくしは学校妖怪のマリーと申しますの。以後お見知りおきを」
丁寧な挨拶ですねーあたしも返さなくちゃね?日本人としては!
「えっと…こちらこそ初めまして夏森綾乃っていいます」
いきなりの事だからなんか丁寧なのか丁寧じゃないのか微妙な挨拶しちゃった。あはは…。でもあたしが挨拶したらお人形のマリーさんはにっこり笑って返してくれた。
「存じあげておりますわ」
うあーなんかマリーさんかわゆすなんですがっ!いけないいけない…ここは萌えてる場合じゃないよ。ね?あたしはマリーさんに聞いた。
「神力ってなんですか?漏れてるって?」
「それは綾乃様の身体から溢れてる神様の力ですわ。神通力の一種みたいなものって説明した方がよかったかしら?綾乃様がその力を抑えない限り、今の状況は変わりませんの」
「え?抑える?できるんですか?そんなこと?」
マリーさんに手を伸ばして聞こうとしたら、マリーさんはスッ…っと後ずさった。え?なんで?
「ごめんなさい綾乃様。今の状態で触れられるとわたくしの様な邪な者達は消されてしまうのです」
「えー!?あたし今マリーさん消しそうになったの?ご、ご、ごめんなさい!」
え?まじで!消すって?うわーもうね!平謝りですよ!それしかできないよ!だって神様である前にあたし日本人ですから!
あたしは謝った後もう一度聞いてみた。
「もちろんできるはずですわ。だって綾乃様御自身のお力ですもの」
ほえー…そうなのか…あたしは目を瞑って神力が漏れないようにイメージしてみる。すると今まで気付かなかった神気とやらが自分の中に溜まっていくのがわかる今まで外に向かっていたものが内側にしまいこまれていく感じ。
「どう?かな?」
「よく出来ておられますわ。これならわたくしに触れても大丈夫ですわよ。クスクス」
マリーさんはあたしに向かって嬉しそうに拍手してそれからトコトコとあたしに近づいて手のひらにちょこんと乗ってきた。
ブッ!だからかわいいからー!お持ち帰りしちゃうよ!
「んと…これで変な目で見られることないのかな?」
「おそらくは。綾乃様が先ほどのままの状態ですと、わたくしたち学校妖怪の身も危険でしたの。危うくみんな浄化されてしまう所でしたわ」
まじですかー!知らない間にこんなかわいい子消しちゃう所だったなんて、ばか!あたしのばか!
…まあーとりあえず事なきは得たかなーよかったよかった。ほんとに良かったよー。
でもさー初めからそれ知ってればこんな見世物にされずに済んだのになー…。あー軽くへこむなー。
「マリーさん。ありがとうね」
あたしはマリーさんにお礼をした。マリーさんは嬉しそうにえへへとはじめて子供らしい笑顔を見せてくれた。なんかいい事した気分だぞ?何にもしてないけどね!
「あ!そうだ!マリーさんこの止まってる時間?空間?って何なんですか?元にもどせるんですか?」
マリーさんがかわゆすぎてすっかり忘れてましたよー。みんな固まったままなんだよねー今も。
「こちら側。今いる世界は常世といいますの。綾乃様がいつもいらした世界は現世と言いますの。神様になられてから綾乃様は先ほどまでどちらの世界にも存在していましたの平行するその世界の境目にいたと言えばよろしいかしら?これからは綾乃様の思う通りに現世と常世を行き来することができますわ。ですから綾乃様が元の世界に戻りたいと思えば時間も動き出しますのよ。ウフフ」
なんかよくわからないけど、とりあえず元に戻るってのと、こっちに来ればマリーさんに会えるってことだけはわかった。
「そかそかーならよかった。じゃあそろそろいくね。マリーさんありがと。またねー」
「あー!それとーあたしの事「様」って付けなくていいからねー」
あたしはマリーさんに挨拶するとマリーさんはにっこり笑って
「はい。綾乃さん。わたくしはいつもは音楽室にいますの。ぜひ遊びにいらして下さいね」
とお上品に手を振ってすーっっと消えた。
と同時に時間がまた動き出した。
キーンコーン
カーンコーン
やば!いそがねば!
「千夏!急ぐよ!」
あたしは走り出す。
「え?え?あーーまってよー」
千夏も走る。