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正し屋本舗へおいでなさい  作者: ちゅるぎ
潜入?!男子高校
77/83

○○が出そうなスポットと私

校舎内でちょっとした(嬉しくない)発見を続ける優のお話。


貞●さんと初めて対面した時はびっくりしすぎて表情筋がストライキおこしました。何だあれこえぇわ。

ついでに、●怨2で白い男の子(名前は記憶の彼方)が運転手の足元にいたときには貞●を超えて全身の筋肉がストライキをおこしました。こえぇです。




 一歩足を踏み出した瞬間に、空気が変わる。





コンクリートの壁に手を当てたまま、じいっとフェンスと壁の間にある僅かな道を睨みつける。

少し見て帰るだけだと自分に言い聞かせて、気持ちと同じように重たい足を建物の外へ動かす。草がまばらに生えた日の当たらない通路は、昼なのに薄暗い。

建物が完全に太陽の光を遮っている御陰でひんやりと地面から冷たい空気が這い上がってくる。


 日陰独特の涼しさとは違う。

本当に体に絡みつくような…ううん、本当に這い上がってくるような感じ。

靴を絡め取って足首を伝い、蛞蝓なめくじや蛇のようにゆっくり、確実に。



(心の底から嫌な感じだ。うへぇ…なんか異臭を放ちはじめた水みたい)



想像して思わず顔を顰めながら足を進める。

生き物を飼っていた水槽を掃除しないで放置した後の水を連想して生理的嫌悪感で体がブルリと震えた。


 少しずつ進みながら、不意に昨日の夜に見た景色を思い出す。

思い出した瞬間に背筋を冷たい衝撃が走り抜けた。

近づくにつれて重なるのは強い恐怖を伴う記憶。

暗くてほとんど見えなかったけど『同じ』なのはわかる。




 切り離されたような感覚。


 まとわりつくような雰囲気。


 足元から侵食されていくような恐怖。




 ああ、この感覚だ。

枯れかけた草を踏むたびに、脆く頼りない音を立てて粉々になっていく。

振り返ることはしない。

ただ意識を少しだけ切り替える。



(まだ明るい。まだ、明るいけど…気を緩めた瞬間にもっていかれそう)



校舎の角から恐る恐る顔を出す。

自然にしている呼吸にすら気を配って先にある“何か”に気づかれないように少しずつ。

フェンスの奥に広がる森から徐々に視野が広がり、景色が変わっていく。

喉が乾きすぎて痛い。

 腰にある霊刀の位置を確認してから、一枚の術符を手のひらに隠すようにして持った。

見られないように隠すのはこの先に万が一にでも人がいないとは限らないから。

霊刀を持ってるところを見られた時の言い訳が咄嗟に出る自信がなかった。



(油断はしちゃダメだけど…このままコソコソっていうのも負けたみたいで気に食わないな)



くっそぅ、と小さく呟いて足を思い切り踏み出した。

恐怖はある。

嫌な感じもする。

でも、空は青いし視線の先には光も差し込んで、しっかりお昼やってるから…怖くない、と思い込むことにした。


 不自然に柔らかい土の上を歩いて少し先に見える光射す空間へ足を進める。

昨夜見た通り、コの形に凹んだ校舎の一角のようだ。

通ってきた道と同じように雑木林から校舎を囲うように高いフェンスがそびえ建つ。

角を曲がってすぐ正面にもフェンスがあるけれど、その向こうにはグラウンドの隅にあった物置の壁が見えている。



「やっぱり、グラウンドが向こう側にあるんだ」



物置は古いコンクリートで作られているようでどこか寂れた印象だ。

古いといっても窓はちゃんとある。

ただ、板か何かで覆われているから気づかなかったんだろう。



(後で鍵もらって向こう側からも調べてみるか。もしかしたら物置に何かあるかもしれないし)



証拠として、携帯で写真を撮る。

一枚は普通に。二枚目は機能をオンにした霊視フィルター付きで。

その場で写真の確認はせずに、写真を撮ったらすぐ全体に視線を巡らせる。

 深呼吸を心がけながらゆっくり全体を見回す。

窓のない校舎の壁が空へ向かって伸び、陽が当たるからか先ほど通ってきた道よりも雑草が多い。




「井戸と枯れ木?」




コの字型に窪んでいる部分に陽に照らされた結構立派な枯れ木と古びた井戸があった。

井戸は、数年前に流行った某ホラー映画に似た造りの丸い井戸だ。

石で出来ているようで比較的新しいような印象も受けるが実際の年代はわからない。


 とりあえず、これも二枚写真を撮った。

で、写真を撮りながら禪がここへ足を運んでいた理由がわかった気がする。

井戸は水を司る神様がよく使う…なんていうか勝手口みたいなものらしい。

古い井戸ですら“閉じられる”までは例外なく神様の通り道であったり、遣いの棲家だったりするから井戸を潰す時はちゃんと儀式を執り行うのだ。



(にしたって学校に井戸って普通は池だよ。ホラー的な感じをだしても底なし池とか濁りまくった溜池みたいなのが定番ってもんでしょ。なんで井戸が学校の敷地内にあるのさ)



 呆れつつその井戸と周辺を撮影。

ちゃんと取れているのを確認して、枯れ木に近寄ってみる。

いや、できるだけ井戸に近寄らないようにうまい具合に回り込んだけどさ。

葉っぱ一枚ついていない、茶色というより黒に近くなった枯れ木を見上げた。

空へ伸びた数少ない枝はどこか頼りなくみえる。



「木の専門家じゃないから何の木かはわからないけど…調査できそうなものを採取して帰るか」



ちらっと視界の端に映る枯れ葉を数枚持って帰ることにした。

よっこいしょ、と無意識のうちに声を出したのは静かすぎる空間が怖いから、だと言い訳しとく。

さ、最近事務仕事ばっかりで運動不足だったとかじゃないからねっ!

…ご飯食べたら霊刀で素ぶりでもしようかな。

 木の背後に見える井戸や背後、昨日子供の声が聞こえたと思われる周囲を警戒しつつその場にしゃがみこむ。

木の根元に近い場所に手を伸ばした瞬間、チクッとした痛みが走った。



「っい?!あたた、なんか刺さった……?」



ビックリして手を見ると枝か何かに引っ掛けたのか指先に赤い珠がぷっくりとできていた。

大した怪我じゃなかったのでそのまま血を舐め取って葉っぱを数枚、ハンカチへ包む。

乾燥した葉の形が崩れないように包んで、手に持つことにした。

どこかへ入れると絶対崩れるんだよね。



「さて、と。そろそろ帰りますか!」




長居したい場所じゃないしね、と腰を上げた私の頭に、何かが触れた。

位置はちょうど真上。

なんだろうと顔を上げるとそこには見覚えのない紐が垂れ下がっていた。

色は、暗い赤紫。



(最近どこかで見たような色なんだけど)



どこでみたんだっけ?

首をかしげた私の目の前にそれはゆっくりと降りてきて―――…首をいれるのに丁度良い位の輪があった。

赤紫の紐に切り取られた景色に魅入る。

綺麗な景色があるわけじゃないんだけど、なんとなく。



 風もないのに静かに、ゆっくり揺れる輪っかが危険なものであることは分かっている。

自然に手が持ち上がって指先が紐へ触れそうになった瞬間に衝撃。

物理的な痛みやダメージもなかった。

かわりに、耳の奥がビリビリと痺れ、音が頭の中で反響する。



 思わず耳を抑えて蹲るとなにか温かいものが私の手に触れた。

驚いて顔を上げるとそこには心配そうに顔を覗き込む―――大きな、水虎の姿。




「アオ、くん?」



そうだ。と言わんばかりにモフモフした顔をそっと擦りつけられる。

野良猫に懐かれた時に似た達成感に似た満足感を感じて息を吐いた瞬間、頭の中で声がした。

それは、どこかで…ううん。

昨日、確かに聞いた声だった。




『 アト、もう少しだっタのになァ 』




無邪気にも聞こえる性質の悪い、子供の笑い混じりの声だ。

慌てて周りを見るけど変わったものは何一つなくて、白虎のアオくんが心配そうに私を見上げているだけだった。


 慌てて枯れ木を見上げてみる。

そこには黒く変色しかけた茶色い枝や幹が頼りなく立っているだけで何も、ない。

どこかへ落ちたのかもしれないと木の根元を探してみるけど、紐は見当たらなかった。

代わりに、井戸の傍で鈍く光る石のようなものを拾った。


 つるんとした表面に小指の第一関節くらいしかないけど、確かに固くてひんやり冷たい。

一番近いのは玉砂利だろう。

心地よい冷たさのそれを指の腹で撫でつつ極力音を立てないように井戸と枯れ木から離れる。

最大限の警戒と注意を向けるのは不可思議な体験のお陰だ。嬉しくないけど。

井戸へ続く薄暗い道を歩いて、校舎内に足を一歩踏み入れた瞬間、膝が折れた。


 膝カックンされた時みたいに抗う術もないまま冷たい校舎の床に尻餅をつく。

で、座り込んだら座り込んだで吃驚するくらいの疲労感がここぞとばかりに押し寄せてきた。それだけなら“疲れてるな~”で終わったんだけど手や足がカタカタと震え、全身から汗が吹き出る。

汗をかく程に冷えていく体の芯に驚く。

冷や汗って次元を超えた自覚がある位には異常な状態だと認識してますとも。



(反動って訳じゃないよね。うーん、やっぱ“てられた”かな)



モフモフと相性のいい体質に生まれたのは嬉しいけど、人が持つ悪意だとか怨み辛みといった負の感情への耐性は壊滅的にない。

 普通なら多少なりとも耐久性があるみたいなんだけどねー。

御陰で動物系の憑き物筋の方には大人気です。

体内に溜まっている澱んだ黒い靄に似た感情をどうにかしたくて、はぁっと息を吐いた。

少しだけ意識して黒い気持ちを押し出すように何度化深呼吸をしている私を見つめる視線。



「ありがとね、アオくん」



気遣わしげな視線の主は禪からレンタル真っ最中の水虎。

通称はアオくん。

外見は動物園やテレビでたまに見かけるホワイトタイガーという虎に似てるんだけど、水の中でも息ができる優秀な水の力を持つ妖だ。

キラキラしている金色の目は猫と同じ。


 心配そうな視線に思わず口元がだらしなく緩んでモフモフの塊に顔を埋める。

疲労感は相変わらずあるし気持ち悪い黒い靄はまだ体の中に巣食ったままだ。

体に顔をくっつけている御陰でアオくんの心音が伝わってくる。

死に近い場所にいた私にとっては“生きている音”を体感するのは本当にホッとする。

肩の力が抜けて、うっかり弱音が出そうになった。


 思い出すのは怪異に触れた、瞬間。

木からぶら下がっていた紐もそうだけど最後に聞こえた子供の声はまごうとなきアチラ側の住人だ。それも私と相性が悪いタイプ。

いやね、普通の幽霊ならいいんだよ。たまにお茶するくらいだし。

面白いのは生きている人間にもいえるけど霊になった人達が相手でも“合う合わない”がしっかり、というか露骨にわかるって所だ。




(間違いなくあの子供は悪霊とか呼ばれるタイプだ。あれはないわー。こっちの業界に足突っ込んでない時に見た“●怨”とか“リ○グ”を軽く超える怖さだよ)




そもそも映画と実体験を比べること自体間違ってるんだろうけどさ。

よっこいしょ、と再度、若者らしからぬ声と共に重たい腰を上げる。

腰だけじゃなくて全身が重たい。

たった瞬間に強烈な立ちくらみがして倒れかけたけど、アオくんが慌てて支えてくれたから転ばずに済んだ。



「ありがと。さて、と…早く戻ろっか。陽も落ちてきたし」



この状態で戦闘になるのは非常に避けたい。

その一心で校舎をあとにする。

 寮に帰るまでの間に何度も心が折れかけたかどうかは察して欲しい。





◆◇◆







「た、ただいまー…すっごく疲れた」



「戻ったか。須川先生から言付けが届いている」



「……言付けもいいけどさ、まずは疲れて帰ってきたルームメイトを労う言葉をかけるのが先じゃないですかい」



「そうなのか」



無表情だし声も平坦だけど驚いているのは雰囲気でわかった。

でも、なんで驚くんだ。

割りとまともなことを言った気がするんだけど。


 それはともあれ、言付けを書いたメモ紙を禪から受け取って自分のベッドに寝転がる。

だらしないのはわかってるんだけど本当に体が重くてキツいんだ。

少しは大目に見て欲しい。禪みたいに十代の体力があるわけじゃないんだから。



「えーと、なになに~?」



上質の和紙で作られたメモ紙を開く。

そこには万年筆か何かで書かれたのであろう須川さんの綺麗な字が並んでいた。

読みやすいんだよね、須川さんの文字。

教科書に書かれた字を書く人を私は初めて見た。


メモには『 調査お疲れ様でした。今夜の調査ですが、調べたいことがあるので中止とします。今回の調査で持ち帰ってきたものや調査して欲しいものがあれば禪君に渡して下さいね。 追伸.禪君に“カフェ・クローバー”のパウンドケーキを渡してあります。調査から戻ったら食べてもかまいませんよ 』と書かれている。




「禪」



「なんだ」


「須川さんが上司で良かったって今久しぶりに思ったよ」


「それが伝言なら伝えておくが」


「言わないでください何か怖いから。あ、そうだ。コレ調査に回して欲しいんだ。どっちも例の場所で採取したやつ。一応詳しいこと書面に残すからそれも渡して」



任せてもいい?そう口に出さずに禪の目を見据えると彼は少しだけ、本当にほんの少しだけ目を見開いた。


 私の手の中にあったハンカチに包まれた枯れ葉は彼の手に渡った。

丁寧に机の上に置かれた枯れ葉の次に玉砂利のような石に指先で触れた瞬間。

彼は無表情だった顔に“驚き”という感情を浮かべた。

切れ長の瞳が見開かれて真っ直ぐに私の手にある白い石を視つつ触れたはずの手が弾かれた様に不自然に離れているのを私は口を開けてぽかんと眺める。




「え。もしかしてコレなにかヤバイものだったりする?」


「―――…これは本当に、あの場所の近くにあったのか」


「近くっていうか井戸のすぐ傍に落ちてたんだ。玉砂利か凄く気合入れて作られた飴みたいだよね」



不味そうだけど、と呟きながら改めて手の中の小石を転がしていると見覚えのない布越しに小石を持ち上げられた。


 随分と仰々しいなと思いもしたんだけど、よくよく考えると禪の対応の方が正しい。

だって一応小石とは言え立派な現場からもってきた資料であり、解決の糸口になるかもしれない物体なのだ。

つい何時もの調子で自分の価値観から無造作かつ適当に扱っちゃったのは反省しないと。

反省だけじゃなく学習もできればいいんだけど、今の今まで失敗全てを学習して活かせてたらこんなダメな大人にはなってなかったと胸を張って言える。




「よく、素手で持って変質しなかったな。何か特別なことでもしたのか」


「変質?え、もしかしてこの石って脆いものだったりする?」


「脆くはないが影響は受けやすい。不浄のものと接する機会の多い職業であれば尚の事、影響が出やすい筈―――…ああ。アオイを貸していたからか」



足元で丸くなっているアオくんを一瞥した禪は残念なことに何時もの無表情に戻っていた。



「須川先生から説明があるだろう。これを渡してくる。三時間後の食事の前には声をかけてやる」



休んでいろ、と労わりすら感じられない温度と抑揚のない美声に条件反射で首を縦に降った。

で、慌てて禪を止めようとしたんだけど彼は既にドアから出て行くところだった。

ぼんやりしている間に手渡した二つの品は丁寧に小さな箱の中へしまわれ、いくつかの資料らしきものと共に机の上から禪の手へと移動したらしい。



「大人しく待っていろ。預かり物は冷蔵庫の中段に入っている」



それだけ告げて禪は薄情にもドアを閉めた。

そうですか、放置プレイですか。



「アオくん。君のご主人様はつれないね」



おねーさんちょっと涙がちょちょぎれそうだよ、切なくて。

一人きりの部屋で零れおちた声にアオくんが申し訳なさそうに顔を逸らしたのを眺めつつ小さく息を吐く。


 ま、とりあえずは腹ごしらえでもしますか。

霊力使うとお腹空くんだ。修行した後とか丼でご飯三杯は軽く食べてたし。

自由にしていいと控えていたアオくんに告げ、その姿が溶けるように消えたのを見届ける。

いくら相性がいいって言っても式を出しっぱなしっていうのはジワジワ疲れる。

しかもレンタルした式だと余計に力もいるんだよね。



(禪にレンタル中のシロやチュンへの供給も止めてないし結構来てるなー、こりゃ)



ぐぐぐーっと伸びをして、すっかり馴染んだ部屋の中を見渡す。

しんと静まった部屋の中に響く音はない。

時計の音が聞こえないのは禪の日課になっている精神統一の際に邪魔になるからだとか。

あ、準生徒会室になってるスペースにある時計は音がなるよ。

流石に不便だろうし。



(差し入れ食べて少し寝ようかな。起こしてくれるみたいだし)



三時間も寝られれば仮眠としては上等だと疲れた体に鞭を打ち、勢いをつけて立ち上がる。








その直後――――…ぐるりと室内が回転した。









 あんまり怖くないのが自分のウリですが、ちょっと進みが遅すぎて申し訳ないです。泣ける。

次は禪あたりに頑張ってもらう予定。

凸凹コンビ出したいなぁ…

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