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正し屋本舗へおいでなさい  作者: ちゅるぎ
潜入?!男子高校
54/83

栄辿七つ不思議 『呼ぶ屋上』 『首吊り桜』

 七つ不思議語りが続きます。

長いッ!長いよ!!でも仕方ないんだ…文才様が長期不在なんです。

.







 静まり返る部屋の中で、私は日常から切り離されたような感覚を覚えた。





 私の目の前にいる人物は真剣な表情のまま私達を観察している。

隣で生唾を飲む音が聞こえて視線を向けると靖十郎が心無しか引きつった笑みを口元に浮かべたまま固まっていた。

私と目が合うと気まずそうに視線を泳がせた後、じりじりとにじり寄って私の耳元に顔を寄せて言葉を注ぎ込む。




「け、結構迫力あるよな。そ、それと何かこの部屋寒くね?もっとこっち来いよ。ほ、ホラ!こっちの方が菓子も近いし」




 靖十郎、キミ、中津寮長と封魔の存在をすっかり忘れてるでしょ。

間違いなく二人にも聞こえてるよー。絶対聞こえちゃってるよー。

ちらっと視線だけで様子を伺うと、二人ともニンマリと新しい遊びを思いついたような顔をして靖十郎と私を観察していた。

 あのイヤーな感じの笑い方は間違いない。絶対後でおちょくられるぞー。



(でも、おちょくられるのは可哀想だよね。私は慣れてるから何も感じないけど靖十郎はお年頃だしからかわれるのは嫌だろうなぁ)



とりあえず、靖十郎の要望通りに隣へ移動してマカロンに手を伸ばす。

ついでに持参したお茶で喉を潤し一息つく。

口の中でホロホロと崩れる程よい甘味と酸味の絶妙なバランスに唸りついつい手が伸びる。


 そーいえば、マカロンってホント作るの難しいんだよ。

ケーキだったらモノによるけど大体分量あってさえ入れば混ぜて焼けばうまくいく。

でもマカロンさんとメレンゲ系統のは難しいんだ。シフォンケーキとかもホントもー…膨らむかどうかが心配で完成までオーブンの前に張り付くパターンだし。


 視界に飛びこむ、いじられてる靖十郎といじってる封魔と寮長コンビのやりとりを鑑賞しつつヨーグルト味のマカロンを胃へ送り込む。




「(にしても怪談か……寮とか学校だと娯楽的役割もあるんだろうけど、危ないんだよね)」



 怪談とか怖い話は真剣に聞いてもいいけど“のめり込む”のは避けなきゃいけない。

これは暗黙の、もしくは無意識下でのルールだと私は考えてる。


 死に近く、死からある意味で遠い世界に固執するのは危険。

そっと触れる位ならそんなに問題ないと思う。

私も何も知らない時に『学校の怪談』とか『都市伝説』とかホラー系番組を見ては友達と「怖いね」とか「あれって本当にいるのかな?」とかって話したりしてた。

でも、だいたいの人って現実のなかで生きてて、そういうのに流されて行くうちに忘れていったり意識がそれたりするから大丈夫なんだ。


不味いのは――――――……魅入られてしまった人。


 まぁ、人によって程度はあるけど……侵食される確立が跳ね上がるってことを考えると危険であることに変わりはない。

 こっちの世界にのめり込んだ人は大体同じ行動パターンをたどる。

インターネットや本、雑誌で情報を集め始めるから始まっていずれは現場に足を踏み入れるんだ。

ほら、若い人たちが肝試しで行く時だって同じように情報(この場合は噂かな)を集めてから現場にいってるでしょ?

 で、心霊スポットって呼ばれてる場所は10箇所中多くて3つは“当たり”と呼ばれる本物がいる場所だ。

本物にあたった場合は自己責任ってことで当人が祟られたり憑りつかれたりして死ぬか不幸になるだけで済むんだけど最悪なパターンがある。


 それは、神様のいる神聖であるはずの場所だった場合。


どういう理由で心霊スポットになったのかと思うくらい神気にあふれた場所もある。

神様がいる、もしくは気に入っている場所で失礼に値する行為をすれば神様だって怒るだろう。

その神様の性格にもよるけど、中には当人だけじゃなく一族中を根絶やしにするつもりで制裁を下す神様もいるのを忘れちゃいけないんだ。

そーゆー神様を宥めるのはものすごく危険なんだよね。疲れるし。


 もぐもぐ口を動かしながら修行中にあった神様の話を思い出してブルっと体が震えた。

神様って基本的に優しいんだけど時々怖いんだよね。




 


「と、そうだ。本題本題……『呼ぶ屋上』の話しは知ってるか?」



「結果は知ってますけど詳しくは知らないです」



「わかった。怪談の始まりは昔、虐めを受けていた男子生徒が雲ひとつない快晴の14時20分に屋上から身を投げたことから始まったと言われてる」



「イジメを苦に自殺したってことか」



「結果としてそういうことになっただけだと個人的には思ってる。理由?そりゃ、誰だって『ただ、死んだ』んじゃないってことくらいわかるさ―――――――……死んだ生徒の両手首が赤紫の紐でしっかり結ばれてたっていうんだから」



始めは殺されたんじゃないかと虐めていた生徒を疑ったらしいが証拠がなかった為に自殺という形で片付けられたという。

 で、問題はそのあとだ。

その生徒の死以降、男子生徒を苛めていた生徒たちは何かに手首を縛られたような格好のまま雲のない快晴の日の14時20分に屋上から飛び降り自殺をするという事件が起こったという。

今はもう、その男子生徒を苛めていた者はいないけれど、屋上へ続く階段を登る人間を見た者は呼ばれるように屋上に向う。


 これが『呼ぶ屋上』だ。


 こっそりメモ帳に情報を書き入れていると寮長が不思議そうな目で私の様子を窺っていた。

寮長の探るような、それでいて訝しげな視線を受けたことでヒヤッとしたものが背筋を伝う。

咄嗟に「迷った時に間違って入ったりしたくないんです」と半分本当の情けない本音を口にすると彼はあっさり納得してくれたんだけど、それはそれで複雑です。



「じゃ、次は『首吊り桜』だな。ここの場所はわかるだろ?」



「あ、はい。ええっと、この辺ですよね」



 手帳に書いた簡易地図で『首吊り桜』があった場所を指さす。

ここは口内を案内してもらった時に教えてもらったから場所はバッチリなんだよね。

 流石に……桜に近づく気にはなれなかった。

危険かもしれない場所に清十郎と封魔を連れていきたくなかったし。

もし調査をするなら私一人でするつもりだ。

私一人でなんでも出来るなんて思ってないけど、禪くんにも話さないと思う。

きっと話せば彼は着いてきて調査を手伝ったり一緒に考えてくれる。


(でも、禪くんはまだ子供で協力者とはいっても基本的には護る対象だもん―――私が頑張らないと)


この学校は怖い。

何が怖いのかわからないところが怖い。

怖い何かがいることは確かで、普通とは明らかに違うのにハッキリとどこが違うのかがわからないのが恐怖を煽る。




「優、なんか顔色悪ィみたいだけど大丈夫か?」



「そう言われれば確かに……無理すんなよ?なんならオレらが先輩から話し聞いてあとで話すくらいできるし」



「顔色が悪いのは昨日なかなか寝付けなかっただけだから心配すんなって!でも、うん……心配してくれてありがとな。二人とも」




 実は、さっきから寒気が止まらない。

部屋の中に悪いものがいる気配はないから大丈夫だとは思うんだけど、あんまり長引かせるのは良くないだろう。

そう判断して寮長に話の続きを促すと少し心配そうな顔をしながらも『首吊り桜』について話し始める。




「『首吊り桜』は、両手両足を縛られて首を吊らされた生徒が発端だ」



「首を吊った、じゃなくて『吊らされた』ってどういう…?」



「度胸試しだった、そうみんな口を揃えて言ったらしい。ひとりひとり、両手両足を縛って逃げられない状態で不安定な椅子の上に立ち……桜からぶら下げたロープに首をいれて目を閉じたまま3分間耐える」



「それだけ、か」


「それだけだ。で、死んだ生徒は足場にしていた椅子が倒れて――――……死んだ」




 ほの暗い声と表情でわかった。

隠された言葉を汲み取るのは簡単だ。

きっと、その男子生徒は―――――




「でもさ、変な話だよな。目の前でダチが首つった状態になったら慌てて助けに入るのが普通だろ?」



「俺も助けに入るのが普通だと思うし普通であって欲しいと思うよ。でもさ、人っていろんな人がいるんだってこと」



「大体目の前で首吊ったやつがダチだとは限らないだろォが。普通に考えて“見せしめ”だったっつー考え方も出来る……集団心理ってヤツは厄介なんだよ。あれだ、誰だって『独り』にゃなりたかねーだろ」



「でもよ…ッ!それでも、おかしいだろ」



「靖十郎。おかしいって思えるだけで今はいいんじゃないかな?同じことをしなければいいだけだよ。多分、これが一番難しい」





 靖十郎の不服そうな顔に私と封魔は自然に顔を見合わせて、口元を緩める。

彼の言っていることは正論だけど、繰り返さないことや関わらないことはとても難しい。

封魔もそれが分かってるから苦い笑いを浮かべたんだろう。

 靖十郎をみる封魔の顔は時々、眩しい存在を見ているもののそれに似通ってる。

羨望だとか憧れだとかちょっとの嫉妬だとか、そういう複雑で――――…とても優しくてあったかい感情が確かにあった。

家族だとか兄弟だとか親友といった親しい人たちにだけ向けられる尊いものだ。

 だからタイプが違ってるように見えても二人は友人として成り立っているんだろうと思う。




「――――…わかった。お前ら二人とも困ったこととかあったら絶対隠さないで言えよ!絶対助けてやるからなっ」



「ハッ!そりゃこっちのセリフだ。お前ら二人ともチビなんだから逞しい俺様を敬ってありがたーく守られてやがれ!護衛料は晩飯のメインを3日に1度俺に貢げ。捧げろ」



「のわぁ!?ちょ、苦しい苦しい!!ちょ、つ、つぶれ……のしかかるなー!!靖十郎もた、助けてくれるの嬉しいけど首ッ!首しまってるっ」




 突然ヒートアップしたらしい靖十郎が立ち上がって拳を握り締めたと思えば、今度は封魔が私と靖十郎を巻き込んで絡んでくる。

巨体にのしかかられて潰れかけたかと思えば、首に腕を回されて引っ張られる。

首のが外れたと思えば今度は頭を押さえつけんばかりに撫で回され、鳩尾の当たりを締め上げられた。

 いいんだけどね、うん。




「お前ら、んっとに仲いいな。優なんか昨日編入してきたばっかりなんだろ?何年も一緒にいるみたいに見えるぞ」



「コイツ、なんか面白いんで。観察して楽しむもよし!弄って反応を見るも良し!だべっておちょくるもよし!っつー優良物件」



「ちょっとまて。今なんかものすごく聞き捨てならな意言葉を聞いたんだけど」



「あ、あと一緒にいて落ち着くっていうかホッとする?オレよか背ェ低いしな!まずはそこがいいんですよ!」



「身長?!え、それだけ?!ちょ、靖十郎だけは味方だと思ってたのにっ!」




 撤回を要求します!と妙なテンションのまま言葉を発すると二人ともなぜだか笑い出して肩やら背中をバシバシ叩かれた。

ちょっと青少年!君ら力有り余ってんだから加減して!紅葉腫れとかネタにしかなんないよ!


 今思えば絶対騒がしいと思うんだけど、中津寮長は笑いながら楽しそうに私たちのやりとりを眺めている。

時々助け舟を出してはくれはしたものの基本的に傍観の姿勢を保っていた。

彼の手にはいつの間にか最後のマカロンが握られていたんだけど後の祭り。

目の前でぱくっといただかれてしまった。

くぅ……ッ無念!!






 このやりとりのおかげで少しだけ冷たくなっていた心が温まってきたのに、結果としてそれも思ったより長くはもたなかった。



残りの七不思議、あと四つ…――――――――








.

 七不思議の三不思議が終了。

うーん、ペースアップしたいなぁ……残りは四つ。

自分ふぁうとー!


ここまで辛抱強く読んでくださった方、本当にありがとうございます。

感謝感激飴美味しい。

誤字脱字変換ミスなどがあれば教えていただきたいです。

では、ここまで読んでいただきありがとうございました!

次も頑張ります!

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