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正し屋本舗へおいでなさい  作者: ちゅるぎ
潜入?!男子高校
64/83

きっかけは共感

 …くおりてぃ、絶賛低下中!です。

がんばってはいるんですが、自分の精一杯はこの程度。うぅ。

.








 えーと……今、靖十郎はなんていった?







 予期せぬ告白もといカミングアウトに目と口をぱっかーんと開けたまま脳内で彼の言葉を繰り返す。

ついさっき彼は深刻な顔で「お化けがみえる」とかなんとかって言わなかっただろうか。

お化けがみえるってことは…プールにいたものも見えてた可能性が―――――じゃなくて!





「ま、マジでか!?え、ってことは今まで見えてたの?!」





 だったら須川さんにも相談しないと!

霊力が高い人とかチャンネルが合いやすい人って色々危ないんだよ。

引きずられることも考えられるし、場所が場所だからね。





「……信、じてくれんのか?」





 蝉の鳴き声が遠い。

窓から入ってきた風で乾き始めた彼の髪が揺れて、少しずつ彼の瞳が潤んでいくのが見えた。

多分、ホッとして涙腺が緩んだんだろう。

靖十郎がホッとしているのは表情だけじゃなくて雰囲気からも十分すぎるほどに伝わってくる。






「信じるもなにも見えるって靖十郎がいったんじゃん。嘘じゃないってことくらいわかるよ」






嘘じゃないんでしょ?と分かりきった答えを聞けば靖十郎は真顔で頷く。

でも直ぐに心配と呆れを混ぜた表情を浮かべている。





「勿論、嘘は言ってないケドさ。でも…そんな簡単に信じてもいいのかよ」



「信じられるから信じてるだけ。だって例え嘘でも“この嘘は”誰も傷つけないし、あーんなマジ顔で嘘をつく芸当ができるようには見えなかったからさ」





しれっと嘘をつく人はかなり身近にいるからこそ分かったんだけどね。

真顔でツラツラと本人曰く『表現を変えただけで事実でしょう?』なんて言う上司と同じだったら私は確実に人間不信になれる。





「で、どのくらいみえるの?やっぱくっきりはっきりバッチリ?!」



「え?ああ、…時々黒い陰みたいなものが見えたり、人の影とか。そーいえば……くっきりってわけじゃないけど最近は前よりも見えるようになった」





 じゃあ、プールでもなにかみえた?と聴きかけて…直ぐに思い直す。

“視える”人っていうのは貴重だってことは『見えない側』から『視える側』に転換した私にだって十分すぎるほどわかって。


見えない人の反応で一番多いのは拒否もしくは無関心だ。

大人になってくほど無関心な反応が多くなるんだけど、靖十郎くらいの年齢なら『拒否』もしくは『拒絶』とかだと思う。

…拒否はともかく、拒絶はきっつい。

拒否なら『一部分』だけを受け入れてもらえないだけだから割り切り方次第では快適なんだよね。


だけど、拒絶は違うから。



(特殊能力に憧れる気持ちはわかるけど、実際手に入れてみると見方が変わるよね)



私はまだ、普通の学生生活を楽しめた。

でも“特別”っていうのは周りの目とかが気になる年頃には辛いと思う。

ましてココは学校っていう閉鎖的な場所だから…尚更だ。


 



「…この学校に入学してから前よりも色々見えるようになったんだ。特に“視る”頻度が高いのは生徒会チョーが近くにいるときでさ……こう、肩とか背後とかで人魂みたいなのがゆらゆらしてたり、人型の黒い影みたいなのがよくユラユラ動いてたりしてて……アイツの傍は何か寒いし」





 ベッドの上に胡坐をかいて両手を握り締めながらしかめっ面をしている。

靖十郎の言葉通り、未成仏霊が禪の周囲を窺う様に浮かんでることは多々あったし、部屋に来て痛みや苦しみをどうにかしてもらいたいと陳情にくる霊もここ数日で体験済みだ。

 運悪く、靖十郎はそれをみちゃったんだろう。


 ま。

禪の霊力は澄んでて湧き水みたいだから成仏したいと思っている霊は無意識に引き寄せられるみたいだし不可抗力だから仕方ないっていえば仕方ないんだけど…これを靖十郎に言うわけにもいかないし。


だから私は曖昧に笑って頷くだけにとどめた。

うん、大人ってずるいよね!

一人で納得していると、部屋の空気が少しだけ変わった。





「――――――……水の中だったんだ。気付いた時には」





 唐突に、そう口にした彼は天井と壁の境目を見ていた。

ぼんやりと記憶を掘り起こして確認するように彼の唇から紡がれる。

何かに魅入られたような表情は事情が事情なだけに心配で、椅子を彼のベッドへ近づけた。






「元々、あのコースは何となく好きになれなくて普段は使ってなかったし近寄らなかった。でも、あの時は……少し一人になりたくて、あの場所を通った。ついでにお前の様子を見ようと思ったんだ」



「ごめん。俺があの場所に居たのも原因だよな」



「ばぁか。んなの、お前の責任じゃないだろ。封魔だって泳いでお前んとこ行ったけど普段使ってるコースから行けばオレは溺れなかったし、もっといえば生徒会チョーみたいにプールから上がればよかった」



「そうだとしても、やっぱり原因のひとつになったことには変わりないよ」



「優ってさ、変なところ頑固だよな。オレからしたら助けてもらっただけで十分っていうか充分すぎ」




だから気にすんなって!そう普段の笑顔を向けられて、視線が自分に向けられたことに安堵する。

遠くを見ているときの顔は別人に見えたから。

 生温い風が頬を撫で、ついでと言わんばかりに体温を奪っていく。






「…?優、どうした」



「え。ああ、ごめん。ちょっとぼーっとしてただけ。ええと、それで……プールに何かいた?」



「いたっていうか……なんか、黒いもやみたいなのが見えたんだよな。どうにかして上がろうと思ったんだけど、すっげー力強くってさ…その内足だけじゃなくて身体にまで巻きついてきたんだ。プールの底から沢山の黒い手が生えてるの見た瞬間に気が遠くなって―――――――…で、気付いたらベッドの上」





ほんと、参るよなー。なんて軽い口調でおちゃらけた表情を浮かべてはいるけど、手が小さく震えていた。

無理しなくてもいいといいそういなったけど、私が靖十郎だったらきっと同じように笑うんだろう。

我慢することがいいことだとは思わない。

 でも性分だからどーしようもないんだよね。

少しだけ、ほんの少しだけ寂しくなったけど、靖十郎の期待に沿う反応をすべく私は大げさに自分の肩を抱いて静寂を破るように声を発した。




「黒いもやと手、か。しかもプールの底から映えてるとか怖っ!!」





絶対夢に出るよ!と素直な感想を口に出すと靖十郎も私に応えて大きくなずいた。

身振り手振りで一生懸命自分の見たものを伝えようとする姿は、なんだか少しだけ、寂しくなる。


(分かって欲しいから、一生懸命伝えようとしてるだけなんだけどね)


それはこの世のものでもあの世のものでも同じ筈なのに、どうしてこうも違うんだろう。

悪霊と呼ばれるモノだって始めは純粋な“想い”を抱えている。

でも歳月やいろいろな思いを受けて悪い方へ歪んで戻れなくなる思いだって沢山あった。




「視えるって、大変なんだよね」



 そう心の底から抱いている想いを口にする。

すると彼は本当に、心から安心したような笑顔を浮かべた。

きっとこういうことに正解なんてないんだと思う。

だけど、ほんの少しでも役に立ててたら嬉しいな。


ほら、弟みたいでなーんか可愛いしつい構いたくなるっていうかさ。

……お姉ちゃんって柄じゃないことくらいわかってるけどね。



 緊張や不安から開放された私はぼんやりとしていたらしい。

会話が途切れていたことに気づいて、慌てて意識を目の前の靖十郎に向けた。




んだけども







「靖十郎、どうしたん?なんか……かなり無理な体制じゃない?ソレ」




「気にすんな。むしろ気にしてくれない方が助かるんだ。あー、えっと…とりあえず、着替えねぇ?」




「ああ!そっか。さっきTシャツ着てたけどやっぱ寒いよね。かなり体温下がってたし」




確か、私の濡れてない学ランがその辺にあったはずだ。

よっこいしょーと立ち上がって背後のベッドに放り投げた自分の荷物に手をかける。

行儀が悪いのはわかってるんだけど、放り投げちゃうんだよねー。昔から。




「いや、オレじゃなくて!オレはいいんだよ、別に。服変えたし」



「そういえば着替えてたしね。風邪ひくなよー」



「それはオレのセリフだろ。オレじゃなくて着替えるのはオ・マ・エ!!そのままだと風邪ひくだろっ!だ、大体なっそ、そんな格好でウロウロすんな!か、隠してんだろっ」




隠すってなにを、と言いかけて靖十郎の指先をたどる。

あー、そういえば全身濡れてるんだった。

さぞ掃除が大変だろうね……なんか、ごめん、葵先生。

掃除は声かけてくれたら手伝います。




「濡れネズミだったこと、すっかり忘れてたや。やっぱり寒そう?」




あはは、と誤魔化すように笑ってみるものの、靖十郎は顔を背けたままだ。

やや上ずった相槌が中々に初々しくって色々と悲しくなってくる。

 シャツやズボンが肌に張り付いているのにも慣れたのが敗因だね!そうでなけりゃもーちょっと恥じらいをもった反応を返せたはずなんだ!…たぶん。





「もふっ…?!」



「ソレ、貸すから着てろよなっ!マジでホント頼むから!」



「や、これから寮に戻ってシャワー浴びるしさ。なにより洗濯物増えるじゃん?大丈夫だいじょーぶ、問題ないって」



「…………問題なのは俺のほうなんだよ」



「ん?ゴメン、なんていったの?聞こえなかったんだけど」



「なんでもない。とりあえず、髪くらい拭けよ。オレの所為で風邪引いたなんて言われたくないし」




 赤い顔のまま何処か疲れきった表情を浮かべた靖十郎に疑問符を飛ばしつつ、有難くバスタオルを借りることにした。

さっきから滴り落ちてくる水滴が煩わしくってさ。





「……胸の、さ…包帯それ…事故のか…?」



「(包帯って、サラシか!あ、あぶな!!すっかり忘れてた)う、うん」



「結構、範囲広かったんだな」



「――――――――…そう、だね」




 ぶっちゃけ、上半身半分くらいガチガチにサラシ巻かないと誤魔化せそうになかっただけなんだよね。

今思えば胸を圧迫した状態でよく泳げたなぁとおもう。

慣れるまでは独特の息苦しさで大福がつまりそうになったもん。

一瞬花畑がみえた位だし。

 髪を拭くことを放棄してうんうんと一人納得していると、急に身動きが取れなくなる。



(へぁ!?な、何事!?)



 動けなくなった理由は、目の前にいる。

がっしりと意外にも大きい手と強い力の持ち主が私の肩をがっちり掴んでいるからだ。

これだけなら振り切れるんだけど…ベッドの上で膝立ちになって真剣な顔で見据えられたら誤魔化すに誤魔化せない。

 コレが封魔だったら「俺で遊ぶな」くらい言えたんだけど…



(靖十郎、ものっそいマジ顔だしなー…って、うわ。睫毛ながっ!!は、肌も綺麗だし。むむむっ)



 目の前にいる妙に真剣な顔をした靖十郎を見た以上、茶化すわけにもいかなくて。

気づかれないように小さく息を吐いてから向けられている強い視線に自分のそれを合わせることにした。

人の目を見て話すのは少しだけ気恥しいんだけど…仕方ないよね。状況が状況だし。


 深い桑茶色のくすんだ赤みの黄色は近くで見ると凄く綺麗だった。


ホッとするような色合いで出来ればじーっくり観察してみたいけど…この雰囲気じゃ安心よりも得体のしれない緊張感の方が強い。

さっきから、なんだか耳元で心臓の音が聞こえてる。

 ぼんやりと瞳の色を鑑賞しながら足元からり上がってくる緊張に耐えていた。

どのくらいのじかんかはわからないけど…ようやく、噛み締められていた薄い唇がゆっくりと動く。







「―――――――…俺が、護るから」





真っ直ぐな言葉と誇りすら感じられる力強く揺ぎ無い声に時が、止まった。

少しだけ色みの薄い唇が紡ぐ音は空気を揺らし、奇妙なざわめきを私の中に残して消える。




「せい、じゅうろう…?」



「お前を独りにはしないって約束する。だから、心配しないでいいから」





 不意に、かれは目元と口元をふっと緩めた。


カテゴリ的には笑顔に部類されるその表情は普段見慣れている無邪気な少年っぽい笑顔とは、明らかに違っていて取るべき対応を見い出せずにいた。










……唯一わかっているのは、目の前にいる彼が真剣に乱心しているってことだけだ。







.


 ここまで読んでくださってありがとうございました!

誤字脱字変換ミスおよび文の違和感の有無など全くを持ってノーチェックなので正気に戻ったら確認及び訂正しようと思ってます。

 次回もできるだけ早くかけるといいなぁ・・・

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