???な場所と私
えー、怖いのが嫌いな方や苦手な方は回れ右です。
ちょろっと怖そうな表現やら場面やらがありますので要注意!
いや、あんまり怖くはないと思うんですけどね(ぼそっ
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再び「空っぽ」になった校舎で一人、調査を続ける。
七つ不思議のある場所を中心にぐるりと校内を歩いて、時々出くわす残滓を切り捨てながら進む。
暗闇に慣れてきたこと以上に、見て回った箇所に異常らしい異常がなかったことにホッとした。
まぁ、異常が完全になかったわけじゃなくて、モヤモヤ~っとした赤黒い気配は残ってたけど持っていた清めの水と塩で四散したし当分は大丈夫だと思う。
なんたって使ったのは須川さん印の特別製だもんね。
ちなみに水は300mlで1550円(税込)するし、塩なんて10gで550円(税込)です。
勿論、一般人向けだから少しだけ安くしてるし、相手によっては値引きもする。
ただ業者だと須川さんの評価しだいで価格が違うから色々と凄いんだ。
基本的に提携を結んでる店にはある程度の融通を効かせてるみたいだけど、私からしたら物凄く高い。
手間も霊力も喰うし、料金以上の効果があるらしくて売れ行きは上々なんだけどね。
何ていうか商売上手なんだー…業界人にはそこそこ厳しく一般人には良心的な感じの店ってことで知られてるのも禪から仕入れた情報だったりする。
普通に働いてたら評価とかわかんないしね。
特にこの業界の人とはほとんど顔合わせしてないし。
業界からは『正し屋に認められれば契約解除されない限りは安泰』と言われているとか。
こんな評価を得たのが設立して3年っていうのも凄い所だ。
高い水と塩を散布して場を清めた私は最後に訪れていた中庭を背にして校舎へ戻るべく歩く。
時計を見るともう午前3時を少し回っていた。
急がないと、と小さく走りだす私の視線の先に何かの臭いを辿るシロが映る。
声をかける前にシロは臭いをたどる行為を中断し、思いっきり私に向かって走り寄ってきた。
尻尾が空を切る音が聞こえそうなほどに左右へ振られていのを見た瞬間、なんだかこう…一気にいろんな気が緩んだ。
いや、可愛いんだよ。
可愛いんだけどね?
何だか月日が経つごとに神様らしさとかが抜けてる気がする。
看板犬としてはOKかもしれないけど、やっぱこう、威厳を醸し出して欲しいような気もするんだよ、一応飼い主としては。
「シロ、なにか見つけた?」
その場にしゃがみこんだ私の体に顔を擦りつける白いモフモフを撫でてやると益々嬉しそうに尻尾を振る。
ああ、もう可愛いやつめっ!
ウリウリ~と撫で繰り回していてふと、シロが何かを咥えている事に気づく。
頂戴、と手の平を向けると大人しくソレを手の上に置いた。
そして小さく『ウォンッ』と吠えて指示を仰ぐように私をじぃっとクリッとした目で私を見上げる。
思わず「シロは賢いし可愛いしモフモフ具合が最高に素敵な相棒だ!」と叫びながらのたうち回りたくなったけど、恐怖とか緊張感とか色んなもので気が触れたと思われるのも嫌なのでグッと堪えたさ。
「ところで…コレ、何?」
クゥン、と首を傾げて可愛らしい鳴き声の返事をでれっとした顔で聞きつつ、あんまり働かない脳みそを起動する。
一見なんの変哲もない鍵だった。
錆びた鍵にはキーホルダーがついている。
それは音のならない鈴と手作りらしく少しだけ歪んだSの1文字。
誰かの持ち物だったことは間違いないのに、錆びている所為で古いものに見えた。
「どこの鍵だろ」
一通り鍵を見てみたけど、どこの鍵なのかさっぱりわからない。
どこで見つけたの?とシロに尋ねると少し悩んだように一度動きを止めたものの、心配層に小さく吠えて背を向けた。
「もしかして、なんかヤバそうなとこにあった?」
わぅう、と耳をへにょんと伏せて尾を下げた姿を見る限り、どうやら嬉しくない正解を言い当てたらしい。
どこに向かうのかわからないまま夜の校舎内を歩き回るのはかなり怖い。
まだシロがいてくれるから心強いけど、暗いままなので雰囲気は抜群だ。
屋外に出たせいで、木の葉が風に揺られることで生まれる音やちょっとした虫や小動物の気配にもビクつく羽目になる。
そりゃ、幽霊もみたし死体だって妖怪だってみたけどさ、怖いもんは怖いんだ。
話を聞くのはいい。
ドキドキするし、ちょっとゾッとする感じが堪らん。
テレビの心霊特集やホラー映画を観るのもいい。
中にはヤバイのもあるけど基本的に作り物だったり、無害なものばっかりだから。
ただ、現場に赴くのだけはいつまでたっても慣れそうにないんだよ~!
見るのと聞くのと実際に出会うのは違うんだ。
怖さがパネェです。
土を踏みしめる度に、時折音を立てる枯れ葉の音が不安と恐怖を煽る。
二度ほど校舎の角を曲がって、校舎の裏側へ向かっていることがわかった。
校舎の裏側には怪談はなかったはずだ。
靖十郎たちが校舎を案内してくれた時だって話題にも出なかった場所。
なんでこんなところに、と眉を顰めていると聞き覚えのある鳴き声が耳に飛び込んできた。
『チチチチチッ』
小さな警戒の鳴き声とともに私の肩へ降りてきた。
丁度最後と思われる曲がり角からチラッと見る限り、大人一人が通れる程度の路地に似た空間がある。
草は陽が当たらないからかほとんど生えてなくて、ほどよく固まった獣道みたいだ。
明るくないからイマイチはっきり見えないんだけどね。
夜目が効くようになってなかったら真っ暗で何かに激突しかねない暗さを誇っているソコに足を踏み入れるには多大な勇気と覚悟を消費しそうだ。
どうしよっかなー、と尻込みする私を見かねたのかシロはテクテクと私を先導するかのように歩いていく。
チュンもチュンで心配そうながらも小さく鳴いて頬に体を擦り付け、一生懸命に応援してくれているらしい。
わかった、わかった、と降参して、闇夜にぼんやりと浮かぶようにも見えるシロの後を追うべく足を踏み出す。
瞬間 ――――というか、本当に足を踏み入れた直後のことだった。
非常に伝えにくい、こう…現実にいるようでいないような感覚に襲われたのは。
更に不思議だったのはこの感覚がほんの少しだけど、神様と話をする時に似ているってこと。
(ここからだけっぽいけど…なんでだろ?神域ってわけでもない、はずなのに)
違和感がハッキリと明確になった地点は、丁度少し開けた場所だった。
開けた、といってもコの字型に凹んだ校舎の端で、通ってきた道以外は高いフェンスで覆われている。
(フェンスの向こう側は…うん、多分グラウンドと部活用のプレハブがあるのかな?木の所為で見えないっぽいけど)
金網の奥には濃い闇。
この学校はぐるっと森というか樹に囲まれた山の頂上付近にあるから木が多い。
夜目が効くと言っても校舎の中でも群を抜いて暗い今の場所を詳しく調べるのは明日、陽があるうちのほうが良さそうだった。
なんたって、妙に肌寒いし…雰囲気がじっとりしてまとわりついてくる感じが実に気持ち悪い。
腕をさすりながらシロに声をかけるべくフェンスの奥に広がる闇から自分の周りになにかないかと探ることにした。
ザッと見る限りは構造上できたちょっとした隠れ場所って感じだ。
多分、隠れんぼでここに隠れたら見つからないだろう。
(好き好んでこんな場所に隠れる人はいなさそうだけどね)
私なら断固拒否するね、そんな場違いなことを考えつつ刀を握り直した。
現実から徐々に切り離されていくような感覚はまだ慣れないけど、恐怖を感じるほどじゃない。
ただ、神様と話す時はパッと切り替わるから清々しさすら感じるんだけど…ここはジワジワ足元から侵食されていく感じ。
違和感を別の言葉に置き換えるなら“不快感”が一番合う気がする。
一時退却を即決した私はシロを探す為に辺りを見回す。
何が出てきてもいいようにしっかりと霊刀は構えたままだ。
「シロ」
ぐるりと見渡しても見当たらない白い塊に焦りが募っていた私は、つい、言葉を発していた。
その、直後だ。
『 み ぃ つ け た ぁ 』
声が、した。
囁くような、掠れた、子供の声。
聞こえたのは、
「っ………!!!!」
咄嗟に体を反転させて思い切り刀を横に振り抜いていた。
手応えはなく、聞こえるのは空を斬る音と自分の呼吸音だけだ。
真夏なのに口から吐く息が白い。
いつしか音のなくなった空間に、唯一存在している私と私以外の何か。
怖い。
コワイ。
恐い。
ハッハッハッと短い呼吸音とそれ以上に早い心拍音がこの空間にある音だ。
視線をどこに固定したらいいのか分からず、せわしなく耳元で聞こえた声の主を探すことに躍起になっていた私は、まだ、気付かいていなかった。
「 ひ … ッ ?!」
ひたり と足首に冷たくて柔らかい ―――― 指のようなものが触れる。
反射的に飛び退こうとした私の足首をソレはギュッと縋るように掴んだ。
転びそうになって体制を整えつつ、自分の足首へ視線を向けると悪戯が見つかったかのようにパッと小さな手の平は柔らかい土の中へ消える。
霊と呼ばれるものであることを理解していても子供の手が大地へ消えるなんて“ありえない”ものをバッチリ目撃してしまった私の口元は盛大に引きつった。
うっわー、なんて小さな声が出た頃には変な余裕が生まれちゃってたりして。
土壇場になると強いというか開き直るクチの私を褒めたのは友人だったか上司だったか。
地面を睨めつけるように見渡しつつ、死角になりやすい背後などに注意を払っていると突然正面に白いものが現れた。
「っシロ?!うわ、なんでそんなに傷だらけにな……って、ん、…の」
現れたというよりも吹っ飛ばされて偶々私の視界に転がり込んだ、という表現の方が正しいだろう。
美しい白銀色をした体毛を鮮血や土で汚した満身創痍な相棒は低い唸り声をあげながら目の前にいる“それ”を威嚇していた。
「シロ」
小さく名前を呼ぶとシロは耳だけピクンと動かして私の方へ向ける。
今まで警戒と怒りの為にピンと天を向いていた尻尾がゆらゆらと左右に揺れ始めるのがなんだかおかしかったけど、真面目な顔と声のまま命令を出した。
「撤退っ!さっさと逃げて一緒にお風呂入って一緒に寝るよ!!あと治療もするから―――って…うわぁッ!?」
我ながら完璧な判断だったとおもう。
すっぱり決断して命令したらあとは逃げるが勝ちだ。
体を反転させて一目散に走り出そうとした私の首根っこをシロが咥える。
びっくりすると同時にぽーいっ♪と投げられ気が付けば人が乗れる大きさ―――…某有名アニメ映画の山犬的大きさになったシロの上にいた。
私を背に乗せたシロは一度だけ吼えてその場から息もできないようなスピードで走り始める。
耳元で聞こえる風を切って進む音と無我夢中でつかんでいる首輪ならぬ首紐を握り締めた。
もう振り落とされない様にしがみ付くだけで精一杯だ。
声にならない声を上げつつ、ギュゥッとシロのもふもふに顔を埋める。
いつもは森と太陽の匂いがする毛皮から鉄の錆びた様な匂いがして帰ったら真っ先に治療しようと心に決めた。
暫く、というか時間でいえばあっという間に血と湿った土の匂い、それと何処かで嗅いだことのある香りが充満した恐怖の現場から無事、『真夜中の校舎から脱出』というミッションに成功した!
安心した瞬間に襲ってきた物凄い疲労感や眠気と戦いながら私はシロの背中からずり落ちる様にして大地を踏みしめる。
で。
満身創痍の一匹(一頭?)と怪我はしてないものの疲れきった顔の私を出迎えたのは、仕事モードの我が上司様と麗しき協力者殿でしたよー。
あは、あはははは…
わかります、お風呂はオアズケですね。
我慢しますとも。いい大人ですから。
めっちゃ眠いし、疲れたし、色んな汗でベトベトだけど我慢します。
でもシロの治療だけは先にやったげてください。
私の可愛くて頼りになるもふもふ系相棒ですから。
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色々と消化不良なのは次回へ持越しです。
ムフフであばばばなシャワーシーンを取り入れられたらいいと思う今日この頃です。
サービス?いいえ、ちょっとした息抜きです。
ここまで読んでくださった方、ありがとうございます!
誤字脱字変換ミスに怪しげな怪文などが見つかりましたらぜひご一報ください。
恥ずかしさに身悶えつつ感謝します。
あ、あと感想とかもうれしいですよー。すっごく喜びますよー。