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正し屋本舗へおいでなさい  作者: ちゅるぎ
潜入?!男子高校
66/83

 視点別 「水底で咲いた花」 前編

 毎回遅くなって申し訳ないです。

文章の見直しなどは後でやりますので、ええ、はい。

なんとなーく察してやってください。

.









説明不能なこの感情を悪くないと感じるのは


                 もう既に手遅れだという証明かもしれない…











***







 数日前、オレのクラスに編入生がやってきた。





 共学の高校から事情があって一人、編入してくる。


編入生が来るという噂と同時に流れていた情報を聞いた時、典型的な問題児が来るのかと思ってたから本人を見た瞬間に色々と想像が打ち砕かれた。

 問題を起こすというより“巻き込まれる”方が合っているような緊張感のなさに拍子抜けしたのはオレだけじゃなかったらしい。



(最初はオレより背ェ低いのが気に入ったんだっけ)



 本人には言えない理由とちょっとした好奇心で話しかけたのを切欠にオレと封魔、優の三人で行動することが多くなった。

元々あんまり特定のヤツとばっかりつるんでる訳じゃなかったから先輩やクラスメイトからは珍しがられたけど――――あまりにも優がオレらに馴染みすぎて編入してきたその日の夕方には日常風景として片付けられてたようだ。





(大体、居心地が良すぎんだよ。なんかみてて危なっかしいし。放っといたら色々やらかしそーだし)





 オレは兄弟が多いから、優みたいな真剣にどこか抜けてるやつを見てるとついつい世話を焼きたくなるんだよな。

ほっといたら直ぐ迷子になるし、ぼんやりしてるかと思えば突然動きだすから目は離せない。

ま、こいつなら性質の悪いのに絡まれる心配もないだろうけど。

 能天気に笑うんだよなぁ……本当に。

小さなことで悩むのが馬鹿らしいと心から感じるくらい素顔で笑うから




(つい、釣られて笑ってんだよなー…気付いたら)





 ふっと息を吐いて何気なく周りに目を向ける。

待ちに待ったプール授業は快晴でほどよく暑いから水の中に入ればさぞ気持ちいいだろう。

周りも浮き足立ってるしオレも例外なく普段よりもテンションは高めだ。


 更衣室では荷物を置いて我さきにとシャワーを浴びる。

教室にクーラーも扇風機もないから汗かくんだよなー…そのままプールに入るのってなんか嫌じゃん?

まぁ、先にシャワーで体の汚れとか落としてから消毒液に浸かったり被ったりするのが決まりなんだけどな。





「あー…授業中にシャワー浴びれるとか毎日プールでいい」



「さんせー。あのクソあぢぃ教室で勉強しなきゃなんねーとかどんな地獄だよ。せめて扇風機あってもバチはあたんねーだろ」



「だよな!この学校めっちゃ暑くねぇ?!次の体育祭で優勝したら教室にクーラーつけてもらおうぜ!食券とかもいいけど、一週間でなくなるんだよな。あれって」





 着替えを済ませたら消毒室へ向かう。

教室と同じくらい広く作られているものの、プール授業は合同授業だ。

当然全員は収まりきらないから更衣室もほぼ満員になっている。





「そーいえば、江戸川は見学するんだっけ。怪我かなんか?」


「元の高校で酷い虐めを受けて、そんときの傷の所為で入れないとかじゃなかった?」


「は?俺は昔の傷が原因で虐められた所為でプールに入れなくなるって聞いたけど」





「まぁ、どっちにしても…あんま思い出したくねェことだろ。お前ら無理に聞いてやるなよ」






 封魔がざわめきだしたクラスメイトに釘を指す。

表情も口調も真面目で、少しだけ驚いた。

普段の封魔ならさりげなく話題を変えてそれで終わりだったはずだ。

 小さな違和感を覚えつつオレは話題を変えるべく仕入れたばかりの情報を口にする。

いや、なんてことはない購買の限定メニューについてなんだけどさ。




「お。そろそろ始まるんじゃね?」


「早くいこーぜ!!」



我先にとプール内へなだれ込むクラスメイトをみて、ふと足が止まる。

 脳裏をよぎったのは編入してきたばかりの友人のこと。

学校のプールは屋外にあってプールの周りを高い金網で囲ってあるだけだ。

たまに一年で怪我で授業に参加できないことがあるけど、大概熱中症か何かで倒れる。

水分補給もだけど、日除けとかもないからなぁ……。




「悪ィけど、先に行っててくれ。ちょっと忘れ物っ!」




 踵を返し、人の波をかき分けて更衣室にある自分のカバンを開けてタオルを探す。

服脱いだ時に適当に丸めて突っ込んだから探すのに少し手間取ったものの、カバンの底に目的のものを見つけてそれをカバンから引き出した。




「っと…!?」 




カバンから出した瞬間に何かがタオルの中から転がり落ちた。

床に落ちる前に手でキャッチして手にもった感覚でソレが何なのか思い至った。



「流石に御守りもってプールに入るわけにはいかないよなぁ…」



 ちなみに、昔は祖母ちゃんが海パンの紐んとこに数珠みたいなのつけてくれていた。

買ったものをそのまま着るよりも格好良く感じたし、祖母ちゃんと色々石を選ぶのも楽しかったから今ではいい思い出になってる。

…去年の水着は一年の時と同じだったから石付きだったけど、今年はさすがにサイズが合わなくなって買い換えたからついてないんだよな。

祖母ちゃんも高校入学してその年の夏に倒れて亡くなったし。

 タオルを手に、早足でプールへ向かいながらため息をこぼした。




(優から貰ったもんだし濡れたり無くしたりしたら悪ィよな、やっぱ)





 何が起こるって訳じゃないだろうし、そう言い訳めいたことを考えて御守りをカバンの中へ仕舞った。

初めて優からもらったのが御守りっていうのはどーかとも思うけど、オレと封魔しか貰ってないし手作りっぽいからレアだよな!

 鼻歌を歌いながら『持ち歩いて』といわれていた御守りを置き、早足でプールに向かった。




今思えば…最近は霊をみる回数も減っていたし大丈夫だろうと思って油断したのも悪かったんだ。





 オレが人とは少しだけ違う世界を見ているんじゃないかと思ったのは小学生に上がる頃。


『誰か』がいると指させば「誰もいない」といわれ。

『危ない』と腕を引けば「何もないじゃないか」と眉をひそめられ。

『○○はどこいったのか』と問えば「そんな子は知らない」と気味悪がられて…ようやく、気づいた。


はじめはパニックになったけど、祖母ちゃんも視えていたらしく色々教えてもらったから今では普通に生活できている。

死人とそうでない人の見分け方、とか分かっちゃえば簡単なんだけど、やっぱ分かるまでが大変なんだよな。



 太陽の熱によって熱されたタイルの上を歩きながら、友人のもとへ急ぐ。

途中で知り合いに声をかけつつ一人だけ制服を着た小さな友人を探す。

封魔立ちのところに着く前に見つけられたら、と思ってとった行動だったんだけど――――…優を見つけたのは封魔達と合流したあとだった。

 優はオレらが入ってきた入口とは逆の、緊急時にしか使えない入口から入ってきたらしい。

先生の「点呼をとるぞー」という言葉で慌てて返事を返しながら走ってくるのが見える。

学ランを肩にかけて若干ふらつきながら向かってくる優に眉間に皺が寄った。




「アイツ、なんだって上着なんか持ってきてんだよ。ぜってー倒れるだろ」




 うっかり零れ落ちた呟きに聞こえてたらしいクラスメイトが賛同してたことにはびっくりしたけど。

とにかく、無事プールに落ちることなく優が合流すると直ぐに準備体操が始まる。

準備体操が始まると「いよいよプールに入れる!」とオレらのテンションも上がっていく。

優と目が会う度に小さく手を振ったりして少しだけ普段より楽しかったんだ。



 準備体操が終わると、先生がプールに飛び込んだのを皮切りにオレらもプールに飛び込んだ。



体温よりもはるかに低い水温に鳥肌がたったけどすぐに慣れて暑さから解放されて清々しい。

冷たいっていっても屋外にある上に直射日光が当たってるおかげで馬鹿みたいに冷たいわけじゃないし、ちょうどいい温度になっている。

 



「よし、じゃあ50mプールで水中ウォーキングだな。忘れてるやつもいるかもしれないが準備運動だからしっかりやるように!できないようなら次からはプールに入れる時間が短くなるぞ!」 




 先生の言葉でオレらは慌てて真面目に準備運動を始める。

水中ウォーキングを取り入れたのはプールで溺れる生徒が一年で2~3人いたからだと先輩方が教えてくれた。



(そーいや、最近“多い”ような気もするし…この前の『七不思議』の時といい注意しとかなきゃな)



 幸い、オレらのクラスで死んだやつはいないけど2年の中でも死んだやつはいるし注意するに越したことはない。

まぁ、コイツら元気だし大丈夫だろうけど。

虐めとか素行のすこぶる悪い奴とかもいないから気が楽だって先生もいってたもんな!

そ〜考えるとオレらって優秀じゃん。

テストは、まぁ……全体的に苦手だけど体育祭じゃほぼ負けなしだし。


 水の中をざっぱざっぱ会話しながら歩いて、気づけばあっという間に自由時間になっていた。

程よく体もほぐれて準備は万全だ。

今いるプールは少し狭いってことで中プールに移動することにした。

 ちなみにプールは三種類。

その内100mあるプールを中プールと呼んでいる。

ウォーキングは50mプールだったから一旦プールから上がらなきゃいけないのが辛いんだけどな。

あと、授業は主に中プールで行われるから先に移動しておけば熱いタイルの上を歩かなくて済むし。


 移動している途中、何気なくみた大プールの方の端を見ると見慣れた人影があった。

大プールを背にして中プールの角に座ってジッと水面を睨み付けている。

なんか、近くで見ても小さいけど距離があると余計小さく見えるな。




「(あの馬鹿…)封魔、ちょっと優んとこ行ってくるわ」



「了解。早く戻ってこいよ~」




 封魔の声に手を振って答え濡れていないプールサイドを走る。

このクソ暑い中で直射日光全身に浴びてるって洒落れにならねぇだろ!

足の裏が焼けるような思いをして優がいる一角の近くへきたものの、当人はまだオレに気づいてないらしく相変わらず水面をじとーっとめつけていた。



(まったく。優らしいっていやぁ優らしいけど)



先まで感じていた小さな苛立ちは盛大な呆れと諦めに変換された。

でも、普通に渡すんじゃ面白くないと思って持ってきたタオルを上から落としてみる。

ぱさっと見事に頭に載ったタオルを彼は不思議そうに持って、首を傾げていた。

どうやら本気で分かっていないらしくじーっとタオルを眺めている。





「(鈍……ッ!予想はしてたけど鈍すぎるだろ?!)」



「……なんで?」



「ったく…それかぶってろよ。ぶっ倒れるぜ?」



「これって靖十郎のタオル、だよね」




まじまじとタオルを見つめる姿に思わず苦笑いが浮かんだ。

危機感って機能備わてないよな。こいつ。


「お、オレのが嫌だったら他のやつに借りてもいいから。熱中症で倒れたヤツだって少なくないんだから、今度は水くらい持ってこいよ」



「ありがとう、靖十郎。ちょっと暑くてぼーっとしてたんだよ」



「げ…っ!危機一髪だったのか。うっわ危ねぇー…ソレ、貸しとくけど倒れそうになる前にちゃんと言えよ?それから学ランじゃなくて次からジャージにしとけ。マジで洒落にならん」



「い、以後気を付けマス」



 ちょっとで済む問題じゃねぇだろ!?とツッコミを入れるより先に熱中症手前だった事に驚きつつ、プールサイドを走る。

タイルの熱さを感じない代わりにヒヤリとしたものが体の中に落とされたような感覚を覚えて苦笑する。


(…確実にあのままだったら倒れてただろーな)


 んっと様子見に来てよかった。

渡したタオルをしっかりと手にして嬉しそうに笑った顔を思い出して口元が緩む。

ニヤけ顔を同級生たちに見られないように少し俯きつつ足を進めた。




「んで?どーだったよ」



「完璧にあのままだったら数十分後には保健室行きだった。アイツ、あのクソ暑いのにジャージじゃないんだぜ!?ありえねぇだろ!せめてジャージとTシャツとかさー」



「変なとこ真面目だよなァ。こっから見てもグラグラ揺れてたし」




そんなことじゃねーかと思ったわ、と苦笑しながら優を見つめる封魔は――――なんだか、見たことのない顔をしていた。

友達をみる顔じゃない。

相変わらずそこらの不良なら視線だけで一掃できるような顔だけど、目が普段とは違う。


(なんだこれ。気持ちわりィ…ムカムカしてきた)


 訳の分からない感覚に内心眉を顰めつつ、意識を無理やりにそらす。

折角のプール授業なのにこんな気持ちは入らないと思ったのもあるし、友達である封魔に理不尽極まりない苛立ちを覚えたなんて申し訳ないっていうか…なんか嫌だったんだ。



「(第一、封魔が優のことどんな風に思っててもオレに関係ねぇし。今までどおり友達だ……よな。うん)」



 金網で仕切られたプールの外側を眺めながら小さく息を吐く。

意識をそらしたのはその一瞬だったけど随分気が紛れて、すぐに封魔たちとの会話に戻る。

いつもと同じように馬鹿話をしているとタイム測定が始まった。




「よォし!靖十郎ォ……本気で水泳部の奴ら泣かせんぞ」



「がってん!オレら、去年の水泳大会でも水泳部キャプテンと僅差だったし余裕余裕っ」



「いや、注意しなきゃなんねぇのは禪のヤツだ。アイツ、早ェんだよ」



「早いったって去年は大会で賞もとってなかったじゃん」



「前回、アイツ大会の実行役員だったんだよ。ついでに言えばキャプテンを負かしたらしいし油断ならねぇ」





 頭をとっつき合わせて作戦会議をする。

封魔は見た目だけ見れば怖ェけど、話してみるとノリもいいし、程よい距離感を保ってくれるから一番付き合いやすいんだよな。

優は…またちょっと違う感じで一緒にいると楽しーし?



(こー考えると、やっぱこの学校選んで正解だったよな。生徒会チョーは苦手だけど、んなヤツどこにでもいるし。クラスが違うから普段気をつけてえば遭遇しないし)



 記録係に抜擢されたらしい優が先生の隣に立っていた。

頭にはオレが渡したタオルを乗せて興味深そうにキョロキョロしてる。

すぐにオレ達に気づいたのか小さく手を振って…あ。先生に怒られてやんの。




「ほんと、しょーがねぇヤツ」




やっぱ、オレがしっかりしないとな。

続きそうになった言葉は、ホイッスルの音にかき消された。











.



 ここまで読んでくださってありがとうございました!

次、後編も出来るだけ早く挙げられるように頑張ります。

いや、ほんと頑張ってるんですよ?(^_^;)

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