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正し屋本舗へおいでなさい  作者: ちゅるぎ
潜入?!男子高校
46/83

きっかけは潜入初日.壱

 どうにか校舎には潜入。

まだ妖らの気配はありませんが、次回からじわじわ……を期待したいです。

.










 ぴちょん、ぴちょん…と暗闇に響く水音。






 周囲を覆うようにそびえ立つ木々の木の葉は、夜の風を受けて揺れる。

閉鎖的な印象を受ける“学校”という建物は夜になるとガラリと印象を変えるものだと誰かが言っていたけれど、まさしくその通りで。

闇に溶け込むように…けれど確かな存在感と威圧感を持って、まるで闇を支配しているかのよう。



 あるべきモノがなく、あってはならないモノが存在しそうな空間。



 それはもはや異質以外のなにものでもなかった。

漆黒の雲に隠れていた月が姿を現し、闇に溶け込んでいた校舎が姿を現す。

照らし出されたのは校舎に取り付けられた大きな時計。

カチリと長い棒が動いて…“聞えるはずのない”音が1度だけ校舎を包む異質な空気を振るわせた。










――――――――――…… 時 刻 は 深 夜 1 時 。











 闇の中から見上げる、その建物は殆ど闇に溶けている。

正直、これが仕事じゃなかったら建物を見た瞬間に踵を返して却下してるところだ。

誰が好き好んでこんな不気味さ150%MAXの建造物に足を踏み入れるってんだろう。

廃墟マニアか心霊スポットめぐりが好きな一部の人たちにしか喜ばれないと心から思うんだけども。






「は、はははは……ほ、本気でココに入るんですか。朝一じゃダメですか」



「基本的に彼らの活動時間は夜ですから朝では意味がありませんよ。それから、仕事なのでしっかりしてくださいね」



「……うぅ、りょーかい」





 項垂れた私を慰めてくれたのは、チュンとシロだった。

心配そうに見上げるシロと元気ずけるように小さく囀るチュンに癒されたものの、現実から目を背けることはできずに終わる。


 今、私達は寮の各部屋から完全に死角になった雑木林を歩いています。

林や森独特の土を踏む感覚に腐葉土の匂い、枯れ葉が乾いた音を立てて形を変えていく音。

せ返るような“夜”の空気と―――――――……独特の緊張感と不快感。

この空気は私が不法投棄された森に似てるんだけど、もっと酷い。


 具体的に言うなら裏雲仙岳は、食べ過ぎた次の日の朝。

んでもってココは食べ過ぎに加えて二日酔い、それに加わる熱っぽさって感じ。

しかも自己嫌悪付き!という三割増しの始末の悪さですとも。





「(にしても鉄臭いというかサビ臭いというか。やっぱり、血が流れたところは色々とアレだなぁ)」





 雲仙岳と違うのは、死というカタチは同じでもそれに込められた想いの強さと生々しさ。

かの山は自殺の名所ということもあって訪れる人は皆心のどこかでソレを望んでいたし、あの場所は山神様が管理していたから此処までおどろおどろしくはなかったんだよね。


 変質したモノによって死者がでた場所の臭いは鉄が錆びたような、血のにおいがする。


交通事故があった場所、自殺者が多い場所、望まない死を遂げたものが多い場所とか……あ!戦争の跡地で供養が行き届いていない場所もそうだ。

 私がビクビクしなくてもいいのは、隣に須川さんや禪くんがいるから。

そうじゃなけりゃこんな怖い雑木林、歩いてなんかられないよ。


  

(始まったばっかりだけど、なんだか凄く帰りたい)



 仕事だしきちんと片付けたいと思うんだけど、やっぱり怖い。

部屋を出て大体15分でようやく雑木林から開けた場所へ抜けた。

 味気も素っ気もない灰色の分厚い金属でできたドアは安っぽい印象を受ける。

非常口なのかとも思ったんだけど、非常口のマークがないから勝手口的な扱いなんじゃないかと思うんだけど……どうなんだろうなぁ。


 明かりがない状態で歩けてるのは、やっぱり須川さんの訓練のお陰だろう。

正直なんちゅー虐めだと思ったけど必要なことだって実感するのは早かったんだよね。

この仕事は基本的に夜に活動することが多い。

仕事は昼からってこともよくある。

須川さんは、私が起きる前に起きて雑務を片付けていらっしゃいます。


 わ、私だって始めは頑張って早起きして手伝おうとしてたんだよ?!

でもその度に気付いたら寝かせられて、起きて謝るたびに手伝わなくてもいいとペットに言い聞かせるような口調で何度も言い聞かせられたら諦めもする。

…早く仕事を覚えて今須川さんがやっている仕事を手伝えるようになるのが密かな目標だったりします。





「須川先生、入口はこちらになります。明かりをつけるのは寮から見えない『資料室』か『特別教室』がありますが、どちらをお使いになられますか」



「鍵がかかるのは資料室でしたね? でしたら資料室を使いましょうか。念の為、盗聴及び盗視を妨害する術をかけて起きますが、機械の力も借りたほうが確実ですから。能力者は無論ですが、一般人――――…生徒だけではなく教師や部外者が干渉している可能性も十分考えられます。その場合の多くは、科学技術を取り入れて妨害工作や苦労して集めた情報だけを仕入れようとする輩も増えているので」



「わかりました。この出入口は昔、警備員が使用していたのですが現在は閉鎖して使ってません。ですが、今回は夜に限り入口ともう一つ反対側のドア、学校の裏側―――――――…裏庭付近に通じるドアも開放します。先に出入口を回ろうと思うのですがよろしいでしょうか」



「そのほうがいいでしょうね。退路を知っておくのは命に関わりますから」




 禪くんが冷たそうなドアノブに手をかける。

グッと力を込めて押すとギギギっと錆び付いた音を立てながら静かに開いていく。

ドアの向こう側には漆黒。

光がない所為で本当に何も見えなかった。

禪くんも須川さんも何も言わずに闇の向こうを見定めている。


 私も同じように闇に目を凝らしてみるけど、やっぱり真っ暗で何も見えなかった。

それどころかここに入ると思うと悪寒が背筋を走って思わずブルブルっと体が震える始末。

ホラー映画とか怪談話しは好きだけど、実際に体験するのは激しく遠慮したい人間なんです。

ヘタレだろーとなんだろーと好きに喚ぶがいいさ!

 暑いはずなのに寒気がするっていう違和感に眉をしかめる。






「今のところ異変はなさそうですね。いるようですが、どれも危害を加えられる程の霊力はありませんし、妖怪もどきや浮遊霊が殆どです」



「はい。ほかの場所より少し多いような気がしますが、時間帯を考えると異常とはいえません」





霊視をしたらしい二人の意見をふむふむ、と聞く。

本当なら私も霊視をしたかったんだけど……実は禁止令がだされてるんだよね。

ある一定の霊力を持つ霊意外は見えないように調整というか制御されてる。


 何を隠そう、どうやら私は霊力の調整とか苦手らしい。


いや『らしい』っていうのは実感がないからだったりするんだけどね。

情けないことに、ほんっとによくわかんないんだ。

コツとか掴めば早いんだけどコツを掴むまでが難しくって!!

これには須川さんも私も二人で頭を抱えた。

なんでかってーと……初歩の初歩なんだってさ、霊力の調節。


 ふっと遠い目をする私の意識を戻したのは須川さんだ。


軽い衝撃と重みに顔を向けて―――――――……果てしなく後悔した。

ふむ、と考える素振りを見せた須川さんは目が合うとにぃっこりと素晴らしくキラキラしい、本当に心から楽しんでいます!ってな感じの笑顔を浮かべていた。


 うん、何だかものっすごく逃げ出したいくらいにイヤーな予感がビチビチきてるんですけども!






「じゃあ、優君―――――― 手始めに、いってきて下さい」



「って、ちょ、うわぁ?!」



「須川先生、それはあまりにも」



「禪くんもっと言って……ッ!!頼むからっ」




 とんっと突然体を押されて、倒れるように口内へ足を踏み入れた。

安全の保証は勿論心の準備すら整ってなかったんですけども!

ふつーは色々外を探ってから中に侵入するものなのだ。命懸けの仕事だし!!



(私を殺す気なんだ!ぜったいそうだ!!高級和菓子の詰め合わせじゃ騙されないんだから!)



ほんと頼むから!半泣きで叫んだものの、禪くんは無表情。

当の須川さんは普段通り飄々とした顔で私と禪くんを観察してるっぽい。

 くッ……わかってた。わかってたさ!




「(私に同調してくれる人間はここにいないってことくらい!世知辛いっていうか厳しすぎるよ!なにこれ、やっぱりこっそり高級まんじゅう摘み食いしたから?!)そ、それにしても!き、機械って須川さ――――――…あー、うー、須川先生が触ったら確実にクラッシュすると思うんですけど」



「ええ。ですから取り付けは禪君か優君にやってもらおうと思っています。勿論、私は機械及び機器には極力近づきません」



「ですよねー、それが良いかと。禪くん、まずはその『資料室』に行くんだよね?」



「ああ。通るのは寮から見えない、もしくは見えにくい場所だ。コイツの明かりで半径1m程度なら十分見える」




コイツ、と呼ばれて突然真っ暗闇だった空間に灯りがともった。

 蛍光灯や懐中電灯よりも明るさはないけど、少しでも灯りがあるっていうのは安心感がある。

ほっと息を吐く私に近寄ってきてチカチカと点滅を繰り返す川蛍のケイちゃんを指の腹で撫でると強弱をつけて光る。

 




「なるほど。でも惜しいよね。月が出てたらちゃんと見えそうなんだけど……すぐ隠れちゃったし、この分だと今夜はもう期待できない、かなぁ」




 窓の外を眺めてみるけど、やっぱり真っ暗で月明かり一筋差し込まない。

一寸先は闇、どころじゃない。寸分先も闇だ。

深い深い闇をガラス越しに観察してみるけれど私にはやっぱり何も見えなかった。

ただ、わかるのはこの依頼がそう簡単じゃないってことくらい。





「―――――シロ、チュン。頑張ろうね……此処から、」




 無事に、正し屋へ帰れるように。

そう口に出しそうになって私はどうにか口を噤む。

隣には禪くんがいるってことを思い出したから、どうにかこーにか堪えたけどうっかり口に出すところだった。だけど、何だか今回の依頼はどこか今までの依頼とは違う気がする。

 飛び降り自殺をした生徒、首を吊った生徒、そして保健室で見たあの大蛇……初日なのに、なんでこんなに異常な事態が起こるんだろう。

それに、生徒たちの反応の薄さも異常だ。




 




 そうやって私は、震える手をきつく握り締めて更なる闇へ歩みを進めた。







.

 ここまで読んでくださってありがとうございました!

あまり進んではいないのですがジワジワと進めていきたいと思います。

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