きっかけは歪な三角形
まだホラーのホの字も出てきてません。
友情?のゆの字は出てる予感です。
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ギリギリ間に合った最後の授業を終えて「いざッ!学校探索!」と立ち上がった。
立ち上がってまず、凝り固まった体をほぐす為にも思いっきり伸び。
すると予想通り体からバキバキという音が響いて、首を回すと同じようにゴギゴギ音がした。
どうやら慣れない授業中の姿勢は私の体に目に見えない負担をかけているらしい。
高校生の頃なら授業中同じ姿勢でもあんまり疲れなかったと思うんだけど……やっぱり一度やってるハズの授業だからやる気が足らないのかも。
(探索するならまずはわかりやすいところからだけど…どこからにしたらいいものか。やっぱり拠点になる資料室近辺からのほうが効率がいい気もするし)
頭の中でぐるぐると探索ルートを模索しながら、必要な準備を整えるべく鞄に手をかける。
懐かしい学生鞄に教科書とノートをしまって、代わりに新しい手帳型ノートとボールペンを取り出す。
どこに入れるか迷ったけど、直ぐにメモできるように胸ポケットに入れて鞄を持てば準備万端だね!
今日の目的はメモしながら校内を巡って自家製地図を作ることだ。
もし、万が一にも仕事中に迷子になったら困るし、逃げ道なんて咄嗟に思いつかないから絶対に必要だと思うんだよね。
嫌な雰囲気がするところには小さくマークでも付けておけば注意できる筈だし。
まだ校内MAPを作ることは須川さんにも禪くんにも話してないけど、これくらいなら怒られない筈だ。
(オヤツは鞄の中にあるし、御神水にお守りもバッチリ。符もこっそり忍ばせてるし、日も落ちてないから夜よりは危険度は低い筈)
何気なく周りを見渡すとがやがやと放課後の予定や過ごし方について楽しそうに話し合っている。
なんだか、昨日起こったことが夢か幻だったんじゃないかと思うくらい平和だ。
本当に“慣れ”てるんだな、と心の中で呟いてみるけどモヤモヤした不安は消えない。
(この状況をどうにかするために私たちは呼ばれたんだ。頑張らないと)
ズボンのポケットから携帯を取り出して一応着信とメールの有無を確認。
須川さんはめったに精密機器を弄らないから(弄れない、ともいう)メールや電話が入る可能性はものっそい低いけど。
着信って言えば、禪くんにも後で連絡先聞いておかないと。
靖十郎と封魔のメールアドレスと電話番号は知ってるけど、同室の禪くんに聞くの忘れてたんだよね。
……禪くんってメール打てるんだろうか?
イメージとしては機械とか得意そうな感じなんだけど、有能な上司がクラッシャーだしなぁ。
「優、なにやってんの?」
「へ?あ、うん…ちょっと失礼なこと考えてただけだから大丈夫」
「いや、ダメだろそれ。全然大丈夫じゃないっつーの」
携帯を見つめてぼーっとしていたらしい私に向けられる靖十郎の訝しげな視線。
耐えかねて苦笑しつつペロッと本音がこぼせば、的確なツッコミが戻ってくる。
結果、“訝しげな視線”が“あきれ果てて可哀想なものを見る視線”にグレートアップしました!
うん。嬉しくない!
「あ?なんかストラップ増えてねェか?昨日はコレついてなかっただろ」
「ふ、封魔まで……っていうかキミ、よくそんな細かいこと覚えてるね」
「こーゆー細かいことが元で新しいアイディアとかが湧くことあんだよ。ってことで見せろ」
ほうほう、と感心していた私の手から携帯が消えた。
慌てて携帯を私から奪った手の主を見ると、彼はしげしげと香玉を摘んで眺めているではないですか。
しかも封魔だけじゃなくって興味を惹かれたらしい靖十郎も観察に加わってる始末。
珍しく、芸術的な造形の香玉を弄る二人に私は――――…ぶっちゃけ、気が気じゃない。
封魔も靖十郎も今無造作に手に持っているソレの値段を知れば私の気持ちが分かる筈だ。
わからないのは金持ちくらい。そーなりゃ庶民代表の私を敵に回すことになりますぜ!
「へー、これ変わってんのな。すげーオシャレじゃん」
「も、もういいだろ!か、返せって!」
「その反応は貰い物ってトコか」
封魔の手にあった携帯を奪い返した私はすぐさまポケットへ。
上着の内ポケットだと取り出しにくいし落としかねないから、ズボンのポケットにバッチリ入れました。
だってなくしたら困るっていうか何かが終わる。
何せ10万円だもんね…なくすなんて恐ろしい真似はできない。
不可抗力が生じないことを全力で祈るよ。
「封魔の言うとおり貰い物。御守りっていうか魔よけなんだってさ……高いし、大事にしなきゃいけないとおもって」
「ふぅん。高いってどんくらいするんだ?これ」
「………10万円だったらしい」
「はァ?!コレが10万!?うわ、なんだよソレ!!お、おまっ……よくそんな高いもん持ち歩けるな」
驚嘆の眼差しを受けて私は引きつった笑顔を返すしかなかった。
一応身の安全のためを思って用意してくれたみたいだから突き返すわけにはいかなかったんだ。
でも、本音を言えば私だってこんな高いもの持ち歩くなんてことしたくないんだよ!
須川さん、お願いだからなくした時のコトを考えて!
うっかり落として壊した時はどうしたらいいってんですか!
でもって、そーなった場合私としては途方に暮れる以外の反応ができないんですけども!
「不可抗力っていうのはどこにでも発生するんだよ、二人とも」
素敵な上司から贈られたありがたい代物を持ち歩かない訳にはいかない。
値段さえなければ本当に有難くてすごく助かるんだけどね。
…100均のストラップとかでも十分だと思うんだけど、やっぱ違うんだろうなぁ。
ま、こちとら命もかかってることだし身を守るものは多いほうがいいよね。
もうやだこんな物騒で心臓に悪いミッション!
◆◆◆
何故か予定にはなかったガイド2人――――…もといクラスメイトと共に校内を練り歩いています。
勿論始めは一人で大丈夫だし、部活とかあるんじゃないの?と遠まわしに断ろうとした。
でも、私の心はまるで通じなくて二人には「霊部員だから気にするな」と押し切られたとさ。ぐすん。
なんでこー計画が上手くいかないかなぁ?と首をかしげつつ、広い校内を歩き回るうちにやっぱり二人がいてくれてよかったとこっそり思い直した。
ほんっとにひろいんだ、この学校。
封魔も靖十郎も入学したての時にはよく迷ったらしい。
一通り後者を案内してもらって、地図の作成も手伝ってもらった。
ま、手伝ってもらったのは非常口がある場所を教えてもらったり抜け道だとか近道なんだけどね。
「これだけ書き込めば大丈夫なんじゃないか?一通り見て回ったし、後はプールと中庭、グラウンドくらいだよな?」
「プールは明日いくし、グラウンドは通ればいいとして中庭は特に見るもんねェしな。昼寝するのに丁度いいっつーくらいか?」
「だな。あそこは変な噂もないし結構混むから場所取りは結局“運”と“スピード”か」
「靖十郎、変な噂って七不思議のこと?」
「おう。オレらの寮ってさ、入学してから一回目の土曜に親睦会みたいなのがあるんだ。んで、そこで先輩からいろんな話聞くんだけど、毎年必ず『七不思議』を教えられんの」
「変わった風習だけど…そっから肝試しに発展するとか?」
「俺も始めはそうおもったんだがよ、実例あげて近づかない方がいいって釘さされんだよ。実例ってーのはアレだ、昨日の飛び降りみたいなやつだ。ま、話だけじゃなくて話の前後で必ず目で見たり聴いたりして体験してっから近づきゃしねぇがよ」
「聞いたばっかの時は怖いもの見たさってやつで近づこうとするヤツもいるんだけど、やっぱ、死にたくはないし。それにそんなことしなくても好奇心満たすものなら他にもたくさんあるからウチの寮のやつなら近づかないよーにしてる」
話を聞く限りだと、やっぱり“場所”が鍵になってるみたいだ。
それに分かったことはもう一つ。
引きずられて死亡するケースが少なくても1年前から起こってるってこと。
これに関しては先輩達から情報を集めた方がよさそう。
「ちょ~っとまった!昨日聞いた時に二人とも覚えてる怪談は一個だけって言ってなかった?」
「おう。場所は覚えてるんだけど内容までは覚えてないんだよ」
「んじゃあ、聞くが優。お前は一年前のことキッチリ覚えてんのか?」
「昨日の晩ご飯も思い出せないことあるのに一年前の晩ご飯なんて覚えてないってば」
私が覚えていられるのは、私的甘味ランキング上位の甘味屋くらいだよ。
食べるのは好きだけど流石にご飯までは覚えてない。
しかも卒業間近で色んな行事やら勉強に追われてたあの頃だからご飯もかなり手抜きだったし。
よく食べてたのは、もやしと芋だった。
時々コンビニでお弁当とかあったかい惣菜を買ったりしてたくらい?
あ、コンビニスイーツとチョコは常時標準装備してたけど。
「優~……封魔は飯の内容を思い出せなんて一言もいってないぞー」
「取り敢えず覚えてらんねェってことがわかりゃいいんじゃね。靖十郎、俺らのクラスで『栄辿七不思議』に詳しいヤツっていたか?」
「目立ってそーゆー話しが好きだってヤツもいないし、オレらと対して変わらないだろ。やっぱ生徒会チョーに聞くのが一番手っ取り早いとおもうけど、やっぱ聞きにくいよなー……オレなら絶対ムリ」
「同級生じゃなくって後輩とか先輩に聴きやすそうな人とか知らない?ほら、怪談聞くついでに色々学校のことも知りたいし」
禪くんに聞くことも最初は考えたんだけど、やっぱり自分で調べたい。
修行をしている間は限られた情報を与えてもらって好き勝手妄想したり想像して想像力を膨らませることしかできなかった。
事件や依頼が終わった後であらましを教えてもらえるんだけどね。
そりゃ半人前にもなってない私に出来ることは少ないしサポートだって満足にできなかった。
仕方ないことだってわかってても歯痒くて不甲斐なくて、何度情けなく思ったことか!
どんなに子供っぽくて物事を深く考えない能天気でもプライドはあるんだよ。
ついでに意地と根性もあるとおもってる。
須川さんには「運といざという時の機転は褒めてもいいですね」って言われてるし、力だって一年間で半人前と一人前の中間地点くらいはある筈だ。
「どーせなら出来るところまで自分でやってみたいんだよ。こーゆーの初めてだし」
後悔だけは、したくないからね。
我が家の家訓は「後悔するな!迷ったら両方取るもしくは両方選ぶな!」だ。
修業中、迷ったときはいつだって勘と雰囲気、あとは勢いで決めてきた。
後から言い訳を考えてみたけど――――…とってつけた言葉って薄っぺらくて美しくない。
「優がそーしたいってんなら取って置きの人がいる。話は晩飯の後、寮長室で話し聞けるよーにしといてやるからよ!」
「んなら、俺ァ話し聞きながら摘めるモン作っといてやるよ。そん時にプリンの感想聞くからまとめとけ」
「あ、ありがとう!じゃあ飲み物はこっちで用意しとくよ。いつか絶対お礼するから期待してて」
「言ったな?靖十郎は兎も角として俺は高いぜェ?」
「ふふん、逆に“あの時、借りを作ってくれてありがとう!”って感謝されるくらいのお礼してやるから覚悟しろ!」
人のいない教室で、私と二人の大きさが違った拳が合わさって歪な三角形を作った。
性別も、歳も、住む世界も二人とは違っているかもしれない。
だけど今この時、この瞬間は確かに友達だって思ってもいいよね…?
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次回は「七不思議」をお披露目する予定です。
気が付けば話数がすごいことになってるのでいい加減進まないと…(汗
ここまで読んでくださってありがとうございました!
区切りが付いたら改稿する予定ですが、当分先なので誤字脱字などがありましたら是非ともお知らせください。
もれなく、お寿司を奢りたくなります。