情報と私
ようやく更新です。
ぶつ切りっぽくなってますが、実際ぶつ切りですすいません。
今回は登場人物が盛りだくさんの回になってます。
疲労困憊。
せっかくの休日なのに何だってこんなに疲れなきゃならんのだ、と愚痴を言う元気もない。
唯一の癒やしは傍らにいてくれるモフモフした式達だけだ。
ベッド兼枕代わりにしているのは、人が乗れるサイズになったシロ。
肩の上にはチュンが乗ってそっと寄り添い、水虎のアオくんは猫サイズになって膝の上に寝そべっている。
「あー……もうこのまま今日はだらだらさせてー…」
「水虎を貸したのは調査のためだ」
「わ、わかってるって。でも流石にハードすぎると思う。禪の家まで行ったのは車だったからいいけど、その後のご当主との話でMP削られて、ちょっとどころじゃない登山の後に水神様との『遊び』だよ?!そりゃ、ご当主は凄くいい人だったし親しみやすかった。水神様だって可愛い感じで物凄く出逢えて嬉しいけどさ」
常に神経を研ぎ澄ませ続けることが、どれほどしんどいことか!
神様との対話っていうのは只でさえ色んな霊力をガッツリ持っていかれる。
『お気に入り』認定されてさえいれば、霊力の消費はないんだけど…お気に入り認定なんて早々貰えるものじゃないから神様との直接対話は疲れるのだ。
(あ。でも待てよ?この疲労感って…昨日の疲労感と同じ系統だ)
疲労感に種類があるのかと聞かれれば私は迷わず首を縦に振る。
パソコンと一日中向き合った時と修行という名の登山をした時の疲労感が違うみたいに、何となくだけど私の中で区分みたいなのがあるんだよね。
その中でも今感じている疲労感は独特で、神様にあった時にしか感じないものだ。
(まさかとは思うけど…あそこにいたのが邪神さまとかそーゆーんじゃない、よね。だとしたら私には到底手に負えないんだけど)
手に負えないどころか、確実に召される。
それ以前に抗おうって気にすらなれない。
…私にとって神様は無意識にホッとできる神聖で尊いけれど妙に近い、そんな存在だから。
(考えれば考えるほどチグハグな感じ。神様の気配に似たものがあると思えば、赤黒い穢れが蔓延ってるし、なんの違和感もない所謂“ふつう”な場所もある)
チグハグだったのは初めからだけど、徐々に歪みがひどくなっている。
それに“標的”も徐々に無差別になっているような気がするんだ。
暴走っていうんじゃないけど自棄になってるような、勝手に離れようとしてるみたいな…変な違和感。
「禪、昨日の話なんだけど場所わかった?」
「恐らく此処だろうな。僕も一年の時に何度か足を運んだ」
「今ここに禪がいるってことは大丈夫だったってことなんだろうけど、何もなかった?」
「懐かしい気配はしたが遭遇した経験はない。そもそも1年の時に霊を見た記憶があまりない」
へぇ、と気のない返事を返した。
私の頭の中では考えることがいっぱい過ぎて余裕のある反応ができなかっただけなんだけど、聞いておいてこの態度はなかったなって反省。
(でも、変だな)
禪の言葉が妙に引っかかって仕方がなかった。
一年の時にあまり霊を見たことがないっていうのが気になる。
学校とかには想いが集まりやすいし独特のエネルギーがあるから比較的集まりやすいものだ。小さい頃によく耳にした学校の怪談なんかは調べてみると結構面白いし。
怪談話がはやる時は大体、子供たちが社会や身近の環境に何かしらの異変や変調を感じ取った時が多い。だから時代背景が反映された様々な怪談話ができあがるのだ。
っと、話が逸れたけど…少なくても浮遊霊やそれに類する霊体みたいなものは少なからず存在しているのが『普通』であり私たちにとっての『常識』だ。
禪が素人なら見えなくて当然だって言えるけど、見える側の人間なのに見えなかったっていうのは少し違和感を感じる。
まぁ、今の状態が異常なのは言うまでもないけどね。
犠牲者の数も彼らが二年に上がってから倍。
可笑しいなんて、モノじゃない。
何かあるんだ…絶対に。
そもそも霊が生きている人間になにか影響を与えるっていうのは簡単なことじゃない。
霊力のある人間が影響を受けるんならまだわかる。
霊能者や霊能力がある人間はアチラ側に片足突っ込んでるようなものだから、影響も受けやすい。
「禪。誰にも見られないようにここに行くにはどうしたらいいかな」
「今から行くのか」
「夜じゃわからないことは沢山ある。夜は見えないものが見えるけど、見えるものは見えにくくなるから」
それに、とうっかり口に出しそうになったもうひとつの本音を慌てて飲み込んだ。
禪は私の言動に引っかかったらしく無表情だけれど、こう、威圧感的な何かで口にするよう視線で促す。
美形のさ、眼力ってすごいんだよ。
その気になれば綺麗なお姉さんやお嬢さんをよろけさせたり飢えたハイエナみたいにしちゃうんだ。
「そ、それに…ほら、今なにか見つけたら夜にわざわざ怖くて危ないところに行かなくて済むじゃん?」
「………須川先生は今日の調査で行くように言っていたが」
「うぐっ!で、でもやっぱ行きたくないって!あの場所は怖いしヤバイ!禪は見てないからわかんないかもしれないけど、こう、ぬらぁ~って出てきてガッと捕まれた上にニタァっと来るんだ!ほんっと洒落にならんくらい怖いって!失神しても不思議じゃないね!あの後本気でとっとと失神しときゃよかったって思ったくらいなんだよ?!」
「優の説明は擬音が多すぎる。場所はさっき教えたところだ。須川先生はお前が説得しろ」
渡されたのは、一枚のメモ用紙。
几帳面に定規を使った見取り図の横には、お手本みたいな禪の字で具体的な説明文が書いてある。
とりあえず、定番になった符や御神水、霊刀を隠し持つ。
これが小説とか漫画なら死亡フラグ的なフラグが立ってる筈だけど、残念ながら現実はそう上手くはいかない。
死亡フラグってある意味真相に近づいたってことでしょ?
私みたいな間抜けでもあっさり解決できる真相なんてぶっちゃけないんじゃないかと思う。
(この依頼だって何だかんだで上手いこと操られてるような気がするし)
最後に美味しいところを持っていくのは、基本的に我が上司様だからね。
絵面的にも美形がシュバッと解決する方がいいに決まってる。
ただ単に簡潔かつわかりやすく話すのが苦手だっていうのもあるし、頭使うより体動かす方が簡単だもん。
そりゃ一応は考えるけどさ。
「じゃあ、舎監室に行かなきゃいけないのか。ちょっと行ってくる」
薄情にもたった一言「ああ」と返事を返した禪に何とも言えない気持ちになりながらドアを開けた。
一枚目のドアを開け、なくてもいいような通路を通り、二枚目のドアを開けた私の目の前には何故か靖十郎が立っていた。
意地でも禪のいる場所はいそうな場所には近づかない靖十郎が、禪のいる部屋の入口でうろついている。
「靖十郎?部屋の前でどうしたのさ」
「!優…っ!!こ、これやる!」
何故か真っ赤な顔をして謎の袋を私に差し出した。
首をかしげつつ彼の手から袋を受け取る。
なんだろう、と訝しげに観察する私に慌てて説明をしてくれた。
「封魔に教えてもらったんだ。プールで助けてくれただろ?だから、その、特に深い意味はないから!別に、その、ただ礼をいうのもなぁって思って材料もあったし、ひ、暇つぶしにいいかとも思って、いや、別に感謝してないって訳じゃないんだけど」
「わかってるって、ありがとう。禪に見せびらかしながら大事に食べることにするよ」
「見せびらかす?!優、お前いつの間にそんな仲良くなったんだよ?!」
「仲良よくみえる?それは嬉しいけど…実際よくはわかんないんだよね。気にかけてくれるのはわかるけど、辛辣なツッコミを頂戴するのは日常茶飯事になりかけてるし。あと、色気がすごい。なんか腹立つくらいだ。腹筋がうっすら割るくらい体脂肪率低いとかありえん。肉を喰え!」
「なんつーか、色々言いたいことはあるけど最後に色気をもってくる辺りが優だよな」
もらった袋を覗くべきかどうか迷いつつ、少しの会話をして靖十郎は友達の部屋へ入っていった。
部屋にいた同級生たちに見送られ、舎監室へ向かう。
ここ数日ですっかり慣れた寮生活は賑やかで楽しいし、面白いと思う。
急に休みになったからか生徒たちはどこか浮かれている。私も経験あるけど、臨時休校って妙に心が踊るんだよね。
現に封魔なんかは大部屋で臨時の麻雀大会を始めたとか。
靖十郎も今回は参加するらしくて秘密の景品も例のごとく用意されているみたい。
お菓子はないって言ってたから私が参加することはないと思う。麻雀、弱いしね。
賭け事とかクジとか運がないんだ。
クジはクジでも『おみくじ』だけはやたらいいのが引けるけど、それだけ。
「(あ、寮長と葵先生だ)こんにちわー」
「よぉ。どうした?ここにいるってことは…須川先生にでも会いにいくのか?」
「ちょっと聞きたいことがあって。寮長、怪我でもしたんですか?」
見たところ怪我はなさそうだけど、と何気なく観察していると二人は笑いながらゆるく首を振った。
話によると、最近起きている事件について話していたらしい。
幸いにも私たちの生活する寮から死者は出ていなかったけど、靖十郎の事故がある。
考え込む私の様子を見ていた葵先生が補足するように口を開いた。
「対策って訳じゃないけど、靖十郎は友達が多いからその分ほかの生徒のショックも大きかったんじゃないかと思って話を聞きに来たんだよ。そこでバッタリ鉢合わせ」
「安全が確認されるまでプール授業はなし。ただ、それだとあんまりだってことで街にあるプールに行くことになったんだ。ここだけの話、須川先生の御蔭なんだけどさ」
「へ?それってどういう…?」
びっくりしたよ、と笑う寮長の言葉に思わず過剰反応。
須川さんが彼に『正し屋』の事を話したんだと思った。
いや、ほら、寮長ってことは情報も持ってるだろうし、プールを使わせて二度目の事故が起こるぐらいなら回避した方がいいでしょ?だから、須川さんが口利きをしたか、運営してる人…特に女性をメロメロにしたんじゃないかと考えたわけです。
「ここだけの話だけど……須川先生って」
「す、須川先生って?」
声を潜めて、口元に手を当て子供が内緒話をするように顔を寄せた寮長に耳を傾ける。
ふっと香った不快にならない程度の香水に一瞬体が強ばる。
近くに体格差のある人がいるとビクッとするよね……須川さんは慣れたけど。
ごくりと生唾を飲み込んだのを合図にそっと囁かれる。
「あの、『須川グループ』の血縁者らしいんだ」
「は?」
「は?って、これ、かなりすごい情報なんだぞ?須川グループっていったらこの学校の支援もしてる位だし。話し合いの場にさ、校長とかもいたんだけど今にも土下座しそうな感じでさ~」
「そういうの聞くとすごいなーって思いますけど、でも、俺達は今まで通り普通に『先生』として接すればいいんですよね」
「まぁな。ちなみに極秘事項だからな。ま、知られたところで大した騒ぎにはならないか」
私の頭を撫でて葵先生に会釈したあと寮長は自分の部屋に戻っていった。
帰り際に麻雀今からでも間に合うかな、とか呟いてたから封魔のところに行くんだろうけど。
ゲーム機は持ち込めないし、コートや体育館、グラウンドは使うには許可がいる。
寮にも運動用の場所はあるけど人数を考えると規模は小さいし、交代制になってるからどうしても娯楽が少ないのだ。
だから漫画だとかボードゲーム的なものが一番多い。
「さて、と。そろそろ俺も行こうかな…途中まで一緒に行く?」
「行きます!…さっきの話ですけど、靖十郎は大丈夫ですか?わた…俺からみると普段通りにも見えるけど…わざわざお菓子作ってくれるくらいだからショックは大きいです、よね?」
「お菓子?……あー、なるほどね。いや、確かに動揺はしてるかもしれないけど、大丈夫だよ。動揺がどういう形になるのかはわからないけど、靖十郎には“ちゃんとした”友達が沢山いるから大丈夫。きっと気づくよ」
何故か面白そうに肩と声を震わせている葵先生を見上げつつ、小さく息を吐いた。
なんだか私にはわからない含みみたいなのがあるみたいだけど、命に関わるようなものではなさそうだから放置しておく。
もし気になったら粘り強く聞き出せばいい。
葵先生と他愛のない話をして、舎監室へ続く廊下の前で別れた。
色んな人と会話をした御陰で少しだけ足取りが軽い。
例えこれから『何か』がある場所へいくんだとしても、気が重いよりも軽い方がいいに決まってる。
「失礼します、江戸川 優です。須川先生はいらっしゃいますか」
お決まりのノックのあと、私は室内にいるであろう上司様に聞こえる程度の声で呼びかける。
少しの間を置いて、ドアは開けられた。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
…とりあえず、名前しか出てきてない人物がおります。
お分かりいただけたでしょうか?(爆