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正し屋本舗へおいでなさい  作者: ちゅるぎ
潜入?!男子高校
71/83

???と私

 優ひとりきりだと独り言が倍増するのでちょっと困ります。

独り言とお友達!な主人公って痛いと思うんだ。いや、既に痛い主人公だけど。



***



少し?グロテスクもしくは残酷な表現があります。

苦手な方は後半くらいから覚悟もしくはバックをお願いいたします。

お好きな方には刺激はほぼないと思いますので期待なさらないようお願いいたします。



***









 どこかで 誰かが 泣いてる 声がする。









 足が止まったスライド式のドアはあまり分厚くない。

だから、何かの気配を感じることができたんじゃないかと思ってる。

ドアの上には学年とクラスが書かれた表札を見て、小さく口の中でつぶやいた。



(2―4は間違いなく隣のクラスだけど…ここって怪談がある場所でもなんでもないよね?)



七つ目は知らないけど、でも教室って事はないと思う。

基本的に特殊教室とかが多い感じがするし。

定番で言えばトイレとか階段の踊り場とかの方が違和感がない。



 警戒しながら、細心の注意を払ってドアに手をかけゆっくりと右へスライドさせていく。

あまり新しい校舎じゃないからか気を抜くとすぐにガタガタと音がなるから気を付けないと。

神経を研ぎ澄ませていたせいで、10cm程開いたドアの隙間からかすかな音を耳が拾い上げた。


それは、嗚咽のようであり誰かが笑いを堪えているようにも聞こえる。



月明かり一筋射し込まない、静まり返った真夜中の校舎に嗤い声が響く。

人が居ないこともあって声は長い廊下や各教室…沢山の空っぽな空間に響いて、反響しあっている。

教室の中だけじゃなくて、まるで私を囲んでいるような本来一つであるはずの声。


 ドアの取っ手にかけようと伸ばした指先がカタカタと震えているのが見えた。


肌色が白に見えるこの空間では自分の手ですら異様なモノみたいだ。

暗闇に薄ぼんやりと浮かぶ手に足元から頭の頂辺に向かって悪寒が走り抜けて、それが収まる頃、嗤い声がピタリと止んでいた。



動こうとしない自分の体と心に気合を入れなおして指をドアの取っ手へかける。

どのくらいの力で引けば、できるだけ音を立てずに開けられるのか戦々恐々しながらゆっくりとスライドさせていく。



 教室の中は、真っ暗だった。


当然だけど電灯もついてないし月明かりもないから、ある程度は予想してたけど想像以上に。

今までは非常灯があったから完全な闇じゃなかった。

夜目が効くっていっても動きにくいことに変わりはない。



「---- 誰か、いるの?」



久しぶりに出した声は緊張と心のどこかに残る恐怖で、少しだけ震えていた。

たぶん、今私が平気そうな顔 (してるかはわかんないけど) で入られるのは手に持った霊刀の存在があるからだ。


 声をかけると同時に教室内に足を踏み入れる。


背後から突然、っていう可能性もあるから全身全霊警戒中だ。

教室内は、昼間見ている自分のクラスと物の配置自体はほぼ代わりがない。

掲示物に差異はあってもやっぱり学校だ。


 ただ、ある一点以外は至って普通の教室だった。


丁度反対側の校舎や中庭が見渡せる場所に“彼”がいなければ、って補足がつくけどね。

敵意はなさそうだし嫌な感じもしないから今の所は大丈夫だ。




「ねぇ、君、一人?」




口から出た言葉は「見ればわかるだろ」と突っ込まれそうな陳腐なものだったけど、効果はあった。

ずっと中庭を見つめていた“彼”の視線が私に向けられたのだ。


 彼が生きている人間じゃないことは血の気の感じられない肌や僅かに透けて見える景色を考慮しなくてもわかる。

こんな時間にYシャツと学校指定のズボンをはいてるなんてどう考えてもおかしい。

闇の中でこんなにもはっきり「視える」こと自体がそもそも可笑しいんだ。

 だって、こんなに暗いならすごく近くない限り顔なんてわからないし、近くても見えるかどうか怪しい。

彼のいる窓際からドア付近まで確実に10mはある。

あの場所から普通に移動してくるなら十分に対応できるけど、警戒は解かない。

相手の動きを待っていると彼はゆっくりと振り返った。




「きみは、だれだい」



「(!喋った?!)ここの生徒。最近、編入してきたんだ」



「ふぅん」




 与えてもいいであろう情報を口にすると彼は納得したのか、そっけなく答えて再び体と視線を窓の外へ向ける。

窓の下を眺める彼は酷く楽しそうで不気味な薄笑いを口元に浮かべていた。




「何か、みえるの?」



「みえるよ。こっちに来てみなよ」




 廊下に響いていた声よりもボリュームは抑えられているけれど、確かに私の聞いた声は彼の声だったようだ。

一体何を見て笑っていたのかが気になって、彼のいる窓へと近づく。

窓に、彼に近づけば近づくほどに気温が下がっていくのを肌で感じた。

何かを警告するように全身から冷や汗が吹き出る。



 間合いぎりぎりまで近づいた私に彼はニタァと口の端を持ち上げる。



瞳は限界まで弧を描き、口の端は耳たぶの辺りまで裂けたように吊り上げられた。

青白く生気の感じられない顔と底の見えない暗い笑い声に不快感とも恐怖ともつかない感情が急激にわきあがってきた。


 後退しようと動きそうになる体や足を必死にその場へ縫い付けて、硬直した首だけを動かす。


出来損ないの玩具みたいな動きしかできない自分に苛立つ。

少年とも青年ともつかない彼のシャツ、手首、指先と窓…少しずつ視線で示された方角へ目を向ける。

完全に「それら」を視界に捉えた瞬間に全身を冷たい衝撃が襲った。






「いい気味だ。はははっ、みろよ、あの顔…!あハッ、ァははハはハハっ!」





声が、響く。


教室内に、廊下に、校舎内に。


暗い喜びを湛えた笑い声に私は手に持った刀を振るうことすら忘れて、彼が見て悦んでいる光景を眺めるしかできない。



 少年の示した場所には、元人間だったものが苦痛と救済を必死に乞う惨状が広がっていた。



 首にかかったロープから逃れようと両手両足を縛られたまま苦しみ、もがく沢山の生徒だったと思われる少年たち。

まるで蓑虫のように桜の枝からぶら下がって揺れている。


 その足元には首だけ埋まった花壇がある。

首を吊られた生徒が暴れれば暴れるほど顔だけ出している状態の少年たちは顔面を強打される。

泣きながら悲鳴を上げる彼らの顔はもはや原型がわからなくなっているものも少なくない。



少しはなれたところには池があり、そこでは、生徒が黒い手によって水の中へ引きずり込まれている。

性質が悪いことにギリギリのところで水面へ逃し、息も整わぬうちに再び池の奥へとその体を引きずっていく。

右の手足を縛られた状態では満足に泳ぐこともできないのだろう、ただただ、足掻いては引きずり込まれ苦しめられるという行為を繰り返していた。


 正面校舎の屋上からは何度も何度も、生徒が飛び降りて――――…突き落とされていた。

両腕を縛られて、顔面から繰り返し繰り返し。

途中にある植木や校舎の壁面に体の一部を削ぎ落とされ、削られて、ぐしゃりとつぶれる。

潰れた後も痛覚は残っているらしく、声泣き叫びを上げていた。

恐らく、最後であろう生徒が飛び降り同じように肉片へと変わり果てると全員が再び屋上の上に揃って、再び落とされるのだ。



その脇には、轟々と燃える焼却炉がある。

実際に見たものよりも大きいソレの隙間からは黒く焼け焦げた手のようなものや足のようなものが見えた。

よくよく見ると、すべて右側の手足のようだった。

たぶん、縛られてるんだろう。

ほかの生徒と同じように。



それ以上はもう、見ていられなくて無理やり視線を引き剥がした。





「どうして笑って――――――…あ、れ」




振り返った反動のまま少年に向かって声を荒げ、どこにも彼がいないことに気づく。

慌てて左右を確認する私の耳元で小さく、小さく“いい気味だ”と声がした。

 反射的に振り上げた刀は、闇を引き裂いただけだ。

動揺して動いた私の体に机と椅子がぶつかり音を立てたが余韻も残さず直ぐに消えた。










音のなくなった教室で一人ぽつんと立っていることに気づいた時には、まるで夢を見ていたかのように何の余韻もなく全てが現実へ戻っていた。





「な…なんだったんだろ、いまの」



呆然とつぶやいた言葉は誰にも届くことなく消える。

返ってくるはずのない返事をただ待つこともできずに動揺したまま教室を後にした。














 時間がかかりましたが、とりあえず伏線はりはり。

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