栄辿七つ不思議 『咲かない花壇』
本当は七話全てを載せようと思ったのですが文字数が普段の倍位になりそうだったので諦めました。
少し長くはなりそうですが、栄辿七つ不思議にお付き合いください(土下座
…あんまり怖くはないと思うのでホラー好きには物足りなく、ホラー嫌いには「こんなもんならまだ無問題」といった仕上がりかと。
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こんなはずじゃなかった、なんてただの言い訳でしかないんだろう。
靖十郎や封魔が駆けていった後に私はようやく気がついた。
安易なこの行動によってあの二人を“仕事”に巻き込んだんじゃないかって。
昔から無鉄砲すぎるとか考えてから行動しろと言われることが多く、人に笑われるような――――友達いわく「とんでもない」「考えられない」そういう次元の失敗が殆どで。
この仕事を始めてから出来るだけ気をつけるように心がけてたのに仕事を任せてもらった喜びで心がけも何処かへ行っていたらしい。
(話を聞くだけ聞いて、二人の前ではもう怪談の話はしないでおこう。これ以上、知らないうちに巻き込んで手に負えませんなんて言えないし言いたくもない)
今更かもしれないけど、頭の悪い私にできるのはこれくらいだ。
巻き込まないようにするか最悪、巻き込んでしまったときに“巻き添え”にならないように注意するしかない。
対処療法っていうか、相変わらずの無計画っぷりにため息吐きたくなるよ、ほんと。
時計を見てそろそろいかなくちゃ、と腰を浮かす。
夕食とシャワーを済ませてベッドの上でごろごろして時間をつぶしてたんだけど、あっという間に時間が経っていたらしい。
お腹いっぱいで気持ち良くてうたた寝してたのが原因だ。
放課後にこっそり買っておいたジュースを取り出して、密かに持ち込んだお菓子も手土産にすることを決めた。
このお菓子、日持ちするし美味しいんだよね。
本当は一人でこっそり食べるつもりだったんだけど貴重な情報の為と思えば惜しくない!
…うん、惜しくなんてないさ。味わって食べてくれれば。
冷蔵庫を開けて大量のペットボトルを取り出す。
いくつか抱えたところで、手では運びにくいので買い物袋に入れて、ポケットから携帯を取り出してメールの有無を確認。
寮長のいる部屋に行く前に靖十郎たちの部屋に寄る筈だったんだけど、直接部屋に行くことになった。
食後話しに行くとは言ってたけど、どうやらそのまま寮長室にいるみたい。
迷子になるなよってコトなのか靖十郎のメールには部屋の番号がきっちり書かれていた。
有難いんだけどね。ありがたいんだけどさ……やっぱりちょっと複雑なわけです。
「出かけるのか」
「ちょっと寮長の部屋でちょっといろいろ聞いてくる」
「そうか。点呼までには戻ってくるように。必要なものも時間も昨日と同じ時間にするが、校舎までの道は昨日とは違う場所を通る」
「了解。あ、この学校の地図作ってるんだけど少し協力してくれる?ほら、いざって時に迷子になったら大変だし」
「わかった。明日、食事の後に時間を作っておく」
「ありがとう!すっごく助かる。そうだ、冷蔵庫に美味しいの入ってるから食べて」
美味しいの、っていうのは今持ってるお菓子なんだけどね。
上品な甘さの菓子だから禪くんも気に入ると思う。
好き嫌いはないみたいだし、ほんとしっかりした子だよ。
部屋を出て、寮長の部屋に向かう。
途中で先輩や同級生から声をかけられたんだけど、どうやらこれから私が寮長に怪談を危機に行くことが知れ渡っているらしかった。
娯楽がないから話しのきっかけになりそうなことは直ぐに広まるんだって。
幸いというかなんというか、私のいる寮は大きな家族みたいな雰囲気だから問題が大きくなる前にみんなで話し合ったり、時に寮長公認の取っ組み合いもするらしい。
ま、取っ組み合いじゃなくてジャンケンとか腕相撲とかそういうので解決することも多いみたいだけどね。
ほかの部屋よりも立派な作りのドアをノックすると、返事と共に開けられた。
まっ先に目に入ったのは毎回点呼をとっている寮長だ。
彼はドアを開けて何故か嬉しそうに私を見下ろして、犬猫を可愛がるように私の頭をクシャクシャにする。いや、いいんだけどさ。
「よくきたな。もう迷子にはなってないか?」
「靖十郎とか封魔とかいろんな人が目的地まで案内してくれるから大丈夫ですけど……とりあえず、コレとこれどうぞ。話しのお礼です」
「お。うまそうじゃん。あんま綺麗なとこじゃないけど寛いで存分に怖がってけ」
寮長の部屋は普通の部屋よりも少し大きい。
靖十郎達の部屋は二人部屋だけど、一部屋で同じくらいかそれよりも少し広い。
部屋は彼が言うほど散らかってなくて中々に居心地がよさそうだった。
大型のオーディオ機器だとかバスケットボール、アイドルやらバスケット選手のポスターが壁に貼ってある。本棚には参考書よりも漫画の本が多い……っていうか漫画と雑誌しか見当たらなかった。
「漫画も雑誌もいっぱいですね」
「ここはいろんな奴が集まるんだ。相談とか悩みとか、暇つぶし……一人部屋にしちゃ広すぎるからって先代から漫画やらボードゲームやら色々あるんだよ。最近じゃ封魔の奴が麻雀持ち込んだせいで金曜と土曜はほぼ麻雀大会になってるけどな」
「なんか凄くびっくりしました。寮長ってもっと威張ってて近寄りがたいイメージがあったから」
「ははっ。ま、俺も似たようなもんだったよ。この寮で先輩に会うまで先輩とかに目ェつけらんないようにしないとなーってさ」
そういって寮長―――――中津 和義は、高校生が浮かべるには少しだけ薄暗い笑みを口元にのせた。
彼の気持ちは私も十分すぎるほど理解できる。
だって『男子校』に潜入することが決まった時に不安のひとつとしてあったから。
嫌われる、弾かれる、目を付けられる他にも沢山。
私は女だから幾ら鍛えられたとはいえ基本的な部分で力じゃ敵わないだろう。
誰だって痛いのも苦しいのも辛いのも嫌なのは知ってる。
中にはその痛みを理解せずに一方的に振るう側の人間だって見てきたけど、目の前の彼も同じなんだろう。
なんとなく、そんな気がした。
「さてと、とりあえず適当に座ってくれ。いい加減話を始めないとな―――先に行っておくが、七つ不思議のある場所には例え脅されても行くな。お前も七つ不思議に喰われたくないだろ」
「お前“も”ってことは誰か…?」
「誰も何も“見た”んだろ?教室の窓から。編入初日にアレを見たのは流石に気の毒だったな……早いうちに話はするつもりだったんだけど、中々タイミングが掴めなかったんだ。悪かった」
頭を下げる寮長にびっくりしたものの、すぐに頭を上げるように頼んだ。
彼はそれでも申し訳なさそうな顔をしつつ私の髪をぐしゃぐしゃとかき回す。
チラッと靖十郎と封魔を見ると彼らは微笑ましいものでも見るような目線で私と彼のやりとりを見ていた。
後で聞いたんだけど、中津寮長は面倒見がいいうえに程よく責任感が強いらしい。
だからと言ってはなんだけど人望も厚いんだって。
うーぬ。本に出てくるような好青年っぷりに関心したんだけど、親友がこのタイプだ。
「じゃ、靖十郎たちも忘れてるらしいし早速話し始めるか」
「ホレ。コレ食いながら聞いとけ」
「こ、これはマカロン!ずっと食べたかったんだよ、コレ!いっただきまーす!」
「どれ?ふーん、うまそうじゃん。これ何味?」
皿いっぱいに盛られた色とりどりのマカロンはたくさんの種類があった。
私と靖十郎に釣られたのか寮長も苦笑しながらマカロンに手を伸ばす。
一通り堪能した頃、寮長が改めて口を開いた。
表情は普段の朗らかな笑顔から一転して険くどこか鬼気迫るものがある。
部屋の中は明るく、ついさっきまで笑い声で溢れていたのが嘘みたいに静かになっていた。
さっきまで賑やかだった二人も黙り込んでいる。
それに倣うように私も自然と口を閉ざし、緊張しているようだった。
多分、これだけだったら私も“怪談に慣れてるな”程度で終わったと思う。
「栄辿七つ不思議は文字通り7つ存在し、これらは条件に当てはまる相手を死に誘うと言われている」
「条件?その条件って…」
「代々受け継がれてきた怪談だけど、伝わってるのは場所と言い伝えだけだ。そもそもこの学生寮には変な伝統があって寮長が“怪談”を新入生に話し、次の寮長へ伝えることが義務のひとつになってる」
勿論教師はこの学校が出身で寮生じゃない限り知らないけど、と付け足した。
程よく響く声が僅かな余韻と表現しがたい違和感を私たちに焼き付けて空気に溶ける。
怪談が始まってまだ何分も経ってないのにも関わらず、あっという間に空間が出来上がっていた。
「七つ不思議が起こるとされている場所は『屋上』『花壇』『焼却炉』『更衣室』『外庭』『プール』そして『校内のどこか』の七ヶ所。特定できる場所は屋上と焼却炉、花壇、外庭、プールだけだ」
「え?でも花壇なら沢山あるんじゃ……?」
「いや、花壇は外庭とは反対の位置にある花がない花壇だ」
「花のない花壇って――――…土しかないんですか?花壇なのに?」
学校にある花壇には花が植えられているのが普通だ。
小学校だけじゃなくて中学校や高校にも花壇があるのは防犯対策として採用されてるから。
綺麗な所と汚れたところだと犯罪発生率に物凄く差があるんだって。
だから、っていったらなんだけど花壇が土だけっていうのはどう考えてもおかしい。
中津寮長の口調からすると花が植えられてないのは一箇所だけみたいだし。
疑問を口にする彼は花が植えられていない理由をなんでもないことのように口にする。
「花を植えても無駄になるだけだから初めから植えてないんだよ。花壇に“首”が咲く代わりに普通の花は半日で枯れる」
「首が…咲く?」
「そういうふうに見えるだけなんだけどな。実際は首だけ残して正座したまま埋まっているんだ」
先輩の話によると『咲かない花壇』の元になる話はこうだった。
不良グループに虐められていた生徒が暴行により死亡した。
死体が見つかることを恐れた不良たちは遺体を隠そうと隠し場所を探す。
その時、目に幸か不幸か花壇は人目につかない場所にあったので彼らは花壇に埋めることにした。
――――…数日後、花壇からは加害者の一人が花壇で死んでいるのが見つかる。
首は植物の茎、顔はまるでオダマキの花のように頭を垂れ、赤黒い紫色に変色していたという。
「……余談だけどな、首の周りには枯れた花が散乱してて、土だとか本来花が必要とする栄養を全部“咲いた”首が吸い取ったようにも見えたらしい」
不気味な存在感を放つ語り手の少年に私は、完全に飲まれていた。
雰囲気もさることながら部屋中がエアコンもないのに気温が下がってる。
これは“当たり”の現場でしょっちゅうある現象なんだけど――――…七不思議に『寮』は入ってなかった筈だ。
いや、一個だけ場所を特定できない所もあるみたいだけどあの流れからして寮は関係ないだろう。
となると……、そこまで考えてチラッと自分の正面にいる青年を見つめる。
“彼”になにかあるのかもしれないとも思ったけど、霊力はないし怪談自体が危険なのかも知れない。
霊力があるかどうか――――…つまりこっち側の人間かどうかはほぼ確実にわかるから彼に霊力がないのはほぼ間違いないし、考えられるのはそのくらいだ。
思考能力の限界ってやつ。
……頭の回転は割りとゆっくりだからね、うん。
決して遅いなんて言わない。悲しくなるから。
一つ目の怪談を忘れないようにメモしつつ、私はまだ六つも残っている怪談のことを想って小さく息を吐いた。
現場で聞くと色んな意味で迫力があって困るんだ。
……夜寝られなくなったらどうしよう。
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ここまで読んでくださってありがとございました。
できるだけ早く七不思議は書いてしまいたいので次、ちょっとポポポポーンと行くかもしれませんが話に違和感が出ないよう努力します。
誤字脱字、感想変換ミスなどがありましたら報告いただけると幸いです。
では、ここまで読んでくださってありがとございました。
次回もがんばります!