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正し屋本舗へおいでなさい  作者: ちゅるぎ
潜入?!男子高校
56/83

栄辿七つ不思議 『底なしプール』 『???』

すいません、始めは真面目に書いてたんですけど…シモ的要素が混入してます。意図せずに。

.









 異常事態、そんな言葉が頭の中を駆け回っていた。





 背後から感じる視線に自分の表情が強ばって、自然に視線が下がっていく。

絨毯と自分の足と手が視界に入る。

繋いでいたはずの手が震えていることと靖十郎が自分の手ではなくて腕をつかんでいること以外は数秒前と同じだった。

 後ろから感じる気配から意識をそらす為に震える手にもう片方の手を重ねてギュッと力をいれてみるけど、震えは止まらない。

それどころか震えていることを自覚した途端に足の先から恐怖がせり上がってくる。





「優…?ど、どうしたんだ?」



「中津寮長、続きは明日でもいいっすか?ちょっとこいつ調子悪ィみたいなんで」



「――――え?あ、ああ……そうだね。顔色も悪いし、続きっていってもあと一つだけだから明日でもいいか。ただ、お前ら明日プール授業だろ?気をつけろよ」





 会話が、遠い。


近くで聞こえてる筈の靖十郎と封魔の声も湯気の向こうから聞こえてくる様な感じ。

小声でなら経を唱えても大丈夫かな?と今日を唱える準備をし始めた時だった。

 賑やかな声とは真逆の音を過敏になった聴覚が拾い上げる。

わかるのは明らかに背後から聞こえて来たということだけ。

普通ならある程度、相手との距離がわかるものだけど―――――全く、わからなかった。




 “ 振り向いてはいけない ”




頭に浮かんだ言葉は本能を表したもの。

急に視界が狭まって、自分の呼吸音がやけに耳につく。




(落ち着け…っ!落ち着けってば!は、早くどうにかしないと…)




気持ちは急いて、やらなきゃいけないことも分かっているのに体が動かない。

振り向かなければいけないと頭のどこかにある使命感が私を叱咤するけれど、本能では振り向きたくないと体の動きを制限する。

 情けないことに自分の職業も目的も忘れて、ただ時間が過ぎてこの恐怖がなくなることだけを望んでいた。


だけど、世の中そんなに甘くはない。


 そんな中で聞こえてきたのは―――――……笑い声だった。

性別はわからないけれど愉しそうに笑う無邪気な子供の声は不気味でしかない。

体調を心配してくれている3人に小さく、問いかける。

 背後の存在に出来るだけ気付かれないように無意識のうちに声を潜めていた。





「ね、ぇ……今、声…しなかった?」



「え?声…いや、オレは気付かなかったけど…封魔は?」



「俺も聞いてねェな」



「江戸川、一体なにが聞こえたのか聞いてもいいか?」




 驚きを浮かべて顔を見合わせる靖十郎と封魔とは違う反応を示したのは寮長だった。

真剣な顔で周囲に視線を巡らせながら何かを警戒している。

きっと彼も“異常”に気づき始めているんだろう。

その様子に冗談で済ませられる問題ではないと感じ始めたのか、私の左右にいる二人の表情にも緊張が滲んでくる。




「俺の、後ろ…――――― 丁度、窓の辺り位のところから子ど」





 ド ン ッ 




まるで、大型車が突っ込んできたかのような大きな音と衝撃が室内を揺らした。

想定もしていなかった事態に一瞬でいろんな何かが吹き飛んだ。

 呆然とする私を余所に、それはエスカレートしていく。




 ガ ン っ 




一つ音が響けば、




 ド ン ド ン ド ン ッ




答えるようにそれ以上の音と衝撃が返ってくる。



 ダ ン っ 


    ダ ン ダ ン ッ 



    バン ッ 


 バ  ン バ ンバン っ





ドアや窓が衝撃を受けてしなり、大きな悲鳴をあげた。

小さな子供の手がそれぞれに窓全体を不規則に叩いているように絶え間なく。



  ガ タ ッ 


 カタカタカタカタカタ 



 窓に気を取られていると、悲鳴に近い靖十郎の声が聞こえて振り返って体が動きを止めた。

絶えず聞こえてくる大小様々な衝撃音。

僅かに殺気を帯びた暗く重たい視線は体に絡みつくように四方八方から注がれる。

 呼吸をすることが辛く思えるような酷い空気に一瞬、視界が揺れて膝を付きそうになったのを見計らったように椅子が飛んできた。




 引きつった声が喉から溢れたような気がしたけど、実際自分がどんな顔をして、どんな声をだしていたのか…――――― どんな姿勢をとっていたのかすらわからなかった。

ただ、反射的に瞼をギュッとキツク閉じたことだけは覚えている。



「ッ……!」



目を閉じると部屋中に溢れる音が脳と動揺した心を揺さぶる。

 反射的に体中の筋肉が収縮したのを感じながら、私はただ無意味に椅子がぶつかった時の衝撃をシュミレーションすることしかできなかった。

普通に転んだり何かが突然飛んでくるくらいなら咄嗟に体を逸らしたりも出来るんだろうけど、異常なこの状況で私の意外に優秀な反射神経は反応できなかったらしい。



(あ、りゃ……?)



そろそろぶつかるかな、と思ったタイミングを過ぎても……衝撃は来なかった。

一瞬、怪異が過ぎ去ったのかとも思ったんだけどラップ音はまだ盛大に活躍していらっしゃったので違うだろう。

普通なら両方ピタッと止まるはずだからね。




「ッ……てェ。おい、大丈夫か」



「ふ、封魔?!ちょ、何してんの?!」



「ナニってあぶねーと思ったら反射的に動いちまっただけだから気にすんな。昔よく暴れてた時にゃ、こんなん日常茶飯事だったし椅子なんざ可愛いモンだって」



「椅子が飛んでくる時点で警察が総動員してもおかしくない事態に思えるんだけど」



「そぉーかァ?俺の学校、相当荒れてたから3日に1度は椅子が飛んでたぞ」




この状況でも顔色どころか表情一つ変えない封魔に少し驚きながら何気なく彼が片手で掴んでいる椅子を視界に入れて、血の気が引いた。

うん……これ直撃してたら死んでたかもしんない。絶対痛い。

 そうこうしている間にも、本やら筆記用具が飛んでくるのでそれらを必死に躱す。

封魔だけじゃなくて靖十郎や寮長もこの状況に少しずつ慣れてきたのかそれぞれ対応できているみたいで目立った怪我はなさそうだった。



(でも、困ったな。いるのが禪君だったらまだしも“一般人”の前で術を使うわけにもいかないし、符は部屋にあるから無理でしょ?んで、シロを喚ぶ訳にもいかない…読んだら絶対部屋が半壊しかける)



 どうしようか、と少しずつ確かに激しく過激になっていく現象に知恵を振り絞って考える。

簡単に解決策が見つかるとは思えなかったけど諦めるわけにはいかない。

このまま激しくなれば彼らが危ないんだ。



(どうにか……最悪は術を使ってでもどうにかしなきゃ本当にマズい)



 唇をかみしめて術を使う覚悟を決めかけたとき突然ピタリと怪奇現象が止まった。

飛んでいた筆記用具や本はその場で重力に逆らうことをめる。

体の芯を揺らすような音達もきれいさっぱり――――― まるで何もなかったように聞こえなくなった。


 急激な変化に慌てて周囲の状況を把握すべく周囲を見回す。

散乱した本やノート、壁に刺さった筆記用具、ひっくり返ったベッドにテーブル。

まるで強盗か戦闘部隊が押し入ったあとみたいだった。

窓から感じた視線は消えていたけれど、うっすらと霊力が拭い切れなかった泥みたいにこびりついている。

 見えなかった頃の私なら気づかなかった筈だ。

でも見えるようになった以上はその影響を多少なりとも受けるわけで……慌てて目を逸らす。

アレはそう長い間見ていていいものじゃないと本能的に思ったから。




「ちょーっと失礼するよーって……うっわ、お前ら部屋で何してたんだ?!」





 私が窓から無理やり視線と意識を引きはがしたと同時くらいに聞こえてきたのは場違いな声。

明るく朗らかで親しみやすい声の主は当然のようにこの部屋の惨状に驚いたらしい。

そりゃー入った部屋が荒れに荒れてたら驚きもするよね。

私なら速やかに見なかったことにするもん。




「あ、葵ちゃん」



「豪華景品付きの麻雀大会なら明後日開催だって言いませんでした?」




「葵ちゃんと読んでいいのは女の子とおねーさんだけだって何回言やーわかんのかなぁ?封魔、それは初耳だ。センセーもばっちり秘蔵のDVDを出すからお前も厳選コレクションの中から持ってこいよ!いいなっ?」



「了解ッス。んで、参考までに葵チャンは何系をご所望で?」



「だんっぜんコスプレものだな!巨乳でちょっと童顔な感じで更にMっぽければ追加点」



「えー、俺はナースの方がいいと思いますよ。白衣の天使とかそそりません?」





 うん、いろいろ台無しだよね。

口元がうっかり引きつったのは気のせいじゃない。

目の前で繰り広げられる下ネタ全開な会話をお姉さんは聴きたくなかったんだよ!

封魔は仕方ないとして、葵先生や中津寮長さんまでノリノリで会話に加わるとは思わなかったもの。

……唯一の救いは靖十郎がそれに加わってないことかな。

なぜか私の両耳をふさいでるのが気になるけど。

 ちらっと背後にいる靖十郎を見上げると彼は熱くなった手と比例するような赤い顔で物凄く複雑そうな顔をしていた。

その顔からは恐怖の色は見えなくて、目の前でハレンチな会話を繰り広げている封魔や寮長さんの顔からも恐怖や戸惑いは抜けて普段通り。


(きっと、葵先生が居るからだよね。大人がいるだけで違うもん)


 葵先生が封魔の軽口に乗ったのは、恐らく酷い顔色と表情だった彼らを気遣ったから。

彼の作った“日常”という逃げ道は人を冷静にするのには適切だったって所かな?

実際私もホッとしたし、ね。

 部屋の中が日常の温度に戻ったのを確認し終わって肩の力が抜けていく。

あの状況で力を使わなくてよかったと安堵したけど自分の不甲斐なさに落ち込む。

だって、素人に毛が生えた程度の実力しかなくても私はこの学校の生徒を守る為に来たんだから。




(大人、か。もっと頑張らないと頼りにしてもらえるような人にはなれないんだろうな)



つま先を睨みつけて、痛みを感じるくらいに手を握り締めた。

いっつもこうなのだからいい加減に学習したいと思う。

踏ん切りがつかなくって大事なとき動けない癖に、余計なところで暴走して事態をかき回す。

経験が足りないからと時々優しい上司は言ってくれるけど私がそれじゃ嫌なのだ。


 もっと、役に立ちたい。


上司の為でも町の為でもなく、私自身が胸を張って日常生活を送るために。

今の現状だと理想論だけどそれじゃいけない。

 立ち止まっている私の思考と体を引き戻したのは、声と共に乗せられた熱と重み。





「じゃ、この子は借りてくよ。多分点呼には間に合わないと思うけど、部屋まで先生が送り届けるからさ」



「え?ちょ、借りてくってどこにですか?!」



「わかりました。江戸川、あんま気にすんなよ。また続きは―――…ルームメイトに聞いたほうがいいかもしれないな。部屋の片付けはコイツらに手伝わせるから安心しろ」



「げ。マジかよ。この惨状片付けんのに何時間かかると思ってん……あだだだだ!」



「つべこべ言わずに片付けろ!なんなら封魔、お前の秘蔵コレクション風紀を乱すっつー建前で没収してもいいんだぞ?」



「うぃーす。気合入れて片付けさせていただきまっす」




 中津寮長は先程のことがなかったような素振りで封魔に話しかける。

始めは硬い表情をしていた封魔も軽口によって普段の調子を取り戻し、意外にもテキパキと片付け始めた。

次に、同じようにまだ強ばった顔をしている靖十郎にも声をかけた。

靖十郎は一瞬びくっと肩をはねさせたけれど、直ぐに普段と変わらない振る舞いを見せる。

少しだけ表情は硬いものの恐怖はほとんど残っていないらしい。





「彼らは大丈夫みたいだね」



「葵先生…もしかして助けに…?」



「助けにってどういうこと?俺はただ、明日のことで話があったから来ただけなんだけど……誰かが喧嘩してたって雰囲気でもなかったし何かあったのかい?」




 きょとんと不思議そうに首をかしげた彼に私もつられて首をかしげる。

とぼけてる訳じゃなさそうなので彼の後に続いて寮長の部屋を後にしながら、廊下を歩き寮にある応急室へ向かう。

ちなみに、この応急室が出来たのはほんの数年前なんだって。

なんでも急に具合が悪くなったり風邪をひいた生徒の看病をする、喧嘩や事故でちょっとした怪我をした生徒の為にわざわざ作ったらしいんだけど……。


 先生の後を付いて歩いていくと、何故か寮の外へ出た。


正面玄関ではなくて各寮に1つづつあるっていう裏口からだ。

中庭を通って、三寮を見渡せる位置にぽつんとプレハブより少し大きい建物の前にたどり着いた。

ドアの横には『応急室』と書かれている。




「俺は基本的に此処で生活してるんだ。名目上は急に体調を崩した生徒たちを診るってことになってるけど、ここの奴らは基本的に元気だからカウンセリングみたいなことが主な業務」



「カウンセリング……悩み相談ってことですよね?」



「そーそ、そんな感じ。彼女が欲しい~だとか宿題が解けない~、あとは先輩もしくは後輩が~っていう内容が殆どで深刻なのは少ないんだけど、普段から話を聞くってことが大事なんだ」



「信頼関係を作るために、ってことですか?」



 白衣のポケットから鍵を取り出した先生はドアノブにそれを射し込みながら困ったように笑う。

ドアが開かれるとまず、保健室と同じような白い空間が広がっていた。

仕事用の机と薬品が置いてある棚、診療に使う台、丸い椅子…少し違うのは学校と違ってところどころに生活感があるってくらいだ。

小さな冷蔵庫とか電気ポットとか、あ。お酒みっけ。




「こっちだよ。この奥は生活スペースだけど一応リビングもあるんだ」



「はーい。でも葵先生、お酒はコーヒーとかと一緒に置いちゃマズイと思いますよ?隠しとかないと」



「げ…よくみてるなー。昨日ついつい仕事しながら飲んじゃってさー」




 悪戯がバレた子供みたいに笑う先生に肩の力が抜けていく。

リラックスしたのを見計らったみたいに、私を診療スペースからリビングへ案内してくれた先生は適当に座るよう言ってから紅茶を淹れてくれた。

前に紅茶が好きだって話してたのを覚えていてくれたらしい。

しっかりアールグレイだし、恐るべし記憶力!これはモテるとみた。





「さっきの、話だけどさ。この学校って寮制だろ?だから、ストレスも知らないうちにかかるんだよ――――…特に新入生と受験生あたりかな。友達に相談できないことは誰にでもあると思うけど、それを抱えたまま悶々としてる状態はあんまり体にも心にも良くない。相談っていうのは、タイミングが難しいから普段の会話の中でこっちからある程度察する必要もある……自殺防止の為にも、な」



「それって…――――例の」




「正直さ、この学校は異常だと思うよ。俺も出来るだけ気を付けてはいるけど、限度があるし……これでも責任は感じてるんだ。後は友達を亡くしたことで受けるストレスやショックを和らげるのも俺の仕事のうちかな」




 そういってコーヒーカップに口をつけた先生を見ながら、ふと脳裏によぎった。

須川さんが「白石 葵に気をつけろ」という言葉…こうして話してる限りは普通のいい先生なんだけど、何かあるんだろうか?






もう少し、話をしてみようと口を開いた私の前に座る葵先生は、相変わらずニコニコと人好きのする笑みを浮かべていた…―――――――






.

 な、長ッ!

ええと、ここまで読んでくださってありがとございました。

誤字脱字変換ミスなどが有りましたらご一報くださると幸いです。

次回もできるだけ早くうpできるように頑張ります…!

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