愛刀と私
微妙な、戦闘?シーンが入ります。
?の通り戦闘シーンなどとは大々的に言えない出来になっております。
また、ちょっとグロてすくーな表現があるかと思いますので苦手な方は回れ右!です。
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「肝試しの三大スポットの一つだし、いつかクるか?!とは思ってたけど」
予想以上に早かったなぁ、なんて声に出してみる。
声は、誰もいない空っぽの空間に響いて、僅かな余韻を残しすぐに消えていった。
物悲しいというか侘しい?何とも言えない独特の雰囲気にブルっと体が震えて、思わず腕をさすった。
寮から見えない廊下にいる所為か驚くほど静かだ。
いや、寮側の廊下だって何処だって校内には人っ子一人いないはずだから静かなのに変わりはないんだろうけど…気分的にそんな感じがしたんだよね。
明かりっていえば遠くで緑色に光る非常灯くらいだ。
でも、パッと明るいわけじゃないから怖いのなんのって!!
一箇所が明るいだけで周りの闇が一層深く見えてくるんだよね。
そりゃ、明かりがなかったらなかったで“暗いー!”“こわいー!”って盛大に文句を言うんだろうけども。
「そもそも、一人で夜の学校を徘徊するなんて『正し屋』に入るまで考えてもみなかったっけ」
子供の頃は怖い話が苦手で、そういった感じに聞こえる音楽すら怖くてお婆ちゃんとお爺ちゃんの後ろに隠れてたらしい。
隠れながらも怖々とテレビやら怪談話に耳を傾けてたらしいから好奇心だけは強かったねぇ、とよく言われてたっけ。
それが今では仕事とはいえ怖い怖いといいつつも夜の校舎を闊歩できてるんだから凄いと思う。
人間変わるものだな、と小さく息を吐いた。
何気なく窓の外を見たものの見えるのは闇だけで何も見えない。
前回もそうだったけど今回は前よりも“深く”なった気がして、顔をしかめた。
一人だからっていうのも関係してるんだろうと思うけど、雰囲気も違う。
圧迫感っていうのかな?
緊張感はあるんだけどそれ以上に、殺気が育つ前独特の空気が漂っているみたいだった。
(こーゆー空気の時には大体アイツらが出てくるんだよね)
履きなれたスニーカーが床と擦れることで聞こえる甲高い鳴き声やら家鳴りならぬ校舎鳴り?の音にも過剰反応しつつ、警戒を高めていく。
左腰で存在感を放っている自己主張の割と激しい相棒の柄を握った。
そのまま普段のように鞘から刀を抜けば、暗闇に覆われた世界で一つの光源が生まれる。
派手な明かりじゃないけど、夜空に浮かぶ満月みたいな光に少しだけ心が落ち着いて情けなく顔が緩んだ。
(刀持って安心できる状況ってそーとーだ。色々と今更だけど)
私の右手に収まっている刀は『霊刀』と呼ばれる、少し特殊なものです。
いや、見た目は普通の人が「刀」と聞いて思い浮かべるものと変わらないんだけど、霊専用と呼んでも差し支えない生き物を斬れない刀なのだ。
だから私でも安心して持ってられる。
それに、私専用としてこの世に生まれたたった一つの霊刀はシロ達とはまた違った大切なもの。
今は私が未熟なせいでまだ完全な形にはなってないけど、それでも勿体無い位の威力を持っている。
これで斬るのは悪意の塊や悪霊と呼ばれるものの類に堕神といったもの。
悪霊に関してだけど、意思疎通が少しでもできれば浄霊の方向に持っていく。
普通の依頼では悪霊と呼ばれるものの類が殆どだからこの刀は使わないことが多い。
今回は何があるかわからないってことと相当『強い』モノだから使いなさいって使用許可が出た。
久しぶりに使う愛刀をむふむふとだらしない顔で撫で撫でしていると周りの空気が変質した。
ほんっとに僅かな、かつ絶妙な加減のそれに気づけるようになるまで色々あったけど、こーいった探知は得意らしいからほぼ間違いない。
いつでも斬りかかれるよう、もしくは防御できるように構えつつ慎重に足を進める。
背後や側方から気配はしない所を見ると不意打ちされる可能性は低い。
「――――…いる、か」
思いっきり睨みつけたのは非常灯の明かりが揺れる廊下の先。
距離は大体100mくらいだと思う。
でも、相手は人間じゃないから私の目の前に来る速度はわからない。
人だったら振りかぶって刀を振り下ろす時間もあるけど、すっごく早い霊が相手だとそんな暇もないので基本的に『突き』もしくは『防御』の型を取る。
じりじりと一歩ずつ歩みを進めながら、意識の半分を前方に。
全意識を一点に集中させないのは言わずもがな不意打ち防止の為だ。
悪意の塊や堕神は突然“発生”することもある。
怨霊や悪霊なんかはそこらを漂ってるもしくは巡回していたりもするから割と神出鬼没なんだよね。
いつでも『突き』ができるよう重心を落としゆっくり進む。
足っていうか太ももとかに負荷がかかるからいい具合に引き締まるんだよね、この体勢。
…慣れるまでは筋肉痛との戦いだったけど。
間合いというよりも距離を詰めて、距離は半分ほどになった。
目測だけど大体50m先には生物の理りを外れて生まれたモノがいる。
掌から滲み出た汗と小さく震える自分の手を視界の端でとらえた。
一瞬それた意識―――――…それが切欠になったんだと思う。
「ッ……?!」
声とは呼べない強烈な音の波動といっても過言ではない牽制に歯を食いしばる。
防御の姿勢が咄嗟に取れたことで少しだけ衝撃が和らいだ。
体の前で刀を構えた形から思い切り横へ刀を薙ぐ。
ヒュっと空気を着る音と共に空気が少しだけ“普段の”ものへ戻るのがわかった。
油断した自分の迂闊さに盛大な舌打ちをしそうになったけど目の前にある『人の形をした黒いモノ』の腹に当たるであろう部分を斬り裂いた。
実は霊体でも斬った時に感触がある。
漂う悪意が形をなしている今の状態だと柔らかい、つきたての餅を切ったような感じ。
このヒトガタならまだいいんだけど…堕神や変質した怨霊なんかだと斬った感じが生々しくて嫌なんだよね。
骨と肉の感触に血が腐ったような色と霊力が本物みたいに溢れ出てくる。
始めは気持ち悪かったけど、元々耐性があったのか「うわっ!きもちわるっ!」って思っただけだった。
須川さんに初めて斬った時にそう伝えた。
よっぽど情けない顔をしていたのか上司様は特に何も感じなかったんですよ、と綺麗に笑って私の頭を撫でたっけ。
…犬猫的対応をされたことで罪悪感がなかったとかそーゆーことは綺麗さっぱり頭の中から吹っ飛んだ。
(なにより、漫画とかのヒロインみたいにキャーキャー泣き喚いて慰めてもらえるような可愛い性格してないんだよなぁ…残念すぎる、私)
こんなんだからいつまで経っても甘味関係の仕事に就いてる恋人ができないんだ。
ブツブツと心の中で盛大に猛省しつつ、目の前に在る生きざる者たちを斬り捨てていく。
悪意の塊は、次から次に湧いてでてきて…15を越えたあたりで強行突破に踏み切った。
無理やりにヒトガタの壁を突っ切ってその場を走り抜ける。
目指す先はまず、一番逃げ道を確保しやすい『首吊り桜』のある場所。
そこにたどり着くまで、私は数十体のヒトガタと堕神もどきを斬り捨てた。
ちなみに堕神もどきっていうのは、悪意の塊が少しの意志と人核を持った状態を言う。
部類的には悪霊や怨霊に近いけど根本の発生が違うから退治した時の罪悪感は限りなくゼロに近い。
走りながら見た携帯の時刻表示は丁度1時55分前。
丑の刻と呼ばれる2時まであと少し。
携帯のストラップについた香玉から発せられる香りが少しだけ強くなったような気がして、思わず足を止めた。
「…――――あれ?」
夢中で走っていた私が足を止めたのは、何故か隣のクラスだった。
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短いです。
気付いたら投稿されてたので動揺のあまり短くなりました…。
お見苦しい編集中のものを不幸にも見てしまった方、本当に申し訳ないです。気をつけます、恥ずかしいので全力で。