芋羊羹と私
相変わらず遅い執筆速度で申し訳ないです。
○○と私シリーズでは、前のめり気味にホラー要素を入れて生きたいです。
同じくらい、キャラの個性も出せたら、と目論んでおりますがうまくいくかどうか(苦笑
とりあえず、今回はほっと一息ついてもらえる成分を小出しにしております。たぶん。
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戻ってきた私達をみた見目麗しい上司様は挨拶と共に非常にいい笑顔を浮かべた。
それを見た瞬間、私とシロは思わず身構える。
正し屋に入ってからこの笑顔を見る度に必ずと言っていいほど災難に見舞われてきたんだもん。
警戒くらいするよ、学習能力があんまりない私だってさ!
じりじりと後ずさっているシロに少し遅れて私も同じように少しずつその場から後退する。
「大切にしている部下に“おかえりなさい”と言っただけで怯えられるなんて…寂しいですね」
「だ、だって須川さんのキラキラしい笑顔の後って大概私にとって大変だったりキツかったりする何かがあるじゃないですか!」
「おや。そうでしたか?私は一番効果的な方法で修行や反省をしてもらっているだけなのですが」
おかしいですねぇ、なんて惚けたって無駄ですからね!
大体お仕置きと称して術かけられたり、突然修行と称して山奥やら見知らぬ街やら館やらに放置され、一番ひどかったのは無人島!あれはない。
どこのテレビだ!○色伝説か!! って突っ込んだのは割と記憶に新しい。
なんていうか、お祭りの準備期間と本番以外は色んなところに放置されたなぁ…色々なモフモフとか神様には会えたけどそれ以上に怖い思いしたからチャラどころかマイナスだ。
そんなことをつらつらと考えていると視界の端に白いものが見えた。
「え?!うわ、な、なに?!」
「清めてるだけだ。大人しくしろ」
「むぺっ?!う、わ、そんな顔目掛けて撒かないでよっ!しょっぱっ!」
「口を閉じろ。阿呆」
し、辛辣!
ちょっと身も蓋もない言い方しましたよこの子!
こんな無愛想じゃ女の子にモテないんだか……チッ。
イケメンだからか!イケメンだからってこんな横暴な態度が許されるのか!
ちぇ~と唇を尖らして拗ねていると物凄く呆れた視線とともにため息が禪から返される。
子供っぽいと言われるけどこれくらいは許して欲しい。
中身はずっと中学生くらいのまんまなんだよねー。
台風とか来ると外に出たくなるタイプです、ハイ。
「にしても、お前は一体どこを調べてきたんだ?」
「どこって七つ不思議がある場所を中心に」
「丑の刻に変質するというのは事実だったのか」
無表情だし平坦だけど(っていっても美声なんだ。ほんっと理不尽な世の中ですねー)驚いているやら感心しているやら分かりにくいが興味深そうな反応を返す禪。
まぁ、こっちは分からないでもないんだけど……問題は我が上司殿だ。
さっきから感じる視線は何かを探るような鋭い視線。
心情を簡潔に言うならば『逃走を図りたい』これが一番しっくりくる。
それに付け足すならシロを手当して、さっさとシャワーを浴びた後、爆睡したいんですが。
「ズボンの左ポケットに何を入れているんです?」
唐突にそんなことを聞かれて一瞬思考が止まる。
須川さんの視線は言うまでもなく私のズボンの左ポケットに注がれていた。
促されるようなソレに抗う必要も勇気もわかなかった私はポケットへ手をつっこみ、指先に当たった感触でようやく思い出した。
「キーホルダー、でしたか。先ずは君たちの部屋へ移動しましょう。就寝時間は過ぎているとはいえ全員が全員、眠っている保証はありませんから」
「わかりました。準備は既にしてありますのでどうぞ」
準備って何?と質問する間もなく、禪は須川さんを案内するよう背を向けた。
非常口のドアノブを掴んだ際にぽっかーんとしている私を一瞥したのはアレですか。
『そんなところにつっ立ってないでさっさと来い』って意味ですか。
そーですよね、ほんとすいません。
「シロ、疲れてるところごめんね。歩ける?」
フリフリと尻尾を振って私の手のひらに鼻を擦り付けた可愛い相棒に力の抜けた笑顔を返して、腰にぶら下げていた霊刀を服の中に隠した。
…歩きにくいけど見つかった時のことを考えるとこれが一番安全。
校舎の中とは真逆の寮の中に入った瞬間にずんっと疲労感が襲ってきた。
急に前に進む為に踏み出す足が重い。
最近は事務処理が多かったおかげで久しく味わってなかったけど、霊力を使うと物凄く疲れる。
しかも、運動をいっぱいした時と同じように、筋肉痛にだってなるのだ。
お陰様で甘い物三昧でも太らなくなったけどねー…あんまりキツイ事したくない私としては良いのか悪いのか。いや、嬉しいけどさ。
ちなみに普通、体を鍛えるのは喫茶店のマスター(熊みたいな大っきな男の人ね。筋肉が凄い)みたいな修行をすることで法力を身につける方々だけなんだって。
一般の人だと元々授かった霊力の限界をわかってる場合が多いから無茶はしないし、プロを名乗る人たちだって命は惜しいから自分の実力以上の相手だった場合は早々に手を引く。
正し屋は『なんでも屋』みたいになってる節があるから体力も大事。
異例っちゃ異例の高い能力が必要とされる…らしい。
須川さんを見ると納得できるけど、従業員の私って一般人に毛が生えたくらいの実力しかないんだよね。
そんなことをツラツラ考えながら廊下を進んで、誰にも見つかることなく自分たちの部屋へついた。
正確には準生徒会執務室兼私たちの部屋だけども。
疲労感MAXどころかピークを超えている私は元気な二人の後に習って部屋へ滑り込む。
いや、もうね、座り込まないのは根性となけなしの意地だけだ。
須川さんあたりなら「仕方ないですね」とか言いつつスマートに横抱きとかしてくれるんだけど、横抱きが嫌なんだ。
せめて俵担ぎにして!ほんっとお願いだから、私のキャラを考えて!!
修行で疲れ果てた時に一歩どころか指一本も動かせない状態までいった私を彼はあっさりと横抱きにして神社の長い階段を上った。
…息を乱すどころか、汗一つ掻かない上司様を見た瞬間に思ったね。
『やっぱり人間じゃなかったか』ってね。
「あー…もー、無理です。一歩も歩けません」
「残念です、疲れて帰ってくる貴方に期間限定『福丸亭』数量限定 ベニハルカの芋羊羹を買ってきたのですが」
「なんですと!?それを早く言ってくださいよー!急いで高級玉露を入れるので待っててくださいっ!禪も座ってて!シロとチュンにもオヤツあげるから待~機っ!」
生徒会長である禪の執務室になっちゃってる部屋にある給湯室に向かって走る。
いや、だって芋羊羹だよ?!しかも『福丸亭』っていったらハズレなしだし、あそこの職人さんが作る和菓子は本当に美味しいんだ!
和菓子を舐めてかかると痛い目みるね。
考えただけで大量に分泌されてくる唾液を飲み下してお茶の準備。
電気ケトルとか便利だ。
すぐに沸くし!ケトルに入れたお湯をヤカンでしっかり沸騰させてから少しだけ冷ますのがミソ。
(すっごい疲れた時には甘いものに限る!ホントは、寝る前に食べたら太るんだけど…いいよね、運動してきたことだし)
オマケに『普通』に生きてたら体験しなくても済んだ恐怖体験もしてきたのだ。
痩身の神様(いるのかな?)だって大目に見てくれる筈!!
…シロとチュンには美味しいクッキーだね。
霊力の込められた超高級品です。
材料が材料だけに一枚1500円するらしい。
一枚だよ!?一枚!
初めは横暴だって散々文句いったけど、実際に材料を取りに行ってみたら値段に納得しました。
むしろ安いね、1500円。
さて、それよりも芋羊羹だー!!!
***
「須川先生」
「なんです?」
「数秒前に“一歩も歩けない”というのは聞き間違いですか」
無表情のまま給湯室に顔を向けた禪がぽつりと抑揚のない声で確認を取る。
一方、須川は手元の資料を捲っていた手を止め、少し考えるように目を細めた。
「聞き間違いではありません。間違いなくそう言っていましたね」
「見間違いでなければ給湯室の方へ“走って”いったように見えましたが」
「見間違いでもなく走っていきましたよ。優君は普段からあんな感じです。慣れて下さい」
「慣れるでしょうか」
「自分の持つ常識外生き物として見ていれば慣れますよ。ええ、残念ながらとても面白くて困ります」
そうですか、と何の感情もこもっていない返事を最後に二人の間に沈黙が横たわる。
須川が資料を捲る音と禪がノートにシャープペンを走らせる音だけが存在していた。
静まり返った室内をみて、お茶を持って戻ってきた優が眉を顰める。
「二人とも何か静か過ぎて怖いです。せっかく芋羊羹食べるんだからもっとこう……あー…想像したらなんか怖いのでいいです。盛り上がらなくて。と、とりあえずお茶飲んで美味しい芋羊羹を食べましょう!須川さん、はやく早くっ」
「はいはい。それはそうと、シロの傷について心当たりはありますか?」
芋羊羹を箱から出し、切り分けながらチラリと一瞬、私の足元で伏せているシロへ視線を向ける。
最後にシロやチュンの為に用意したクッキーを差し出した体勢のまま動きを止めた。
シロもクリッとした目で須川さんを見つめている。
「質問を変えます。何者かの攻撃を受けたようですが、何かと戦いましたか」
「確かに戦いましたけど…私は残滓の塊がたくさんと数体の“なりそこない”と戦ったくらいで特には。シロは別行動だったのでわからないですけど ―――――…シロ、それ以外の何かと遭った?」
尋ねると彼は直ぐに返事を返した。
そして直ぐに須川さんの目の前に置かれたキーホルダーを睨んでいる。
自分のことで精一杯だったから今まで気づかなかったけど、あの場所へ案内してくれてる時は間違いなく無傷だったのに。
そこまで思い出して、急に体がぶるっと震えた。
耳元で聞こえた「みつけた」という子供の声が聞こえてきた気がして頭を振る。
聞こえなかったことにできたらいい。
でも、聞いてしまったものはなかったことにはできない。
(そうだ、その後にシロが傷だらけになってた。チュンもあの場所に入ろうとした瞬間に鳴いてたし、あの場所に何かある?)
急に黙り込んだ私は完全にあの場所のことで頭が一杯になっていた。
靴越しに感じる柔らかい腐葉土の感触、フェンスの向こうに広がる光一つない底のみえない闇、澱んだ水の匂いがする生ぬるい風。
現実から切り離されているような独特の感覚に、たくさんの…―――――――
「優っ!!」
「っ……え、あ、禪?な、なに?怖い顔して」
「どこに行った」
「は?」
「探索の時にどこに迷い込んだ」
どこ、といわれて私は答えに困った。
場所がわからない。
見たものはわかってるのに、通った道を覚えてない。
どこだっけ、と視線を外すと彼の肩越しに険しい表情をした須川さんと目が合った。
スゥッと細められる眼鏡の奥の瞳に息が詰まる。
何か答えなければと口を開きかけるものの声は出てこなくて、もやもやした不快感だけが募っていく。
必死に言葉にしようとする私の代わりに動いたのは――――シロだった。
室内に漂うピリピリした緊張感を吹き飛ばすような咆哮。
神力を纏ったそれは一般人には聞こえないけれど、私たちにとっては意味のあるものだ。
溜まっていたらしい悪い気を四散させてくれる有難いそれに私たちはそろって体の力を抜いた。
「すまない」
「ううん。助かった…えーと、実はどうやって行ったのか覚えてないんだけど、そのキーホルダーが落ちて立って場所に連れて行ってもらったんだ。ね、シロ」
『くぅん…?』
なぁに、それ。
そんなことをいうように首をかしげて不思議そうに私を見たシロに思わず口元が引きつる。
シロは私に嘘はつかない。
チュンも同じだ。
ってことは…たぶんだけど、私を案内してくれたあのシロは
「須川さん。禪。なんか、この学校にはちょっとシロに化けられるようなのもいるっぽい」
「まさかとは思いましたが…そうですか。次から、普段の生活でもシロとチュン、後は彼の水虎をつけなさい。もう戻ってきているはずです」
「でも、それじゃあ…」
「彼には私の式をつけます。力はシロや水虎よりも遥かに強いので恐らくは大丈夫でしょう」
それならいいや、と頷いて見せた私に何か言いたげな視線が2つほど向けられる。
まぁ私も須川さんも気づいたけどスルーだったけど。
そのままこの日はお開きになった。
私の体力が限界だったのと明日の為に寝る必要があったからね。
お茶は少し冷めちゃってたけど、芋羊羹との相性はばっちりでした!
いやー、怖い目に遭うのはいやだけどご褒美の威力がどんどんあがっていくから頑張るよ。
シャワーを浴びてシロの体の傷もすっかり癒えたその夜、私は久しぶりにシロやチュンと同じベッドで眠った。
おかげで怖い夢もみることなく、ばっちり疲れを取ることができたのです。
…明日も夜探索するんだろうなぁ。やだなぁ。
はぁ
あれ。
なんかホラー要素が顔を出してしまった気がします。
と、とりあえずこんな感じで本格的な調査を開始しました。
ここまで読んでくださってありがとうございました!
まだまだ続きます~