栄辿七つ不思議 『閉ざされた焼却炉』 『届かない声』 『底なしプール』
はーい、ちょっとホラーさん入りまーす!
スタンバってくださーいっ!!
※注意※
尚、色々書いてありますが基本的に作者の妄想だったりネットや本などで掻い摘んで都合良く組み合わせた知識ばかりです。
ご了承ください。
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七不思議っていうのは、どこにでもあるものだと思っていた。
小学校ではどの学校にも必ずあって、必ず一度は『学校の怪談』や『七不思議』が流行った。
特に『トイレの花子さん』や『動く人体模型』は親しみ深い怪談といっても過言ではないだろう。
そうそう、音楽室の絵が動いたりピアノの音が聞こえるっていうのもあったっけ?
私はやったことないけど「コックリさん」「エンジェル様」「お稲荷様」他にも呼び方はたくさんあると思うんだけど、降霊系のオマジナイも流行るんだよね、何故か。
流行らない年もあるけど、必ずと言っていいほど流行る時期があるのは不思議だ。
こんな子供の間だけて伝わる怪談は、その土地固有の伝承だとかその時のブーム、噂、不安などが色濃く反映されていて面白いといえば面白いんだけど―――――――……殆どがあくまで『噂』だ。
(でもこの学校で起きてることを考えると、やっぱり普通じゃない)
私が自分の目で見ただけでも2人死んでる。
これが推理小説や刑事ドラマだったら“見立て殺人だ”とかなんだって事件に発展するんだろうけど、残念ながら犯人は「生きた」人間じゃない。
捕まえることは愚か、法で裁くこともできないのだ。
「話が大分それたが時間も時間だし、一気にいくぞ」
ぼんやりと思考に浸っていた私の意識を戻したのは気合の入った寮長の声だった。
胡座をかいて座る彼の目の前にはいつの間にか私を真ん中にして左右に封真と靖十郎がいる。
さっきまでふざけていたせいでこの配置なんだけど、……正直、暑苦しい。
靖十郎は開き直ったのかがっしり私の肩を掴んで体を寄せてる。
何か可愛いけど物凄く負けた気分です。ぐすん
封魔は…たぶんノリだと思うんだけど太腿の当たりをナデナデするのやめてください。
お前はどこぞのエロオヤジか!
「優、もっとこっちに寄れって」
「これ以上俺にどーしろと?!ほら、先輩が話してくれるって言うんだからシーッだよ。あと封魔、太もも撫でんのやめろ。気色悪いから」
「……お、おぅ!わかった大人しくしてるから手だけ!手だけ握らせてくれ!」
「ちッ…気づいてたか」
「気付くわっ!まったくもー。ほら、靖十郎」
靖十郎の肩に回っていた腕を回収して手を握ると彼は満足したのか赤い顔をして顔をそらした。
小さな声で「さんきゅ」と呟いたっきりおとなしくなったので放置しておく。
問題の封魔も舌打ちはしたけど撫でるのはやめてくれた。……手は相変わらず太ももの上だけどさ。
こちらの聞く体制が出来たのを確認してからどうぞ、と目線で目配せする。
先輩も苦笑を浮かべていた表情を引き締めて静かに口を開く。
途端、和やかだった空気がピンっと張り詰めたような感覚に襲われる。
意図して作られた彼の声色は平淡で無機質な冷たさがあった。
まるで機械があらかじめ入力された文章を読んでいるみたいで妙に怖い。
生々しく臨場感たっぷりに話す人もいるけど、私からするとこれも充分効果的だ。
「『開かない焼却炉』は丁度この辺だな……南側のグラウンドと後者の脇にある。この学校には焼却炉が3つあるけどこの焼却炉は使用禁止になってるから使われてないんだ」
大きな学校だから焼却炉が3つあってもおかしくはない。
ふんふん、と話を聞きながら手を握ったままだとメモが取れないことに気づいた。
不覚ッ!いいや、頑張って覚えよう。
「この焼却炉で昔、生徒の焼死体がみつかった―――――といっても黒焦げで人の形をしてたから焼死体ってくらいに焼け焦げてたらしい。右の手足は骨折、左手と左足は紐でしばられて自分では出られる状態じゃなかったと言われてる」
「ひっでぇ…ッ!なんだよそれっ」
「結局犯人は捕まらなかった。ただ、その一週間後に生徒1人が同じ状態で発見された。不思議なことに右の手足は骨折してなかったらしい……左の手足は縛られてたみたいだけどな」
身動きが取れない状態で、生きながら焼かれる。
死の恐怖はきっとどの恐怖よりも強い。
それに加わったのは居るはずのない、自分が“殺した”人間がいるという事実。
焼却炉の中で何があったのかはわからないけど、この推測はきっと間違ってない。
「その後、続くようにしてボヤ騒ぎ。焼却炉に閉じ込められて発狂したって生徒もいたそうだ」
殺された人間の執念は深い。
生きたいと正当な願いを抱きながら死んでいくのだから、当然といえば当然だ。
目を伏せる私の横で封魔も靖十郎も険しい顔をしている。
途中から何となく察してはいたけど……これで残りが全部“そう”だったら非常にやりにくい。
「焼却炉の当たりを通って、焦げ臭い匂いがしたら……一週間後には焼却炉の中で、もがき苦しみながら炎に焼かれる羽目になるかもしれないから近づくなよ」
「頼まれても近づきたくないです、寮長」
「よし、靖十郎と封魔は江戸川が迷子にならないようにちゃんとお守りしろよ」
かたや真剣に、かたや明らかに楽しんで返事をする二人を半目で見ていると寮長に頭を撫でられる。
うぅむ、ありがたいんだけど少年たちよ。何か辛いわ、おねーさん。
成人してからも迷子だとかお守りだとかいわれるとは……なにがいけないんだ。心意気?
「次は……そうだな、此処だ」
「ここって体育館ですよね、授業でも使いました」
「体育館には、今は使われてないロッカーがあるのは知ってるか?」
ロッカーに案内されたのは覚えてるけど、どこなのかまでは知らないので素直に首を横に降った。
すると隣にいた靖十郎が小さく声を上げてある一点を指さした。
メモ帳に書き込んだ地図には何も書かれてないし、私も案内してもらったけどそこには足を踏み入れていない。
「ここになにかあるの?」
「思い出した。ここに使われてないボロいプレハブがあるんだよ。普段全然使わないし、近寄りもしなかったから忘れてて……ここ、隣のクラスのやつが死んだとこ、だ」
「え……?」
思わず固まった私を彼は綺麗にスルーして自分の中にある思いを固めるように一つ一つ口に出していく。目は真剣でメモ帳に書かれた手描きでちょっと歪んだ地図を睨みつけるように見据えている。
普段のおちゃらけた、世話焼きで半分お母さんみたいなクラスメイトの面影すらない。
「たしか、入学して三ヶ月位の時に初めてオレらの学年で死んだ。体育館横のボロいプレハブにあるロッカーん中で死んでたって河村が慌てて飛び込んできて……紐みたいなので全身縛られてたあとがあるのに凶器が見つからなかったってんで校内で凶器探ししたんだ」
「……宝探しみたいなことしたんだね」
「いや、間違っちゃいねーけど不謹慎だろ、それ」
「ご、ごめん。つい」
靖十郎のシリアス顔ちょっと見慣れなくて違和感が、とは言わなかった。
そっぽ向いて「折角オレが話してたのに真面目にきけよなー」とかなんとか言いながら拗ね始めたので慌てて機嫌を取ったけどこれってどーなんだろうか。
「実例から入ったけど、靖十郎が言ってたのが『届かない声』って七不思議。放課後、部活終了のチャイムが鳴ってもまだ体育館の用具入れにいると知らない間に暗くて狭い空間に押し込められる。体を締め上げられ肋骨が折れても巻き付いた紐は締まって……最後は口を何かに塞がれる」
「それが、その今は使われてないっていうロッカーですか?」
「ああ。でも不思議なことに、ロッカーの中からどんなに叫んでも暴れても声は外に漏れない。だから助けがこないままじわじわ絞め殺されていく……ロッカーが開かないのは絶対にあかないようにロッカーの前には跳び箱やマットが積み重なっていたから、らしい。一番初めに死んだ生徒は縄跳びでグルグル巻きにされて、喉が潰れていたそうだ」
多分、必死に叫んでたんだろうな。
付け足された言葉で死んだ……ううん、殺された生徒がどれほど生きたかったのかが嫌でも伝わってきて目を伏せた。
先輩の話は少しだけ続く。
その男子生徒が、自分を助けてくれる誰かを探してロッカーの中に引きずり込むんだそうだ。
でも、結局引きずり込まれた人間はロッカーから出られない。
死んだ生徒が自分も共に出ようとしてきつく体に巻きついているから。
狭くて暗い音のない空間で自分以外の、気配がする。
これがどれほど怖いことなのか私は知らない。知りたいとも思わない。
ふぅっと、息を吐いたのは誰だっただろう。
自分の中にたまっていた恐怖だとか色んな重たいものを吐き出すような、深いため息。
視線の主を探る気にはなれなかった。
だって、無意識に自分も同じ行動をしていたかもしれない。
しぃんと静まり返った部屋に音はない。
時計が秒針を刻む音も、廊下の外からも、物音も、虫の鳴く声も、何も。
この異常事態に気づくのが遅れた私の耳に飛び込んでくるのは、平坦な寮長の声。
「あとは、そうだな……『底なしプール』ってのがある」
プール、と私の唇が動く。
声はでなく、ただ掠れた音が吐き出されただけだったけれど。
自分の目の前にいる表情が欠如した七不思議の語り手を映しながら、意識は全く別のところにあった。
背筋を、汗が一筋伝い落ちていく。
これ以上、聞いてはいけない気がするのに、体が動かない。
無性に、後ろを振り向きたくて振り向きたくない矛盾した衝動が生まれて体の中で渦巻く。
私の背後には窓がある。
カーテンは、閉めてあったっけ?
ちゃんと、外が見えないようにしてあったっけ?
振り向くのが怖くて、私は無意識に自分の拳を握り締めていた。
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あんまり怖くはなかったとは思いますが、やっとホラーっぽくなってきたんじゃないかと思っています。
次も出来るだけ早めにうpできるよう頑張ります!
ここまで読んでくださってありがとうございました!!