きっかけは足跡
本当に執筆速度が遅くてすいません。
文章の長さが通常に戻りました!やったね!(何が
.
傍から見れば呆然と――――もとい間抜けにも口や目を開いたままフリーズしているように見えるんじゃないだろうか。
…大半は間違ってないけど、不可抗力のフリーズだ。
停滞していた空気は、部屋の奥の窓から入ってきた青みを含んだ風によって動き出す。
揺れるカーテンと頬を撫でて心地よさに目を細めた。
仕事中じゃなければこのまま昼寝と洒落込みたいよねぇ…この保健室は大丈夫そうだし。
「――――ッ、い、いや、その…あれだ。今のは、アレだからな!そ、そんなんじゃねーぞ!ただ、そのほらッ!おま、お前が虐められないように俺が…俺“達”が護ってやるからな!!だから転校するとか…なし、だぞ」
「ぶっ…!そ、そんなんってどんな…あはっ、あははは…ッ!靖十郎、顔赤ッ!」
「わ、笑うなよなっ!お、オレだってこれでも色々考えてんだぞ?!」
面白いくらいに動揺したまま、肩を怒らせて顔を背けた彼は少しだけ、拗ねてるようです。
あー、うん、敗北感を感じるよ。
って、今日で何回味わえばいいのさ!?このなんとも言えない切なすぎる敗北感を!
靖十郎…君ってやつはどんだけ乙女なんだお願いですからその成分を分けてください30%でいいから。
「じゃあ―――――…俺も、靖十郎が危なかったら助けるって誓うよ」
「 え 」
「え、って失礼な!だって、友達なんだから困ってたり危なかったら助けるのがふつーじゃない?実際に靖十郎には十分すぎるくらい助けてもらってるし」
「いや、オレは別になんにもしてねーじゃん」
「編入してまだ数日しか経ってないのにクラスに馴染めてるのは靖十郎のお陰。封魔の力もあるんだろうけど、やっぱ一番初めに声かけてくれのは靖十郎だしさ、校内のこと教えてくれたり色々情報くれてるじゃん?アレってさ、すっごく役に立ってるんだ」
クラスに馴染めば情報収集はしやすくなるし、それを切欠にして他の学年との繋がりだって出来る。
それに、いくら仕事だっていっても昔から居た友達みたいに気楽に話しかけてもらえたり、一緒に笑ってくれる人がいるのはやっぱり嬉しいものだ。
例え年が離れてて、言えない秘密を抱えてるちょっと後暗い事情があっても。
爆笑していた私の横で、唇を尖らせている彼は姿は17歳には……みえないよねぇ。
滲んだ涙を拭って笑ったお詫びにほんの少しの真実を話すことにした。
「傷跡はさ、本当は見えないんだ。けど――――――……傷は治っても治らないものもあるから」
「イジメられてたんだっけ」
うつむいた彼に私はただ、曖昧な笑顔を浮かべる。
頷くのも肯定するのも簡単。
でも、今この場で嘘をつくのはなんだか嫌だったから否定も肯定もしなかった。
「あ。これ、二人だけの秘密だからな?傷跡が見えないなら外せって言われるし」
「お、おう…!」
再び頬を染めた靖十郎に首を傾げつつ、そういえば、とプール以外でも気になったことはないか聞いてみた。
「霊が視える」というカミングアウトをした後だから今まで言えなかった異変とか違和感とかも話してくれるんじゃないかと思ったんだけど、特になかったみたい。
そ〜上手くはいかないよねぇ…頑張ります、はい。
取り敢えず七つ不思議を揃えて(あ、でも七つ目はわからないんだっけ)からゆっくり考えよう。
なーんか引っかかってるんだけど、調べてくうちにわかるかもだし。
「――――さてと。それじゃあ俺そろそろ戻ろっかな。シャワーも浴びたいし」
「気をつけろよ。こっから寮に戻る道はわかるか?」
「えっと、多分大丈夫。ああ、そうそう。一応、渡したお守りはちゃんともっててよ?気休めかもしれないけど何にもないよりいいだろうし」
肌に張り付いたシャツを指で摘んでその濡れ具合に眉をひそめつつ、きちんと注意を促す。
慌てたように傍らにあった制服のポケットからお守りを取り出して首から下げるのを見届けてから今度こそ、その場を後にした。
「シャワー浴びたら落ちてくれるかなぁ…この赤黒いの」
校舎から出て周りに誰もいないことを確かめてからようやく、息を吐く。
気づいたのは数分前。
でも気のせいだと心の底から祈るように自分に言い聞かせてどうにか気にせずにいられたのは、靖十郎がいたからだ。
そうでなければ動揺して、とっくに取り乱していただろう。
手首に巻き付く指に似たカタチの、残滓。
未練がましく、禍々しく、おどろおどろしいソレはプールの底で遭遇したモノの欠片だ。
掴まれた手首から下はもう殆ど動かない。
幸か不幸か利き手じゃないから、まだいいものの…そうぼやきそうになってやめた。
ほら。負けたみたいで悔しいじゃない?
冷たさを通り越して痛みを覚え始めた左腕を右手でしっかりと握って、廊下を駆ける。
シャワーを浴びる前に私は何度となく、助けを求める言葉を飲み込んだ。
そもそも“助け”を期待していい相手がいない。
口にしたところで助けてもらえるとも考えてないから、声を出すだけ無駄だ。
柄でもないし、負けたような気分になるから意地でも助けは求めない方向です!
やっぱり任されたことはできるだけ一人でやってみたいしね。
「でもその前に一回だけプールの様子みてこようかな」
寮へ向かう前に少しだけ寄り道しても時間はあんまり掛からないし、言い訳だって「忘れ物をした」とでもいえばいい。
かなり心苦しいけど、こっちも仕事だし止むおえない。
あんまり深く突っ込まれないようにしないとね。
◇◆◇
机の上にある戦利品を見つめて、多分10分は経った。
保健室から寮へ帰る時にふと思い立ったプールの探索は小さな戦利品と情報になったんだけど…それが問題と言えば問題だったりする。
シャワーを浴びたことで塩素の匂いも薄れたし、蒔き塩をしたからあの嫌~な赤黒い残滓もきれいさっぱりなくなったから随分と気分は楽だ。
「どー考えてもきっちり足跡だったし…コレはないよねぇ」
ハンカチの上に更に半紙を敷いたその上には薄い金属版が乗っている。
ただの銅板だったら「危ないなぁ」で済んだんだけど…残念すぎることにヒトの形を模していた。
俗に言う「ヒトガタ」「依代」と呼ばれるもので私たちのような業種の方々がよく使うものだ。
そりゃ、飾り切りとかでこーゆー人形作った時期もあったけどそんなに楽しいものじゃない。
自分の身代わりとしてつかったり、式を下ろしたり…っていうのが通常の使用方法。
問題は呪詛にも使われてるってことだ。
「問題は靖十郎が溺れた場所にテープでくっつけられてたってことだよね」
これを見つけたのはプールの底。
何かあるかもしれないと一通りプールの中を見て回った。
至って普通のプールにしか見えなくて始めはホッとしたんだけど…ヒトガタを見つけた瞬間に覆される。
だって、普通に生活している場で“非現実的”で物騒な悪意の塊が存在していたんだ。
ヒトガタを仕掛けられるのは人だけ。
日常に紛れ込んで何事もなかったように猛威を振るう。
「誰の仕業なのかはわからないけど、どうして靖十郎を狙ったのかハッキリ弁解してもらわないと、ね」
指でヒトガタに触れるか触れないかの位置で傷をなぞる。
くっきりと認識できる程度にヒトガタの銅板に残った九字の印の中でも最後の一撃は見事に裏まで達していた。
今までの修行でもいろいろやってみたけど此処まで力が出たことはなかったんだけど…やっぱり「火事場の馬鹿力」とやらだったり?
…霊力の高い靖十郎がいたからって考えたほうがよさそうだけどね。
(にしてもだ。私の特性みたいなのが悪霊とか怨霊に強い!みたいなのだとよかったのに)
得意なのは殆ど凶悪化することのない動物霊だとか人と関わることの少ない神様と話ししたり触れるってことくらい。
癒しになるし、神様と話するのは面白いけど…もっとこう、役に立ってる!っていう実感が欲しくなる。
地道に修行しつつお仕事してかなきゃいけないんだろうな。
「まずは須川さんに報告しないと」
ヒトガタの事と、濡れた足跡のこと。
足跡っていうのは私と先生が入った普段生徒が足を踏み入れることのない方の入口。
ヒトガタがあった場所に一番近いからコレを回収するには使い勝手がいい。
…鍵がかかってなければ、だけど。
足跡の主がそこから入ろうとしたときにはもう施錠されてたんだと思う。
入口の内側に足跡はなかったから、間違いない。実際に証拠が残ってたし。
「濡れた足跡ってことは…やっぱ、あの場にいた中の誰かって可能性が高いってことか」
まず、普通の授業じゃ足は濡れない。
次に私の通ったところから出入りしたなら足が濡れるようなものは何もない。
足が濡れるのはプールにつながっている脱衣所を通ったかプールに入ったかだ。
わざわざ足を濡らすなんてしないだろうし。
ぶっちゃけ、七つ不思議だけでもいっぱいいっぱいなのにこれ以上もーはいらない!って文句の一つ二ついいたくなる。
マジでホントご勘弁!
土下座してどーにかなるもんなら土下座してもいいかなって思えるくらいには混乱してます。
………はぁ
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書いていて自分も優も行方不明。
うっすら怪しい成分がにじみ出ています。どうしよう。