視点別 「水底で咲いた花」 中編
とりあえず、成人するまでお酒は飲んじゃいけません。
あと、タバコもダメ駄目よ~!!とここで書いておきます。
…で、でもリアリティ的なのとキャラ的なものを考えると仕方なかったの!と言い訳。
推奨はしてません。断じて。
そ、そこんトコロよろしくするんだからねっ!(ツンデレ風)
.
「俺が思うに、夏っつーのは『プール』と『祭り』『水着美女』で構成されてんだよ。尚、プールの代わりに『海』でも有りだ」
「封魔、お前ってケッコーな頻度で唐突に訳分かんねぇこと言うよな」
親友だと思っている男を胡散臭そうな目で見ている自覚はあった。
流石にさ、プールのど真ん中で選手宣誓でもするように声を張り上げられたら素直な反応をしてもいいと思うんだよな。
呆れと『突然何言い出すんだ、この掃除バカ』そんな視線を向けると封魔は普段通りの強面でオレが浮かべているのと同じ表情を浮かべる。
…いや、それはオレがとってもいい反応であってオマエが取る反応じゃねぇから。
「んだよ。それにビールがたんねぇってか?」
「いや、オレら未成年だろ。飲むな。舎監、須川先生に変わったし絶対バレんぞ」
「村田のおやっさんなら一緒になって貫徹麻雀に巻き込めてたんだが…確かに買収は難しそうだな」
「諦めろって。ま、先生も話せば麻雀だけなら許可してくれるんじゃないか?」
「タバコはともかくとして、酒は必要だろ?!俺らの燃料奪う気か!?」
駄目だこいつ。
いつの間にかオレらの周りには封魔の嘆きを耳にした同級の――――いわゆる、麻雀大会参加組がわらわらと集まっていた。
ちなみにこの麻雀大会はオレらの寮で代々受け継がれている裏イベントだ。
昔、寮ができた年に麻雀好きだった一人の生徒(それも寮長だったという噂がある)が舎監の目を盗んでこっそり始めたらしい。
ま。
『こっそり』っていっても寮中の1~3年まで見境なくやったってんだから舎監の先生にゃバレてたと思うけどな。
結果的にオレらの寮が学年関係なく全体的に仲がいいのはこういったイベントのお陰だって面もあるんだと思ってる。
普段話ししない奴とかでもゲームになったら結構真剣になって周りにアドバイスとか戦略ねったりとかするし。
騒ぎ始めた友人らを眺めながら思わず苦笑い。
オレも大概だけど、コイツらも相当だ。
立ち泳ぎをしながら少しだけ封魔たちから距離を置く。
(優のヤツ、水ちゃんと飲んでりゃいいけど)
一言断りを入れて、プールをぐるっと泳ぐことにした。
泳ぎながらプールサイドに目を向けて優を探してみたけど50mの方にはいないようだ。
少しだけ残念に思いながら、プールから上がる。
暑いタイルの上を踏みしめたオレに水の中で泳ぐクラスメイト達がどうしたのかと声をかけてきた。
「ちょっと疲れたから休憩しようかとおもって」
「なんだ。江戸川んとこ行かねぇの?」
「あ。ソレ俺も思った!なーんだ、違うのかよ~」
「なっ……べ、別にそんなんじゃねーし!そ、そりゃこのクソ暑い日にプール見学とか気の毒だとはおもうけどしゃーねーじゃん」
「なーに焦ってんだよ。靖十郎」
別に焦ってねぇよ!といいつつ、自分でも不思議なくらいの動揺を覚えていることは間違いなかった。
でも何だか認めちゃいけない気がして、人の疎らな100mプールへ入る。
このプールは広いだけじゃなく、深いから足はつかない。
っていっても50mの方も水深2mだから足はつかないんだけどさ。
このプールにいるのは大体が水泳部のヤツ。
広いから50mに近い方だと遊ぶ為にこっちに移動してきた奴もいるけど数は圧倒的に少ない。
だからか、さっきまでいた方より水の温度が冷たく感じられて気持ちがいい。
立ち泳ぎをしながら優のいる方へ―――――…できるだけ、見つからないように泳いだ。
(優のことだから絶対驚くよな!)
いつものプール授業は賑やかっていうか騒がしいから妙に静かなのが気になったけど、優を驚かせることの方が魅力的で思わず顔がにやける。
今の顔は封魔だけじゃなく友人と家族には絶対にみせらんないよな…絶対からかわれる。
優までは50mと少し、という距離まで近づいたから少し休憩することにした。
休憩するならプールから上がるのが一番いいとは思うものの、大体がレーンを仕切っている浮きに掴まって休むことが多い。
オレはいつもどおり浮きに捕まりながら何気なく優が座っているあたりに視線を向けた。
「(何で、あいつ…?別のクラスだろ)」
視界に捉えたのはプールに足をつけている優と、何かを話しかけているらしい生徒会チョーの姿。
我に返ったのは握っていたプラスチックの浮きがバキっと音を立てたお陰だった。
慌てて手元を確認すれば浮きにヒビが入っている。
(やべ。もう少し力入れてたら完全に壊してた)
そっとその場から離れて、少しだけ優のいる方向へ泳ぐ。
音を立てないように最新の注意を払っていたこともあって二人には気づかれなかった。
ただ、距離が縮まった御陰で見えなかった表情がわかるようになる。
優は、普段オレたちに向けているものとは違う笑顔を浮かべて生徒会長を見上げていた。
時々、オレらに対して向ける表情に壁を感じることがあって、オレも封魔もわかってはいたけど編入してきたばっかりだし緊張してるんだろうと思い込んで…いや、思い込もうとしてたんだ。
それなのに、だ。
なんで、と小さく呟く。
オレの周りだけ静まり返ったような錯覚を認識する余裕もない。
視界にはいってくる光景にモヤモヤしたドス黒いものが渦巻いて気分が悪くなってきた。
胸ん所は色んな感情が溜まって澱んでるみたいで気持ち悪いのに、頭は嫌に冷静なのにも泣けてくる。
(あいつがルームメイトだからか?もし優がオレのルームメイトだったら、今頃もっと仲良くなってたかもしれないんだよな。なんだよ、別に寝起きするのが同じ部屋だからって言ったって一緒にいる時間はオレの方が長いのに)
近づくにつれて見えてくる表情。
何を話しているのかはわからないけど、でも明らかに普段オレが見ている表情とは違う。
生徒会長の方は相変わらずの無表情。
でも、普段纏っている威圧感みたいなものがなくなっているのが分かって…思わず目を背けた。
水面を睨みつけていると、突然優の素っ頓狂な声が耳に飛び込んできた。
慌てて顔を上げて視線を向けると生徒会長は既にいなくなった後だったらしい。
ただ入れ替わるように優の前には封魔がいた。
見覚えのある水鉄砲は確かクラスの奴が持ち込んだものだ。
はじめは、泳いでって二人の話に混じろうかと思った。
でも。
だけど。
上がった水飛沫が太陽の光を受けて輝くのを視界に収めて方向転換。
潜ったプールの中は静かだった。
周りに人がいないこともあって『一人』で泳いでるような気分になる。
手足を使って水を掻き分けて進む。
どこへ行こう、とか何をしようとかそういう目的もないまま、ただ手足を動かした。
泳ぎながらいつもより進みが遅いような気がするのは、きっと胸の奥から腹の奥までに重くて黒い不愉快な何かが詰まってるからだ。
(オレは、普通だ)
普通であることはオレにとっては大事なこと。
事故現場で血まみれの被害者らしきものが見えることも、何気なく通った場所で現実にはありえない変わった生き物を見かけても。
それらを“見えないもの”として過ごしてきたし、これからもそうするつもりだ。
普通じゃないのは怖い。
個性だのなんだのって言葉が吐けるヤツは本当に辛い目にあったことがない奴か、強い奴だけだ。
強くなりたくて空手とか習ってた御陰で絡まれても切り抜けられるようになりはした。
だけど精神的には弱いままだ。
(だから、これは『逃げ』じゃなくて普通の反応なんだ)
知らない、と小さく心の中で呟く。
モヤモヤした気持ちの奥深くにあるソレの正体に気づかないふりをして必死に目を背ける。
考えちゃいけないと言い聞かせて――――…近づかないようにしていた場所へ自分が足を踏み入れたことに気づく。
この世のものではない“それ”を視界に収めた瞬間、耳元で体中の血液が引いていく音を聞いた。
.
み、短っ!!
え、えーとここまで読んでくださってありがとうございました。
続きも頑張ります。鈍足通り越してナメクジ速ですけど頑張ります。
誤字脱字変換ミスなどがありましたらご一報いただけると嬉しいです。