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正し屋本舗へおいでなさい  作者: ちゅるぎ
潜入?!男子高校
49/83

小話 黄色い丼の行方

 (作者の)気分転換に小話をちょこちょこ挟んでいこうと思います。


もしかしたらうっかり小話が増えていくかも…?

.








 必要な符を作り始めて1時間。


夜の点呼なるものは2時間も後だし、符も最低限はできてるけどこれだけだと心もとない。

まだまだ作らなきゃいけないのはわかってるんだけど……限界がきた。





「だぁぁあぁあ!!もー、疲れたーーー!!!」



「符を書き始めてまだ一時間しか経っていないが」



「まだ!?一時間も経ったのに?!そりゃー…得意だったらあっという間かもしれないけど符を書くの苦手な人間にとっては物凄い長時間に部類されるんだよ?だってさ、手順どおりに一字一句間違えることなく丁寧かつ慎重にって拷問!もっとアバウトに力だけガッツリ込めれば万事オッケーどんとこーい!ってんなら大好きな作業になるんだけどなぁ」



「仕事で符はつかわないのか」



「うーん…使うには使うけど、俺はあんまり使わないし。須川さ……あー、先生はだいたい一瞬で片付けちゃってるから依頼人とかに渡すくらいかな。その符だって殆ど須川先生が書いてるし」



「須川先生の書いた符、か。それならば効果は保証されているようなものだろう」



「あ、やっぱりそうなんだ。どーりですっごく高いと思った」




ぽんっと頭に浮かぶのは正し屋で売っているお守りや護符達。

どれもこれも須川さんが力を込めてる上に、お守り袋や細かな装飾は全部須川さんチョイス。

彼のチョイスってことはつまり目が飛び出るほどの高級品ってことだ。

お金持ちって本当に恐ろしい。




「実は正し屋で作ってるお守りがあるんだけど、アレ一個7万円するんだよ」



「妥当だな」



「マジでか」




 須川さんの手製だということを伝えると禪くんは「妥当どころか安いな」ときっぱり言い切った。

初めに妥当だっていったのは『正し屋』で扱っている商品なら一流のものだと思ったかららしい。

本当に今更だけど、私ってば本当に大変な会社に就職しちゃったんじゃないだろうか。




「うーん、俺は高いとおもうんだけどなぁ。7万円もあれば大福食べ放題だし」



「基準を大福で考えるな」



「そんなこといったってお菓子位しか比べるものが……ってそういえば!」




机の上でペチャッと潰れていた私の頭に素晴らしい贈り物のことがぱっとよぎった。

 少し慌てて椅子から立ち上がった私はまっ先に部屋に備え付けられている中型の冷蔵庫へ向かう。

立ち上がったときに膝を机にぶつけたけど、そんな痛みなんて気にもならないくらいテンションが上がってるのがわかる。


 背後から禪くんの視線を感じつつ、冷蔵庫を開ける。

するとそこには目的のブツが鎮座していらっしゃいました、うむ。期待通り!





「これだよコレ!友情1000%至福の黄色い物体!!」



「………」




 某ご老公が所持している印籠の如く天にそれを掲げる私に注がれる、ものっそい冷めた視線。

視線の主は無表情に冷たさをプラスしたルームメイトのお姿。

うーぬ。やっぱり美人だな、禪くん。無表情なのが非常に惜しいけど。




「ふつーは『それはなんだ?』とか聞くのが礼儀だと思うんだけども」



「どうせあの馬鹿が作った甘味だろう」



「あの馬鹿ってどの馬鹿?」



「封魔だ。どの、と聞く辺り多少は自覚があるとみていいのか」



「……あ、あれ。遠まわしに俺も馬鹿の部類にしっかり入ってるぞ!って言われた気がする」



「自覚があるならいい」




 しれっと言い切った彼は直ぐに自分の机に向き直り、作業を再開した。

むぅ。なんて可愛げのない年下くんなんだ!と膨れた所で愛想のいい禪くんを想像しかけて即後悔。

キャラって大事だよね!人懐っこい禪くんはちょっとどころか多大に気持ち悪い気がするもん。

 そこまで考えて彼が辛辣な理由を自分なりに考えてみた。

妥当なところでカルシウム不足か糖不足でイライラしてるって感じ?




「ッ…!あ、あげないよ!!」



「いらん、そんなもの」



「そ、そんな即答しなくても。俺だってケチじゃないから一口くらいなら……」




ちょっと、いじけながら自分の机に戻る。

友情の証をそんなもの扱い、流石だ。クールな眼鏡は出来が違うな!

でも私はお姉さんだから少しくらいなら糖分摂取の手伝いをする心の広さは持ってる。

 ごそごそとスプーンを探しながら、懇切丁寧にプリンの説明を口にする。

波乱万丈なプリンができるまでの工程を想像しながら一通り、この丼プリンに込められた想いを表現した。





「つまり、これは友情の証の特性プリンなんだよ!羨ましいだろう、ん?」



「別に」



「……また即答ですか。ちぇ。もー、禪には味見させてあげないよーだ」




クールすぎる禪の対応に若干凹みつつようやく見つけたスプーンを手に洗面所へ向う。

頭の中は直ぐにプリンのことで一杯になったのは言うまでもなく。

 その後姿を見て表情を変えぬままポツリと禪は呟いた。





「……筆箱の中からスプーン?」





 消えていく自分より小さな背を無言で見つめる禪は暫く微動だにしなかった。

この時、ほんの少しだけ動いた彼の表情を見たものはいない。









.

短いですが、小話です。

いや、短いからこその小話ですよね!


読んでくださってありがとうございました!ちょっと短いので後で見直す予定です。

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